九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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定めしテストは宝玉集め

 傍らにいる妖狐の少女は笹塚といった。父母もその両親、或いはその先の先祖も妖狐という事であり、ある意味由緒ある妖狐の……厳密には野狐の一族の少女である。

 その一尾はやや褐色の強いキツネ色であり、髪色も大体同じような色調だった。本来の姿は普通のホンドギツネかアカギツネにそっくりなのだろう。つかず離れずの距離を保つ彼女を見やりながら、源吾郎はそんな事を思った。

 妖怪である妖狐と言えども、一尾たちの本来の姿は普通のキツネと大差ない。変化が現れるのは二尾以上だと言われている。尻尾の数が増えるのは言うに及ばず、妖力の影響で身体も大きくなる傾向にあるそうだ。

 集まった面々を係の妖狐が確認する傍らで、笹塚がため息をつくのが聞こえてきた。狐娘ではあるものの、笹塚は飯村や稲田などと言った他の狐娘とは異なる雰囲気の持ち主である。飯村さんたちは割と押しの強そうな狐娘だったのだが、笹塚はどちらかというか控えめで大人しそうな少女だった。それこそ、中学校や高校などでは、教室の片隅で静かに本を読んでいそうなタイプである。

 もしかしたら、飯村さんたちよりも見た目的にも若く、本当に十代中ごろの少女に見えるから余計にそう感じるのかもしれない。

 

「本当に、この選抜って公正にやっている物なのでしょうか」

 

 笹塚がやにわにそんな事を言い出したので、源吾郎は面食らってしまった。どういう事なのかと考えているうちに、彼女は言葉を続ける。

 

「実は私、玉藻御前の末裔を名乗りだしてまだ十年くらいしか経ってないんですよ。ですが、このテストに参加するのはもう三度目なんですよね。新入りの紹介を兼ねている一回目はまだしもですけれど……そんなに同じ狐ばかり選抜されるものなのでしょうか。三十年、四十年玉藻御前の末裔を名乗っているのに、最初の一回しかこのテストに参加しなかったって狐もいるんですよ?」

「うーむ。確かにそこは不思議ですね」

 

 源吾郎はそう言うだけに留めておいた。この場でとやかく言うのは悪手だと思ったのだ。他の妖狐たちが集まっている場でもあるし、何より笹塚がごね始めたら色々とややこしそうな気配がしたのだ。それに源吾郎も、何をもって選抜が行われたのかは解らない訳だし。

 それよりも、彼女が何だかんだでテストに三度も参加している事の方が気になりもした。どんなテストの内容だったのか。それを眼前の彼女から聞き出せるかもしれない。そんな考えさえ源吾郎の脳裏に浮かんできたのである。

 だが結局のところ、源吾郎は笹塚に問いただす事は無かった。そんな暇は与えられなかったのだ。

 

「さーて、皆様準備は整ったご様子ですので、これからグループ編成を行おうと思います」

 

 司会進行役の妖狐がマイクを握りしめ、一角(テストに参加する妖狐たちが読み上げられている間に、椅子の一部が撤去されていたのだ。なので壇上に集まっている訳ではない)に集まっている妖狐たちにそんな風に宣言したのだ。

 未だに種目について語られていないのは、やはり当局の思惑によるところなのだろうか。或いはこれから説明してくれるのか。そんな風に思っている間にも、妖狐は言葉を続ける。

 

「四人一組で一つのグループとさせていただきますが、グループの編成はくじ引きで決定いたしますね。くじには一から十までの数字が書かれておりまして、同じ数字を引き当てた者同士がグループになる運びです」

 

 気が付けば小さな箱を持った妖狐が姿を現していた。箱は紅白の市松模様が入った直方体のもので、上には丸い穴が開いている。商店街などで福引を行う時に使う箱にそっくりだ。

 

「今回は玉藻御前にお仕えしていた若菜様もご覧になっている事です。今年の裏初午は、皆様にとっても特別な一幕となるでしょうね」

 

 妖狐たちがくじ係の元へ列をなして向かっていく間に、司会進行役がそう言って笑みを漏らした。若菜様。その名を聞いた源吾郎は、彼女の姿を思い出す。

 若菜の姿は源吾郎に強烈な印象を与えていた。ゆうに八尾を具える彼女は、老婆の姿にてこの会場に出席していたのだ。八尾の大妖狐、それも玉藻御前に仕え、かつて白銀御前が姉として慕ったほどの女狐であるから、あるじを偲んで妖艶な美女の姿を取るのではないかと思い込んでいたのだ。

 若菜も千年以上生きてきたのだから年老いているのだ、とは思わなかった。そもそも妖怪は普通の動物や人間などとは異なる存在だ。妖怪は不老不死ではないが、寿命というのがとんでもなく長い。ついでに言えば妖力を増すほどに老いや病から遠ざかるとさえ言われているのだ。そう言った妖怪の特性を知っているからこそ、若菜が年老いているわけでは無いのだと思った訳である。

 そうなると、敢えて老いた姿でもって他の妖狐たちの前に姿を現しているとしか考えられないが、何故そうするのかは源吾郎には皆目解らなかった。解ったのは、若菜が威厳を具えた妖狐であるという事だけだった。

 永い年月を生きた妖怪は、妖力の多寡に関わらず野望を忘れて油の抜けきった妖生を送るようになってしまうのかもしれない。最終的に、源吾郎の脳裏にはそんな考えが浮かんだのだった。自分もいずれはそうなってしまうなどと言う事は想像できなかったが。

 

「島崎さん。ぼーっとしてるけれど大丈夫ですか?」

 

 隣から呆れと気遣いがまじりあった声が飛ぶ。声の主は隣にいる笹塚だった。右手が僅かに挙げられており、源吾郎に触れようかどうか迷っているかのようだ。

 

「大丈夫ですよ笹塚さん。僕は新入りなので、最後にくじを引いた方が良いかなと思って、それで皆が引き終わるのを待っていただけなんです。笹塚さんも先輩ですし、お先にどうぞ」

「別にそういう所で気を使わなくても良いと思うんですけどね、私は」

 

 そんな事を言いつつも、笹塚は少し安心したらしく、くじ引きの列に並んだ。源吾郎もその後ろに並びつつ安堵の息を漏らす。新入りなのでくじ引きは最後の方が良いという主張は、実の所口から出まかせのようなものだった。だがそれを笹塚は素直に信じてくれたではないか。

 

「ねぇ島崎さん。こういう時って私らは確実に別々のグループになっちゃうんですよ。前に先輩たちと一緒にテストに選抜された時もそうだったもの」

 

 笹塚が僅かに首をねじり、源吾郎に対して囁きかける。そうだったんですか。源吾郎が声を漏らすと、彼女の顔に得意げな笑みが浮かぶのが見えた。大人しそうな風貌らしからぬあからさまな笑みだ。いや、内気で大人しい者ほど、時に烈しい感情の発露を見せる事がある。その事を源吾郎は知っていた。

 

「私らには単なるくじ引きに見せかけているけれど、きっと力のある偉いお狐様たちは、くじそのものに術を掛けていて、それでいい感じにグループのメンバーが出来上がるようにしているのかもしれませんわ……多分、ですけどね」

 

 照れ隠しのようにそう告げる笹塚の言葉に、源吾郎も静かに頷いた。

 源吾郎が引き当てたくじに記されていた数字は「六」だった。一方の笹塚は「四」である。同じ数字を持つ者同士がグループになる。そのルールから行けば、源吾郎と笹塚は別のグループになる事は明らかな事だった。

 その事を互いに確認しあうと、二人はそのまま係の妖狐の指示に従って動いた。既にくじを引いた妖狐たちは、同じ数字を引いた者同士で集まり始めている。源吾郎たちもその中に加わらねばならなかったのだ。

 

「それじゃあ、島崎君。また後でね」

「はい、笹塚さん。笹塚さんもご武運を」

 

 源吾郎の言葉に、笹塚さんは頬を綻ばせて笑っていた。気取ったような源吾郎の言葉は彼女には滑稽に聞こえてしまったのだろうか。そんな考えが源吾郎の脳裏に閃いた。そんな事を考えている場合ではないと解っているのに。

 

 数字の六を引き当てた六班(仮)は、源吾郎も含め男狐が三人と女狐が一人という組み合わせだった。そして班内で唯一の女狐は、何と米田さんその狐だったのだ。源吾郎のテンションが密かに爆上がりしたのは言うまでもない。

 しかし、米田さんとの再会を喜んでばかりもいられなかった。というのも、班分けが完了したのを確認した司会進行係が、マイクを握って説明を始めたからである。

 

「はい、これで十個のグループが出来ましたね。この度皆様に行って頂きますのは、グループ対抗の玉集めですね。やはり我々妖狐と玉は切っても切れない間柄にある訳ですし」

 

 確かにその通りだな。司会進行役の言葉に、源吾郎は静かに頷いていた。稲荷神社でも玉を咥えた狐の石像が作られているし、妖狐が口の中に宝玉を隠し持っているという伝承さえあるのだから。

 厳密には、妖狐の口の中に宝玉などがある訳ではない。あくまでも妖気が凝集すれば玉のような形になる事はあるらしい。とはいえ、生命エネルギーたる妖気が凝集したり身体の外から放出されたりしたら生命に関わる恐れもあるのだが。

 

「ルールは簡単です。制限時間内に出来るだけ多くの玉を集めて頂くだけでございます。玉の集め方については、対戦相手の生命を奪わない限りは特に不問です。試験会場に隠されている物を探し出すもよし、相手の持つ玉を奪い取る事ももちろん可能です」

 

 ざっくりとした、しかし物騒なワードの盛り込まれた司会進行役の言葉に、源吾郎の喉がか細く鳴ってしまった。ルールが単純なのは良い事ではあるが、やはり対戦相手と相争う事も織り込み済みなのが何とも妖怪らしいではないか。

 

「それでは、皆様を試験会場に案内いたします。動きやすい服装に着替えたい方は、その時に着替えて頂いて構いません。準備が整い次第、皆様に玉を配布いたしますので」

 

 司会進行役はそう言うと、源吾郎たちに背を向けて歩き始めた。

 そう言えば運動着みたいなのも持ってこいと言っていたような気がしたが、それはそういう事の為だったんだな。半ば腑に落ちたような思いで源吾郎もまた歩き始めた。四班に配属された笹塚と目が合う。彼女は早速緊張したような、何とも言えない表情を浮かべていた。

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