九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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 今回は主人公が女体化します※三度目
 苦手な方はご注意ください。


風評は威光を示すバロメーター ※女体化表現あり

「源吾郎はね、中学生の頃から女の子に変化する術を会得しているのよ」

 

 妖怪に詳しい面々のみならず、一般人である畠中さんもいる中で、双葉は臆面もなく源吾郎の能力を暴露した。

 一方の源吾郎も、そんな姉の発言に驚いたりたじろいだりはしない。源吾郎の変化術については既に話題に上っているのだ。源吾郎が何に変化できないのか話したのならば、何に変化できるかについても言及されるのが筋というものだろう。

 さらに言えば、双葉は源吾郎が美少女に変化できる事をいたく気に入ってもいた。彼女は妹を欲しており、妹がいればいいのにと思っていたからだ。源吾郎が生まれる前などは、妹欲しさに弟たち――誠二郎や庄三郎などだ――に女物の衣装を着せて()に見立てていた事もあったくらいである。

 源吾郎は双葉の「妹ごっこ」の遊びに付き合わされた事はない。しかし兄の庄三郎が弟である源吾郎を彼女役に仕立てるという発想に、双葉の影響があった事は明らかであろう。

 

 源吾郎はちらと双葉を見やった。何故源吾郎がそのような技を習得しているのか。その理由について双葉が言及するのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 ねぇみんな。双葉は源吾郎の視線を受け流し、畠中さんたちに呼びかけた。

 

「そんなわけで、源吾郎が女の子に変化する所、見たくない?」

 

 姉の申し出は予想通りの物だった。双葉は妹を欲していたし、しかも今ここに集まっている面々は、源吾郎が妖怪としての側面を持つ事を知っている。普通の人間ならば不可能である変化術は、しかし源吾郎の本性を知る者を相手に披露するのならば何も問題はない。

 そしてこの申し出は弟に対する命令である事も源吾郎は既に看破していた。年長者に囲まれて育った源吾郎である。彼らの考えを察したり、その思いに沿うように動く事には長けている。それに姉には弟は逆らえない。この自然の摂理を源吾郎はよく心得ていた。

 最終的な判断は畠中さんたちにゆだねられるだろう。だが源吾郎は、自分が変化する流れになるだろうとおおよそ察していた。

 

「良いんですか主任? この源吾郎君が女の子に変化する所、私たちが目の当たりにしても」

「私も興味あるわ。島崎君の事は色々知ってるけれど……女の子に変化した所はまだ見た事が無いし」

 

 案の定、畠中さんと鳥園寺さんは源吾郎の変化術に興味津々のようだ。尻尾以外は凡庸な見た目の青年である源吾郎が、大胆にも少女に変化するのだ。好奇心の強そうな彼女らの事だから、そりゃあもう興味を持ったのも無理もない話だろう。

 ついでに言えば、姉の双葉が所謂美女と呼んでも遜色ない存在である事もまた要因なのかもしれない。双葉もまた、母方の血が持つ妖狐の恩恵を容姿という形で受け継いでいたから。容姿がどうであれ、源吾郎にとっての双葉は姉であり、それ以上でも以下でもないのだが。

 

「変化するかどうかは、島崎君が決めたら良いと、私は思ってるわ」

 

 ギャラリーたちの中で、米田さんだけが他の女性陣とは違った意見を口にした。金色の瞳は源吾郎を捉えている。気遣うような眼差しと、口許に浮かんだ儚げな笑みに、源吾郎の心が揺らぐのを感じた。

 

「私たちが気になるとか見てみたいって思っても、それで島崎君が嫌な思いをするんだったら申しわけないし」

 

――やっぱこの人めっちゃ良い人やん……!

 

 源吾郎の心中に、柔らかく暖かいものがにじみ出るのを静かに感じていた。米田さんは源吾郎を気遣ってくれていると確信したためだ。もしかしたら、彼女はゲストの中で唯一源吾郎の美少女変化を見ているから、それで意見が異なるのかもしれない。

 米田さんの意図はどうであれ、彼女の気遣いに気をよくした源吾郎は、その面に笑みを浮かべた。

 

「気遣ってくれてありがとうございます。ですが僕は大丈夫ですよ。他の皆様は僕の変化を心待ちにしていますから」

 

 そう……相変わらず気遣わしげな米田さんから視線を逸らし、今度は畠中さんたちを見やった。

 

「それじゃあ変化しますね。ですが、どうか皆様には僕の変化を見てもキモいとか変態とか言わないで頂きたいんです。お願いはそれだけです」

 

 変化の準備をする前に、源吾郎は簡潔に要望を述べた。変化術を見せる事は、ハーレム云々の野望を語るよりも恥ずかしくはない。しかしそれでも、女性陣からキモいとか変態みたいだなどと言われたら恐らく凹む。それを回避するためのお願いだった。

 三人がめいめいに頷いたのを見てから、源吾郎はやにわに変化した。男物のシャツとズボン姿の青年は、一瞬にしてワンピースドレスの少女にその容貌を一変させた。本来の姿の名残は、ワンピースの模様のみである。

 数秒に満たぬこの変化を前におぉっ、と歓声が沸き立つ。やはり畠中さんと鳥園寺さんは源吾郎の変化に喰いついたようだ。妖怪に関心があったり妖怪絡みの家業を継いでいると言えども、二人が人間である事を思えば無理もない話だ。

 

「え、すごい、凄いじゃない島崎君! てか、私よりも普通に女子力が高そうな女の子になるなんて……すごいって言うかむしろずるいかも」

 

 鳥園寺さんは驚きと感動が強まり過ぎたのか、妙な事を口にしてさえいた。そもそも言うて鳥園寺さんって女子力高かったっけ? 鳥園寺さんは確かにゆるふわ系のお嬢様だけど、マイペースで我が道を行くタイプだから、女子力とかそう言うものを意識するとは思っていなかったんだけど……つらつらと源吾郎はそんな事を思っていたが、無論口には出さなかった。迂闊な発言で乙女たちの怒りを買う事が相当な愚考である事を、彼はきちんと心得ていたからである。

 

 

 源吾郎が女子の姿を保っていたのはほんの数分程度の事である。畠中さんたちが満足した頃合いを見計らい、元の姿に戻った為だった。

 

「いやー、島崎君って本当に才能の固まりよねぇ」

 

 源吾郎の姿をじろじろと眺めながら、鳥園寺さんがぼやいた。

 

「島崎君ってさ、実年齢的にも私より若いでしょ? それでもう四尾になるくらいの力もあって、それであんな難しい変化術も簡単にこなせるわけだし……」

「どうやら僕は、妖狐の中でも変化術が得意な方になるみたいなんです」

 

 チーズをつまむ鳥園寺さんに対し、源吾郎はそう言った。その声は謙虚な若者の言葉のように聞こえたが、多少の苦みが滲んでいた。

 妖狐は一般的に様々な妖術を操ると思われており、実際にその通りである。白兵戦や肉弾戦はやや苦手であるが、攻撃手段になる火術、自分や他の物を別の物に見せる変化術、心を操り自分のほしいままにする魅了の術などと、使える妖術のバリエーションも多い。

 しかし実のところ、どの妖術が得意かは妖狐によってまちまちなのだ。火術や攻撃術が得意でも、変化や魅了が苦手な妖狐もいるし、変化術はずば抜けているが他は全く振るわない、という妖狐もいるという事だ。こういった得意とする術の偏りは、幼若で妖力の少ない個体程顕著になるという。長じて妖力が増えてもその傾向は残りはするが……経験や努力によって多少埋め合わせが効いて目立たなくなるだけの話である。

 この特徴は実は源吾郎にも当てはまっていた。もっとも適性があるのが変化術であり、魅了の術の才は殆どない。火術・結界術などの戦闘向きの術も得意そうに見えるが、それは単に源吾郎自身の妖力が多いためにそう見えるだけに過ぎない話である。

 つまり源吾郎は戦士として表立って闘うよりも、隠密や諜報、或いは騙し討ちを行う方面への才があるという事である。華々しく力を示したい源吾郎としては不本意な話ではあるけれど。

 

「若くて才能も家柄も恵まれているお坊ちゃま、ねぇ……」

 

 気付けば双葉が小声で何やら言っている。彼女が挙げた特徴はある意味源吾郎の持つ属性を示しているのだが、何故か見知らぬ他人のように扱われているような気分になってしまった。

 そう思っていると、双葉が源吾郎を見てニヤリと笑った。

 

「源吾郎。あんたさっきハーレムが云々って言ってたわよね。よく考えたら、あんたが()()()すごい存在だって思われているんだったら自分からお嫁さんを探さなくても良いんじゃないの?

 だって源吾郎は玉藻御前の子孫で、現時点でもそこそこ才能があるでしょ。特に妖怪の社会は実力が物を言うんだから、実力のある源吾郎の懐に入れば安泰だって思う娘が出てきてもおかしくないわ。それでもって源吾郎に護られて、ついでに玉藻御前の子孫を生めば、立場的にも揺るがなくなるかもしれないしね」

 

 唐突な双葉の説明に源吾郎は目を瞬かせた。女子たちに傅かれる事、ハーレムを構築する事を夢見ていた源吾郎である。しかし、おのれの血筋や力そのものが女性陣を惹きつけるであろう可能性についてはあまり意識してはいなかった。

 だからこそ驚き、気の抜けた声を上げたのだ。

 

「そういうものなんですかね」

「妖怪たちも血筋を気にするみたいだし、そう言う事もあるんでしょうね」

「そりゃあもちろん、そう言う考えでもって接触する妖狐たちも、今後島崎君の前には現れるでしょうね」

 

 鳥園寺さんの言葉の後に呟いたのは米田さんだった。彼女らはそれぞれ術者の跡取り娘だったり玉藻御前の末裔を自称していたりしている。ある意味血統の大事さをよく知っている訳だ。

 

「特に玉藻御前の末裔を名乗っている娘たちにしてみれば、島崎君とお近づきになるという手段も可能性の一つと思うかもしれないわ。確かに、あなた方は私たちを不当に迫害したり脅迫したりはしないけれど……それでも単に玉藻御前の末裔を名乗っているのと、本物に認められて可愛がられたり身内扱いされるのでは大分意味が違うわ。

 というよりも、結婚したり子供を産んだりした時点で身内になるから、自称・玉藻御前の末裔から玉藻御前の末裔の身内に昇格するわけでもあるし」

 

 あ、でも……米田さんは会話を途中で打ち切り、何かを思い出したと言わんばかりに呟いていた。

 

「島崎君の配偶者として近付くのは女狐たちしかできないけれど、男狐の場合だったら、舎弟とか部下にしてほしいって言って近づく可能性もあるでしょうね。妖怪たちが、実の親族でなくても親族のように振舞う事があるのは知ってるでしょ? そんな塩梅で、島崎君の兄や弟になりたがる玉藻御前の末裔もいるかもしれないわね」

 

 米田さんはいつの間にか楽しそうに微笑んでいた。源吾郎は対照的に困ったような笑みを浮かべるだけだった。

 

「しかし米田さん。僕の周りにいる玉藻御前の末裔とやらは、そう言うそぶりを見せませんよ……」

 

 源吾郎はそこまで言って力なく微笑んだ。玉藻御前の末裔を名乗る妖狐たちは、源吾郎の振る舞いが風評被害をもたらさないかヤキモキしているという。今しがた米田さんが言った内容とは、玉藻御前の末裔たちが源吾郎の傘下に入ろうとするという話とはまるでかけ離れている。

 しかしそれこそが、今の源吾郎の実力と、周囲からの評価そのものなのかもしれなかった。

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