桐生院先生の日常〜生徒たちが良い子すぎて困る   作:二足歩行型信号機

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ブラコンという名の怪物

「……やば!? 遅刻……あぁ」

 

 ベッドから飛び起き慌てて時計を確認する。……が、今日は休みだった。

 

 時刻は9時過ぎ……学校なら遅刻確定だった。アラームをかけ忘れたかと思ったけどそもそも休みにアラームをかけない。

 

 ……二度寝しようか。

 今日は土曜日。明日実家に帰れば問題な━━

 

「ふわぁ……んぅ?」

 

 ピンポーン、とチャイムが鳴る。

 ……誰? …ネットで注文した覚えはないし来客の予定も入ってない。

 

 お隣さんと間違えて鳴らされた可能性も……ないか。

 

 二度目のチャイム。

 宗教勧誘なら断ればいいか。

 

 覚束無い足取りで玄関に向かう。

 シャツパンだけど……まぁ大丈夫だろ。

 

「ふわぁ…い。どちら様……」

 

 欠伸を噛み締めドアを開ける。

 

「あ、兄さん! おはようござ……っ!?」

 

 ……兄さん? 

 あ、俺の事か。……え? 

 

()? ……なんで」

 

「ふ、ふふ……!!」

 

 どうしたんだ。そんなに顔赤くして━━

 

「服を着てください!!」

 

 妹の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 私、桐生院葵には自慢の兄がいる。

 優しく強く尊敬する兄が━━

 

「……全く」

 

 そんな兄さんの下着姿は私には刺激が強過ぎます。シャツの隙間から見える腹筋とか……触ったら絶対に硬いんだろうな

 

 って…なんか変態みたいじゃないですか!? 

 

「別に減るもんじゃないし」

 

「そういう問題じゃありません!」

 

 私の精神が減るんです!! 

 

「あはは……葵は真面目だな。どうしたんだ? 朝早くに……しかもキャリーケースまで……」

 

 私の隣に置かれたキャリーケースを不思議そうに見ている。

 

 あ、そういえば兄さんに報告するのを忘れていました。

 

「今日からお世話になります」

 

 丁寧に頭を下げた。

 もちろんみつゆびも忘れてません! 

 

「そゆことか。てことはトレーナーに」

 

「はい。これも兄さんが勉強見てくれたおかげです」

 

「おめでとう。凄いな……トレセン学園のトレーナーのライセンス……しかも中央の試験って鬼畜レベルなのに」

 

 兄さんが言うと皮肉に聞こえますよ。

 教職員の試験も同じぐらい大変だってこと知ってるんですから。

 

「ん? トレーナー専用の寮がなかったか?」

 

「? ……ありますよ」

 

 初めはトレーナー寮に入る予定でしたし。

 

「なんで俺の家でお世話になるの?」

 

「そ、それは……えっと……」

 

 一緒に居たかったから……なんて口が裂けても言えない。

 

「……言いたくないなら別にいいけど、そっか。折角だし合格祝いでなにか食べに行く?」

 

 口篭る私を気にしてかそれ以上は聞かなかった。…もしかしてバレてるのかな。

 

 ……兄離れできてないってちゃんと言ってあるし…できないものは仕方ない。

 

「うん!」

 

「あ、荷物はこれだけ?」

 

「ううん、お昼過ぎには来ると思う」

 

「んじゃ荷解き終わらせたらにしよう」

 

「うん」

 

 だって……こんなに優しいんだもん。

 学生時代は同級生に異常な程仲良過ぎって散々言われてきた。

 

 兄さんは何時も私の傍にいてくれた。

 両親が忙しい時、熱を出した時、寂しい夜も……傍にいてくれた。

 

 ……人見知りで友達のいない私には兄さんしかいなかった。

 

 兄さんは沢山友達がいた。

 兄さんの妹ってことでよく一緒に混ざって遊んだりお出かけしたり……。

 

 友達ができたのだって兄さんのおかげ。

 私の人生に兄さんは必要不可欠。

 

 もし兄さんがいなくなったら……なんて考えでもしたらどうにかなってしまいそうな程……。

 

 ちょっと寂しいけど毎週楽しみにしていた兄さんとはこれでお別れ。

 

 今日からは毎日兄さんに会える。

 傍にいることができる。

 

 ずっとずっーと待っていた。

 兄さんに恩を返す日を……。

 

 ……両親から聞いたんだよ。

 兄さんが私の為にトレーナーを諦めたこと。

 

 私よりずっとトレーナーの才能があったのに……私なんかの為に道を譲ってくれたこと……知ってるんだよ? 

 

 兄さんは自分のことを蔑ろにし過ぎだよ。……兄さんらしいけど。

 

 でもほんのちょっとだけ安心してる。

 もし兄さんがトレーナーになって担当ウマ娘ができたら……。

 

 ……………………できたら。

 

「……葵……葵?」

 

「うぇ!? ……ど、どうしたの?」

 

 目の前に兄さんの顔。

 思わず変な声を上げてしまった。

 

「ボーッとしてるけど大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫!」

 

「そっか。無理はするなよ?」

 

「……兄さんもね」

 

「分かってる」

 

 考えても仕方ないよね。

 だって兄さんはトレーナーじゃないから。

 

 ……トレーナーじゃない…から。

 

 

 

 ……俺には妹がいる。

 完璧超人も真っ青な妹が。

 

 文武両道才色兼備。少々堅いところを除けば至って普通の女の子。

 

 あ、訂正するわ。

 

「んぅ……ふへへ」

 

 ブラコンも除かないといけない。

 

 俺の腕を完全にロックした妹はそれはもういい寝顔を無防備に晒していた。

 

 この歳になって一緒に寝たいなんて言われると思わなかったよ。

 

 妹だし別にダメって訳じゃないんだけど……うん、やっぱりお兄ちゃん心配だよ。

 

 昔は人見知りが激しく常に俺の背中に隠れていた。

 両親が現役だった頃は家に帰ってこないことなんてザラにあったせいで必然的に傍にいた。

 

 かく言う俺も愛情を注いできたつもりだ。前世じゃほぼ他人みたいなものだったし……。

 

 やり直せるなら仲良くなりたいと思ったから。

 

 葵を連れ出して色んなところに行った。

 両親が教えないことも俺は教えていった。良いことも、悪いことも全部。

 

 その結果ブラコンという怪物を生み出してしまった訳なんだけど……失敗したなぁ。

 

 前世と変わらず出会いがないと…言うか。それを言ったら俺もそうなんだけどさ。

 

 悲しい現実だ。

 

 ……葵は可愛いしモテる方だと思う。

 

 ダチには将来美人になると耳にタコができるほど言われてきた。

 

 なんなら葵をくれと言い出す輩もいた。

 葵が良いなら全然貰ってくれて構わないと何回返したことか。

 

 なのに葵ときたら……。

 

『兄さん以外に興味ないです』

 

 真顔で言ってたからな。

 余りにもキッパリと言い放ってたからその時に危惧すべきだった。

 

 まだまだ兄離れできない可愛い妹だと思ってたけど……。

 

「……いや、はぁ…」

 

 冗談で男紹介したら洒落にならないだろうなぁ。……まぁまぁそこは置いておけないけど無理やり置くとして。

 

「……明日どうするか」

 

 実家に帰る必要はなくなったし暇になった。葵はもう担当ウマ娘がいるらしく一緒にお出かけに行くみたいだし一人なんだよなぁ。

 

 ……散歩行くか。

 

「おやすみ葵」

 

 穴だらけの予定を作った俺は葵の頭を一撫でするとゆっくり瞳を閉じた。




後でタグ追加しときます。

あい、教師ルートになりました。ニワカなので初めはこの三択から。

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