世界を統一して数年後。
俺は今、ヴォルと共にホグワーツの校長室を訪れている。
校長室の中央に机が置かれ、ふかふかとした肘掛け椅子が二脚。しっかりと赤ワインも用意されている。…まぁ見えないから、ヴォルにこっそり教えてもらったんだけどな。
遡る事、数ヶ月前。
ダンブルドア直々からの手紙が俺宛で届いた。朗読魔法で読んでみれば、今ホグワーツはちょっと大変なことになっているらしい。どうにかしてくれという内容に、まぁ母校だし、少しくらい助けに行こうかと決めてヴォル同伴で訪問する事になった。
「…まさか、世界を変えてしまうとは思わなかったのう」
「まぁ…なるべく血を流さない平和な世の中を作るためには、こうするしかなかったんですよ」
ダンブルドアは低い声で言う。多分、この人は俺が世界全てを呪った事に気が付いているのだろう。まぁ、急に世界中の人が俺を信仰しだしたら──その呪いにかかっていない魔法使いは気付くよな。
「代償も…あったようじゃな」
「まぁ…。死んでないだけマシですよ」
肩をすくめて甘めのさっぱりした赤ワインを飲む。ダンブルドアは、俺が変えた世界を見てどう思ったんだろう。表立って俺を非難する事がないし、まぁ──受け入れてくれてるのだと思いたい。
「トムとノアが…また、揃って同じ道を歩み続ける──ふむ、こんな世界を見る事が出来るとは、思わなかったのう」
ダンブルドアは感慨深いのか、静かに噛み締めるように呟く。隣にいるヴォルはあまりダンブルドアと話したくないのか──ずっと、ダンブルドアを嫌っていたからなぁ──黙ったままだった。
「ヴォルだけじゃないですよ。俺は世界の全てと、同じ方向を見ているつもりですからね」
「君が、そうさせておるんじゃろう」
「まぁ、そうですけど」
ダンブルドアの言葉はどこか刺々しい。まぁ、無理矢理同じ方向を向かせているから、それはダンブルドアが望んでいた正しい世界ではないんだろう。俺とダンブルドアは、見ている先が違う。きっと今ダンブルドアは、俯瞰的に世界を眺め、とりあえず──見守り沈黙している。
もし、俺たちが誤った道へ進むなら、すぐに俺たちの前に立ち塞がるのだろう。俺には勝てないと知っていても、彼は俺の次には偉大な魔法使いだし。
「…で。こんな時期に日を設定したって事は…新入生の組分けの件ですよね」
まあ。そんなことは今どうでもいい。
腹を探り合うために今ここにきたわけではないんだ。俺とヴォルも暇じゃないし、さっくり用件を済ませてしまおう。
「──おお、そうじゃ。ノアが陛下と呼ばれるようになった今…スリザリン寮への組分けを願う新入生が多くてのう」
「別に、本人が望んでいるのならいいんじゃないですか?」
「勿論。自ら望みスリザリン寮に選ばれる者はいいじゃろうが──…たとえ望んだとしても、組分け帽子はその者の性質を見る。中にはどれだけ望んだとしても、他寮へ組分けされる者もいるのじゃ。…その度に組分けのやり直しを要求され──組分け帽子は床に投げられ……年々ボロ布のようになってきておる」
ダンブルドアは嘆くようにため息をつく。
俺は盲目だから帽子の状態がどうなっているのかわからないが──かなりひどいのか?
「…帽子ではなく、布切れになるのも時間の問題だな」
「え、そんなに?」
「ああ…。至る所が裂け、繕われた跡がある」
ヴォルがそこまで言うってことは、スリザリンに選ばれなかった新入生の鬱憤と嘆きと怒りを、帽子は一身にうけてしまい…元々年代物で昔からボロボロだった組分け帽子は、かなりひどい事になっているのだろう。
「それで、今日…組分けの前に、俺にスリザリン以外の素晴らしさを伝えてくれって事ですか?」
「いやいや、そこまでは言わんよ。ただスリザリンでなくも、嘆くことの無いよう伝えて欲しい。…残念ながらわしが何を言おうと、ノアの盲信者達は意見を変えんのでな」
「はは…」
俺が世界の指導者になり、統べるようになってからというもの。
俺の出身校であるホグワーツは魔法学校の中で最も優れていると評価されて他国からの留学生や編入希望の魔法使いが後を立たないらしい。
さらに出身寮ということもありスリザリン寮は他の3寮と比べ大人気である。大人気ってか、最早ステータスの一部になっているらしい。
今までならやや嫌厭されていたスリザリンが、大人気寮になるなんて誰が思っただろう。
スラグホーンなんかはスラグ・クラブで俺と撮った写真を大きく引き伸ばして教室の1番目立つところに飾っていると聞いた、あの人はつくづくぶれないなぁ。
ホグワーツでは俺が過ごした学生生活が一部湾曲され広まっている。主に俺の美しさだったり魔法の凄さだったり。女装したり女体化してダンスパーティしたり、入学の時に真っ裸になった事も伝えられているが、まるで高級な美術品のように光り輝いていて決して性的な物ではなかったとかなんとか言われている、らしい。
いやー…若気の至りがこんな風に伝わってるのはちょっと……かなり恥ずかしい。若い時の黒歴史は掘り返す物じゃ無いのに!!
「もうすぐ組分けですよね?マダム・ポンフリーに空きベットの予約しといてくださいね、何人鼻血出して気絶するかわかったものじゃないので」
「そうじゃの…新入生を祝うゲストとしてわしが名を呼んだ後、現れてくれるか?」
「了解でーす」
ダンブルドアは俺の言葉に苦笑しながら頷いた。
俺が立ち上がればすぐにヴォルも立ち、いつものようにトン、と俺の腕に自分の肘をつける。ここに掴まれ、と言う事なのだろう。
俺はヴォルの腕に捕まりながら、校長室を後にした。
ーーー
「ホグワーツ、変わってないか?」
「…玄関ホールに、ノアと麒麟の石像があったな」
「まじで?うわー…なんか小っ恥ずかしい」
ヴォルデモートの言葉にノアは頬をかき恥ずかしそうに苦笑する。
盲目となったノアは、ホグワーツを見る事ができない。ただ懐かしい学舎の匂いを吸い込み、過去の思い出を噛み締めるように懐かしんでいた。
その美しいブルーグレーの瞳は、今は真っ黒なサングラスで隠されている。盲目であることを悟られないようにノアは大衆の前に現れる際はこうやって目を隠していた。
それでも、ノアの美しさは微塵も損なわれることは無い。
むしろ芸能人が──ノアは世界一の芸能人、だといえるのでこの例えは一部正しい──お忍びでバカンスに訪れているような格好に見えるだろう。
ノアとヴォルデモートは大広間に繋がる扉の前で、ダンブルドアから呼ばれるのを待っていた。
ふと、ノアはヴォルデモートの方を見てニヤリと笑う。その悪戯っぽい笑みに──何かまた厄介な事を思いついたらしい、とヴォルデモートはすぐに察したが長年の付き合いでノアに何を言っても無駄だとわかっているため、彼が楽しげに話す思いつきに耳を傾けるだけで何も言わなかった。
大広間では数々の上級生達が新入生の鬼気迫る表情を見て「わかる」と無言のまま頷いていた。
もうすぐ組分けの儀式が始まる。そこで7年間過ごす寮を決めるのだが、誰だってノア・ゾグラフの出身寮を望んでいるのだ。胸の前で指を組み必死に「スリザリンスリザリンスリザリン…」とぶつぶつと呪文を唱える者達がいる中で唯一余裕の表情を浮かべているのは代々スリザリンに組分けされている純血の子ども達だけだろう。
今やスリザリン寮は他の寮の中で最も尊く、選ばれる事は新入生にとって何よりも誇らしい事なのだ。中には親からなんとしてでもノア陛下と同じスリザリンに入るように、と切望されている子も多い。
勿論、中には代々グリフィンドール寮へ配属される家系もある。彼らはグリフィンドール寮に選ばれる事が嫌では無いが──やはり、誰よりも、何よりも素晴らしいノア・ゾグラフの出身寮に憧れはあった。
ダンブルドアは組分けの儀式の前に立ち上がり、必死な顔でスリザリンへの配属を願う新入生を見渡しながら微かに微笑む。──内心では年々強まるノアの影響力を少々危険視していた──組分けの前にダンブルドアが立ち上がったのは初めてであり、教師や上級生達はなんだろうかと静かにダンブルドアの言葉を待った。
「新しいホグワーツの家族になる新入生達に──勿論、既に家族である上級生達にもじゃが──今日はサプライズゲストが、祝いの言葉を述べに訪れてくれた。皆、服装は正しておるかの?寝癖がついておる者はおるまいな?…紹介する前に少々注意事項じゃ。……気をしっかり持つように、くれぐれも医務室が気絶した生徒で満員になる事はないよう、祈っておる」
その不可解な言葉に誰もが首を傾げ顔を見合わせた。
そんな危険な人物?怪我をさせるのか?──コソコソと生徒達は顔を見合わせ囁き合い、何も知らされていない教師達も怪訝な顔で「何か聞いているか?」と言葉を交わした。
新入生達は一層不安そうな顔であたりを見渡し、身を寄せ合う。組分け帽子で配属する寮を決めると聞いているが、もしかして別の方法に変わったのだろうか?スリザリンを望むものが多すぎて──たとえば、決闘、とか?
ダンブルドアは手を叩き大広間中の不穏な囁き声を鎮めると、果たしてこの大広間にいる中で何名の者が冷静さを保てるのか不安に思いながら、大広間後方の扉に向かって両手を広げた。
「ご紹介しよう。──ノア・ゾグラフ陛下じゃ」
その名が呼ばれた時、間違いなく大広間にいた者、皆が息を止めた。
勢いよく後ろを振り返り──そして、期待と興奮混じりに開かれた扉を見る。
だが、その先には誰もいなかった。
え?誰もいないじゃん。ぬか喜びさせやがって!と思ったのは全員だろう。だが、ダンブルドアは何故手筈通り居ないんだと、久方ぶりに頭を押さえていた。
「──やあ、こんばんは。ノア・ゾグラフだ」
突如、美しく低い声が大広間の前方から響く。
扉を見ていた生徒や教師達はすぐにその声のした方を──半ば反射的に勢いよく振り向き、壇上の中央に立つノア・ゾグラフと、彼の側近であるヴォルデモート。そして
慈愛に満ちた微笑みを浮かべるノアと比べて、ヴォルデモートはどこかめんどくさそうな目で生徒達を見ていた。
そして、ノアにより無理矢理転送された上級騎士の4人──アブラクサス、ベイン、マートル、ミネルバは虚をつかれたような顔をしてその場に突っ立っていた。
少しおいて、何人かの鼓膜が破れただろう大絶叫が大広間を──いや、ホグワーツ城を震わせた。
「ゾグラフ陛下!?」「そ、そんな!!!こ、これは夢!?」「きゃあああっ!ゾグラフ陛下ぁあっ!!」「今死んでもいい…!!」
「ここは…ホグワーツ?え…なんで?」
「私はロシア支部にいた筈ですが」
「……アメリカにいたよね、私…?」
「…ノア様、これは一体…?」
アブラクサス達はなんの説明もなく転送されたために、狼狽していたが、ノアは悪戯っぽく笑い「ちょっとホグワーツの為に力を貸してくれないか?」と告げる。
訳がわからなかったが──彼らは騎士である前にノア信者であり、ノアが望むならたとえ火の中水の中闇の中である。普通に仕事中だったが、なんの不満も漏らさなかった。
「えーと」
ノアが話し出した途端、なんとか気絶せずに済んだ生徒達は一言を聞き逃してたまるかという強い意志でノアの声に耳を傾けた。
「新入生の諸君、入学おめでとう。ホグワーツでの学びが…君たちにとって素晴らしい事であると願っているよ」
ノアはにっこりと微笑み、壇上の前に一列で整列していた新入生に向けて微笑みかける。
まさに、微笑みの爆弾だろう。彼らはふらりと倒れて折り重なるようにして気絶した。
「あー…マートル、ミネルバ。起こしてあげて?」
「わかりました」
「は、はい…
すぐにマートルは気絶してしまった新入生を蘇生させる。ミネルバも杖を振るい同じ魔法をかけ、机に伏せて気絶している上級生達を蘇生させた。
「今から組分けの儀式がはじまるようだね。…どうやら、スリザリンを望む子が多いと聞いて…うん、勿論スリザリンは素晴らしい寮だ。何より寮生同士の結束が高いし…真の友を持つことが出来るだろう。俺とヴォル…ヴォルデモートのようにね」
生徒たちはノアの隣に控えるヴォルデモートを羨望の眼差しで見つめる。あの、ノア陛下に友達と言われるなんて──自分だったら何を差し出しても、そう呼ばれたい。
しかしヴォルデモートは無数の視線に射抜かれても少しもたじろぐことはなく、寧ろ涼しい顔をしながら「友達だったのか」と内心で呟いていた。
「スリザリンは素晴らしい寮だ。だけど、俺は──グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフも同じように素晴らしい寮だと思っている。俺が最も信頼し、尊敬している彼ら4人は、それぞれの寮に配属されているからね。…ミネルバはグリフィンドール、ベインはハッフルパフ、マートルはレイブンクロー、アブラクサスはスリザリン…さて、彼らに寮の素晴らしさを話してもらおうか」
──そんな無茶振りしないでください。
彼ら4人は間違いなく同じ事を思っただろう。
彼らはホグワーツでスリザリンを望む子どもが多いと、勿論知っていた為何となく今自分達が集められた理由を察していたが──それにしても無茶振りである。
どうする?と4人は視線を交わした。
誰が先陣を切るのか──数秒悩んだのち、ミネルバが一歩前に出た。彼女にとってホグワーツは過去に教鞭を振るっていた事もある、まだ離職して数年だ、見慣れた顔も多く、とくに緊張もしていない。
「ミネルバ・マクゴナガルです。グリフィンドールの寮監だったこともあるので、その素晴らしさは十分に理解しています。
グリフィンドール寮の特徴としては、やはり何よりも勇気があり、騎士道精神に基づく者が選ばれます。──つまり、その勇気と騎士精神を持ち、ノア陛下の盾となり、剣となる確固たる信念を持つ者だけがグリフィンドール寮に配属される事でしょう」
ああ、そういう説明でいいのなら──とベインは一歩、前へ踏み出した。
「ベイン・ポッターだよ。ハッフルパフ寮は誰に対しても寛容で、正義感の強い人が集められるかな?つまり、ノア陛下の全てを受け入れる愛に満ちた世界を守るために──その世界を真の意味で理解して…ノア陛下と同じ視線で公平に全てを愛する世界見ることが出来る者が選ばれるよ」
「マートル・アーロンです。レイブンクロー寮は知識を求め、そして何よりも独創性を重んじる寮ですね、個性的だと言われる人が配属されると思います。…えーと…ノア陛下の側で、的確な進言をし、時にはお褒めに与る事も…あるかもしれません。ノア陛下の頭脳として、その力を存分に発揮できるものが選ばれることでしょう」
「アブラクサス・マルフォイだ。知っての通り、スリザリンはノア陛下の出身寮である。──何よりも確実に目的を達成する野心、そして人を動かす叡智、リーダー性を持つ者が配属される事だろう。ノア陛下の右腕として人々を導く事も不可能ではない」
グリフィンドールならば、世界の剣となり盾となる。
ハッフルパフならば、その公平さで世界を見通す。
レイブンクローならば、確かな頭脳で世界を照らす。
スリザリンならば、共に世界を作り上げる。
騎士達の演説を聞いた新入生達は、一度自分の性格を思い出し──そして、将来この世界のためにどうなりたいかを考えた。
「…な?どの寮も素晴らしいから、組分けで望み通りならなくても帽子に辛く当たらないように。──さて、新入生諸君、そして上級生諸君、君たちにとってこのホグワーツで過ごす時間が…友と過ごす時が、何よりも輝かしい思い出になっている事を願っているよ」
ノアは生徒達に向かって手を広げる。
すると水晶のようにキラキラと輝きながらそれぞれの寮の動物である獅子、蛇、穴熊、鷲が現れた生徒たちの頭上を幻想的に、楽しげに舞った。
歓声と拍手が上がる中、ノアは優しく微笑み指を鳴らし──何の前触れもなく、騎士達を引き連れ姿を消した。
その後の組分けは──割と平穏に終わったと記述しておこう。
そして、騎士団本部に戻った彼らは口々に自分の寮が最も素晴らしいと言い合い、仕事そっちのけで騒いでいたという。
コメントでホグワーツではスリザリン大人気になりそう!とあったので、ちょっとホグワーツのその後を書いてみました。
ダンブルドアの望んだ言葉ではないにしろ、ホグワーツではその後そこそこ平和に組分けが行われる事でしょう。