九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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 戦闘描写、難しすぎるンゴ……


大妖怪と邪神の遣い、ついに相まみえる

 屋敷の壁が吹き飛んだのは、青松丸と紫苑が互いに組み付き、蹴爪やら嘴やらで傷つけあっている最中の事だった。

 先程から轟音は聞こえていた。紅藤を筆頭とした幹部勢が、邪神の遣いたる八頭怪や山鳥女郎と交戦しているがゆえに生じている音であると、青松丸は解釈していた。

 コンクリート片だか漆喰の欠片だかが、轟音と共に四方へと飛び散っていく。大きなものは人の頭ほどもあった。しかも破砕した影響もあって、欠片のほぼ全てが角ばって尖っていた。頑健な肉体を持つ妖怪を以てしても、傷を負わせるには十二分すぎる質量と威力を具えていた。

 だからこそ、二羽の鳥妖怪は爆発の産物に反応した。

 まず動いたのは紫苑だった。彼女は青松丸への攻撃を中断し、後ろに飛び退った。飛来する破片の一つ、特に大きな物の軌道を読み取ったがうえの事であろう。後ずさる際に青松丸の腹に蹴りを入れる事を忘れないのも、何というか抜け目ない。

 とはいえ、柔らかな腹に蹴りを受けた青松丸は、多少よろけた程度だった。後ろに下がるためだけに放った蹴りなどでダメージを負うほど青松丸もやわではない。ましてや、ほぼ無尽蔵の妖力は、望めばほぼ一瞬で青松丸のダメージを回復させてくれるのだから。

 青松丸はだから、体勢を立て直すとそのまま紫苑の傍へと詰め寄り、彼女に体当たりを喰らわせた。

 破片の軌道を読み取っていたのは、何も紫苑だけではない。青松丸もまた、あの一瞬で飛散する欠片の軌道を読んでいた。だからこそ、彼女に体当たりを喰らわせ、他の大きな破片の落下点へと追いやろうと目論んだのだ。

 と言っても、紫苑も目論見通り動きはしなかったが。青松丸が狙っていた破片は、二羽のすぐ横を掠め、地面を抉るだけだった。それ以外のより小さな破片が降り注いできたが、青松丸の再生能力を以てすれば問題のないレベルである。

 何となれば、翼で弾いて紫苑にぶつける程度の芸当も出来た。流石に翼で破片を殴ったら、骨が軋む間食はあったが。

 

「あんた……相変わらず原始的でクレイジーな闘い方ね」

「いかんせん戦闘は苦手なので」

「よく言うわ」

 

 舌打ちでもしかねない表情――山鳥本来の姿に戻っているので、舌打ちは出来ないのだが――で紫苑は言い捨て、それからまた青松丸から距離を置く。何事か、と思った次の瞬間、斜め後ろから前方へと黄色い塊が飛んできた。コカトリスの双睛鳥である。

 

「僕はまだ常識的な闘いが出来ると思うけれど、どうかな山鳥の姐さん」

 

 体当たりは空振りであったが、双睛鳥は気にせず翼を広げる。毒をたっぷりと含んだ羽毛を飛ばす前触れである事は、その目で明らかだった。

 

 

「常識的かどうかなんて、もはや気にしている局面ではないわ」

 

 紫苑は言うと、ふと屋敷の方に視線を向けた。青松丸も、つられてそちらの方をちらと見やる。半壊した屋敷の一階からは、触手のような物が蠢いているのが見えた。それから――鳥とも龍ともつかぬ、恐ろしく長くて大きな頭部もだ。

 

「あなた方雉鶏精一派は、今まさに八頭怪と、そして私の母と交戦中よ。向こうには私の弟もいる。あの子は……イルマはもはや、眷属を召喚できるほどの力を持ってるわ。もちろん、邪神の息子としての力もね」

 

 イルマ。山鳥女郎の手駒にして実の息子たる半神の名を、紫苑は口にしていた。その時の声音や表情に、姉としての身内としての情が滲み出ているように感じたのは、青松丸の錯覚に過ぎないのだろうか。

 

「そんな中で、下位と言えども八頭衆の一人が私にかかずらっているのは、やはり問題なんじゃあなくて?」

「くそっ」

 

 紫苑の言葉に、双睛鳥はあからさまな動揺を見せていた。青松丸に加勢して紫苑と闘うべきか、八頭怪や山鳥女郎たちを追い立てるために動くべきなのか。彼は迷い、向かおうとし、逡巡していたのだ。

 そんな双睛鳥に、青松丸は叫んだ。

 

「双睛鳥! ひとまず十一時の方向に弾丸を放つんだ。羽毛の弾丸でも何でも構わない!」

「何ですって?」

 

 言いつつも、双睛鳥は青松丸の言葉通りに羽毛の弾丸と火焔弾を放っていた。若く情緒不安定と言えども、やはり八頭衆の座を護っているだけの事はある。

 そして当初は不審な様子を見せていた双睛鳥であったが、すぐに納得したような表情へと置き換わる。彼が攻撃を仕掛けた所、というよりも青松丸が指示を出した個所では、砕けて半ば炭化した塊が転がっていたからだ。それは壁の破片などではないし、元から転がっていた訳ではない。

 青松丸は見た。紫苑が奇妙な動きと詠唱と共に、今では炭化してしまった塊を、土中から呼び寄せていた事を。双睛鳥が斃したのは土人形の類であろう。クレイアニメのごとく地面から立ち上がり練り上がり、生き物のごとき形状を象っていたのだから。

 もちろん、紫苑が呼び寄せたのはその一体だけではなかった。歪な形の鳥獣が十数体、ぐるりと青松丸と双睛鳥を取り囲んでいたのである。それらは恐るべきことに骸であった。

 互いの雑兵同士がぶつかった際に戦死した者たちの骸に術を掛け、融合させ、操っているのだ。死ねば物体になるという解釈も一部の者たちの中ではあるが、マトモな神経の持ち主であれば、おぞましさに身を震わせるであろう。

 青松丸はというと、ちと厄介な事になったと呑気に思う程度であった。死体に攻撃を加えるという事に忌避感や罪悪感などは無い。しかし、この手の操られた死体は無駄に耐久性が高く、それこそ五体を打ち砕くほどの攻撃を加えなければ斃れない。

 

「ふふふっ。二対一でかかって来るのが卑怯だなんて私は言わないわ。手駒なら幾らでも作り出せるものね」

 

 いずれにせよ、紫苑の操る死体の駒を撃破しなければ手はないだろう。青松丸はひとまず手近な所にいる駒を蹴り倒すべく跳躍した。

 

 時間は少しばかり遡る。青松丸と紫苑が、屋敷からの轟音を耳にする数分前の事だ。

 場所は変わって山鳥女郎の屋敷内。屋敷の中には頭目の胡琉安と八頭衆の第一幹部から第六幹部まで、そして彼らの中でも特に力のある部下たちだけが潜入していた。

 八頭怪と直接相まみえる妖怪は、部下たちも含めて数十名に過ぎない。一見すると少ない妖数に見えるが、そうせざるを得ない理由があった。端的に言えば、一定以上の強さと戦闘経験のある妖怪たちしか、八頭怪への攻撃に回せなかったのだ。

 山鳥女郎にしろ八頭怪にしろ、生半可なレベルの妖怪ではない。特に八頭怪やイルマは邪神の眷属としての性質も持ち合わせている。物量戦も立派な作戦のうちに入るが、八頭怪が相手とならばそうもいかない。中途半端な強さしかない妖怪たちを大勢投入したとしても、無駄に討ち死にしてしまうのが関の山だ。

 それに少ないと言えども精鋭揃いである。幹部たる八頭衆は言うに及ばず、側近たちも一騎当千に近い力量の持ち主だ。そう言う意味でも、少ない兵で出向くという戦略は、あながち間違いではないだろう。

 そう言った意味では、第二幹部たる紅藤の連れている妖怪は、毛色が違う存在だと思われても致し方ないだろう。

 紅藤が連れているのは萩尾丸ではない。彼は彼で、「金翅鳥」のメンバーと共に一軍の将として独自に動いている。

 彼女が連れていたのは、すきま女のサカイスミコだった。彼女は百戦錬磨の経歴を持つわけでもなく、紅藤の側近という訳でもない。年齢も百を超えたかどうかという程度の小娘であり、また研究センターでの序列も低い。新参である源吾郎や研修生の雪羽よりも上という程度だ。

 だがそれでも、彼女は兵としての職務を全うしていた。十二分すぎるほどに、だ。顕現される謎めいた異形の眷属の注意を集め、彼らを攪乱し、返り討ちにして捕食する。そうした事を彼女は繰り返していた。それも、特段紅藤が指示を出さなくとも、だ。

 互いに冒涜的な眷属たちを捌きつつも、八頭衆やその側近たちは、サカイスミコに驚愕の眼差しを時折向けていた。大人しく内気なはずの小娘が、ここまでやるとは大したものだ。そんな思いは言葉としても放たれていたのだ。

 

「雉仙女殿が連れているのは単なる小娘かと思っていたが、中々どうしてやるじゃあないか」

「第二幹部殿の配下こそ少数精鋭だからな。端的に言えばバケモノ揃いさ。九尾の末裔とあの雷園寺雪羽が序列最下位って事からしてもお察しだろう」

「それはそれとして、サカイスミコはそもそも鋭角ヨリ出ヅル者の眷属という噂もあるからなぁ。道ヲ開ケル者の天敵そのものだぞ」

「しかし紅藤様は、そう言う事は気にせず配下にしているという噂だが」

 

 こうしたざわめきは、峰白の一喝によって収束した。麗々しく勇壮な鎧兜に身を固めた胡琉安の護衛として付き従う彼女の姿もまた、百戦錬磨の戦士そのものである。

 

「あんたたち、ここはまだ敵陣よ! まだ八頭怪も山鳥女郎も……その手駒たるイルマすらも討ち取ってないわ。油断して無駄口叩いている場合じゃあないわよ」

 

 峰白の言葉に、妖怪たちの表情が引き締まる。八頭衆の最高幹部としての凄味と貫禄があるなと、紅藤は今更ながら思っていた。元より彼女の意志の強さについては、三百年以上前から知っていたのだけど。

 だが峰白の言葉はこれで終わりでは無かった。気ぜわしげに、そして何処か腹立たしげに周囲を見やり、彼女は今一度大喝した。

 

「それにしても八頭怪に山鳥女郎! いい加減姿を現したらどうなのかしら。敵が押し入って暴れ回っているというのに、結界まで張り巡らせてコソコソと隠れているのはどういう了見なのか教えて欲しい位だわ」

 

 そこまで言うと、峰白はその顔に邪悪な笑みを浮かべながら言い添えた。

 

「ああそれとも――私らが怖くて、それで頭を抱えて震えているのかしら? 八頭怪、あんたにそれが出来るかどうかは別問題ですけれど」

「おやおや、小鳥のさえずりが聞こえたみたいだけど、何があったのかなぁ?」

 

 聞き慣れた、聞き間違えようのない声が紅藤たちの鼓膜を揺らす。直後、眼前の空間が揺らいでブレて、八頭怪が姿を現したのだ。普段の飄々とした姿などではなく、大陸風の鎧を身にまとっており、右手には得物たる月牙鏟が握られていた。

 その左右には武人めいた様相の山鳥女郎と、魔導士めいた姿のイルマが控えている。八頭怪もまた、にたりと笑って紅藤たちを睥睨した。嘲笑と、隠し切れぬ憎悪のこもった眼差しは、特に胡琉安に注がれていた。

 

「小賢しく策を弄するのが大好きなヒヨコちゃん。君ってば賢いのが糞厄介な特徴かなって思っていたけれど、うぬぼれ屋さんだったのかな? だってさ、このボクが、畜生崩れのキミたちに恐怖心を抱くだなんて、本気で思っているのかな~?」

 

 言うや否や、八頭怪の姿が変貌する。首飾りのように擬態させていた七つの頭が一気に巨大化し、伸びあがったのだ。

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