1月11日、ヴォルデモートが宣言を出した日の最終日。
国際魔法使い連盟は何度も会議を重ね、当然だが──機密保持法の撤廃は認めない決断を下した。
この日にヴォルデモートが国際魔法使い連盟本部に来るとは聞いていた。その場でこの決断を聞いたヴォルデモートは、おそらく全世界に散らばる死喰い人に指示を出し、戦火をあげ戦争を開始する。彼の望む世界である、魔法族によるマグルの統治と制圧のために。
少しでもそのような動きを見せれば捕縛できるように国際魔法使い連盟本部には有能な力を持つ魔法戦士が待機している。
世界各国に散らばる死喰い人に関しても、ある程度の居場所を把握していた。
彼らは世界の秩序を守る、彼らは無力では無い。ヴォルデモート1人の力を過小評価しているのではなく、全ての反乱分子を総合した上で危機感を募らせていた。
ただ、ヴォルデモートが今まで捕まる事が無かったのは滅多に姿を現さない事と、彼に明確な罪がまだ無かったからだ。思想を掲げるのは罪ではない。ただ、市民に対してその牙を剥けば、彼は一気に犯罪者として名を世界に轟かせる事になるだろう。
マグルを支持する魔法使いが不審死を遂げている事は、勿論把握されている。だが、それでも明確な証拠がない限り捕らえることは出来ないのだ。
その日、いつ訪れるのか──。
ピリピリとした緊張感が、国際魔法使い連盟本部だけではなく、魔法界全域に広がっていた。
国際魔法使い連盟本部はマグル界では霊山とも呼ばれる険しい山の山頂に建っている。
本部には姿現しを出来ないように魔法がかけられ、ここで勤務している職員達は近くまで姿現しで移動し、ポートキーを使い本部を訪れる。
ただ、本部にあるポートキーは通常のポートキーとは異なり、それに触れさえすればいつでも本部に来ることが出来るのだが──登録された魔法使いしか、正常に作動しない。
外部のものがポートキーを使い本部に侵入しようとしても、ポートキーは何も反応しないのだ。
ヴィセンシア・サントスは本部の前で、目の前に広がる白く雪に覆われた荘厳な山を見据えた。
彼女は聡明で優秀な魔女の1人であり、現在は上級魔法使いとして魔法界を導く立場にある。
彼女はヴォルデモートの思想がグリンデルバルドと同じである事に、まだグリンデルバルドが残した爪痕は深いのだと憂いていた。
ヴォルデモートはグリンデルバルドよりも凶悪とも言えるだろう。世界中に散らばる死喰い人や彼を支持する者の数は、グリンデルバルドの比ではない。
ノア・ゾグラフという存在を礎に、彼に従う死喰い人が多いという。
「…ノア・ゾグラフ…」
彼が生きてきた時代を知っている魔法族なら、その存在に特別なものを感じざるをえなかっただろう。完璧な美貌、人の良い笑顔、学生時代は中々に──実技において──優秀な生徒だったという。
そんなノアがマグルに撃たれ姿をくらませた時には、それこそ…何か重大な炎の一つが消えたといっても過言ではない程、魔法族は喪に付した。亡くなったのだという噂が流れ、それが噂だけですまなくなったのはノアが一切現れる事が無くなったからだろう。
沢山の人がノアを探したが、結局──もう20年近くなるが、その姿も、亡くなったのなら、墓すらも、見つかっていない。
死喰い人の半数を占めるノア派が、マグルの支配を求めるのも、仕方ない事だろう。彼はそれ程──彼を見てしまえば、誰だって虜になり夢中なる。人の心を掴んで離さない、限りなく尊い魅力があったのだ。
サントス自身も、ノアのファンだった。それは珍しい事ではない、当時、魔法族で──いや、彼はマグル界にも進出していた、マグルも写真を持っていただろう──あればノアの写真の一つでも持っているのが、当たり前だったのだ。
突如、一陣の風が吹いた。
険しい山を突き抜ける、肌が痛くなる程の冷たい風。
サントスはその強風に、一瞬目を閉じた。
「ヴィセンシア・サントス。…上級魔法使いが出迎えとはな」
「…ヴォルデモート卿…」
目を開けた時、サントスから離れた場所にヴォルデモートが立っていた。
まさか、姿現しは不可能な筈だ。彼はどうやってこの場に現れたのか。…姿現しではない移動術を、生み出し扱えるというのだろうか。
ヴォルデモートは漆黒の長いローブに身を包み、顔の右半分を半仮面で隠していた。
半分見える彼の顔は冷たさを感じさせるものの、端正な顔立ちであり、その表情は一応、笑みの形を作っている。
「期日だ。…答えを聞こう」
サントスは、ヴォルデモートがその手に杖を持っていない事に気付く。余裕を見せているのだろうか。確かに杖無し魔法は自分も使える、だが──
「…国際魔法使い連盟として、機密保持法の撤廃は認めない。という結論を出しました」
静かな目でそれを聞いているヴォルデモートに、サントスは油断する事なく杖をぎゅっと握り直した。
本部の中には魔法戦士達が控えている。何かがあればすぐに彼を捕縛する手筈は整っている。
「そうか。──まぁ、そうだろうな」
ヴォルデモートは特に怒る事も嘆く事もなかった。当然のようにその言葉を受け入れ、ただ静かに立っていた。
「ええ。…すぐに帰りなさい。そして、全世界に散らばる死喰い人達を解散しなさい。そのような思想は間違いであり、世界は変えることは出来ません」
「いや…──世界は、変える」
「…魔法界に対しての反逆と捉えますが」
サントスは杖先をヴォルデモートに向けた。
2人の視線が混じり、暫く張り詰めた緊張感が重くのしかかる。…いや、緊張感ではなくヴォルデモートが発する威圧感だろうか。何か、彼には底知れぬ圧を感じる。
「世界を変えるのは、私ではない」
「何を──…死喰い人だとでも?指導者があなたならば、同じ事です」
ヴォルデモートはくつくつと喉の奥で笑い、真っ青な澄んだ空を見上げた。
サントスはその視線の先に何があるのか気になったが──目の前のヴォルデモートから視線を逸らすことはしなかった。
「君には聞こえないか?──変革の音が」
怪訝な顔をしたサントスは、風が山を吹き抜けるひゅうひゅうと鳴る音の他に──何か、別のものが空を裂くような音を聞いた。
突如彼女の視界に影が落ちる。
空には、雲がなかった筈だ。新手だろうか──サントスは杖先をヴォルデモートに向けたまま、空を素早く見上げた。
「なっ──」
天から現れたのは、麒麟だった。
美しい身体、太陽の光を浴びて輝く鈍色の鱗、そして体内から仄かにひかる金色。大きな──おそらく、成体に近いのだろう。
まさか、ヴォルデモートは、グリンデルバルドのように麒麟からのお辞儀により、この世界を支配するつもりか。たしかに、麒麟は魔法族にとって特別であり、頭を下げられた者は尊敬され頂点に君臨する。──私のように。
「あ、ここでいいよ」
空から聞きなれぬ音が降ってきた。
麒麟が話した?いや、成体になった麒麟は多くを語らない。その言葉を理解する者など居ないが、麒麟はただ美しく未来を見据える目で、導き手になる者を示す──滅多に鳴かない麒麟の鳴き声は吉兆だとも、言われている。
突如現れた麒麟は、ヴォルデモートの隣に降り立った──そして、サントスはその背に乗る者を見て、目を見開く。
「そんな…!」
変わらぬ姿、衰えぬ美貌、間違いない、間違えようがない。
こんな人が世界に2人としているわけがない。
私が見ているのは、夢か、幻なのか?
「ヴォル、待った?」
「いや」
「そ?んじゃいいや。…さて、俺はノア・ゾグラフ。あなたは…ヴィセンシア・サントスですね?はじめまして!」
麒麟の背から降り、優しく麒麟の身体を撫でながらにこりと微笑むその男はどこからどう見ても、世界で最も有名であるノア・ゾグラフだった。
サントスは無意識のうちに一歩退いた。
あり得ない、亡くなったと言われていた。そんな彼がどうして此処に?ヴォルデモートと親しげに?いや、そんな事よりも
驚愕し混乱しているのはサントスだけではない。
今、この状況は全ての魔法省、ならびに国民に向けて窓にその景色を写し放送されている。
変わらぬ美貌、そして、全てを包み込むような甘い声、ノア・ゾグラフが生きていた時代を知っている者も、その後に生まれた者も──全てが凍りつき唖然とノアの姿を見つめていた。
ノアはなんの反応も返さないサントスに向かって首を傾げて、自分の身体に甘えるように擦り寄る麒麟の方を向いた。
「固まっちゃったんだけど。やっぱ麒麟って珍しいから?」
「そうかなぁ。…んーと、この人、私会ったことあるような気がするんだけど…魂に見覚えがある」
「へえ?……え!?まじで?って事はあの人をトップに選んだのって…」
「私かな?」
「すげぇ偶然だな」
「あ、あなた…麒麟と、話が…?」
呆然としたままサントスは呟く、その声は震えかなり小さな声だったが、ノアは視線をサントスに向けると微笑んだまま頷いた。
信じられない、麒麟の言葉を理解する者など、今まで世界には現れなかった。
他の魔法生物の言葉を理解する魔法使いは居る。だが、麒麟は──魔法族にとって意味が異なる。
それに、その背に乗る事の意味を、この男は知っているのだろうか。
お辞儀で示される、清き魂や先導者の器どころの話ではない。
麒麟の背に乗る。
それは──この世界の統治者を、意味する。
ノア・ゾグラフは、世界中の混乱と驚愕を気にする事なく、優しく微笑んだ。
ーーー
うーん。
サントス固まっちゃったな。
まあいい、俺は今から──世界を呪わないといけない。サントスの心情を察する暇なんてない。
「サントスさん。今、この状況を全世界が見てますよね?」
「っ…え、ええ…」
「──よし。じゃあ…そうだな。とりあえずは、俺に何があったのか、真実を話そうかな」
俺はぐるりと辺りを見渡す。うーん、どっちに放送魔法の元があるのかわからん、本当ならカメラ目線で世界に向けて話したかったけど、まぁ仕方ないか。
「俺は、数十年前、マグルによる銃撃で…死の縁を彷徨った。死ぬ事はなかったが──深く、長い眠りについていた。目覚めた時に…ヴォルデモート卿が俺の信者達を率いて、世界を変えようとしているのだと知り…俺は、その考えには一部、賛同出来なかった」
「…一部…?」
サントスが囁くように俺の言葉を鸚鵡返しに呟く。
その表情は、その先に続く言葉を恐れているようにも見えた。表情は固まり、顔色も悪い。
「ええ。…俺は、魔法族が隠れ暮らすのは間違っていると思う。俺の思想は──魔法族の事をマグルに周知させた上での魔法界とマグル界との共存だ。マグルの統治や奴隷化、残虐は望んでいない。…俺の両親は、マグルだったし、マグルにもいい奴がいるって知ってるから」
「そんな…そんな事…!」
愕然として首を振るサントスは、ダンブルドアと同じでそんな事できるわけがないと、視線で訴えかけている。
暴力を行使した支配ではない、平和的共存など、断交していた2つの世界が交わることなどあり得ないと思っているのだろう。
「俺とヴォルデモート卿は秘密裏に会い、何度も議論を重ね、意見の擦り合わせを行い…そして、互いに歩み寄り、一つの結論を出した」
ちらりとヴォルを見れば、俺の視線に気付いたヴォルが静かに口を開く。
「私は、ノアの傘下に入る。私だけではない、全死喰い人も同様だ。名を
サントスはヴォルが告げた宣言に、言葉を無くしていた。彼女だけじゃなくて、これを見ている死喰い人達もだろうな。いや、もっと動揺してるかもしれない。
さて、そろそろ呪うか。
俺は両手を広げ、魔法界と、そして俺自身を呪うため──自分の言葉に強く、魔力を込めていく。
「…魔法族が隠れ住むのは間違っている、どうせ、それは長く続かない。マグル界に、魔法界の事を知らしめよう。──同胞よ、愛しき俺の子供達よ、今こそ立ち上がり、祝福の火を灯そう。
しかし、強制ではない。これは、あくまでノア・ゾグラフ個人としてのささやかな願いだ。
魔法界を、俺たちの存在を、世界に伝えるには君たちの力が必要だ。世界を平和に導く為に、魔法族の安寧の為に、マグルに迫害され命を落とした罪なき隣人の為に──愛と平和を持って、世界を作り替えよう!
どうか、俺の思想に賛同し、俺を支持してくれないか、その小さな声を…俺に聞かせて?」
呪いを発動させた瞬間、俺の身体から何か、とてつもない巨大なものが一気に消えた。
「──っ…」
視界が白く点滅する。疲労感、ではない、もっと何か強い力で押さえつけられ縛られているかのような感覚に、俺は麒麟の背に身体を預けた。だめだ、此処で倒れるわけにはいかない。
「…俺は、いつでも、君たちの味方であり、理解者だ…声を待っている。──ヴォル、帰ろう」
「…ああ」
ヴォルは俺をチラリと見たが手を出し支える事はない。
ヴォルの身体に触れ家まで転送させた後、俺は麒麟の真っ黒な目を見つめた。
「…その背に、乗せてくれるか?」
「勿論、さあ…乗って?」
呪った後、麒麟が乗せてくれるかどうかはわからなかったが、麒麟は変わらず優しい目で俺を見て、俺の前にお辞儀をするように跪いた。
その背に乗り、割れそうなほど痛む頭と、点滅する視界の中、俺は最後に唖然としたままのサントスに向けて笑いかけた。
「さようなら、サントスさん。──俺は世界を統治する。俺だけじゃない、世界中の人と共に…」
「待っ──」
サントスが俺に向かって手を伸ばしたが、それよりも早く麒麟は地面を蹴り、空へ舞い上がった。
麒麟の温かい背中にしがみつき、本部が見えなくなったところで、俺は…あーもうだめだ、限界。
「ごめん、家まで姿現しする」
「え?」
きょとん、とした麒麟の声を最後に、俺は家まで姿現しをして一気に戻った。
家の前から歩く余裕もなく、居間に姿を現した俺は身体を支えることがこれ以上出来ず、ぐらりと傾いた。
「ノア!」
「…ヴォル…」
床に身体を打ち付けるかと思ったけど、ヴォルがすぐに駆け寄って抱きとめ、なんとか衝突を免れた。
身体が凍える、勝手に痙攣する、視界が薄暗い、頭がぼんやりする。
顔を上げれば暗くなっていく視界で、ぼんやりと真剣な硬い表情をするヴォルの姿を見た。
きっと、強く手を握っているだろうに、握られる感覚も鈍い。そのまま、手筈通りヴォルの魔力を奪う内に…ようやく、体の痙攣が治まってきた。視界は暗いままだし、寒いけど。
「ノア、…大丈夫?」
「……まぁ、……無事では無いな」
正直喋るのも億劫で、目を閉じる。瞼が重すぎる。
20年くらい眠りにつきたい!…いや、だめだ。これは序章に過ぎない、俺はまだ世界の半分しか呪えてない。
なんとか腕を動かせる程度には回復し、呻きながらポケットから真っ赤な石を取り出す。ぐっと強く掴めば真っ赤な液体が溢れているのを感じて掌を口に近づけ、飲む。…うーん…美味しい…ような気がする。なんかかき氷シロップみたいな味だな。
ヴォルの魔力と、賢者の石もどきのおかげで大分マシになってきた。
多分、魔法界を呪うのは完了したんだ、魔力の大きな流失はもう無さそうだ、…絶えず流れてる感じはあるけど。
重い瞼を上げる。
──んん?
ぱちぱちと瞬きをして、自分の顔の前に手を持ってくる。
「…なるほどなぁ…」
「ノア?」
ヴォルの声は心配そうに聞こえた。
気のせいかもしれないけど、だって
「魔法界を呪う代償は──俺の目だ」
「な……。…見えないのか?」
「うん、ちっとも見えん。真っ暗闇」
正しい世界を見たかった。
誰も死ぬ事が無く、平和な世界を。ヴォルと共に作り上げた世界を見たかった。
だが、カミサマはそんな俺を嘲笑うかのように、俺の目を、視力を奪った。
一応、治癒魔法をかけてみたけど効果は無い。俺が魔法界を呪った代償なら…それも、当たり前か。
俺は重いため息をついてヴォルの胸を押し、立ち上がる。
よろめいた俺の腕をすぐにヴォルは掴んだけど、そちらを見ても何も見えない。
「んー…麒麟、おいで」
「どうしたの?ノア」
ヴォルに掴まれていない方の手を伸ばせば、麒麟の鼻先が俺の掌にちょんとついた。
そのまま滑らかな毛や鱗を撫でる。
「…俺の魂は、変わったか?」
「ううん、変わらないよ」
「そっか…。……そっか、よかった。ありがとう」
麒麟は言葉にならないくるくるとした甘え声を出し、いつものように俺の身体にすりすりと頭を寄せた。
「ヴォル、このままマグル界に行こう」
「…正気?」
「ああ、俺の名前と姿に対する呪いはもう発動されてる。俺の言葉を、マグルにも届けないと…。目が見えないからさ、一緒に来てくれるか?」
「……わかった」
ヴォルは俺の手を取り、そのままマグル界へ姿くらましをして移動した。
現れる場所は初めから決めていた。──俺が撃たれた場所、人の多い大通りだ。
突然現れた俺とヴォルを見たマグルがざわめき悲鳴をあげる声が聞こえた、だが、すぐに俺の存在に気がつくと興奮と動揺の叫びが混じる。
さあ、マグル界も、呪おうか。
魔法界を呪った代償は視力だった。
マグル界を呪った代償は──なんだろうな。
国際魔法使い連盟本部とかって原作で出てきてましたっけ…?
探しても見つからず、捏造です。
そしてこの時代サントスが率いてるかどうかもわからないので、ファンタビが進むにつれこっそり修正するかもしれません。