桐生院先生の日常〜生徒たちが良い子すぎて困る 作:二足歩行型信号機
とある中庭。
ベンチに腰を下ろし頭を抱える。
「……はぁ」
就職活動に失敗したかもしれない。
そもそも生まれてきた世界に失敗したかもしれない。
ああ、失敗した。
「先生どうしたんですか?」
いや絶対に失敗したわ。
俺を先生と呼ぶ少女に目を向ける。
特徴的な耳としっぽを持った少女。
それは馬と呼ばれる動物と全く同じ。
……ウマ娘って言うらしい。
なんだそれは人と馬のこ………。
なんだって言うんだ。
この世界に馬は存在しない。
その代わりと言わんばかりウマ娘という人に近しい生物が存在していた。
犬とか猫は存在するのにピンポイントで馬だけ存在しない。
他にもどえらい事がある。
俺でも知っている名馬としてゴールドシップを上げよう。
……この世界に存在します。
そのゴールドシップが女の子として。
他にも聞いたことがある名馬の名を持つ少女がチラホラいる。
不穏な気がしてならない。
あ、今更ですが転生しました。
と言っても転生なのか怪しいところ。
たまたま通り魔に刺され意識を失ったと思ったら子供に戻っていた。
それも同じ名前や容姿のままで。
両親や妹も若々しい状態でだ。
記憶も持ってたこともありひたすら勉強を頑張った。
全国模試で上位を狙えるくらいには……大人になって勉強が必要とわかったからこそ根気よく続けることが出来たんだよな。
良い大学に行って程よいキャンパスライフを送って今は就職して働いて……。
その働いてる場所が問題だったりするんだけど━━
「……なんでもないよ」
「そうですか?」
「うん。トレーニングは終わったかい?」
「はい!」
「そっか。じゃあ勉強━━」
「もう一走りしてきまーす」
逃げるように走り去っていくウマ娘。
勉強は苦手、または嫌いと、ね。
「……普通の教師になりたかったなぁ」
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
ここの教師をしている。
ただの女子校だよ。
こう青春できる学校の教師に憧れていたのに就職先は花の女学園。
はぁ……やめたい。
女性が苦手というわけじゃないけど……
「やめたいなぁ」
理事長に話だけはしておこう。
なんとか異動できないかだけは。
「……っ…またか」
急に背筋が震える。
周りを見渡しても誰もいない。
「……幽霊を理由にやめるのもありかな」
最近は特に酷いし。
「よし。帰るか」
ベンチから立ち上がりその場を後にした。
俺は知らなかった。やめたいなぁ……その一言で渦中に巻き込まれることを。
〜翌日
「
「おはよう。元気があっていいね」
朝の廊下を歩くとウマ娘が集まってくる。
……マジで。言い方が悪くなるかもしれないけど砂糖に群がるアリの様だ。
不良なんて居らずニコニコと寄ってくる姿は妹と重なって見える。
前世……でいいのか。あの時は自然と会話が少なくなり目を合わせたら軽く喋る程度。
今世じゃなんていうか……べったりで本人曰く兄離れできてないらしい。
本人が自覚してちゃダメだろ。
一人暮らしをすると言った時はついて行くと言って聞かなかった。
最終的には毎週1回実家に帰ることを約束に諦めて貰ったんだよな。
家族の大切さを知った愚か者なりの行動だったんだけど。
……失敗したなぁ。
男の影一つないから将来が心配だよお兄ちゃん。
ああ、桐生院ってのは俺のこと。
生前も桐生院だからなんら違和感はなかったけどこの世界だと有名らしい。
初めから先生になるつもりだった俺は聞き流してたしあんまり覚えてない。
数々の名ウマ娘を育て上げてきた名門トレーナーの一族だったか?
俺も一応その血筋ではあるらしく両親はトレーナーにするつもり満々だった。
でも先生になると言ったらあっさりと引き下がったんだよな。
今考えても謎だ。
……考えても分からないしいいか。
「桐生院先生おはようございます」
「駿川さんおはようございます」
「人気ですね」
「若い男性教師が珍しいだけですよ」
微笑ましそうに俺とウマ娘を交互に眺める女性は駿川たづなさん。トレセン学園理事長秘書。
同年代ぐらいなのにキャリアを積んでいると考えたら尊敬する。
理事長も理事長で凄いんだけど。
見た目だけなら子供にしか見えないし。
初めてあった時なんか迷子かと思って手を引き職員室まで連れていったなぁ。
青ざめた職員を裏腹に理事長は面白おかしく笑っていた。父さんとは友人で事前に聞いていたとか。
お咎めなしで面白い教師と言うレッテルを貼られたよ。……お咎めなしだけでありがたいよな。
「……知らぬが仏ですね」
「なんかいいました?」
「いえ。私はこれで失礼します」
駿川さんも行ったことだし早く職員室に行って授業の準備をしないとな。
「あ、はい。……みんなごめんね。もう時間だから。休み時間なら好きに声をかけてきていいからね」
聞き分けの良すぎる生徒たちは元気よく頷くと道を開けてくれた。
これが不良なら熱々の反抗期とかあったのかと考えると……なぁ。
「…良い子たちなんだけど、なぁ」
刺激がないというか。
スーパーボールのごとく反発してくれる方がやりがいがあるというか、ね。
なんなら卒業式に御礼参りぐらいする不良が欲しかった。
……返り討ちにしてやるから。
その為だけにボクシングやってたし。
ウマ娘のみんなに限っては無さそう……無いな。
教師の基本に慣れるように頑張って……程よい時期に異動を考えよう。
「……桐生院さん」
まさか先生になるとは夢にも思いませんでした。名門トレーナーの一族である桐生院家。その中でも選りすぐり名トレーナーを生み出してきた本家の長男でもある。
あの桐生院家の中では異質な存在。
ベクトルが全然違うんです。私が知る桐生院家のトレーナーは……堅物ばかりなんですよね。
ウマ娘と関係も良好、とは言えなかった。彼の父親の代で大分丸くなったとは思いますがそれでも……距離があった。
なのに彼ときたら同じ目線でウマ娘に接している。フラットで見ている。日も経たないのにあれだけウマ娘に慕われている。
彼はトレーナーの道を外れ教師の道へと歩いた。……妹に道を譲るため。理事長からそう聞いている。
……教師のままにするのは惜しい人材。
どうにかしてトレーナーにしたい。
理事長もそのつもりの様ですし……。
「それはそれで問題なんですけどね」
もし彼がトレーナーになればウマ娘からの逆スカウトが絶えないことは目に見えて分かる。
チームを組ませることを考えても……。
ありとあらゆるウマ娘が彼の担当になろうと躍起になるでしょう。
そうなると彼が先生になった意味がなくなる。妹に道を譲った意味が……。
「……難しいですね」
一人で考えても仕方ありません。
理事長ともう一度話をしましょう。
今後の展開
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先生ルート
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トレーナールート