桐生院先生の日常〜生徒たちが良い子すぎて困る   作:二足歩行型信号機

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やっぱり勝てなかったよ……

「……一服したい」

 

 休日の街中を歩きながら嘆く。

 

 タバコが吸いたくて仕方ない。

 ここでは吸ってなかったけどあっちではヘビースモーカーまでとはいかないがかなり吸っていた。

 

 試しに吸ったらハマったとダメの典型的理由。疲れが取れるわけでもないのになんで吸ってたのか。……今は吸いたいんだけど。

 

 キッカケは些細なものでコンビニの外で喫煙者を見かけた時。

 

 いい匂いではないけど落ち着くどこか懐かしい匂い。……臭いの間違いだな。

 

 それからは仕事帰りコンビニに寄るようになりカウンター越しからタバコを眺めるようになった。

 

 ちゃんとコーヒーだけ買ってるから。

 

 前世の名残りって奴だ。

 成人してるし何度買おうと思ったことか。普通の高校教師なら買ってるよ。

 

 他にも校舎裏でタバコを吸う不良生徒から没収して目の前で吸って見せたりしたい。真面目に見えるのにタバコを吸うギャップとか。

 

 カッコよくね? めっちゃカッコイイじゃん!! ……だけどさ。

 

 女子校の教師なんだよ。……しかもウマ娘たちの。

 

 ウマ娘は人間……あーヒト族と言うんだっけか。ウマ娘はそのヒト族よりも嗅覚が鋭敏らしい。

 

 馬が人間の約1000倍の嗅覚だったはず。

 ウマ娘もそれぐらいだと……思う。

 

 人間の数千倍から1億倍の嗅覚を持つ犬に比べたら……気休めにしかならない。

 

 タバコの臭いは人でも分かる。……タバコを吸えば直ぐにバレてしまうだろう。

 

 洗濯して消臭スプレーを限界までかけても気づかれると思う。……バレる分にはいいんだ。イメージとか気にしてないし目の前で吸うなんてことはしない。

 

 吸っても自宅……は葵がいるからダメか。コンビニや喫煙所で吸えればいいんだ。

 

 問題なのはウマ娘たちを不快にさせてしまうこと。常に顔を合わせる先生がタバコ臭いなんて嫌だろう。なにより対処のしようがない。香水で誤魔化すのもありだけど……香水も香水でキツいだろうし。

 

 ずっと居るわけじゃないからそれまで我慢しよう。歩いて喉が渇いたからコンビニで飲み物でも━━

 

「……といいつつ買っちゃったよ」

 

 手にはタバコとライター。

 やっぱり誘惑には勝てなかった。

 

 だ、大丈夫だよな? 

 明日仕事だけど洗濯して消臭スプレーして体もしっかり洗い口臭ケアも忘れない。……いける! いけるはずだ! 

 

 てことで久々のタバコだー! わーい! 

 …………ん? 

 

 

 

「トレーナーは桐生院先生の事が大好きなんですね」

 

「ふぁ!? と、突然なにを言い出すんですかミーク!!」

 

 否定もしない。

 満更でも無さそうに頬を赤く染める。

 

「突然じゃないです」

 

「突然ですよ……」

 

 何かあれば桐生院先生のこと話してます。あとは私のこと。さっきまでいた水族館でも良く兄さんと遊びに行ったんですよーとか兄さんの好きなものは海月なんですよーと勝手に喋ってます。

 

 トレーナーよりも桐生院先生のことばっかり詳しくなりそうです。

 

 折角のおでかけなのにちょっと……。

 ん……トレーナーが楽しいならいいですけど━━

 

「私はトレーナーのことが知りたいです」

 

「……分かりました。兄さんの話と比べて何の面白みもありませんよ?」

 

 少し困った顔をするとぽつりぽつりと教えてくれた。昔は人見知りで兄さん以外誰もいなかった。

 

 ……また桐生院先生の話になってますよ。

 

「兄さんはどんな時もずっと傍に居てくれた。孤独で外を知らない私を兄さんは白馬の王子様みたいに外に連れ出してくれたんです。色んな景色を見せてくれた。……色んなことを教えてくれた」

 

 実の兄に持っちゃいけない感情を持ってますよ。あと顔が完全に卑……女の顔をしています。

 

「それに兄さんは━━」

 

 ……? あれは……桐生院先生? 

 トレーナーの話を聞き流しながら向かい側のコンビニで桐生院先生を見つけた。

 

 壁に背中を預けて手には……タバコ? 

 

 桐生院先生の隣には黒いスーツを着たウマ娘がタバコを吸っている。

 

 二人は楽しそうに談笑を交わしていた。

 

「ミーク? 聞いてますか?」

 

「! ……聞いてますよ」

 

 トレーナーは気づいて、ない。

 ……言った方がいいのかな。

 

 ………ん。

 

「トレーナー」

 

「はい」

 

「桐生院先生はタバコを吸いますか?」

 

「? ……吸わないですよ。どうしてそんなことを」

 

「気になっただけです」

 

 ……言わない方がいいかも。

 トレーナーが桐生院先生を見つけないようにその場から離れた方がいい。

 

 トレーナーの手を握る。

 

「ミーク……?」

 

「お腹が空きました。何か食べに行きましょう」

 

「え? は、はぁ……分かりま…ミーク? ちょっと引っ張らなくても」

 

 引っ張らないと困るんです。

 ……桐生院先生。トレーナーの兄で人気の新任教師。

 

 トレーナーも知らない裏の顔。

 桐生院先生……私はあなたがわかりません。

 

 

 

「……はぁ、やっぱタバコは最高だ」

 

 勢い余って五本は吸ってしまった。

 はぁ……臭い消しが大変だ。

 

 ……タバコを好むウマ娘がいるとは思わなかったなぁ。

 

 黒いスーツにタバコは似合い過ぎだろ。

 俺なんてジャージだってのに……。

 

 なのに財布を忘れてタバコを買えなくて耳としっぽが垂れ下がった姿はギャップの横幅を振り切っていた。

 

 偶然同じ銘柄を好んでいたのもあってあげたら何回も頭を下げられて……タバコに魅入られちゃったのかぁ。

 

 ウマ娘だからって吸っちゃいけない理由はない。成人していたら尚更だ。

 

 色々と話もした。オフなのにスーツを着ているのは警備の隊長を任されているからとか、喫煙者は自分しか居ないから肩身が狭いとか……。

 

 その気持ちよーく分かった。

 

 葵はもちろんだけど両親はタバコを嫌ってるからなぁ。吸ってたのバレたら怒られそう。……それでも吸うんだけどさ。

 

 思わず意気投合した流れで連絡先も交換しちゃったし……今度必ずお礼をさせて頂きますとも言われて……。喫煙者仲間ができただけで嬉しいのに。

 

 ウマ娘なんだけど……生徒じゃないから大丈夫、か。

 

「っとと……葵より先に帰らないと」

 

 コーヒー買って……最後に一本吸いますか。




今回は殿下の出現フラグを回収、ですかねぇ(知らんけど)
次からはサイレンススズカですねぇ。

ストーリーや怪文書見つつ次は誰にしようか。

  • ファインモーション
  • マンハッタンカフェ
  • アグネスタキオン
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