九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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幕間:個性爆発、化鳥たちの飲み会

 仕事の終わった火曜日の夜。青松丸は萩尾丸や双睛鳥と言った雉鶏精一派の面々と共に、妖怪向けの居酒屋にいた。双睛鳥たちが飲み会をやりたいと言い出したので君も顔を出したまえと、萩尾丸に言われたためである。

 青松丸も、唐突ではあったがこの申し出を受けて出席する事にした。別に、萩尾丸からの申し出だから断る事が出来ないなどと言う、ネガティヴな動機で申し出を受けたわけではない。兄のように思っている萩尾丸からの提案を受けようと、青松丸は素直に思っただけだ。そうでなくとも、兄も八頭怪の全面戦争が終わった後も、精力的に仕事をこなしているのだ。紅藤も萩尾丸も何も言わないが、自分も身分ある立場として振舞わなければならない。そんな風に思ったのである。

 それに今回の飲み会は、個妖的《こじんてき》なものでは無くて仕事に絡んだ飲み会とも言える代物であった。もっとも、青松丸の暮らしは仕事も私生活も混然一体となっているも同然なのだけど。

 飲み会の場には頭目にして半弟の胡琉安がいた事に、青松丸は少しだけ驚いた。しかし青松丸を誘った萩尾丸は、そもそも青松丸がやって来た事に驚いていたようだ。一応誘ってはみたものの、飲み会を断る事も萩尾丸は想定していたらしい。

 勝手にそんな風に思って決めつけていたのか……などとは思わなかった。自分がヒナ鳥の頃から付き合いのある萩尾丸だ。青松丸も萩尾丸も、お互いの気質や特性はよく知っていた。青松丸自身が内気で、リーダー的な振る舞いを好まない事も、萩尾丸はもちろん知っている。だからこそ、今回の飲み会に青松丸が出席した事に驚き、そして喜んでくれたのだ。

 

「はあーっ。あの食屍鬼《グール》のお嬢さんについても、桶彦さんがさっさと手を回して買収してしまったんですよねぇ。僕だって彼女の事はマークしていたのに、あの妖が抜け駆けするなんて。新しい第五幹部の側近殿は、小ずるいコソ泥のネズミ野郎みたいじゃあないか。皆だってそう思うでしょう?」

「まぁまぁ双睛鳥君。桶彦さんやそのご眷属がいないからと言って、あんまりそういう事を言わない方が良いと思うぞ」

「と言っても、双睛鳥君の言う事も事実が含まれていると僕は思うよ。ネズミ野郎と言う一点だけは事実だからね。桶彦さんはネズミ妖怪の男なんだからさ」

 

 桶彦の事をコソ泥だの何だのと言っているのは、第七幹部の双睛鳥だった。飲み会もまだ始まって十五分程度であるが、酔いが回り始めている事は、彼の表情や赤らんだ顔からも明らかである。コカトリスであるから毒物の摂取には強いはずなのだが、だからと言ってアルコールに強い訳でもないらしい。もっとも、ウォッカの入ったカクテルを五、六杯も立て続けに飲んでいるのだから、それならば酔いが回るのもおかしくないだろう。

 そんな事を思いつつマムシ酒を飲んでいると、双睛鳥はぐいとグラスを呷った。そして空になったグラスを前に押し出すと、赤らんだ顔のまま言葉を紡ぐ。

 

「スクリュードライバーは流石に飲み飽きたから、次はレモンハイにしようかな」

 

 そう言うと、双睛鳥は隣に座る側近のハルピュイア系統の魔物に耳打ちし、店員を呼ぶように頼み込んでいた。

 

「双睛鳥君。君もしこたま飲んで酔ってるんだから、レモンハイは辞めたまえ」

 

 ハルピュイアの側近が何か言う前に、萩尾丸が横槍を入れた。ハルピュイア自身も双睛鳥の申し出に困っていたのだろう。萩尾丸の言葉を聞くと、何処かホッとしたような表情を見せていた。

 

「スクリュードライバーやレモンハイを飲みたいんだったら、今度はオレンジジュースやレモネードにした方が良いんじゃあないかな。レモネードでも飲んでいれば、酔いも自然に醒めるだろうからね」

「んー、そのチョイスも捨てがたいですねぇ」

 

 萩尾丸が言ったのはアルコールの入ってないソフトドリンクばかりだった。だが双睛鳥は嫌がる事もなくむしろ良さそうなチョイスだと頷いている。元より双睛鳥はお酒よりもレモンやオレンジなどの柑橘類が好みなのだ。今回は本音を言いたいがために敢えて酒の力を借りたのかもしれない。その酒自体も、()()()()ジュースとウォッカのカクテルなのだから、酒の力を借りると共に柑橘類の味も楽しんでいる訳であるし。

 

「うふふ、双睛鳥様。ソフトドリンクならば、私が頼んでいるリンゴスッポンも良いかもしれませんわよ? リンゴの酸味とスッポンの生き血の生臭さが絶妙なハーモニーを奏でておりますわ」

 

 ハルピュイアの側近がグラスを持ち上げて微笑む。リンゴスッポンとはこの店のソフトドリンクの一つであり、スッポンの生き血をリンゴジュースで割った代物である。スッポンの血は余人にとっては生臭く感じて飲みづらいために、リンゴジュースで割って飲みやすくしているという事らしい。

 もっとも、ハルピュイアは鳥妖怪の中でも肉食性が強いので、血腥い飲み物はむしろ好物でもある。

 たまには職場の皆で集まって、飲み会と言うのも悪くないな。グラスの底に沈んだマムシの尻尾を齧りながら、青松丸は思った。飲み会で特に面白いのは、選んだ飲み物や食べ物に各妖《かくじん》の好みや特性がダイレクトに反映されている事であろう。

 コカトリスは柑橘類を好むからレモンサワーやオレンジジュースを好んで飲むし、ハルピュイアは肉食性だから生き血のジュース割を嗜む。そして大天狗は、大本が人間だったから大人しく冷酒を舐める。それらを眺めてあれこれ考えを巡らせるのが、自分は楽しいと思っているのだ。マムシ酒を飲み蜥蜴の天ぷらを口にしながら、青松丸はそんな事を考えていたのだった。

 

「兄上。母上は、研究センターの方は息災かな?」

 

 胡琉安がそんな質問を投げかけてきたのは、双睛鳥の許にリンゴスッポンと蜈蚣の素揚げが運ばれた後の事だった。組織内の立場で言えば、紅藤も青松丸も胡琉安の部下に相当する。しかしそれでも、紅藤を母と、そして青松丸を兄と呼ぶ事が彼にはあった。どういう時に胡琉安がそんな風に呼びかけてくるのかも、青松丸は知っている。自身が無かったり、気弱になった時は、胡琉安は青松丸の事を兄と呼ぶのだ。

 胡琉安は確かに、雉鶏精一派の頭目であり、自分たちの頂点に君臨する君主である。そのように育てられたという話ですら生ぬるい。何しろ紅藤は、自分たちの母は雉鶏精一派の頂点に立つ存在として胡琉安を作り出したのだから。それ故に生じる期待や重責を、この半弟はきちんと知っている。母や峰白に求められた責務を、胡琉安はきちんと果たしている。青松丸はそう思っていた。

 だがそれでも、胡喜媚の孫や組織の頭目であるという役割を忘れたくなる瞬間が、彼にはあるのだ。峰白たちはともかくとして、青松丸はその事を咎めるつもりはない。半弟は自分よりもうんと優秀であるし、その分頑張っているのだから。

 

「うん。母上も他の皆も元気にやってるよ」

 

 だからこそ、青松丸も兄として胡琉安に向き合った。研究センターの皆が元気である。その言葉に胡琉安は安堵の表情を見せた。もっとも、当の青松丸は、萩尾丸の視線がおのれの身に絡みついて来るのを感じていたのだが。元気でやっているなんて呑気な言葉で済ませるんじゃあない。言外にそう言われているも同然だった。

 

「そりゃあもちろん、母さんだって色々と思い悩んだり落ち込んだりしている所はあるにはあるよ。今回の案件には、僕らの従姉だった紫苑殿も絡んでいたからね。

 だけど今は、研究センターも普段通りの空気に戻りつつあるかな。母さんや萩尾丸さんも頑張ってるし、他の若い妖も頑張ってくれているから」

「青松丸君。君だってちゃんと頑張っているだろう」

 

 ここで、感極まったかのように萩尾丸が言い放った。その眼差しには郷愁と、ある種の誇らしさが入り混じっている。

 

「僕だって、紅藤様からちゃんと話は聞いているんだよ。青松丸君もサカイさんも、全面戦争の後からは管理職や役職者としての責務を果たそうとする態度が見えるってね」

 

 もちろん、今までがサボっていて悪かったなどと言うつもりはないから、ね。冗談とも皮肉ともつかぬ口調で言い添える所が、いかにも萩尾丸らしい。

 もっとも、萩尾丸に多少皮肉を言われたところで、青松丸は動じる事などは無い。皮肉屋と言うか毒舌を好むという萩尾丸の気質は十分に知っているからだ。それに内心では忠義に篤く、仲間思いである事を青松丸は知っているのだ。

 

「これまでと違って、今は若い妖《こ》も研究センターにはいますからね。彼らは僕を上司と言う事で慕ってくれますから、彼らの規範にもならないとって思い始めたんです」

「それは良い心掛けじゃあないか」

 

 萩尾丸がそう言って微笑んでいると、胡琉安が僅かに身を乗り出して口を開いた。

 

「研究センターの若い妖《こ》と言えば、玉藻御前の末裔たる島崎君と、三國君の義理の息子である雷園寺君がいるって話だったかな」

「ええ、ええ。胡琉安様の仰る通りです。実際には、雷園寺君は再教育と言う事で萩尾丸さんが身柄を預かっているのですが、研究職の才能があるという事で、紅藤様が研究センターに引き抜いた形になっていますね」

「……正直な話、雷園寺君の方が島崎君よりも研究員としての素質はあるからね。優秀な後釜を欲している紅藤様の事だから、そりゃあ素質のある妖材《じんざい》は確保したくなるものさ」

 

 そう語る萩尾丸の顔には、やはり明るい笑みが浮かんでいた。

 話題はしばし雷園寺雪羽の事へとシフトしていたのだが、研究センターの若者と言う点では、青松丸はむしろ島崎源吾郎の方が気になっていた。

 今日の彼は、普段と様子が異なっていたのだ。真琴たちが放っていた眷属のネズミを発見した時もイライラしていた様子であるし、何かを語りたいがそれを口にするのを恐れていると言った雰囲気を漂わせてもいた。

 もちろんその件については、タイミングを見計らって萩尾丸に伝えるつもりである。源吾郎の奇妙な挙動の原因が、しょうもない事であればそれはそれで構わない。しかし、何か大きな秘密が背後にあるのだとすれば、その辺りは情報共有しておいた方が良いだろう。そんな風に青松丸は考えていたのだった。

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