九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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若者よ世間は狭きと心得よ

 源吾郎のカミングアウトに、三國も春嵐も硬直していた。二人の若妖怪は、どう反応して良いのか迷っているらしい。或いは、突飛すぎる発言に驚いていると言った所であろう。

 

「忌まわしい連中の子孫だって。それは妙な事を言うじゃないか」

 

 そう言ったのは三國だった。もちろん驚いているのだろうが、その一方で笑みも浮かんでいた。驚きが高じて笑いに転じたという所だろう。

 

「半妖が自分の妖力に耐えかねて暴走してしまうとか、そんなアホな事が実際にあるなんて思ってるんじゃないよね? それとも、今更になって玉藻御前の事が怖くなったとか? 他の兄弟たちじゃあるまいし」

「……玉藻御前の血は俺にとって誉れです。それには変わりありません」

「だったら尚更おかしいじゃないか」

 

 おのれの裡に潜む妖狐の血を恐れているのか。その問いかけを源吾郎が真正面から否定すると、三國はいよいよ疑念を深めたようだった。

 

「妖狐の血を誉に思っているのならば残るは()()()()()になるが、幸四郎さんに何の問題があるというんだい? 俺もあの人の事は知ってるが、そう悪い人では無さそうに思ったが」

「父も無関係です。俺が恐れているのは母の父、祖父の系譜なんですよ!」

 

 源吾郎は三國たちを見据えたまま言葉を続けた。

 

「共喰いや近親婚や妖怪殺しで成り上がった挙句、玉藻御前の娘と自分の縁者を交配させ、その仔を利用しようとした――曾祖父や大伯父たちはそんな連中だったんですよ! 祖父は確かに曾祖父や大伯父たちとは違っていたそうですが、それでもそう言う家系に生まれた事には違いありません。三國様、春嵐さん。そう言う()()が僕の祖先にはいたのです」

 

 呪われた血統として源吾郎が恐れていたのは、母方の祖父・桐谷家の系譜だった。彼らは強さを求めるためだけに様々な禁忌に手を染め、挙句玉藻御前の娘と当主の息子らを交配し強力な手駒を得ようと画策した。これを忌まわしいと言わずいられようか?

 三國たちからの返答は無いが、源吾郎は構わず言葉を続けた。

 

「身内殺しの罪過は祖父も担っていたのでしょうね。祖母と共に暮らし始めてからも、生まれた子供を付け狙おうと祖父の身内が攻めてきたのですから……もちろん、祖父が大伯父や曾祖父を武力で退けたのは致し方ない事です。そうしなければ俺の母や叔父たちはまともに生きていけなかったでしょうし。ですがそれでも、おのれの目的のために兄弟同士で喰い合いをしたという一族である事には変わりありません。

 もっとも、曾祖父や大伯父は祖父との間に生まれた子供――俺にとっては顔も知らぬ叔父たちですが――をかどわかし、蠱毒のようなモノに仕立てるような輩でもありましたが」

 

 源吾郎はそこまで言って言葉を切った。祖父は妻子との安寧を護るためにおのれの父や兄たちと闘い、彼らを葬り去ったのだろう。だがそれだけではあるまい。紅藤の話では、蠱毒になった息子さえも手に掛けなければならなかったわけなのだから。

 そうして利用された源吾郎の叔父を斃したのが誰なのかは源吾郎は知らない。もしかしたら源吾郎の母親だったのかもしれない。だがいずれにしても、身内殺しの血が流れている事に変わりはあるまい。

 三國と春嵐は驚きつつも目配せし顔を見合わせた。

 

「春嵐。今の島崎君の話だけどどう思う? 本当の事だと思うか?」

「……恐らくは本当の話でしょうね」

 

 問いかける三國に対し、春嵐は言葉を探りながら応じた。

 

「確かに島崎君のお祖父様の話は私たちも詳しくは知りません。ですが嘘や作り話の類ではないでしょう。作り話にしては細かすぎますし、何より嘘としてあの話をでっち上げる事が島崎君の()()()()にはなりませんから」

「だけど……苅藻の兄貴やいちか姐さんからあんな話は聞かなかったぞ」

 

 唐突に出てきた叔父と叔母の名に源吾郎は瞠目した。三國の言い方からして、単に苅藻やいちかを知っているだけとは思えない。面識がある以上に交流があり、しかも叔父たちの事を多少は慕っていた。そんな状況が浮かび上がるような物言いだった。

 

「苅藻さんたちが、そしてあなた方が知らないのは無理もない事です」

 

 三國の言葉に応じたのは紅藤であった。

 

「白銀御前様と桐谷家の対立に関しましては、三百年近く前のお話になる訳であり、苅藻君が生まれる前には既に烈しい争いも終わっておりましたから。その後に生まれたいちかさんや、若いあなた方が知らなくても致し方ない事です。

――ちなみに島崎君がこの話を知っているのは、私が教えたからにほかなりません」

 

 紅藤の言葉に周囲の空気は一変したようだった。若妖怪である三國や春嵐はまぁ腑に落ちたらしい。一方萩尾丸はというと、何故か渋い表情を浮かべあからさまにため息をついていた。

 

「紅藤様。よりによって島崎君にそんな事を教えていたんですか?」

「仕方ないじゃないの萩尾丸。島崎君に自分のお祖父様の善さを教えるためにはどうしても話さないといけない事だったもの。三花さんの性格上、子供たちにはそう言う話はしないでしょうし」

 

 そうでしょ? 紅藤は源吾郎を見やって問いを投げかける。源吾郎は素直に頷いた。実家にいた頃、母から祖父の縁者について聞かされた事は無かったのはまごう事なき事実である。

というよりも、兄姉らも祖父の縁者については知らないはずだ。兄姉らはむしろ人間として生きる事を決めている。血みどろの因縁を語られても当惑し、心が乱れるだけに過ぎない。いや……オカルトライターな長姉はネタが出来たと喜ぶかもしれないが。

 

「しかし色々と解りましたよ。そう言う話を知っていたからこそ、島崎君は蠱毒の事とか、雷園寺君を傷つけた事にショックを受けていたんでしょうね」

 

 冷静さを見せつつ語る萩尾丸だが、やはりその声には呆れの色が濃い。彼はいつの間にか源吾郎を見据えていた。

 

「島崎君もさ、昨日の今日で気が動転していたのは解るけれど……まさかそんな事を言い出すなんて僕も予想外だよ」

「まぁまぁそれくらいにしましょうよ萩尾丸さん」

 

 萩尾丸の言葉に待ったをかけたのは何と三國だった。源吾郎は軽く驚きつつも彼の言葉を待った。

 

「俺も島崎君の祖父の事はほとんど知りませんでしたが、彼の素性とか性質については、今はもうそれほど心配していません。萩尾丸さんもご存じの通り、俺は苅藻さんたちの事も、島崎君の叔父たちのひととなりも知ってますからね。なので……」

「それは第八幹部としての言葉なのかな。それとも雷園寺君の養父としての言葉かな?」

 

 三國の言葉にかぶさるように萩尾丸が問いかける。第八幹部か雪羽の保護者か。三國の立場を敢えて問いかける所には何か意味があるのだろう。

 

「――もちろん、雪羽の叔父……保護者としての言葉ですよ」

 

 それなら良かった。萩尾丸は目を細め笑みを造った。

 

「君も若い頃とは違って地位や立場を気にする事が出来るようになってるからさ、それで僕や紅藤様に気兼ねしてあんな事を言ったんだと思ったら気の毒だと感じたんだよ。そうか。それなら僕は特に言う事はないね。

 それじゃあ三國君、ついでに島崎君に対して雷園寺君の養父として言っておく事はないかな? 本心からの言葉なら何を言ってくれても構わないよ」

 

 萩尾丸の申し出に三國はちょっと驚いていたようだが、何度か目をしばたたかせた後源吾郎に視線を向ける。琥珀色の瞳はやはり獣の瞳だ。

 

「今回俺に話した事だけど、雪羽には言ってないよな?」

 

 源吾郎が頷くと、三國の顔に安堵の色が滲む。

 

「君の出自の話だろうけれど、くれぐれも雪羽には言わないでくれよ。君も知っているが雪羽は身内関係の話にはかなり敏感な性質だからさ。

 まぁ、お堅い話はこれくらいにしておこうか。君の叔父たちに免じて、君の事はあれこれ言わないでおくよ。俺も苅藻の兄貴やいちか姐さんには頭が上がらないからさ……」

「そうなんですか。三國さんが叔父たちに頭が上がらないなんて」

 

 やや照れ臭そうに話す三國は、源吾郎の言葉を聞くとさもおかしそうに笑った。

 

「まぁ、その辺の話は実際に君から叔父上殿に聞いた方が良いんじゃないかな。君には相手にしてくれる親族たちがいるんだ。だから時々会って近況報告してやるんだ。良いな」

 

 三國に諭されるように言われ、源吾郎はやはり頷いていた。脳裏には苅藻の姿がおぼろに浮かんでいる。修行云々の話にかこつけて叔父に会いに行くのも一興だろうと思い始めていた。

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