停学が開けてホグワーツに向かった俺に待ち受けていたのは宿題の山だった。
普通停学中の宿題って免除されるんじゃ無いの?停学なんてなった事ないから分からないけど。
勿論2ヶ月間の停学中俺は大人しくしていたわけじゃ無い。賢者の石を作るためにとりあえず魔石をなけなしの金を払ってノクターン横丁で買った。ちょいっと加工してピアスにし常に装着している。…こんなビーズみたいな小粒なのに何十ガリオンもしたんだよなぁ…映画では手の平ぐらいの石だったよな?ニコラスさん金持ちすぎじゃね?
魔力を注ぎ込み続ければ透明な石に変わるらしいが、作り方によればそれだけで何年もかかるとの事。うーん、気が遠くなる。ダンブルドアが協力したのはこの辺かな?──知らんけど。
ちなみにヴォルは俺のためにノートを見せて宿題を手伝ってくれた。なんだかんだ言って優しい!と感動していたらスラグホーンの指示だから仕方なく、と言われた。…こいつ、ツンデレかよ!
「あー。飽きた。めんどい」
「…早く終わらせて秘密の部屋を探しに行きたいんだけど」
自室の卓に突っ伏して言えば、ヴォルはため息混じりにそう言う。独りで探せないのかと思ったが、どうやらあまり個人行動をし過ぎると疑われるから、らしい。まぁ独りでこそこそしてたら怪しいわな。
「目星はついたのか?」
「…スリザリン所縁の場所は粗方探したんだけどね」
「ふーん」
ベッドの上で本を読んでいたヴォルはパタンと本を閉じて「これも、たいした魔法はないや」と呟いた。
スリザリンの秘密の部屋の場所は、まぁハリポタファンなら誰だって知っている。しかしそれを教えればハグリッドがまだアラゴグを飼っていない──そもそも、入学すらしてない時に犠牲者を出すわけにはいかない。色々と未来が変わるのも、それはそれで面白そうかもとは思ったものの…不確かな未来を生きていけるほどこの世界は生優しくないからなぁ。ま、俺のチート能力ならそれでも生き残れるかもしれないが、俺が変に原作を変えたせいで生まれなかったキャラが出てきても困る。
「ホグワーツは千年前に造られたんだろ?城もその時代時代で増築してる筈だし、スリザリン所縁の場所とは限らないんじゃね?」
ふわりと杖を振り勝手にレポートを書かせながら言えば、ヴォルは驚きで少し目を見開き考え込んだ。どうやらその発想は無かったらしい。…あれ?助言しすぎたかな?
「…次から色々探してみるよ。──それより、それ。どうにかならない?」
「んん?」
ヴォルは俺のベッドの隣にある僅かなスペースに小高い山を作っている手紙と小包を嫌そうに指差した。
俺が停学中に届いたファンレターやら捧げ物だ。俺は着々とファンを作り、俺の親衛隊達も順調に俺の魅力を広げていってくれてるらしい、うんうん、躾けられてるなぁ。
「俺はホグワーツ1…いや、世界一魅力的だから仕方がないな!」
その山の中にあった小包を開けば美味しそうなチョコが現れる。差出人は名も知らぬ女の子だ。カードを読めば「トム君と一緒に食べてください♡」と書いてあった。へえ、珍しい。まぁヴォルも顔はいいからなぁ。
「ヴォール?」
「何──んぐっ」
ヴォルが俺の言葉に振り向いた時にその口にチョコを押し込んだ。暫くヴォルはもぐもぐと口を動かしていたが、彼には甘すぎたのか嫌そうに眉を顰め口を抑える。
試しに一つ食べてみたが、──うん、くっそ甘ぇ。
「…、…?」
「ん?どした?」
ヴォルは自分の胸に手を当て、不思議そうに首を傾げる。心なしかいつも青白いその頬が僅かに赤い気がする。…あれ、なんか、身体。熱い…?
「…ノア」
ヴォルの目は何故か潤んでいて声はいつもより低くて顔は赤くて…きっと俺も同じだ、何故かヴォルを見ると心臓が嫌に脈打つ。
「こ、これ薄い本で見たやつだ!」
「ねえ…こっち来なよ」
「うわっ!?」
読んでいた本をベッドの脇に捨てたヴォルは俺の腕をぐっと引っ張った。触れられた所にビリビリと電流が走ったような感覚、体の奥がずくずく熱を持ち始めていて──やばい、これ間違いない!愛の妙薬とかいう媚薬じゃねえの!?なんで…はっ!!あのチョコは腐女子からのあれか!?あれなのか!?翌朝俺の首元につけられたキスマークを見てニヤニヤしたいのか!?待ってくれヴォル、俺は色々知っているだけで至ってノーマルなんだ!!
「何とかなれーー!!」
「──ぐっ…」
小さくて可愛いやつみたいに叫び、俺に顔を近づけるヴォルの顔面を手で押さえ、必死に杖に手を伸ばし思いっきり突きつけた。
何とかなってくれ俺のチート魔法!このまま尻処女喪失なんて絶対に嫌だ!
杖先から黄金色の光が出てヴォルの身体を覆った、暫くキラキラとした粒子に包まれていたヴォルはその粒子がふっと溶けたころ、ゆっくりと目を瞬かせ僅かに困惑していた。
「…なに、…今の…」
「多分、愛の妙薬入りのチョコだったんだな」
「…そんなもの食べさせないでくれる?」
「俺だってそんなのとは思ってなかった!」
じろりといつもの冷ややかな目で睨み、ヴォルは押し倒していた俺の上からさっさと身をひいた。─思わず、服の袖を掴んでしまい、ヴォルは「何?」と嫌そうに俺を見て──目を見開く。
「ごめ…俺も食べたから…んー…身体あっつ…」
「…自業自得」
「ぐうの音もでねぇ…──トイレ行ってくる」
自分の身体を抱きしめながらふらふらと立ち上がる。ヴォルの時はまだギリギリ冷静に魔法が使えた、今は頭がぼんやりして喉が酷く乾く、身体中が熱くて、震える。こんな状態で流石の俺でも魔法は使えないだろう。
「…そんな顔で出ていったら襲われるよ?」
「っ……ヴォル、愛の妙薬とか媚薬の効能打ち消す魔法、使える?」
「無理だね」
「…だよなぁ…」
その場にずるずるとしゃがみ込む。いかん、足が立たない、力が入らないのに俺の息子はエベレストじゃねぇか!流石にマジでまずい。
「ちょっと…大丈夫?」
ヴォルが流石に苦しそうに呻めく俺を見て心配になったのか、俺の肩をぽんと叩いた。
「───っ!」
肩から電撃が走り体の芯を打った。びくっと大きく身体を跳ねらせた俺は下着の中に広がる中学生以来てんで無かった嫌などろりとした感覚に眉を寄せ、顔を覆った。
「…スコージファイ」
杖を降り全てを清め何も無かったかのように立ち上がる。
うん、気分爽快賢者モード。
ヴォルは俺のスッキリした顔と、清め魔法を見て何を清めたのか理解したのか、ドン引きな目で俺を見ていた。
「早漏…」
「うるせぇ!!」
ヴォルの呟きに俺は叫んだが、残念ながら全く──その通りである。