トレセン学園にはあるトレーナーがいた。日頃は人格者として慕われる人物だったが、担当のレースになると変わってしまう。


教育者どころか人間としても失格なトレーナーの話。

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第1話

私、サイレンススズカのトレーナーさんはとにかく口が悪い。日常生活では清廉な若者といった態度。

 

 

だけど、私のレースの応援になると...

 

 

「行けえぇ!スズカあぁ!」

 

 

「轢き殺せえぇ!」

 

 

「絶対に逃がすなあぁ!」

 

 

嘘でしょ...私、逃げなのに...

 

 

ここは中央トレセン学園。資格の取得難易度が高いトレーナーの中でも、特別に秀でたヒトが集まる筈なのに...

 

 

いや、語弊がある。トレーナーさんは決して口が悪いだけのトレーナーでは無い。むしろ、学園内の問題の多くを背負っている。

 

 

例を挙げるなら、【トレーナーが付かないウマ娘達の指導】が1番大きいと思う。エアグルーヴも後輩達に指導しているけれど、トレーナーさんはその比じゃないくらいに指導している。

 

 

聞いた話だと全体の3分の1にもなるとか...

 

 

それだけじゃ無い。

 

 

トレーナーさんは私のレースに絡まなければ、とても良い人なのだ。燻っているウマ娘の指導に加えて、そういう子のメンタルケア。他のトレーナーの相談にも良く載っていて、人当たりも良い。

 

 

日頃の評価だけは完璧超人。あとは聖人。それが私のトレーナーさん。

 

 

そんなトレーナーさんに、私は今日呼び出されていた。

 

 

「失礼します」

 

 

ドアをトントンと軽くノックして入室する。

 

 

「あぁ、スズカ。わざわざごめんね?少し相談があって...」

 

 

...相談!トレーナーさんが、私に!

 

 

「はい!どうしたんですか?」

 

 

普段誰かに相談する様な人ではなかったから、思わず前のめりに聞いてしまう。

 

 

「実はね...」

 

 

「苦情が、来たんだ」

 

 

「レース中の応援にしては不適切だし、何より喧しいって...」

 

 

「俺、そんなに喧しいかなぁ...?」

 

 

え?なんで今更そんな事を?まさか皆が気を使っていたから自分で気がついてない?

 

 

「嘘でしょ...!?」

 

 

流石に気がついていると思っていた。あんなに叫んでいるんだから、気がついてない方がおかしい。

 

 

観戦後に喉の調子が悪いと言っていたのもユーモアじゃなくて本当に無自覚だったと言うの...!?

 

 

「あっコラッ!スズカ!左回りはやめなさい!」

 

 

ちょっと変わっていると思っていたけど、まさかこんなになんて...

 

 

ゴリゴリゴリゴリ

 

 

「床ッ!床の被害が甚大だから!」

 

 

最初の頃はそんな人じゃなかったのに...

 

 

「マジで止まってくれぇー!」

 

 

その後、トレーナーさんに抱きつかれて止まった。

 


 

 

「何も縛ることはないと思うんですけど...?」

 

 

脚と椅子を括り付けられて座っていた。

 

 

「ごめんよ。スズカの脚と床を守るためなんだ。僕だって自分の担当バを縛り付ける機会なんて要らなかった…」

 

 

悲しそうな顔をされると、悪いことをした様な感じになってとても申し訳なくなってくる。

 

 

「あの...すみませんでした。もうしないので縄を解いてください」

 

 

「で、苦情が来たって話だけど」

 

 

「無視ですか!?」

 

 

「応援に熱が入っている自覚はあるんだ。でもそんな荒い言葉遣いになっていただなんて、全然気がつかなかった」

 

 

「結構教育者が言っちゃいけないことを言ってますよ?あと無視はやめてください!」

 

 

「嘘だろ!?気を使っている筈なのに!」

 

 

「応援しているトレーナーさんは確かに口がわるいかもしれません。でも、私はわかってますよ?トレーナーさんが真剣に向き合ってくれてるって」

 

 

「スズカ...そんなに僕のことを...」

 

 

「私を自由に走らせてくれたのはトレーナーさんだけですから」

 

 

「だから縄を解いてください」

 

 

「...よし!わかったよスズカ!」

 

 

やったわ!やっと解いてもらえる...!

 

 

「僕、口が悪くならないように矯正するよ!」

 

 

「違う!」

 

 

違うんですトレーナーさん!そうじゃないんです!

 

 

「担当がこんなにも信じてくれているのに、僕が担当の評価まで落とす訳にはいかないよね!」

 

 

「目が覚める様な思いだ!僕、真人間になるよ!」

 

 

「トレーナーさん...!」

 

 

自分の世間体だけじゃなくて私の為に...!やっぱりトレーナーさんはあの頃の、私に【自由な走り】をさせてくれた時のまま...!

 

 

「たづなさんに矯正の手伝いを頼めないかお願いしてくるよ!時間はかかるかもしれない。だけど絶対に矯正して、胸を張ってスズカのトレーナーだって言えるように頑張るから!」

 

 

いやな予感がする...もしかして...!

 

 

「待っててくれ!真人間になるその日まで!」

 

 

「縄を解いてくださーいっ!」

 

 

その後逆に全身を縛られ、一日中放置されたトレーナーがいたそうな


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