九尾の末裔なので最強を目指します   作:斑田猫蔵

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打ち上げの終わり、化鳥の誘い

 源吾郎の発言と生誕祭での挙動もあってか、若狐たちはしばらくの間、宮坂京子の事についてあれこれと話し合っていた。時に笑い声を交えて、だ。もちろん源吾郎も単なる聞き手などではなく、女子変化に関する持論を存分に展開させた。近くに米田さんがいなかったため、気兼ねする必要が無かったのだ。話を聞いていた若妖怪たちの中には、ドン引きしたり醒めた目で見つめたりする者もいるにはいたが。

 皆で盛り上がっている話題に乗っかって話していたためであろう。宮坂京子の話が終わるころには、源吾郎ももはやぼんやりとした心持ちから脱却できていた。

 だからと言う訳ではないが、源吾郎は自分がぼんやりしていた理由について口にした。

 

「それにしても、先輩たちは本当にタフですよね。生誕祭で一生懸命働いた後で、こうやって打ち上げを敢行なさるんですから」

 

 源吾郎の言葉は、明確な対象を伴って放たれたものではなかった。その言葉を真っ先に拾い上げたのは、隣にいる穂谷先輩だった。

 

「僕たちとしては、この打ち上げは仕事の疲れを癒すための物だと思っているんだ。だからね、打ち上げがしんどいと思うような妖は、ここにはいないんじゃあないかな」

 

 一旦言葉を切ると、穂谷先輩はいたずらっぽく微笑んだ。

 

「実を言うと、この打ち上げは、絶対参加しないといけないって強制している訳でも無いんだ。用事があったり、気が進まないと思ったりする場合は、無理して参加しなくても良い訳だし」

 

 言われてみれば、と源吾郎は周囲を見渡しながら思った。この打ち上げには数十名の若妖怪が集まってはいる。しかし生誕祭の場でスタッフとして立ち働いた者たちが全ている訳ではなかった。特に派遣や飛び込みバイトとして働いていた外様の妖怪などは、大多数が早々に解散して帰路についている。打ち上げに顔を出しているのは、雪羽の取り巻きだったアライグマ女や米田さんと言った、外様ながらも雉鶏精一派に縁深い者くらいだ。後はメメトと名乗る、いかにも胡散臭そうな管狐の女くらいだろうか。彼女は彼女で、仕事や商材の勧誘などで打ち上げに顔を出しているようだ。そんな事をしていてもつまみ出されないのは、妖怪たちが寛容なのか彼女の立ち回りが巧いのか。その辺りは源吾郎には解らなかった。

 

「そう言えば、僕も去年は参加できませんでしたからね」

 

 去年の事を思い出し、源吾郎はぽつりと呟いた。あの時は、生誕祭が終わった後にスタッフたちが打ち上げを行う事など知らなかった。そもそもグラスタワー事件の直後だったからそれどころでも無かった。もっと言えば、スタッフとして立ち働いたのは宮坂京子であり、島崎源吾郎は急病で欠席しているという事になっていたのだ。

 

「ですが穂谷さん。来年以降も、打ち上げは出来るだけ参加したいなって思っています。先輩たちとは……野柴君たちとは仕事の場では中々交流できませんし」

 

 源吾郎の言葉は事実だったし、本心からの物だった。研究センター勤めだと、同年代の妖怪たちとの交流が極端に少なかった。併設する工場棟には、確かに若妖怪が多く勤務してはいる。しかし工場棟で働く妖怪たちとの交流を図る機会はそう多くは無かった。

 そうでなくとも、源吾郎は同族たる妖狐たちから、何かと距離を置かれがちなのだ。二尾以下の、若い妖狐ならばその傾向はより顕著だった。

 

「そっか。良い心掛けだと思うよ、島崎君」

 

 源吾郎の言葉に、穂谷先輩は微笑む。若い妖狐たちの中でも、穂谷先輩は特に源吾郎の傍にいる事の多い妖狐だった。源吾郎と他の同僚たちとの関係性も、勿論知っている。

 

「だけどあくまでも打ち上げは慰労会でみんなで楽しむための物だから、無理はしなくて良いよ。島崎君はさ……何というか意外と無理しがちな所もあるでしょ。僕はそこが少し心配なんだ」

「善処します」

 

 気遣いの籠った穂谷先輩の言葉に対し、源吾郎も頷く。二人のやり取りは静かなものだったために、他の若妖怪たちの喧騒に容易く紛れてしまった。

 

 打ち上げ後。源吾郎は同席していた仲間たちに別れの挨拶を済ませると、そそくさと駅へと向かっていた。吉崎町は僻地ゆえに、電車の本数が少ない。一時間に三、四本程度と言った塩梅である。しかも道中何本も電車を乗り継いでいくわけであるから、一、二本電車に乗り遅れただけでも後々の影響が大きくなる事すらある。

 源吾郎以外の、交通の便が良い所に住む妖怪たちは、比較的呑気なものである。三次会がどうと言いだして別の店に入るものもいたし、本屋や漫画屋、ホビーショップに直行する者もいた。大阪駅周辺であるから店は何でもあるのだ。

 やっぱり先輩たちは元気だな。と言うよりも、あの体力差は純血の妖怪と半妖の違いなのだろうか。頭の中であれこれ思案しつつも、源吾郎は寄り道しようなどとは思わなかった。電車のダイヤ云々ももちろんあるが、既にそこそこ疲れていたためだ。

 どうせ明日も明後日も休みなのだ。遊びたい所でもあれば、休みの間に行けば良いのだ。結局ホップもいるから、今は一旦帰らないといけないし。

 

「あ、島崎君じゃないか~ お疲れ様。えへへ、ここで会えて良かったよ」

 

 駅に向けて歩を進めようとしていたその時、真正面から声を掛けられた。気の抜けたその声からはアルコールの気配がふんだんに漂っている。

 声の主は何と双睛鳥だった。バタ臭い風貌とアルコールに溺れた様は、彼を陽気で少し軽薄な若者らしく見せている。だが実際には雉鶏精一派第七幹部と、ただならぬ立場であるのだ。

 

「そ、双睛鳥様。お疲れ様です。ず、随分とお楽しみのようで」

 

 源吾郎はだから、居住まいを正して挨拶を返した。もっとも、最後の言葉は余計な一言であったらしく、双睛鳥の側近が吹き出していたが。ハルピュイアの血を引くという鳥系魔族の彼女は、匂いからして素面のようだ。

 

「うん、うん。今回は生誕祭も無事に終わったから、僕も結構飲む事が出来てね。マムシ酒やハブ酒も良いけれど、やっぱりワインも捨てがたいなぁ……!」

「やっぱり私らは鳥だし、マムシ酒が好きなのよねぇ。中に入っている蛇もお酒のあてになるし」

 

 二人の鳥系魔族の言葉に、源吾郎はただ笑って頷くだけだった。未成年ゆえに源吾郎は酒を飲めないからだ。後はナチュラルにマムシ酒やハブ酒と言う選択肢が出てきた事にも驚いていた。

 と言っても、雉妖怪たる紅藤と青松丸も、折に触れてマムシだの青大将だのを捕まえては捕食している。して思えば、双睛鳥たちが蛇を好むのも自然な事であろう。コカトリスにしろハルピュイアにしろ、肉食傾向を具えているのだから。

 源吾郎は二人が落ち着いたのを見計らい、質問を投げかけた。

 

「それにしても双睛鳥様。わざわざ僕にお声がけして下さったみたいですが、何かご用件でもあるのでしょうか」

 

 問いながら、源吾郎は緊張し始めていた。わざわざ源吾郎を見つけ出して声を掛けてきたのだ。何がしかの用事があってしかるべきだと推測していた。

 そして用事を携えて声を掛けてきたのなら、それはそれでややこしいとも思っていたのだ。確かに、双睛鳥も源吾郎も雉鶏精一派のメンバーではある。しかし管轄は異なっているのだ。源吾郎は紅藤の部下である。しかし双睛鳥の直属の部下では無いのだ。

 

「島崎君。君は休み明けから、僕の事務所の方で働く事になったんだよぉ」

「え、そうなんですか……!!」

 

 詳しい話を聞こうと思ったのだが、双睛鳥に聞き出せる雰囲気ではなかった。彼は言いたい事だけ言うと、そのままくけ、くけ、と奇妙な声で笑い始めただけだった。化鳥めいた笑い声だと思ってしまった。すぐに双睛鳥が化鳥の類であると気付き、そりゃあ笑い声も化鳥らしくなるかと思い直したが。

 

「ま、働くと言ってもインターンシップって言うか研修みたいなものだからね。島崎君、あんまり気にしなくて良いのよ。詳しい事は、萩尾丸様か紅藤様に効いた方が良いんじゃないかな」

 

 取り繕うようにハルピュイアの女性が言う。研修と言う単語があったからだろう。源吾郎は不思議と落ち着きを取り戻していた。

 その間に、双睛鳥とハルピュイアの女性はそのまま立ち去ってしまった。双睛鳥は本格的に酔いつぶれてしまったらしく、ツレに負ぶわれる形になってしまったからだ。いつか萩尾丸が眠る紅藤を抱えていた時と異なり、ハルピュイアの女性は、未だ人型を保つコカトリスの青年を、丁寧に運んでいるのだった。

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