魔法界はその日が近づくにつれ奇妙な緊張感に包まれていった。
まぁ、その日を境に世界は変わるんだ。ヴォルデモート卿の出した声明が拒否されたら、間違いなく大きな戦争になる事を誰もが予見している。
そんな中、魔法省は少しでも怪しい動きがあれば死喰い人達を捕らえるつもりだったらしいが、世界各国に散らばり、各々好き勝手に騒ぎを起こしていた死喰い人達は、ぴたりと活動をやめた。
それを、嵐の前触れだと怖がる者も少なくはない。実際は、ヴォルデモート卿が
俺はその日が来る前に、なるべく俺の理想通りに物事を進めるための下準備を行なっていた。
頭の中で何度も計算し、俺の頭脳が導き出した答えを遂行する。世界を変える事は、俺であっても簡単なことではない。
家でいつものソファに座りながら麒麟にリンゴを食べさせる。
麒麟は俺のそばを離れようとせず、初めはヴォルに近付くのが嫌だったのか、このソファには近付かなくて少し離れたカーペットの上に座っていたけど…2ヶ月もすれば慣れたのかこうやってソファの前に座る事が多くなった。
「ヴォル、お前の死喰い人にいるノア信者の中に…俺の仕事に関わってたやつっている?」
ワインを飲みながら優雅に本を読んでいるヴォルに聞けば、ヴォルは顔を上げ少し考えながら頷いた。
「…確か、いたね。魔法界の事務所で見た顔が何人か居るから」
「そ?じゃあさ…これ。そいつを通して魔法界とマグル界に…クリスマスの日に同時発売するように伝えといて。在庫は十分にあるから、在庫の場所はここ。理由は…まぁ、俺の学生時代からのファン達がノアを忘れないために作り上げた…とかでいいだろ」
「…何?」
在庫の住所が書かれたメモ用紙と紙袋を渡せば、ヴォルは中から薄い本を取り出し──怪訝な顔をした。
「何これ」
「俺の写真集。学生時代オフショットバージョン」
「こんなの…いつ撮ったんだ」
パラパラと捲るヴォル。
64ページのその写真集は、何も目覚めてから撮ったのでは無い。これは俺がホグワーツで過ごしている写真ばかりであり、俺の騎士たちによりこっそりと撮られたものだ──一部、隠し撮りもある。
今まで出版してきたような、衣装を着て、スタジオで撮ったものではない。
学校での写真や、俺が普通に勉強してるところなど、作られた笑顔とポーズではなく、本当にありのままの、自然体の俺が写っている。
「……誰が撮ったんだ」
「え?あー。アブラクサスだな」
スリザリンの談話室で、
つんつんと寝ている
「…これは」
「あー。ミネルバだろ」
猫耳と猫尻尾が生えている
あーあったあった。「猫のように振る舞ってください!」ってうるさかったなぁ。
「……僕がいる」
「あ、それマートルが撮ったんだってさ」
ぴたりと手を止めて低い声でヴォルは呟いた。
隣から覗き見れば、校庭にある湖に足をつけて笑いながらヴォルに水をかけている俺が居た。ヴォルはかかった水を嫌そうに見ていて。それを見た俺はまた楽しそうに腹を押さえて笑っている。どう見ても、隠し撮りだ。
「……拒否権は」
「無い!世界を変えるために我慢しろ!…ってか、普通にいい写真だと思うんだけどなぁ」
「大衆に晒されるのが、嫌なんだ」
「はあ?あんだけ目立つ活動してるお前が、よく言うよ」
晒されまくりじゃん。
むしろ、これからもっと目立つのに、何を言ってるんだか。
やれやれと首を振れば「そういう意味じゃない」とヴォルは低く文句を言ったが、俺は気にせず隣からその写真集のページを巡った。
「いやー。まじで俺って、綺麗だよな」
教室の窓から外を見ている
カーテンが風に煽られ、ふわりと揺れる。
こんな子が学生時代に居るなんて、マジであの年代の子どもたち恵まれてるよなぁとしみじみと思う。こんな世界一の美形がいる学校とか、奇跡じゃね?
「1月11日に、俺の呪いを円滑に世界に広めるためには、ノア・ゾグラフを忘れかけている人に…俺の存在を思い出させないといけないからさ。流石に15年以上たってるんだ。俺を忘れてるにわかファンもいるだろうし」
世の中は俺の熱狂的なファンだけじゃ無い。勿論芸能人に興味がない人だって居るし、俺のことなんて過去の人だと忘れてるにわかファンもいるだろう。
その人たちにも呪いはかけなければならない為、俺が世界に姿を表すより前に…ノア・ゾグラフの存在を再び彼らの魂に刻む必要がある。
「あ、勿論マグル界で売り出す方は写真は動かないし、ホグワーツの制服もただの私服にしか見えないように加工してるから」
「…わかった」
ヴォルは渋々と言ったように頷くと、写真集を閉じて元の紙袋の中に入れると、机に置いてあったワイングラスを持ち赤ワインを飲んだ。…酔わないわりに、結構酒飲むよなぁ。
初めて撮ったゴスロリの写真や、ヴォルとのツーショット写真は最後まで入れるか入れないか騎士達と悩んだが、やっぱ一度売り出したことのある写真はインパクトにかけるから、という理由で入れなかった。マートルは大喜びでヴォルと俺のツーショット写真を購入したが…それはヴォルに言わない方がいいだろう。
「麒麟も居るし、魔力タンクも作った、俺を忘れてる人達に俺を思い出させる事も出来る。……後、何かあるかな?」
ソファに背を預け、天井を見上げる。
いくら考えてもこれ以上考えは出てこない。…いや、少し気になってる点がないわけでは無いけど。
俺は、俺の騎士や騎士が守りたい人間に最高級の防御をかけている。その防御がかかっている人間には、俺の服従の呪いは効かない。
騎士達やその家族は割と俺に好意的だから、とりあえず良いとして。
その中で、ジェームズ・ポッター。彼にも…ベインが望んだから、かけているんだよなぁ。
ダンブルドアは俺との戦いに負けて、ニワトコの杖も失った、俺と自分の力量の差を感じただろうから、きっともう──俺が作る世界に血が流れないと知れば、無理に戦いを挑む事はないだろう。
しかし、ジェームズ・ポッターは未知数だ。
ベイン曰く、「あの子、クィディッチにしか興味ないんだよ」らしいから、多分俺のファンではないんだろう。
今はまだ、ホグワーツ入学前だし、特に俺の障害にはなり得ない。ただ──成長した後、周りが俺に支配されている中、たった1人だけ、俺に支配されないジェームズは何を思い、どう行動するだろうか。
単純に、世界の流れに身を任せて受け入れてくれるならそれが一番良いんだけど、こればっかりは、俺でも予測が出来ない。…俺は、ジェームズ・ポッターの事を知らないからな。
「──あ、そうだ。ヴォルにも守り魔法かけとくよ」
そういや、かけてなかったな、と思い出してヴォルの肩をぽんと叩く。これでヴォルに攻撃魔法は効かなくなった。
「悪意のある攻撃と、攻撃魔法を全て弾く。死の魔法も、一回だけなら防ぐから」
「死の魔法は…防げないはずだけど」
「んー反対呪文で相殺してるわけじゃないんだ。ただ死の呪文が当たる前に、周りに張った守りがそれを感知して、呪文の矛先の前に生贄が転送されるようになってる。──ま、ネズミなんだけどな。──一度だけ、ネズミが代わりに死ぬ」
「ああ…なるほど」
死の呪文は、当たったら死ぬ。
逆に言えば、当たりさえしなければわりと防ぐ事は可能なのだ。生き返らせる反対呪文が存在しない為危険な呪いの中に分類されているが、対策を取っていれば──そこまで、難しいものではない。
「俺の騎士と、その家族にも同じ魔法をかけてるから。──あ、ヴォルも、誰か守り魔法かけたい奴っている?恋人とか…愛人とか?誰でも良いけど」
ヴォルは無言でワイングラスを回し、揺れる赤ワインを見ていたが、何とも──無表情な目で俺を見据えた。
「……本気で聞いてる?」
「なにが」
まぁ、ヴォルに恋人なんて今まで想像もしてなかったけど。原作とは違うヴォルにそんな存在が居ててもおかしくはない。原作情報に引っ張られないと決めた俺は、いろんな可能性を考えてこの結論を出した──んだけど、ヴォルはなんか、苛立って怒ってるような、呆れてるような複雑な顔をした。…閉心術で何考えてるか読みにくいけど、多分そんなところだろう。
「──ノア」
「なんだよ」
「…はぁ……本当、つくづく…馬鹿だな」
「はぁ?…あ、そうか。まぁ恋人なんて作ってる暇なかったか?」
革命家だし、愛人…というか、学生時代と同じで性処理のお相手はいるだろうけど、そんなの作ってる暇なかったのかも知れないな。
ヴォルは図星だったのか、無言でワインを飲んでいた。守り魔法かけたい相手が居ないなら、素直にそう言えばいいのに。
「…ノアは、そういう…存在がいるの」
「え?あー…居ないなぁ。恋人作る前にヴォルに眠らされて、起きた後そんなん作る暇なかったし、俺以上の美形に会えなかったし……あ。でも…」
「…何」
俺はふと、ベラトリックスを思い出した。
あの時は学生だから手を出せなかったけど、ああいうキツい見た目の冷たい美人が好きなんだよなぁ。俺が純血じゃないから結婚とかは無理にしろ、…頼めば童貞を貰ってくれないだろうか。
確かもう学生じゃないし。…流石に18歳は犯罪か?
それか、ナギニの人間バージョンだな。映画でナギニが出てきた時はマジでビビったし、ナギニが人間で美女だったとか信じられない。
なんでヴォルに仕えることになったのか、マジでわからん。
…ま、ヴォルはナギニを知らないし、言えないけど。
「ブラック家の、ベラトリックス知ってる?」
「……知ってる。死喰い人だ」
「そうそう。美人だよなぁ!俺、ああいう冷たい美形っていうの?キツい見た目の子がタイプ!頼めば童貞貰ってくれねーかなって考えて──」
「駄目だ」
俺が全てを言い終わる前に、ヴォルは強く俺の言葉を遮った。
…なんでだよ、脱童貞は俺の悲願だぞ?この機会を逃したらいつ脱童貞するんだよ。ヴィーラの子孫が生まれる子世代まで待てというのか?
「…なんで?」
怪訝な顔で聞けば、ヴォルはしばらく沈黙し──俺から視線を離してぽつりと呟いた。
「…ノアは、魔法界とマグル界を征服し、神に近い存在になる。…そんな君がただの女と寝るなんて、それが知られたら…神聖さが失われるんじゃないかな。それに、その女がノアに選ばれたと吹聴すれば…面倒なことになる」
「んー?……そうか?」
「そうだ」
…たしかに、ヴォルの考えもわからない事もない。
世界を支配した俺と同衾するって事は、それ程重い意味を持つようになってしまうのか?…いやいや、ってことは、俺って…。
「…一生童貞とか、まじで嫌なんだけど…」
はあ、とため息を零し顔を手で覆えば、ヴォルはぽんと俺の肩を叩いた。
「世界のために我慢しろ──でしょう?」
「くっ…!」
俺が先程ヴォルに言った言葉をそっくりそのまま返されてしまったら、ぐうの音も出ない。
ヴォルはいつの間にか機嫌が戻っていて、くすくすと笑いながら涼しい顔でワインを飲んでいた。
ヴォルとノアの関係について。匂わせ程度にしか2人の関係を示唆していませんが、今後どんな未来がみたいですか?
-
このまま変わらない、あくまで親愛。
-
恋愛の意味での愛に気がつく。
-
さっさとノアは抱かれるべき。