2年目のクリスマス休暇。勿論孤児院に戻る気のないヴォルはホグワーツに残っていたし、俺も同じように残った。孤児院の子供たちと会いたくないわけではないが、それよりもこの休み期間中にどうしても探さなければならないものがある。
「さて、どこにあるかなー」
禁じられた森の中、昼間にもかかわらず木々が鬱蒼と茂っているせいでかなり暗い。何か危険な魔法生物が居ないとも限らない為、一応杖をしっかり握っておいた。
「
杖を軽く振れば、ぽっと杖先が光りその先を白い光線が道標のように示した。多分この先を辿っていけば、賢者の石の材料のうち最も重要な1つがある──筈だ。
1時間ほど歩き続けると、突如茂みが途切れ開けた場所に出た。
「うわ…きれーだな…」
思わず呟く。森の中にこんな湖があるとは思わなかった。天使の通り道が空から差し込み、水面を照らしキラキラと輝いている。ベールのように薄い霧が立ち込め、それはそれは幻想的な雰囲気だ。
この森には多くの生き物がいる、水辺がなければ生きられないだろうし、無くても不思議ではない。
ただこの鬱蒼とした森には似合わないあまりの美しさに、そこだけが別次元のようだった。
その湖の畔の向こう側に、数匹のユニコーンの群れを発見し、俺の杖から伸びた光が一頭を指し示していた。──あいつだ。
「やぁ俺はノア。君たち喋れる?あ、危害を加えるつもりはないよ」
俺はふわりと浮遊し湖の中程で足を止める…つま先が微かに水面に触れ、同心円上の波が少しだけたった。
──これ以上近づいたら、逃げられちゃうかな?
「…我らの言葉がわかるのですか」
「おおー。…うん、わかるよ」
「そんな人間…聞いた事もありません」
群れの中で最も美しく、大きな個体の純白のユニコーンが俺に応えた。
その一頭がこの群れのリーダーなのだろう。周りのユニコーン達はじりじりとその背の後ろに後退し、俺を警戒しながら見つめている。
「ほら?俺って美しいから?ユニコーンと近いんじゃね?」
「──、まぁ、あなたは穢れなき身のようですが」
「童貞で悪かったな!」
ユニコーンは処女を好むというが、まさか童貞でもオーケーなのか。そうなのか、童貞で良かった──いやよくないけどな?
「我らに何故近づくのですか」
「ん?それは──」
俺がここにきた理由を話せば、ユニコーンは困惑し暫く黙った。彼(?)は暫し一頭のユニコーンを見ていたが、俺に視線を向けると「いいでしょう」と答える。
「ほ、ほんとか!?やった!」
「──ただし、我らは月草しか食べません。その日までそれを毎日届けるのなら」
「勿論!この森にあるんだろ?探すよ!…んで、いつ頃になるんだ?」
「後3年」
「え?」
「3年後です」
「えぇー…わかった」
仕方ない。杖はあの一頭しか指さなかった。つまりあの個体以外に当てはまるユニコーンは居ないのだろう。それなら三年間毎日月草を届けるしかない。目的のために!金持ちになるために!
「この湖畔に届けてください」
「はーい、じゃあ、身体に気をつけてな!」
ついでに指を鳴らし呼び寄せた月草をユニコーン達の前に届けた後、俺は手を振りすぐに姿現しをして森の入り口まで戻った。ホグワーツで姿現しを出来ないというのは、俺と──ダンブルドアには当てはまらないようだ。まぁ偉大な魔法使いだから、当然といえば当然か。
もう場所は覚えた、徒歩なら1時間かかる距離でも姿現しをすればすぐに向かう事が出来る。毎日であっても特に問題はない。
「ま、思ったより話がわかるやつだったなぁ」
拒絶されると思ったけど、想像以上にあっさりと頷いてくれた。
…やっぱり、会話できるっていうのが決め手だったのかな。どの動物も、何故か会話できるとわかるとすぐに心を開くし。
仲間だと認識するのかな?なんにせよ、良かった良かった。
教師に森に行っていた事がバレないよう無人なのを確認してさっさと玄関ホールへ向かい、地下牢への階段を下る。
自室に戻ればヴォルは何やら机に向かい、ノートに書いていた。宿題は終わった筈なのに、予習でもしてるのか?
「ただいまー」
「ああ、ノア。──見て、僕の新しい名前だ」
「んん?」
ヴォルは珍しく満足気なにっこりとした満面の笑みでノートを見せる。沢山の文字が書いては消されている中、一つの言葉が丸で囲まれていた。
「ヴォルデモート卿、僕は今日からこれを名乗る」
「ヴォルデモート卿ねぇ…呼びにく!」
名前の倍以上あるじゃん。率直な感想を言えば、ヴォルは片眉を上げて不機嫌そうにそっぽを向いた。そんなにお気に入りだったのか、…いや、知ってるけど。後何十年も使うもんね。
「…折角、君がヴォルって呼び続けられるようにしたのに」
「え?」
ヴォルはちょっと頬を赤くしてた。片手で口を押さえていて「言うんじゃなかった」と明らかに動揺している。
俺はにんまりと悪戯っぽく笑い、ヴォルのその珍しい顔を下から覗き込んだ。
「へぇ?俺のために??」
「…うるさい」
「可愛いとこあるじゃん!」
「黙れ!」
いつもの命令口調で睨まれても全く怖くない。むしろ可愛らしさすらもある。
こんな子どもが将来闇の帝王になるなんてなぁ、まぁその片鱗は見せてるし既に人を見下しまくってるけど…人生何が起こるかわからない。
「…この名前を、いつか誰もが恐れる名に…口にするのが阻まれるほどの名にする。…必ず」
「折角考えたのに誰からも呼ばれないとか悲しくない?」
ヴォルの決意を込めたその力強い言葉に思わず突っ込めば、じっと真剣な目で見られた。
「ノア、君だけが呼べばいい」
「……へーぇ?」
ヴォル──トム・リドルは愛を知らない。愛を認めない、俺はそれを良く知っている。ヴォルが俺を見る目も親愛や友情なんて微塵も篭っていない。誰も信頼せず、全てを見下し孤高を美徳としている。
おそらく、ヴォルが俺に対して持つ感情は──強い執着心だ。こいつ…想像以上に俺のこと好きだな。
ヴォルと交流を深めていく内に、ヴォルは俺にその心の内に秘めた凶悪性を見せるようになった。
他の人の前では優等生のトム・リドルを見事に演じている。彼らは自分こそが優秀なトム・リドルの友人だと思っているだろうが、ヴォルにとってはただの使える駒でしかない。
けっして他人を信用しないヴォルが、何故俺にだけ本性を見せるのか。──そもそもこの魔法界に来る前からの事で、今更偽るのを無駄だと思っているのかもしれない。
それとも、隣に立つ事を無意識のうちに許してくれているのかも。
「ま、俺だけは呼んでやるよ、ヴォル?」
ヴォルは俺の言葉に目を細めて薄く笑った。