九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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第十五幕:激突、百鬼夜行の戦闘劇
第446話


「皆、緊張するのは山々だと俺も思う。だが、あんまり気張りすぎたら、却って悪い結果をもたらす可能性が高まっちまうんだ。その辺りを注意して、可能ならば自然体で臨んでくれよ」

 

――もちろん、だからといってヘラヘラして敵陣に臨むのは論外だがな。

 

 運転を担う粟村先輩は、ハンドルを握り前を向いたまま、源吾郎たちに静かにそう言った。何かにつけて運転手としての役割を担う事の多い彼であるが、萩尾丸の部下の中では、そこそこ腕の立つ妖狐である事もまた事実だった。

 まずもって粟村先輩は三尾であり、既に二百年以上生きた大人妖狐だ。萩尾丸の擁する組織の中でも、末端組織の「小雀」ではなく、一つ上の「荒鷲」に所属しているという。

 二百歳で三尾と言えば、妖力の保有量の観点で言えば平均的な妖狐と言えるだろう。しかし裏を返せば、三尾に到達するまでに二百年もの経験を積んでいる。そう言う意味では、五十年足らずで三尾や四尾になった連中とはわけが違うのだ。結局のところ、長年生きてきた経験や実績が、妖怪としての強さを大きく左右するのだから。

 それらの事を解っていたからこそ、源吾郎は後部座席に収まりつつ神妙な面持ちで粟村先輩の言葉に耳を傾けていたのだ。初陣では無いにしろ、大きな戦いに駆り出されるのは初めての事だった。

 それに気晴らしとして窓の外を眺めるような真似もしなかった。奇しくも窓側の座席に腰を降ろしていたが、三月の夜はまだ早く、外の景色は既に夜の闇の中に溶けていたためだ。

 

 三月末日の午後六時半。雉鶏精一派による八頭怪への総攻撃まで、あと三十分である。

 

 源吾郎はこの総攻撃にあたって、狐狸精第三部隊に割り当てられていた。三尾の妖狐である粟村先輩を長として、主に萩尾丸の部下である妖狐や化け狸たちからなる小部隊であった。妖力が増しても尻尾の数が増えない化け狸はさておき、第三部隊――それ以外の部隊もなのだが――の妖狐たちは最低でも二尾以上である。

 若く、闘う力のない妖《こ》を無闇に危険な目に遭わせたくない。萩尾丸は何度かそんな事を口にしていたが、それは嘘偽りのない言葉だったのだ。もっとも、若狐であっても二尾に到達している者であれば、戦闘要員と見做されてはいるのだが。それこそ、昨年二尾になったばかりの野柴珠彦なども、第三部隊の構成員として招集されているのだから。

 

「島崎君。やっぱり緊張するっすか?」

 

 その珠彦が、こちらに顔を向けて問いかけて来た。飄々としたその顔には、何処かいびつに歪んだ笑みが浮かんでいた。源吾郎はだから、顔をしかめつつ頷いた。

 

「そりゃあもちろん緊張するとも。何てったって、あの八頭怪の率いる連中とぶつかり合うんだぜ。俺らが戦うのは八頭怪ややつの幹部じゃあなくて、末端の寄せ集めの連中ではあるけれど……それでも怖いし、緊張するってのはあるよ」

 

 ああそうだ。源吾郎の言葉に応じてそう言ったのは、顔を突き合わせている珠彦では無かった。そもそも前方から声が聞こえてきたのだ。だがそれは、粟村先輩の物だったのか、他の先輩妖狐の物だったのかは解らない。解ったとしても、今の源吾郎にとっては些末な事だった。

 

「寄せ集めの連中だからと言って、くれぐれも油断しないようにな。灰高様や真琴様の調査によると、末端の連中は深海ヨリ来ル者や黒キ仔山羊と言った、邪神の眷属や信者共らしいんだよ。あいつらだって闘う術は知っているだろうし、何よりなりふり構わずに向かってくるかもしれんからな。そう言う意味では、マトモな妖怪と戦うよりもある意味しんどいかもしれん」

「要するに、今回の戦いは、畜生同士の生存競争って事さ。殺すか殺されるか。喰うか喰われるかの世界に過ぎないんだろうな」

 

 またしても、年長の妖狐の誰かが声を上げたらしい。自身を畜生呼ばわりするとは何とも荒っぽい言葉である。しかしそれに対する抗議の声は無かった。彼の言葉の凄味に吞み込まれ、誰もかれもがその通りだと思ってしまったからだろう。

 

 士気の高い妖狐や化け狸たちを乗せた車が停まったのは、町外れの駐車場だった。人気が無く、忘れ去られた気配がそこはかとなく漂っていた。それは町外れという立地だけではなく、そもそも駐車場自体に認識阻害が掛けられているからであるようだった。

 車から降りるようにと促された源吾郎は、訝しさを感じながら駐車場の周囲を眺めていた。八頭怪の根城は屋敷であると聞かされていたが、それらしい屋敷はすぐ傍には無い。漂っている妖気からして、ここから一、二キロ程離れた所が問題の屋敷であるようだった。

 源吾郎としては漂う妖気で気配を探っていたのだが、他の妖狐からは別の事を行っているように見えたのだろう。源吾郎はすぐに、二人の妖狐に囲まれた。二尾の黒狐である穂谷先輩と、金毛二尾の白川先輩である。

 そして白川先輩は、妙に馴れ馴れしい笑みを浮かべながら、源吾郎の肩に手を添えた。

 

「おいおい、どうしたんだい島崎君。事ここにきて、ビビっちまったのかい?」

「いやそんな……そう言う事じゃあないですよ」

 

 源吾郎はまなじりを僅かに吊り上げ、白川先輩の問いに応じる。流石に肩に置かれた手を払いのけなかったが。

 

「それらしい屋敷の傍じゃあないんだなって思っただけですよ」

 

 源吾郎が言うと、穂谷先輩と白川先輩は互いに顔を見合わせ、それぞれの顔に笑みを浮かべた。白川先輩は無遠慮にどっと笑い、穂谷先輩は気遣いと呆れの色が入り混じった笑みを源吾郎に向けている。

 

「そらお前、俺たちは別に八頭怪の屋敷に招待された訳じゃあないんだぜ。アポなしで突撃訪問するって言うのに、わざわざやつの屋敷の前に車で乗り付けるような間抜けな真似を、一体誰がするって言うんだよ」

 

 白川先輩の言葉にも一理あるな。源吾郎がそう思っていると、今度は穂谷先輩も口を開いていた。

 

「心配しないで島崎君。確かにここから目的地までは二キロ弱あるけれど、何処から行けば良いかは粟村隊長がきちんと先導してくれるから、ね。島崎君も、二キロくらいなら走っても大丈夫でしょ」

「ええ。それ位大丈夫ですよ!」

 

 源吾郎は力強く、そして挑むように応じた。穂谷先輩が気遣って言ってくれた事は解っている。それでも何故か、少し馬鹿にされたような気がしてしまったのだ。

 

「穂谷君に白川君。それに島崎君も……無駄口を叩いている暇はないぞ」

 

 三人で寄り集まっているのが、駄弁っているように見えてしまったのだろう。暗がりから、粟村先輩の鋭い声が投げかけられた。

 暗がりの中にいると言っても、妖狐ゆえに粟村先輩の瞳は光を反射して輝いていた。それこそ鬼火や狐火のごとき輝きを見せる瞳の奥に、戦いへの意気込みが宿っている事を、源吾郎はひしひしと感じ取ってもいた。

 もちろん、その焔と輝きは、源吾郎の瞳の中にも宿っている物なのだ。

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