九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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源吾郎、半妖狐に出会う

 日頃より戦闘訓練に用いている訓練着に着替えた源吾郎は、他の妖狐たちが既に着替えを終え、スタンバイしている事に面食らってしまった。初参加の面々だけではなくて二度目三度目の参加者がいるからなのかもしれないし。或いは、純血の妖狐、それも玉藻御前の末裔を名乗るだけの実力者揃いであるから、服装ごと変化術で変化させる事も出来るのかもしれない。源吾郎はそんな風に考えて密かに納得していた。

 そうやって周囲の事を観察しているように気取っていた源吾郎であったが、自分と同じく着替えに時間がかかっていた男狐が一人いた事に、ついぞ気付く事は無かった。

 ともあれ準備が整ったと当局から判断が下ったらしい。運営係と思しき妖狐たちが、腕で抱えられるほどの布袋を携えてこちらに向かって来た。受験者の妖狐たち一人一人に順繰りに丸い物を手渡している。これが司会の言っていた玉だな。そう思っている間に、源吾郎の元にも玉が渡された。

 手渡された玉は、姫リンゴほどの大きさと真珠のような色合いと光沢が特徴的だった。玉の中央には貫通孔があり、そこにやや長めの紐が通されて両端は結ばれていた。巨大なペンダントのような佇まいだった。

 ペンダントみたいだし首にかけるのか。未だ手中にある玉を見ながら源吾郎はぼんやりと思った。実際に、妖狐たちを見ると首に提げている者もいるではないか。

 

「玉については自由にお持ちいただいて結構です。首に提げても良いですし、腕にぶら下げても構いません。この玉がポイントになりますので、ご自身の玉は大切にお取り扱いくださいませ。

 なお、テストの最中にリタイアしたと判断した参加者に関しましては、運営にて簡易スペースの方に誘導いたしますのでご了承願います」

 

 源吾郎が首をかしげていた丁度その時、司会進行役が解説を入れてくれた。源吾郎も他の先輩妖狐を倣って玉を首に提げた。腕にぶら下げても良いなどと司会進行役は言っていたが、そんな事をしている妖狐は特に見当たらない。

 中には訓練着どころか、二足歩行の狐や完全な狐の姿に戻り、その上で玉を携行する者さえいる位だった。

 そうした周囲の様子を確認してから、源吾郎はそれとなく第六班のメンバーを観察する。一尾から三尾までいるのだが、いずれも人型を保っていた。米田さんははっきりと戦闘服を着こんでいて、その上で配られた玉を首に提げている。源吾郎と目が合うと、静かに微笑んだ――ような気がした。

 

「それではテスト開始します。終了の合図があるまで、各自会場内で自由に動いて構いません」

 

 健闘を祈る。いかにもバトル物のドラマやアニメでありがちな台詞を放ったかと思うと、司会進行役は姿を消していた。何とも狐らしい振る舞いである。

 さてこれからどう動くべきなのか。源吾郎は首にぶら下げた玉を撫でつつ今再び周囲を観察する。首を巡らせる動きは用心深く、瞳には猜疑の色を濃く浮かべながら。

 既にテストは始まっていた。だから他の班の妖狐たちがやってきて、玉を奪おうとするのではないか。いや、玉を狙うのは他の班員だけではないかもしれない。そんな風に源吾郎は警戒していたのだ。何せ今回のテストは玉を集める事なのだから。もちろん玉は会場内の何処かに隠されてもいるそうだが、他の参加者の玉を奪っても構わぬと運営も言っていた訳だし。

 ところが、源吾郎の予想とは裏腹に妖狐たちが襲い掛かって来る気配は無かった。もちろん他の班の狐たちの動きはあるにはある。四十名が並んでひとかたまりに集まっていたのが、四人一組の小さなかたまりに分裂したという、きわめてささやかで大人しい動きに過ぎなかった。

 島崎さん、でしたっけ。柔和そうな声と共に源吾郎の肩に手が添えられる。

 源吾郎に呼びかけたのは一尾の男狐だった。小柄な源吾郎よりも背が高く、その面には柔和な笑みが浮かんでいる。不思議な感覚、漠然とした違和感を抱いた源吾郎は軽く首を傾げた。妖力に反し、相手が年かさの妖狐であるような気がしたのだ。通常、妖狐で一尾と言えば年長でも百歳を超えた程度の若狐である。しかし、源吾郎に呼びかけた男狐は、血気盛んな若狐には到底見えなかった。変化した姿は二十代前半ほどの青年姿ではあるのだが。

 

「初めてだから緊張しているんだね。だけど大丈夫。テストは始まったけれど、皆すぐに玉集めをやる訳じゃあないんだ。その前にやっておくべき事とか、決めておくべき事があるからね」

「そう、なんですか……?」

 

 源吾郎は一尾をまじまじと見やりながら呟いた。ここで源吾郎は、一尾の青年が新参者ではない事に気付いた。新たな玉藻御前の子孫を名乗る物たちが紹介されたのだが、その中に彼の姿は無かった。むしろ新参者は、こちらの様子を窺う三尾の男狐の方だ。

 そうだとも。一尾は源吾郎のたどたどしい言葉に頷いた。快活さが見え隠れするような仕草である。

 

「まずは自己紹介と、誰をリーダーに据えるかを決めないといけないでしょ。島崎君、このテストはチーム戦でもあるんだよ。もちろん、個人個人でどれだけ玉を集めたのかを競う側面もあるにはある。だけど個人戦だったならば、わざわざ班を作る必要なんてないでしょ? 元より僕たち妖狐は仲間で行動する事が重んじられているんだからさ」

 

 一尾の言葉に源吾郎は素直に頷いた。三尾の男狐が源吾郎たちを見て鼻で笑っている。そして米田さんは、単なるホンドギツネから妖怪化したという彼女は、静かに三人の男狐の様子を眺めているだけだった。

 

「――それじゃあ皆さん、ひとまず自己紹介しましょう。もしかすると、既に顔や名前をあらかじめご存じの方もいらっしゃるかもしれませんがね。その後で、誰がリーダーなのかを選んだらいいのではないかと僕は思うのです」

「それでお前さんはリーダーシップとやらを発揮してるのかい。はん、()()()()がご苦労なこった」

「……!」

 

 嘲笑交じりの三尾の男狐の言葉に、源吾郎は目を丸くした。その視線はすぐさま一尾の男狐に向けられる。三尾の半妖風情という言葉は、源吾郎ではなく一尾の青年に向けられたものだ。文脈からしてそう考えるのが一番自然だった。

 

「まぁまぁ落ち着いてください北斗さん。初参加という事で気が立ってらっしゃるんでしょうけれど、開始早々に仲間割れなんぞ起こしてもメリットはありませんよ。それに、半妖だとか何とかって出自を引き合いに出しても詮無い事でしょうに」

「そうよね。いずれにせよ私たちが野狐である事には変わりありませんもの」

 

 一尾の男狐が三尾をなだめた直後、黙って状況を静観していた米田さんが口を開いた。その顔にはうっすらと笑みが広がっていたが、ひっそりとした物憂げな笑顔でもあった。

 この中でリーダーに相応しいのはやはり彼女ではないか。源吾郎は確信した。米田さんがリーダーたる資質を持つ事が頼もしく、そして何故か誇らしくもあった。何故そう思うのかは解らないし、そう思っている間にも皆が自己紹介を行う段となっていたのだ。

 

 さて一悶着あったものの、第六班は自己紹介を終えリーダーを決定する所までこぎつけた。米田さんがリーダーに収まったのは、源吾郎の想定通りだった。若い女狐ではあるものの、冷静で公正に動けそうだと男狐たちが判断したためである。源吾郎は第六班の中でもちろん最年少だったのだが、米田さんはその次に若い妖狐だったのだ。最年長は半妖だという一尾の江田島と名乗った狐で、三尾の北斗はそれよりも十歳二十歳程度若いと言った塩梅である。

 

「え、江田島さんも半妖だったんですね。それじゃあ、僕と同じ――」

「確かに僕も半妖で、妖狐と人間の血を受け継いでいるよ。だけど、血の濃さが君と僕とでは違うんだ。僕の父は半妖だけど、母は純血の妖狐だからね。まぁ、母は母で普通のキツネから妖狐になったんだけど。ともかく島崎君とは真逆だね」

 

 確かにその通りだ。江田島の見下ろすような視線を受けながら源吾郎は思った。源吾郎は妖狐の血を四分の一しか持たないが、江田島には妖狐の血が四分の三も流れているのだ。それに、半妖の父と妖狐の母という江田島の父母の組み合わせも、人間の父と半妖の母という源吾郎のそれとある意味真逆ともいえる。

 江田島は目を細め、静かに笑っていた。

 

「だけど不思議だよね。妖狐としての強さって言うのは血の濃さとは関係ないのかなぁ? 二百歳を超えても一尾のままなのは、四分の一とはいえ人間の血が入っていたからなのかと思ってたんだよ。

 しかし島崎君。君は妖狐の血を四分の一しか持たないのに、僕たち以上に妖狐らしいじゃないか。やっぱり大妖怪の血は生半可な事では抑えられないって事なのかな?」

 

 江田島の言葉は喜色に満ちていた。しかしそれは仲間を見つけたという喜びではなく、興味深い観察対象・実験対象を見つけた愉悦に起因するような物言いだった。

 或いは、喜んでいるように見せかけて源吾郎に嫉妬心を抱いている可能性すらあった。しかも彼も、先祖には()()()()という名の知れた女妖狐がいるのだから尚更だ。広島を取り仕切るボス妖狐の子孫に生まれながらも玉藻御前の末裔を名乗っているのは、やはり彼なりに事情あっての事なのかもしれない。

 もしかすると、あからさまに源吾郎を白眼視する北斗よりも厄介な相手かもしれない。前途多難が過ぎないかこのテスト。江田島に愛想のよい笑みを浮かべつつも、源吾郎の内心では不安や懸念がうごめき続けていたのだった。

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