俺はもうすぐホグワーツ2年生になる。
男の娘らしかった俺ももうすぐ12歳だ。
やや美少年に近づいたと言えるだろう。背も少し伸びたし、流石にスカートを履いても女児に見られることは多分ない。…いや?頑張ればいけるか?
夏休み中、ヴォルと俺を迎える孤児院の対応は、それはそれは微妙なものだった。俺たちが魔法使いと言うことは知られていない筈だが、みんなヴォルをさらに遠巻きにしていたし、帰ってこなければよかったのに、と囁いていた。まぁ俺は大歓迎されたわけだが?
「あんな場所すぐに出ていってやる」
「ふーん、じゃあ将来家買ってシェアハウスする?」
部屋で憎々しげに吐き捨てたヴォルに軽い気持ちで聞けば「そうだね」と返事が返ってきたのはかなり、予想外だった。てっきり絶対嫌だと言われると思ったが。
うーん、賢者の石が作れたら金なんてざっくざくなんだけどなぁ。
──作るか!賢者の石!
俺は寝転んでいた身体を起こし、ヴォルに「ちょっと出かけてくるわ」と告げ自分の部屋に行った。
杖を持ち、ニコラスのところに飛ぼうとしてふと考える。
「魔法使うとまずいかな?……ま、いっかなんとかなるなる」
ならなきゃ魔力の暴走って事で。
俺はニコラス・フラメルの事を考えながら姿現しをした。
身体が引き伸ばされる感覚と、かなり強い電撃が走った気がした。四肢が離散したのではないかという激痛に俺は意識を飛ばした。流石に居場所を特定してなきゃ無理ゲーだったかな?
こ、こんなところで死ぬなんてマジかよ──。
「──ぅ…」
俺はふと目を覚ました。
どうやら、──死んではなさそうだ。
見慣れない天井を見つめ、身体を起こしてあたりを見回す。…うん、知らん場所だ。
手と足がしっかりとある事を確認してそっとベッドから足を下ろした。
近くの机には水の入ったグラスと共に「起きたら飲みなさい」と書かれた手紙と、チョコレートが二つ。
うーん。ここはどこでこれはだれの置き手紙だろうか。
流石に毒入りってことは、ない──よな?
喉も乾いてるし…飲むか。
俺は水を一気に飲んだ。──うん!うまい!もういっぱい!
チョコも食べてみたけど普通に美味い。
人の家なら勝手に探索しちゃダメかな?
しかし、どこかで気を失った俺が美少年過ぎて攫われた可能性も微レ存だ。さっき飲んだ水が実は媚薬の可能性も微レ存だ。
ベッドに腰掛けて見れる範囲だけでキョロキョロしていたら扉が静かに開いてかなりよぼよぼでミイラのような真っ白なご老人が現れた。老人はじっと俺を見ながら少し離れた椅子に座った。
この人はかなり、見覚えがある、簡単に言えばファンタビ2だ。
「おお、目が覚めたかね」
「はい。…えーっと…ここはどこであなたは?」
「私はニコラス。ニコラス・フラメルじゃ。君は私の家の前に倒れていたんだ、覚えてないのかい?」
「はい。…気を失っていたようです」
「そうかそうか…ちょっと待っとれ」
よっこらせ、と言いながら立ち上がったニコラスさんはよぼよぼと元きた道を戻り扉を開けて「目覚めたようじゃ」と誰かに声をかけた。奥さんかな?名前なんだっけなぁ…。
「あれぇ?ダンブルドア先生なんでここに?」
めちゃくちゃ険しい顔をして現れたダンブルドアをみて思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。あー、そっか、友人だって書いてたなぁ。夏休みだし遊びに来てたのかな?
「それはこちらの台詞だ。…ノア、どうやってここに?」
「姿現しで」
「…何が目的かな?」
「賢者の石の製造方法を知りたくて」
「つくる?…奪う、ではないのか?」
「え?奪ったらニコラスさんたち死んじゃうでしょ?……って待って。もしかして俺に真実薬でも飲ませてる?」
「…」
口がペラペラとダンブルドアの質問に答えていく。別に嘘つくつもりなんて微塵もないのになぁ。ちらり、とニコラスさんを見ればびくりと肩を震わせて俺とダンブルドアを交互に見ていた。
「何故、賢者の石を求める?」
「金のため。俺金がないから手っ取り早くお金持ちになりたい!…あのさあダンブルドア先生?俺別に嘘つくつもりなんて無いですよ、自分の意思とは関係なく口が動くの気持ち悪いんですけど…」
しかし、ダンブルドアは油断ならない目で俺を見るだけで何も言わなかった。
「ノア、君は永遠の命に興味はないのか?」
「無い」
暫く沈黙が落ちた、するとおどおどとしながらニコラスさんが近づき、俺に何やら悪臭のするゴブレットを手渡してきた。
「アルバス、もういいじゃろう。こんな幼子が危険なわけあるまい…それに、真実薬は絶対じゃ、私の命を狙ってもいないじゃろう」
「…しかし、ニコラス…」
「さあ、ノア、といったかね?」
「ノア・ゾグラフ」
「よしよし、これを飲みなさい。真実薬の効能が消えるだろう…」
「わぁ!ありがとうございます!」
にこにこと笑ってお礼を言えばニコラスさんは目を細めてうんうんと頷いていた。孫に喜ぶおじいちゃんみたい!
「うーんまずい!もう一杯!」
「もう一杯いるかね?」
「いりません!あっでも口直しのチョコは欲しいです!」
「よしよし…」
ニコラスさんは笑いながら戸棚をそっと開け中からチョコを取り出すと俺の手にそっと置いた。
「わーい!」
ぱくっ。もぐもぐ、ごくん。
「美味しい!ありがとうございます!」
「さて、君の真の狙いは何かな?」
ニコラスさんがにっこりと俺に聞く。
俺はにっこりと「賢者の石の製造方法を聞いて金持ちになる事です!」と答えた。…俺の口が勝手に。
──って、おいおい。まさか。
「真実薬いりのチョコじゃよ」
「──なんて日だ!」
食えない爺さんすぎる。ニコニコと笑ってる分、ダンブルドアより怖い!まぁこのくらいの強かさと用心深さがないと、ここまで生き残れないのかな?賢者の石を狙う人って多そうだし。
仕方ない、心を込めてお願いするしかない。
きっと美少年の真剣なお願いなら聞いてくれるはずだ!
「賢者の石を作りたいだけなので、作り方を教えて下さい!」
「おお良いとも」
「そう言わずにお願い──え?」
がばっと下げていた頭を上げる。
きょとんとしてニコラスさんを見れば戸棚に近づいて何やら分厚いノートを持ってきた。ダンブルドアは「ニコラス!」と険しい口調で止めたけど、ニコラスさんは相変わらずの笑顔で俺にノートを渡した。
「これが賢者の石の製造方法じゃ」
「ほ、本当に?」
「真実薬入りチョコでも食べようかね?」
ニコラスさんは悪戯っぽく笑って戸棚からチョコを取り出したが、俺はぶんぶんと首を振った。
「いいよ!そこまでしなくて!信じてますから!」
「ニコラス…何故、製造方法を…」
「もともと特に隠してはおらんのだよアルバス。どうせ作れるわけが無い。見に来た魔法使いは皆作り方を見て諦めて帰るんじゃ」
ニコラスさんの言う通り、作り方はかなり難しく大変そうだった。
だが、俺にはどんな薬も作り方さえ知っていれば作れてしまうチート能力があるのだ。
これが本物の賢者の石の製造方法なら、材料さえ揃える事が出来れば俺には作れるはず!
「あのーこの材料ってどれも入手困難なものばっかりですか?」
「そうじゃのう。あまり市場には出回らん」
「えー…そっかあ…地道に集めるしか無いかぁ…」
「本当に作るつもりなのかい?」
ニコラスさんは驚いたように目を見開き、ダンブルドアは怪訝な顔で俺を見ているが、気にせずにっこりと笑って頷く。
「作る!俺、お金持ちになりたい!」
「そうかそうか…吉報を期待しておるよ」
「はーい!…あ!もうちょっとこれ読んでても良いですか?」
「構わんよ」
ニコラスさんの許しを得て、俺は1ページ1ページゆっくりと読んだ。うーん…ダメだ!全くわからん!何より難し過ぎて眠くなってきた。
ニコラスさんはヨボヨボと部屋から出ていったが、ダンブルドアは俺の側に椅子を持ってきて座ってしまった。多分、俺が変な事をしないかどうか見張るつもりなのだろう。
えーと、材料は人間の命!…なわけないか。本人の魔力7割、ユニコーンの血2割その他1割だな。ユニコーンの血って呪われるんじゃね?直飲みじゃなきゃオーケーなの?
「ノア」
「何ですかー?」
「…君とトム・リドルの関係は?」
「幼馴染です」
──あ、やばい。
真実薬の効果が聞いている間にいろいろ聞くつもりだな。それはちょっと困るな、ヴォルの事はあんまこの人に言いたく無いんだよなぁ、ヴォルに怒られそうだし。後で面倒なことになりかねない。
「他には?」
「ルームメイトです」
「…ノアは闇の魔術について、どう思うかね?」
ダンブルドアのメガネの奥で目がきらりと光った。まぁ、この質問ならまだギリセーフかな?
「忌み嫌われているものだと理解してますし、特に興味もありません」
俺の勝手に動く口、ナイスすぎる。
少しだけダンブルドアの警戒が緩んだような気がした。
しかし、まだ質問は続けるつもりらしく少し考えてから口を開いた。頼む、変な質問はやめてくれ!
「…ゲラート・グリンデルバルドについて、どう思うかな?」
「イケメンです」
「……は?」
「イケメンです」
大切な事なので2回言いました。
ファンタビを見た人は絶対イケメンだって思っただろう、間違いないはずだ!俺はネタバレNGな人間だからあんまりグリンデルバルドについて詳しくないからなぁ、この年代では、もうダンブルドアに倒されて捕まってなかった?あれ?…どうだっけ?
ダンブルドアは黙り込んでしまった為、俺はもう良いのだろうかとまたノートに目を通した。真実薬の効能いつまで続くんだろ…。
暫くは俺がノートを捲る音のみが静かな部屋に響いた。眠たい目を擦りながらなんとか全て読み切り、ぐっと大きく伸びをする。理解しなくても、読み流すだけで多分作れるはず、…はずだ!
「…よし!俺はもう帰ります!」
「そうか。…ああ、渡し忘れていた」
ダンブルドアは軽く頷くと内ポケットから何やら封筒を差し出した。きょとんとして受け取り中を開き──。
「げっ…て、停学!?」
「当たり前だ。未成年は魔法を使う事を禁じられておる」
「ま、魔力の暴走です!」
「ほう?さっき私に姿現しと言ったではないか。何故君が姿現しができるのか…私は大いに興味があるよ」
「くっ…停学かぁ…まあ、退学じゃなかっただけ…」
「次、同じ事があれば退学を言い渡さねばならん」
停学、とは…!いや、まぁ仕方がないか。魔力の暴走って事にしておきたかったが、この人の前で姿現しだと言ってしまった。もういくら取り繕っても無駄だろう。
「んー…じゃあ、帰りは送ってもらえますか?」
「…仕方ない」
にっこりと笑えばダンブルドアはため息をつき立ち上がった。
「ただいまー」
「遅かったね、何をしてたの?」
ヴォルの部屋の扉を開けて力なくヴォルのベッドに倒れ込む。
「あーまぁちょっと魔法使ったらバレて2カ月の停学になった」
「……はぁ?…ノア…馬鹿なの?」
「うるせー!お前いつか俺に賢者の石下さいって言ってもあげねーぞ!」
「…なに、賢者の石持ってるの?」
「持ってるわけねーだろ」
「だよね、期待して損した」
ヴォルはため息をこぼしまた読書を再開した。
どうせ、いつもの戯言だと思っているのだろう、へん!絶対に賢者の石をつくってやる!んでぼろぼろの生者と死者の中間になっても目の前で賢者の石を振って「あーげない!」ってしてやるんだからな!