新年の日、ヴォルデモート卿は運命の日に国際魔法使い連盟本部に姿を現す、と伝えた。
まさか直接乗り込んでくるとは思わず、ここで開戦宣言でも行うつもりなのかと魔法界に衝撃が走った。
まぁ、どう考えても敵ばっかの所にノコノコ現れるなんて、よっぽど自分の力に自信があるのか考えなしの馬鹿かどちらかだからな。
魔法界ではヴォルの力を軽くみる事はなく、厳戒態勢を敷く事だろう。何も備えをしないわけがない。
向こうからすれば撤廃の棄却を伝えた後ヴォルが少しでも攻撃態勢に入れば捕らえるための準備ができるし、こちらからすれば、予め伝えておけばヴォルの言動を全魔法界に同時に伝える事ができる。ヴォル、というかその後の俺の姿や言葉を──と言った方が正しいだろう。
ヴォルは今最も注目されている、魔法省や国際魔法使い連盟としても、ヴォルを
今、ヴォルの思想を支持する魔法使いは多く、きっと新聞でヴォルを捕縛した事だけを伝えてしまえば、どこで反乱が起こるかわかったもんじゃない。
ヴォルの凶悪性を、魔法省としても民衆に伝え、彼が支持するその思想はとんでもない誤りだと周知させなければならない。
まー、なんか世界にいる上級魔法使い?だっけ?その称号を持つ人達がみんな集められるんだろうな。ダンブルドアはその裏に俺がいると言う事を、彼らに伝えてるかな?
…俺が実は生きているという噂はちっとも流れてこないから、黙っててくれているんだと思うけれど。
もし、そうなら何か裏がありそうな気もするし。…そうでなければ、俺が作り替える世界を──とりあえずは静観するつもりなのかもしれない。
今日は、1月10日の夜。
流石に魔法界にはぴりぴりとした緊張感が漂い、この日ばかりは仕事が手につかない者も多かっただろう。
今まで対岸の火だったものが、こちらに向かい巻き込まれる可能性が高い事に、大人達は気付いている。
「明日はなるべく、俺の魔法がかかってる家で待機していてくれ、ミネルバはホグワーツが1番安全だろう」
マルフォイ邸に集まり、いつものように大広間で紅茶を飲みつつ俺の騎士達に言えば、彼らは硬い表情で頷く。ミネルバもこの日ばかりは飛行ネットワークを使いこの場を訪れた。
「明日は、魔法界にある店がほとんど閉まるみたいだしね…魔法省職員は出勤するよう命令されてるけど…まぁ、僕は毎年この日は有給をとってるし」
「そうなのか?」
「うん、だってノアの誕生日だし」
「あー…なるほど?」
ベインは当然という顔で頷く。マートルも頷いていたところから、彼女も当然のように有給をとってるのだろう。
まぁ、推しの誕生日に休んで盛大に祝う人はいるからなぁ。
「ついに、明日…ノア様が神になられるのですね」
アブラクサスはしみじみと呟いた。
「はは、翼が焼け焦げて墜落しなきゃいいけどな」
「そんな事、冗談でも言わないでください」
茶化せばミネルバにぴしゃりと咎められてしまう。ベインとアブラクサスは何を比喩しているのかわからなかったようで首を傾げていたけれど、ミネルバは確か混血だ。きっとマグル界の神話のことを知っているんだろう。
傲慢ゆえに翼を失い墜落死したイカロス。
俺は墜落するわけにはいかない。…俺1人が犠牲になるのなら別に良いけどさ。
いや、死に場所を探しているわけでも、自殺願望があるわけでもない。ただ、俺が考えられる全ての努力をした上で、どうにもならない未来の先が俺の死ならば、受け入れるしかないだろう。
「ノア様…私の心は、信念はあなた様のそばにあります。…たとえ、何があっても」
「ありがとうマートル」
マートルに微笑みかければ、マートルは珍しく頬を紅潮させる事なく笑った。
マートルは、この騎士達の中で、唯一普通の女性だ。類を見ないとんでもない妄想癖はあるが、魔力や能力において、彼女は一般人の域を出ない。
そんな彼女が俺のために、ここまでついて来られたのは、きっと俺に対する思いが誰よりも深いからだ。
「…さて、俺はそろそろ家に戻るよ。お前らも早く休めよー?」
残りの紅茶を飲み立ち上がれば、騎士達もさっと立ち上がって胸に手を当てた。
「行ってらっしゃいませ。次に会うときは神様ですね」
「お気をつけて。何かあればすぐに呼んでください」
「ノア、
「ノア様…どうか、ご無事で…」
それぞれ、考えていることは違うのだろう。
俺は騎士達にむけて、とびきりの笑顔で手を振った。
「ああ、またな!」
ーーー
騎士達に別れを告げ、俺は家に戻った。
居間に入ればカーペットの上で寝転んでいた麒麟がぴくりと耳を震わせて、顔を上げる。
「おかえり、ノア」
「ただいま。良い子にしてた?」
「うん!」
麒麟の頭を撫でれば、麒麟は嬉しそうに尻尾を揺らせ目を細めた。
仄かに輝く麒麟は本当に美しい。…明日、ちょっと麒麟にも手伝ってもらわないといけない事があるし…嫌がらないといいけど。
「明日、俺と出かけないか?行きたいところがあってさ」
「やったあ!どこに行のく?」
「んーちょっと遠く。背中に乗せていって欲しいんだけどさ、長距離飛ぶの…疲れる?それに、人も…多いかも」
「ノアがそばにいてくれるなら、大丈夫だよ。ノアの魂のそばは…心地いいから」
甘えるように擦り寄る麒麟に、ふっと優しく微笑み首元に抱きつき、温かい身体を撫でた。俺が明日世界に何をするのかを知れば、麒麟はもう俺に懐いてくれないかな。世界を呪う事で、俺の魂が穢れる可能性があるし。
…こんなに可愛い麒麟にぷいってされるの辛いなぁ。
「…明日、よろしくな」
「勿論!あ、ねえねえ用事が終わったら、私も行きたい所があるんだ!」
「ん?…うん、全てが終わったら、行こうか」
「やったあ!」
麒麟が行きたいところってどこだろう。なんか綺麗な森とかかな?魔法生物が多い神秘的な場所だったりして。
全てが終わった後、麒麟との約束を叶えるためにも…頑張らないと。
暫く麒麟とイチャイチャしてたら居間の扉が微かな音を立てて開き、ヴォルが入ってきた。
「おかえり」
「ああ…ただいま」
1月に入ってからヴォルはずっと家を出ていた。俺に理由を告げることは無かったけど、多分全世界に散らばる死喰い人達に明日は大人しく自分の演説でも見るように指示しにいったんだろう。ちょっとは物騒な事をしてそうだけど…まぁ、俺が今からする事を考えればそれは些細な事なのかもな。
「…ワインでも飲むか?」
「…そうだね」
麒麟の顎を撫でて「おやすみ」と伝えれば麒麟は大人しくその場に座り込み、心臓の音を聞くように俺の胸あたりに顔を寄せた後、大人しく自分の前足に頭を預けた。
煌々とした火を燃やす暖炉が暖かく部屋を包み込む中、俺はいつものようにソファに座り、赤ワインとグラスを2つ、それとチョコレートを数個用意した。
「明日か…」
ヴォルはワインを飲みながら呟く。
なんだかやけにセンチメンタルだな?流石のヴォルも緊張とかしてるのか?
「なんだ、感傷的な言い方だな?」
「そんなんじゃない。…ただ、…そうだね。こうやって明日を迎えるとは思ってなかったから」
「んー?…あー、まあそうだな」
ヴォルが考え、望んでいた未来とはかけ離れてしまった。そこまで嫌そうにしてないのは、血の誓いがあるから仕方がなく従っているわけではないと、俺は信じたい。
俺だって、こんな未来になるなんて思ってなかった。
俺はこの世界を知っていたから、面白おかしく過ごす事が出来た、何があっても世界は変わらず歴史通りに進むものだと思っていた。
今、俺が知っている未来は当てにならない。どう考えてもその通りに進むことはない。…未来を知らない事が、こんなにも不安になるなんて思ってなかったな。センチメンタルなのは、俺の方か。
でもこれが普通なんだ。
普通は未来なんてわからない。暗闇の中で手に篝火を持ち、未来を進み──そして、沢山ある選択を、決意を込めて選ぶ。
もがきながら、喜びながら、苦しみながら、愛を育てながら。…それが、人間という者なのだろう。
俺は…ようやくこの世界の住人になれたのかも。
「ヴォル、これからもよろしく」
「…ああ、よろしく」
ワイングラスを上げれば、ヴォルは薄く微笑んでワイングラスをかちゃんと合わせた。