『それがあんたの秘密かい。臣十郎。
だったら、アタシからもう一人のアンタに贈り物をしよう。
アンタの口から、ソレを伝えてやんな』
自分の第二人格。害獣。アレ。
ついに自分は、もう一人の自分の名前を呼びはしなかったな……。
「………………まあ、いい」
自分はもう、生きるつもりはないのだ。
死者は生者にも、死者にも干渉しない。これでいいんだろう。
「さあ、女神ルード。自分は天国へ行くことを選択する。
俺を、終わらせてくれ」
未練は無い。心残りも、何も……。
「…………」
女神ルードは俯いたまま顔を上げない。
「何をしている?女神ルード」
「…………私は、間違っているのでしょうか?」
地上の住人を見捨てたことについてか。
「知らないな。貴方が地上の住人を助けたいのなら、助ければ良い話だ」
「私は女神なんです。勝手なマネは出来ません……」
「なら規則に従って、何も感じず、何も考えなければ良い」
「…………それが、出来ないから悩んでるですよ!」
カミサマでも悩むのか。
だが……
「下らない」
「下らない? 何がですか!? どうせいつか死ぬんだから、助けなくたって良いって事ですか?
それとも、地上への干渉を禁じることがですか?」
「無論、この会話そのものが。だ」
その一言に、女神ははっとなって苦虫を噛んだ顔で俯いた。
「………そう、ですね。こんな話されても、迷惑ですよね……」
「ああ。今こうして会話することも時間の無駄だ。自分はカウンセラーでは無い。
自分の職務を果たせないなら規則を破ればいい。
規則を破れないなら自分の職務を果たせばいい。
赤の他人が他に何を言えと言うのか? ナンセンスにも程がある」
「………っっ」
「何なんだその顔は。慰めて欲しいとでも言うのか?
他者に手を差し伸べない者が、誰かの情に縋るのか?」
「…………分かりました。今から、天国の門をーー」
『あばばばば……!!!!空気抵抗があばばばばば……!!!!!!』
「騒がしいな……」
どうやら剣のレリーフの門からの映像の様だ。
音声も届くのか。便利だな。この瞬間だけは付いていて欲しくなかったが……。
「え……??
あ、アレ!?? 臣十郎さん、もう一人の人格の方はどちらへ!?」
「転生した。剣の世界へ」
「そ、そんな!! あの門はまだ地上300メートルから俯瞰する場所に繋がっているんですよ!!」
「ふむ。地上300メートルか」
つまり学校の25メートルプール14倍分の高さだ。
子ども達は参考にしてほしい。
落ちたら死ぬ。頭とか柘榴になって死ぬ。臓器とか前衛的な立体アートを描くことだろう。
つまり、あの金髪は
「あと数秒程で戻ってきそうだな」
「マズいですよ!! ここは死者が死んだ状態で召喚されるんです!! このままじゃ全身モザイク画で戻ってくることになりますよ!?」
「……マズいな。
女神よ、そのようなグロ画像見たくも無い。早く自分を天国へ送ってくれ」
「あ、あの……もう少し血も涙も感じられる言葉はないのでしょうか……?」
「取り上げ教育と報道規制で守られた現代社会人を舐めないで頂きたい。
人は、自分のためなら何処までも非情になれますよ。特に自分は」
画面の向こうでは害獣と、その下では魔物が荷馬車と人間を襲っている。
既に馬の縄を引いていた男は腹やら目玉やらに細い木棒が刺さってサボテンの様になっているところを見ると、あの魔物とやら……
「ゴブリンか。それも遊んでいる」
生きているのは若い女だけ。今となっては老父なのか老婆なのか分からない者が関節全てを曲げたデッサン人形のようになっているところを見ると、若い女にしか興味が無いのだろう。
ビリビリと服を破いている。
『いやあっ!! やめて!! 誰か助けて!! だれかああああぁぁぁーー!!! 神様あああああーー!!!!』
「呼んでるぞ神様」
「ぐ………………っっ!!」
「随分良い趣味をしているな。剣の世界の魔物とやらは。
あの中に正規の転生者は、さて何人いるのやら」
「え……!?」
見開いた目を向ける女神。
どうやら皮肉で言ったことが的を射たらしい。
「冗談のつもりだったが、真実を突いたか」
「………………」
「人は誰しもが、心の中に他人に言えない欲や、性癖など。秘密を持っている。
別に自分は、元の世界の人間が皆ああなったとしても、不思議には思わない」
「…………」
「なあ、女神ルード。
転生とはつまり、地獄の連鎖の繰り返しだな?」
「……」
「自分達の世界。日本も。誰か一人くらいは必ず、世界に対してこう思う。
この世界は地獄よりも遥かに地獄だと。
つまり転生とは、もうずっと誰も辿り着けない『最期の門』とやらに辿り着くまで続く『試練』。そういう事なんだな?」
「…………何でそんなこと思うんですか?」
「キミが説明してくれた門には、一つとして楽園と呼べるようなものが無かったからだ。
それでももうずっと誰も潜れていない門が有るという。おそらく、それこそが楽園へ繋がる門だろうと予想する。
何故なら、誰も潜れないからだ」
「……………………」
「まあ、良いさ。
気が変わった。自分も、アレがどこまで行けるか興味が出た。
せめてこの顛末を見届けてから天国へ逝かせてもらうよ」
「顛末??」
「ほら、そろそろ害獣の身体が大地に辿り着く頃だ」
女神ルードは、辛そうにしながらぎゅっと自身の服を握りしめて画面を観る。
おそらく見届けることに義務感でも感じているんだろう。たとえ1秒後。放送禁止のグロ画像が映るとしても。
『助けてえっ!! 神様ぁっ!
だれかあああああーーー』
『ワアアアアアアーーテエエエエエエエーークウウウウウウーーシイイイイガーーアアアアァァァァァーーーー!!!!!』
『ギョッ!?』
大地にキスする5秒前。害獣はグルンと身体を半回転させる。
『女神よおおおおおおおおおおーーー!!!!!』
意味不明な咆哮を上げ、魔物の後頭部に両足を付けてバネの様に伸ばす。すると落下のベクトルは下から僅かに横に逸れる。
『グゴッ?!』
魔物の首は体重の乗った落下にへし折られる。
恐らく絶命しただろう。
そして、大地へのキスを免れた害獣は勢いを殺しきれず。
『---はっ!!!?』
魔物が壊した荷車の木材へ落ち。
『(ガクガクガクガク………)』
男性の肉体の中で最も即死を約束された
『オ--チイイイイイイイイイイイイィィィィンンンンンッッッッ!!!!????』
酷いオチだ。
これが深夜テンションで小説書くとどうなるのか?という一つの答えだと思います。