モブ冒険者だった僕だが、最後の意地くらい通してやった   作:ギル・B・ヤマト

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勢いで書きました。
正直設定はフワフワなのでそこは多めに見てもらえればです……。


長いプロローグ

 

 まず自分語りをさせて欲しい。

 

 僕はとある村で生まれたただの村人。

 そう理解するのに生まれてから十数年かかった訳だが、小さい頃は自分が主人公だと信じてやまなかった。

 

 そう、物語に出てくる強くてカッコいい主人公。それは僕の事だと信じきっていたんだ。

 

 今振り返ると黒歴史そのものだ。なんて恥ずかしい。

 

 とまあ過去の自分をボロボロに言っているが、小さい頃の自分にあんな事があればそう思っちゃうのも仕方がないかなとも思っている。

 

 幼馴染とあんな出会いでもしたら。

 

 

 

 

 「大丈夫か、魔物なら追い払ったぜ!」

 

 

 

 

 それはある日の事。

 

 

 

 

 村で一人散歩していたら、誰かが魔物に襲われているのを見たんだ。

 まあ魔物と言っても幼すぎるから害はなかったんだが、それでも魔物には変わらない。

 だからその光景を見た幼い頃の僕はすぐに追い払った。

 

 「……ありがとう! とっっても助かったよ〜〜〜!!! うぇぇ〜〜〜ん!!!」

 

 「あ、ちょ。いきなり抱きつかないで!?」

 

 魔物を追い払った後に振り返ってみれば、眩しいと錯覚するほどに綺麗な金髪をなびかせている少女がいた。

 彼女のブールアイは全てを見通す様な神聖さがあり、そんな美少女が自分に抱きついている。

 

 (ヤベェ、すっごい美少女だ)

 

 近くで見ると絶世の美少女だと思えるほどすごかったのだ。

 どれくらい凄いかと言うと自分の人生が変わるかもと思った程に。

 

 田舎暮らしの僕にこの出会いは衝撃的すぎたのだ。

 

 あまりにも衝撃的すぎたから僕は愚かにもこう思ってしまった。

 

 (この子ヒロインじゃね?)

 

 はっきり言ってバカである。

 

 確かにそう思えるほどの美しさはあったが、それで信じる奴はバカしかいない。

 

 しかし悲しいかな。

 

 その時の僕は絵本の勇者になれると本気で信じていたのだ。絵本で起きた事は現実でも起きるんだと本気で思っていた。

 

 (あ! こう言う時は名前を聞くのがセオリーだっけ)

 

 セオリーの意味も知らず使う僕は、絵本ではこうしていたと思っただけで、マジで女の子に名前を聞いた。

 

 

 しかもその時の聞き方は……それはもう酷かった。

 

 

 「え、あの、き、君の名前は……何だい?」

 

 

 絵本のようにクールに聞こうとしたが、美少女どころか女性との会話すら経験がない自分は緊張しまくりだった。

 

 声はガタガタ。

 顔も真っ赤にしながら聞いてしまった。

 

 これではまるで、インキャが頑張ってナンパしたようなものである。最悪だ。

 

 「ふぇ? 私の名前?」

 「う、うん。君の、名前」

 

 まあいろいろとあれだったが、幸い少女は優しくて純粋だったし、彼女から見て僕は命の恩人であることには変わらない。

 

 キョトンと子供らしい間抜け顔をして、すぐに笑顔いっぱいになった彼女は名前を教えてくれた。

 

 「私はマーニャっていうの! よろしくね!」

 

 こうして(黒歴史の中で)有頂天になった僕は、マーニャという幼馴染と初めて出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数ヶ月が経ち、マーニャと仲良くなった僕は毎回会って遊ぶ様になった。

 

 珍しい遊び方だったけど。

 

 「え、勇者ごっこしたい?」

 「うん!」

 

 自分のおうむ返しに、初めて会った時と変わらない笑顔をしてくるマーニャ。

 最初は追いかけっことかいかにも子供らしい遊びをしていたが、遊ぶ為に会ってから数回。彼女はこの提案をしてきた。

 

 自分も見たことある絵本を持ってきて。

 

 「あれ、それ読んだことある。おとぎ話の勇者の絵本だ」

 「あ! 君も読んだことあるんだ。お揃いだね! 私もこの絵本に出てくる勇者みたいになりたいなって思ってるの!」

 

 それで自分は「あぁ……」と一人納得する。

 この子は勇者になりたいんだ。その気持ちはよく分かる。僕だってその本を読んで全く同じ気持ちを持ったから。

 

 しかし──

 

 「勇者になりたいか……フッ」

 「あ!? 鼻で笑った!?」

 

 その時僕はこう思った。

 女の子が勇者を目指すとは……と。

 

 愚かなのはお前だと言いたい。

 そもそも絵本の主人公は冒険者をやっていて、元々勇者とは呼ばれていなかった。

 魔族達と戦う様になってから勇者と呼ばれた訳だから、そんなに性別は関係無い。

 

 魔族や魔王と戦う強い奴。それが勇者なのだ。

 

 それに冒険者だって女性でも物凄く強い人はいる。

 全体で見れば確かに男性が多いが、圧倒的に多い訳でもないし、強い奴は強い。

 

 強い奴は性別という壁なんて容易くぶち破る。

 

 とまあ余談はここまで。

 

 僕の反応を見たマーニャはほっぺたを膨らませて自分に挑戦してきた。

 

 「そんなにおかしいなら私と勝負よ!」

 

 子供用の剣をこちらに向けてそう宣言するマーニャ。

 それに対して自分も子供用の剣を持つ。

 そして出来るだけクールに演じながら、自信満々に言ってしまう。

 

 「いいぜ。お前の本気、見せてこいよ」

 

 そんなことを言って、

 僕とマーニャははじめての勇者ごっこ(バトル)をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こ、降参です……」

 「わーい、勝ったー!」

 

 ……その数分後、ボロ雑巾みたいな僕と、全く疲れを感じさせない元気なマーニャの姿があった。

 

 

 

 幼馴染はメチャクチャ強かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やーい、お前こんなの持ってんの?」

 「ぁ……か、返して……!」

 「返す訳ないだろ! 返したければその化け物の力使ってこいよ!」

 

 それから何回も勇者ごっこをやったが全然勝てず、あれこいつにはどうやって勝てばいいの? と思い始めた頃。

 

 いつもの待ち合わせ場所に来たら、マーニャがいじめられてた。

 

 (なんだあれ)

 

 遠くから見えた光景は、はっきり言って情けないとそう僕は思った。

 勿論マーニャのことではなくイジメている側が。

 

 一人の女の子を相手に三人の男の子が寄ってたかっていじめている。

 そんなプライド全捨ての男の子達に怒りが湧いてくるが、同時に呆れも感じてきた。

 

 (なんかイライラするな……)

 

 イジメに対して良くない感情を持つが、何となく怒っている理由はそれだけじゃない気がする。

 目の前の光景と、モヤモヤする部分が相まって僕の堪忍袋がブチっと大音量で切れた。

 

 

 よし殴り込みじゃ!

 

 

 「オラァ! 女の子を虐めてるんじゃねぇ! この軟弱者!」

 「げ! 何だお前! こいつをかば「どっか行きやがれぇ!!!」──グヘェ!?」

 

 なんかイジメ組のリーダーらしき人物に体当たりをぶちかます。

 ノンストップでぶつかって来ると思ってなかった男子はそのまま吹き飛ばされていった。それもまあまあ。

 

 「あ、アニキ──!?」

 

 その姿をまた残り二人も悲鳴をあげる。

 ついでにまだやるのかとそいつらにガンを飛ばしたら、顔を青ざめて逃げていった。リーダーを連れて。

 

 「お、覚えていろよー!」

 「……なんだよあいつら。弱い奴にしか威張れないのか? 情けな」

 

 三下の悪役の様に逃げる男の子達を見て僕はそう呟き捨てる。

 

 しかし事態は一件落着したものの、僕は納得の行かない顔をしていた。

 

 さっき僕は弱い奴と言ったがマーニャは弱い奴じゃない。むしろ強い方だ。

 さっきの体当たりだって勇者ごっこだと、軽く避けてから確実に弱点へクリティカルヒットさせてくるだろう。

 マーニャというのは、ごっこ遊びにしてはガチすぎて引くほど容赦ないし強い。

 

 だが実際にはどうか。

 

 後ろを振り返ると頭を抱えてビクビクしている少女が一人。とてもそんな戦い方をして来たと思えない、普通の女の子がいただけだ。

 

 「なんでさっきやり返さなかったんだ? いつものマーニャなら、ボコボコに出来ただろ?」

 「そ、そんな事しちゃダメだよ。私の力をそんな風に使ったらダメだって……」

 「でもやり返さなかったら相手が調子乗るだけだぜ?」

 

 僕が覗き込んだらマーニャは涙しながら怯えていた。

 

 「……人を傷つけたくない」

 

 それが正しいかその時の僕は良くわからなかった。

 こっちが何もしなかったら相手が調子乗るのは分かっているが、その凄い力を自由に使うことにも良くないとも思っている。

 

 「……優しいんだなお前」

 

 だから言った言葉は否定でも肯定でもなくただの感想だった。

 そして僕はマーニャに足りないものがあると気づいた。

 

 

 いつもなら必ず持って来ているアレが無い。

 

 

 「いつもの絵本は?」

 「え、えっーと……忘れて来ちゃった」

 

 嘘だ。とマーニャの気まずい顔を見て僕は確信する。

 

 マーニャがあの本を忘れる事は決して無い。

 

 初めて持ってきたあの日からずっと忘れずに持ってきている。

 それで毎回、絵本の勇者について語ってくるのだ。

 その姿はまるでオタクだと、マシンガントークしてくる彼女に呆れながらそう思っていた。

 

 何か原因がないか考えると、やはりさっきのイジメていた奴らの事を思い出す。

 

 (そういえばアイツら……何か持っていったような)

 

 遠くから見てたからよく分からなかったが、四角い何かをマーニャから奪っていた。

 恐らく勇者の絵本だろう。

 

 (なんで絵本奪ったんだ?)

 

 アイツら人が嫌がる事して楽しいのかと思う僕だが、それを嫌がるならイジメなんてしないと一人納得する。

 

 とにかくマーニャがいつも大切に持っている程、勇者の絵本は彼女にとってかけがえの無いない物なんだ。

 

 そんな大切な物を奪うとは許せん。

 

 「……マーニャ、ちょっと待ってろ」

 「え、何するの? ……さっきの男達のところへ行くの? ……ダメっ。三人もいるんだよ、危ないって!」

 

 男の子達が逃げた方へ行こうとする僕を、マーニャは手を掴んで止めてくる。

 でも僕はそんな事で当然止まる事はない。

 

 振り返って彼女に言う。

 

 「でも危険だからって諦めなかったぜ。絵本の勇者は」

 「ぅ……!」

 

 絵本の勇者はとても強いが、それでもピンチはいくらでもあった。魔物が卑怯な手を使って人質を取ったりと色々な手段を使って勇者を追い込んでいった。

 

 

 でも変わらない事も一つある。

 

 

 どんなに危険な時でも勇者は諦めず引かなかった。

 

 

 マーニャだって絵本を何度も読み返しているから、その事は理解しているだろう。

 その証拠に掴んでいた手を離してくれた。

 

 「……じゃあ取ってくる」

 「…………………………」

 

 さっさと歩き始めた僕に、マーニャはただ黙っただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめん。ちょっと時間掛かっちゃった……イテテ」

 「…………そのケガ」

 

 それから数時間後。

 早く終わるかと思ったが、アイツらの居場所探るのにも時間が掛かっちゃったし、さっきとは打って変わってものすごく抵抗してきた。

 

 お陰で色んなところ殴られてとっても痛い。その分お返しもしたが。

 

 まあ今でも痛みを感じるが、それよりやらないといけない事がある。

 そう思って片手で持っているソレをマーニャに渡す。

 

 「ほら、絵本取り戻してきた」

 

 僕が頑張って持ってきた絵本を、マーニャは静かに受け取った。

 ……はずだが、顔を俯いた直後からすごい肩とか腕とか揺れてる。

 

 「あ、え……大丈夫?」

 「ぁ……ぁ……」

 「……あ?」

 

 心配になった僕がもう一度顔を覗こうとしたその瞬間。

 

 「ありがとうぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」

 「!?!?」

 

 涙、鼻水ダラダラにして抱きついてきた。

 子供とは思えない程の速さで僕へ迫って来る。

 

 「うぇぇぇん! ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」

 「待てって、鼻水が付いちゃうって──ウワァァァ付いたァァァァ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇさっきはここの事を言ってたの?」

 

 涙も流し終えたマーニャは、僕が取り返した絵本を開いてとあるページを指差した。

 そこに書いてあるのは闇に囚われたお姫様と、お姫様を取り戻す為に現れた勇者だった。

 

 「うん、ここの事」

 

 マーニャの質問に僕は頷いた。

 ここは僕もお気に入りのページなのだ。

 

 この絵本に描かれているお姫様は、当然国のお姫様の事なのだが、彼女は勇者と恋人の仲だったのだ。

 それも魔王を倒した後に結婚を約束するくらいには。

 

 だがそんなお姫様に魔の手が迫ってしまう。

 魔族の手によってお姫様は洗脳されてしまい、人質になってしまったのだ。

 

 そしてお姫様を愛している勇者は、()()()()()()()()()魔族達が沢山いる城へ危険を承知して救いに行く。

 

 それが今指を指しているこの絵本での出来事だ。

 

 

 それと同時に、自分が勇者になりたいと思ったページでもある。

 

 

 「ここで勇者がお姫様に駆けつけるの見て、スッゲーカッコいいなって思ったんだ」

 

 

 初めてここを読んだ時に僕はこの勇者に憧れた。

 幼い自分がそう思ったことに深い理由はない。

 

 

 かっこいいから。

 

 

 そんな誰でも一度は思ったことのある、ありきたりな感情で勇者になるんだと決めた。

 

 「……私も同じ。ここで私も勇者みたいになりたいなって思ったんだ」

 

 さっきの泣き顔とは打って変わって優しい笑みを浮かべる。

 夕方の優しい風が彼女の綺麗な髪をなびかせ、暖かさを感じる赤い日差しと、影の中で輝くブルーアイの光景は一つの風景画として完成されていた。

 

 「…………」

 

 夕方の淡い明るさとマーニャの優しい笑顔も相まって、それはそれはとても綺麗だった。

 

 その時僕が感じた事をハッキリ言おう。

 

 

 

 惚れてしまった。

 

 

 

 急に顔が熱くなり彼女に向いていた視線もそらしてしまう。

 そんな僕とは関係なく彼女は話し続ける。

 

 「私は生まれてからずっと、凄い力を持ってるんだ」

 「そ、そうだな。……勇者ごっことかメチャクチャ強いし………………って、え!?」

 

 マーニャが急に僕の手を掴んできて情けない声をあげてしまった。

 だが彼女はそんな事を気にせずに目を閉じて、何かを祈る様に彼女自身の手に力を入れる。

 

 いつもと違った雰囲気の彼女に押されて僕は黙った。一体何が始まるのかそういう興味もあっただろう。

 

 

 マーニャが手を掴んでから数秒、突然自分達の周りが光出す。

 

 

 (これって……)

 

 地面の草達が、近くの木が、空気が、そして彼女から小さな粒子が浮かび上がって来る。

 この神秘的な光景を作ったのは間違いなくマーニャだ。

 一体何をしようとしているのか僕は聞こうとして、自分の体の異変に気づいた。

 

 「凄い……体の傷が消えてる」

 

 イジメっ子達と争ってついた傷が何も無かったように引いていく。

 さっきまで感じていた痛みも綺麗に消滅していき、これが絵本にあった回復魔術だと気づいた頃には完治していた。

 

 「凄い……凄いじゃんこれ!」

 

 絵本に書いてあった展開を実際に見て僕は興奮した。しかしその反対にマーニャの顔は暗い。

 まるでこの力をよく思っていないかの様に、彼女の顔には影が差していた。

 

 「うん。これだけじゃ無い。勇者ごっこみたいな力もあるし、ほかの魔術だって使える。だから勇者に憧れた私は、これで人助けをしたんだけど……」

 「……上手くいかなかったのか?」

 

 そう僕が言ったのは彼女の変わらない暗い顔を見たからだ。

 そしてその予想は当たってた様で、彼女は頷いて返事をした。

 

 「前に大きい魔物が村へ入ってきた事があるの」

 「へ? そうなの?」

 

 さらっと話された重大な事に僕は驚く。そんな事があればすぐに爺ちゃん達が知らせてくれるはずだけど……。

 その疑問に答える様に彼女は話を続ける。

 

 「でも魔物が暴れる前に私が倒したの、生まれてから持ってる力を使って」

 「……じゃあどうしてイジメられてたんだ?」

 

 今の話を聞いていると辻褄が合わない。

 なんで人を助けたのに、感謝もされずイジメられなければならないのか。

 その事に僕は苛立ちを感じていた。

 

 「魔物を倒した時に腕が変な風に曲がったり、目とか傷付いてて……それをみんなの目の前で治したらあんな風になったの」

 「────」

 

 

 

 『化け物の力使ってこいよ!』

 

 

 

 イジメっ子達のリーダーの言葉を思い出す。

 

 あんなひどい事を言ったのはこんな事があったのかと分かった。まあ納得なんて一切してないし、むしろイライラが増しただけだが。

 

 そう苛立ちが増した僕は無表情になる。それをマーニャは信じていないと勘違いしたのか──

 

 「……私の体だって傷つけてもすぐ治るんだよ。こんな風に──」

 

 近くに落ちていた尖った石を持って、そのまま腕を刺そうとする。

 

 (あっぶな!?)

 

 それを黙って見過ごすほどの僕じゃない。石が腕に刺さる直前で、なんとか石を持つ手を止めた。

 凶行を止めれた、安心からの息を吐いた僕はそのままマーニャを睨む。

 

 「なんで止めたの? 私は化け物だし、別にこんなの大した傷じゃないよ」

 

 だがマーニャは不思議がるだけだ。

 今の言葉をわざとらしく言ったわけでもなく、本当に当たり前の様にそんな事を言ってきやがった。

 

 これは良くない。

 

 確かじっちゃんが言うには拗ねてるって奴だ。しかもそれがおかしいってマーニャは気付けてない。

 

 その考えは間違ってるってしっかり言わないと。

 そう思って僕は、石を雑に捨てた後に言った。

 

 「いや、目の前で怪我しようとする人間を止めないバカはいるか。傷が治るって分かっててもそんな事をする必要はないだろ?」

 「でも……私は化け物だよ? みんなは私の事避けるし、だから村の端っこでずっと絵本を読んでたし……」

 

 ああめんどくさいと、マーニャの言い分に素直にそう思ってしまう。だから強引に言った。

 

 「お前は化け物じゃねぇ!!!」

 「!?」

 

 まあまあ大きな声で言った僕に、マーニャは驚いて耳を塞ぎ口を閉ざした。流石にうるさすぎてネガティブな事を喋るのは中断したらしい。

 

 ……よし。ここから強引に言いまくって納得させてやる!

 

 勇者ごっこでいつも喰らっていた、マシンガントークのお返しだと意気込んで僕は口を開いた。

 

 「まず化け物ってなんだ!」

 

 最初に言ったのは説教とかではなく質問。

 この事で僕は前、じっちゃんから教えてもらった事がある。

 僕はそれは正しいと思うし、もし間違っていても自分ばかり責める今のマーニャよりかはマシになる。そんな自信があった。

 

 マーニャもいきなり質問が来るとは思っていなかったのだろう。目を点にして首を傾けている。

 

 「えっと……すごい力を持っている奴……?」

 

 彼女は自信なさげにそう言うがそうなっても仕方ない。絵本にも化け物と呼ばれる奴は出てくるが、なんでそう呼ばれているかわざわざ考える奴なんていない。

 

 でもここは大事なところだからハッキリ言う。

 

 「違う。じっちゃんが言ってたけど、化け物っていうのはただ力を振りかざすだけのやつだよ」

 

 ええと……じっちゃんが言うには、自分の事しか考えず持っている力を振りかざす奴だったはず。周りに迷惑ばっかりかける奴だ。

 中には自分の事しか考えてない癖に、周りを助ける奴もいるって言ってたが、細かいことは分からん。

 

 「スゲェパワーで周りに迷惑かける奴が化け物。でもお前は違うだろ?」

 「え、でも「違う。マーニャはさっき言ってただろ、人を傷つけたくないって」………………」

 

 マーニャの目が点となる。どうやらクリティカルヒットの様だ。

 

 「マーニャは優しいじゃん。そんな奴が化け物なんてありえねー。誰が言おうと僕が言ってやるぜ。お前は化け物じゃなくて優しい奴なんだって」

 

 よしQ.E.D(証明終了)終了だ。これなら納得してくれるだろうと自信満々になりながら、マーニャを見てみるが──

 

 「ってえぇ!? 泣いてる!? げ、ミスっちまったか!?」

 

 メチャクチャ涙流してた。

 口を半開きにして目をウルウルしている姿を見て僕も焦ってしまう。

 そうオロオロしていたらマーニャが笑い始めた。

 

 「違う違う……こんなに褒めてもらったの初めてだから泣いちゃったの」

 「あぁ、それは良かった。……良かったのか?」

 「えへへ……」

 

 予想外な展開に僕は頭が混乱しているが、とにかくマーニャは良くなったらしい。それならOKだ。

 あ、いやまだ聞かないといけない事がある。

 

 「でもこれからどうするの。勇者目指すんだろマーニャは?」

 「そうだけど。うーん……」

 

 そうこれだ。

 長く話したから忘れかけてたけど、マーニャは勇者になりたいから人助けしたんだった。

 ただ一歩目がダメだったから変な方向へ行っちゃったけど。

 

 でも今のスッキリしたマーニャの姿を見ると多分大丈夫だと思う。なら後はどうするかだが……

 

 「……うん。イジメられてたけどやっぱり仲良くしたい。勇者も言ってたし。『誰でも間違いはある、大切なのはその間違いを認めてもっと良くする事だ!』……って」

 「……ホント優しいなお前」

 

 カッコよよく言ったマーニャに僕は呆れながらそう言う。

 僕だったらこうはいかないだろうなと思いながら、考えていた事を口に出した。

 

 「じゃあ僕も手伝う」

 「え、いいの?」

 「勿論、僕ら友達だしな」

 

 勇者になりたいって言うのは僕も同じだし、何回も遊んだ仲だから手伝わないと言う選択肢は無い。

 

 「とにかく人助けだ、マーニャがいい奴だってみんなに教えてやらないとな!」

 「うん!」

 「それじゃあ善は急げだ。早速行動を……」

 「……ねえ」

 

 早速移動し始めた僕の後ろからマーニャが声を掛けてきた。

 とりあえず後ろへ振り向くと、何故かマーニャが頬を赤くしてる。

 

 「……どした?」

 「ええといきなりなんだけど、もし私がピンチだったら……助けてくれる?」

 「……ん?」

 

 来たのは質問だった。

 どんな心境でその質問が出たのか分からないが、僕がマーニャと同じく勇者を目指しているから出た質問だと言うのは分かる。

 

 珍しい質問に少し考えてみるが、やっぱり答えはすぐに出た。

 

 

 

 「勿論、ピンチになったらいつでも何処へでも駆けつけるぜ! それが勇者だからな!」

 

 

 

 分かりきっている答えだ。

 それをハッキリと僕は言った。

 

 「……ふふっ。分かった」

 「ん? まあいいや。とにかく行こうぜ」

 

 その返事にマーニャは笑顔になり、僕と一緒に歩き始めた。

 こうして僕とマーニャは仲良くなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから村の皆んなと仲良くなりながら勇者ごっこもやっていく日々を過ごした。

 

 「よぉーしマーニャ。男の俺が負け続けるのは情けないからな。今度こそ勝つ!」

 

 そう言っていつものようにボコされたり。

 

 

 

 「ありがとねぇマーニャ。大工の手伝いしてくれて」

 「いえいえ。これぐらい大した事ないです!」

 「(なんで丸太を軽く運べるんだよ……)……よし僕だって運んでやる!」

 「あっそれは!?「ぎゃああああ!!!」…………」

 

 自分も馬鹿でかい丸太を持とうとして怪我したり。

 

 

 

 

 

 

 「よし勝負──「分かった」切り替え早すぎだァァァァギャァァァァ!?」

 

 またボコされたり。

 

 

 

 

 

 

 「ハァハァ……クソー! マーニャに……勝つまで、後ちょっとだったん、だけどなぁ……」

 「……ふぅ〜危なかった。あと少しで負けるところだったって…………うわぁー!? しっかりしてー!?」

 

 激戦を繰り広げたのは良いものの、疲れすぎて気絶し

たり。

 

 

 

 

 

 

 かなり楽しい生活を送っていたと思う。

 

 勇者ごっこで結局マーニャに勝つことは出来なかったが、彼女のクセを読んでいい所まで行ったのは何回もあったしかなり充実していた。

 

 ……これがずっと続いてくれたら良いなと思うほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 ──あの日が来るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ……。く、来るな……!?」

 

 

 それから数年たって、僕もマーニャも背が二倍くらい伸びた頃、村に魔物が入ってきた。

 

 

 それもマーニャと初めて出会った時のような雑魚じゃない。

 

 「ガァァァァア!!!」

 

 ソイツは自分より数倍大きくて、手始めに近くにいた大人達をなぶり殺した。

 死体から出た血がタップリとついた赤い手を見て、僕は何も出来なくなった。

 腰がひけて尻餅をついた僕は、迫ってくる死神に対して涙しながら声を叫ぶだけ。

 

 「だ、誰か助けてくれぇ!!! 助けてよぉ!?」

 

 そこに勇者に憧れた僕の姿(主人公)は無かった。

 ただ怯えて何も出来ない普通の男の子(モブ)が居ただけだ。

 

 何回も大きく叫んでも誰も助けに来ない。当然だ、自分以外の大人は殺されてしまったのだから。

 そんな状況でも死神の足が止まることはない。

 ズシン、ズシンと重い足でこちらに迫ってくる。

 

 「あぁ、あぁ……!」

 

 あまりの恐怖に僕も悲鳴をあげることさえ出来なくなっていた。

 

 

 そして魔物が赤い手をこちらに振りかざして、そこで僕は目を閉じる。

 

 

 「ひいっ!?」

 

 

 ──だがどれだけ待っていても衝撃が来ない。

 

 怯えながらゆっくりと瞼を開けるとそこには一人の女の子(主人公)がいた。

 

 魔物の血で染まった子供用の剣を持っていて、僕の前にいた魔物はいつのまにか()()()()()()()()()

 

 死んだ事さえ認知できなかった魔物の死体は、一足遅れて後ろへ倒れる。

 地震かと錯覚するほどの衝撃が彼女の金髪を大きくなびかせた。そして、その奥から人を絶対に守ると言う意志を感じるブルーアイが見える。

 

 「……大丈夫!?」

 「あ、うん……」

 

 心配しながら駆け寄ってくるマーニャに、僕は呆然しながら返事をする。

 僕の手を掴んで立ち上がらせるマーニャの姿はまるで絵本の勇者だった。

 

 だがその反対に、何も出来なかった自分はどこまで行っても情けなかった。

 物語に出てくる脇役ですらないちょい役、まさにモブだったのだ。

 

 

 

 そうして僕はマーニャとの間に、大きな隔たりがあるんだと思い知らされた日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ……さっき凄い占い師に私の事占ってくれたの」

 「……そうか」

 

 その日の夜に王都から騎士団がやってきた。

 どうやらマーニャが倒した魔物は、王国でも指名手配されるほど強い奴だったらしい。

 この近くで徘徊している情報を入手した騎士団が、大急ぎでここに駆けつけたわけだが……。

 着いて目にしたのは、その魔物に圧勝した一人の少女という事だ。

 

 まさかのお宝級の人材発見に、騎士達が見逃すわけがない。

 

 国から選定師──占いから沢山の判定をやっている魔術師を呼んで、この少女が今王国が探し求めている()()なのか確認していたらしい。

 

 それを外で待っていた僕だが……。

 

 

 「私、勇者だって」

 

 

 「…………」

 

 

 さりげなく言ったマーニャの言葉に自分は無言を突き通す。

 とはいえこの数年間。彼女と勇者ごっこをしてきた身としては、正直勇者じゃないかとは思っていた。

 

 今回の戦い……というより瞬殺だったけど。

 あれを見なくても、勇者ごっこの人外じみた力にはこちらもウンザリされている。

 これで勇者じゃなきゃ、人類はどれだけ人外だらけなんだよと、心が折れる所だった。

 

 (まあ分かりきってた事だけど、今の僕じゃあマーニャの隣には立てないよな……)

 

 昔から同じ夢を持って切磋琢磨してきた仲だが、悲しいことに才能の差というものはあった。

 僕も僕なり頑張ってきたが、能力の差が埋まっているとは到底思えない。

 

 でも……

 

 「マーニャ、それで王都に行くのか?」

 「……うん。私は勇者だから王都で特訓をしなきゃいけないって言われたし、私も沢山の人を助けられるなら助けたい。だから行く」

 「…………僕も行きたいけど、マーニャに一度も勝ててないからな。まだ行くべきじゃないな」

 

 

 それでも僕は諦めない。

 

 

 今は無理でも王都へ行って冒険者になっていろんなクエストに行く。

 そうやって強くなっていて、いつかマーニャの隣に居られるそんな凄いやつになるんだ。

 

 「多分凄い時間が掛かっちゃうけど……もし僕がマーニャの隣にいる資格を取れたら、その時は……一緒に冒険しても……いいか?」

 

 それで今までのように一緒に戦って魔王を倒す。

 とてつもなく時間は掛かるだろうが、マーニャが魔王を倒すまでに僕は絶対に辿り着いくんだ。

 

 そう思ってマーニャに伝えたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………来ないでいいよ。ずっと」

 

 

 「──ぇ」

 

 

 

 

 拒絶された?

 

 

 

 

 まさか……僕が?

 

 

 

 

 …………いや違う。

 僕が伝えるのが下手なだけなんだ。

 まさか今すぐ着いていくわけじゃない。実力不足なのは分かっているし、足手纏いになるつもりは無い。

 

 僕の語弊力がないから誤解しただけなんだ。もう一度しっかり言わないと……

 

 「……あぁ、いやごめん。勿論実力が付いてからだぞ? そりゃあ今じゃあ「関わらないで」──は?」

 

 

 

 「……着いてきても私が迷惑なだけだから。弱い貴方とはもう一緒にいない」

 

 

 今度はハッキリと拒絶した。

 静かに言ったが、言葉だけでも力強さを感じる。

 ……誤解ではないらしい。

 

 

 マーニャは本当に、僕と一緒にいたくないそうだ。それもずっと。

 

 

 

 

 「な、なんだよそれ……!」

 

 

 

 

 現実逃避していた事実をやっと直視できた自分は苛立っていた。──己の無力さに。

 

 

 

 

 「ふざけんなよ……! だったら証明してやる、僕が足手纏いじゃない事を!!!」

 

 

 

 勇者ごっこでいつも使っていた剣をマーニャに向け、そしていつもと同じ様に一騎討ちを申し込んだ。

 

 心に激しい苛立ちを添えながら。

 

 

 「勝負しろマーニャ! それで勝って、僕がお前の隣に立てる奴なんだって認めさせる!」

 

 

 ハッキリ言って勝負はこの時点で決まっていたものだ。

 

 いつもの勇者ごっこだって、常に冷静に、相手の動きを全力で見て、コンディションも最高でやっとギリギリ勝てるかもしれないレベルだ。

 

 でもその時の僕は心に余裕が無かった。

 

 村に侵入してきた魔物との戦いで、圧倒的な差を見せつけられて、自分が弱いと分かっていてもそこから目を背いていた。

 

 僕を置いていかないで欲しいという焦りを持ちながらの戦い。

 

 ──そんな状態で挑めば惨敗という結果は当然だっただろう。

 

 

 「……………………分かった」

 「ッ!?」

 

 それは余りにも早い接近だった。

 

 音速の如く突進してくるマーニャは、この数メートルの隙間を一瞬でゼロにする。

 マーニャが分かったと言った時には、彼女は既に僕の懐へ辿り着いていた。

 

 (しまった!? いつもならこれぐらい──)

 

 僕は自分の失態に今更気付くが意味はない。

 

 まずお腹に重い拳を一発。

 それで僕の意識は飛びそうになる。だがなんとか持ち堪えて反撃に移ろうとするが──

 

 「遅い」

 

 既に手遅れだった。

 最初の一撃で隙を見せてしまった間に、マーニャは僕の手首を攻撃して剣を吹き飛ばす。

 そして今度は胸にもう一発喰らわせる。

 

 「ぐっ!?」

 

 短時間にやって来た強力な二発目は、モブである僕では痛みを逃すのが精一杯だ。

 マーニャの拳が当たるタイミングを見計らって、僕も出来るだけ後ろへ飛ぶ。しかし、それでも体に大きなダメージが通ってしまう。

 

 既に心も体もボロボロな僕は後ろへ倒れる事しかできなかった。

 そしてその隙を逃すはずもないマーニャは、倒れた僕の首に、さっき吹き飛ばされた僕の剣を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 「……これで終わり。もう関わらないで、ずっと」

 

 

 

 

 

 マーニャは最初、剣さえ持っていなかった。さっきの僅かな攻防だって、端から見れば雑で不細工な戦い方に見えただろう。

 

 

 ──そんな酷い戦い方をしたマーニャに僕は完敗したんだ。

 

 

 

 「……クソッ! クソッ!!!」

 「…………… 」

 

 握りしめた拳で地面を何度も叩く。

 悔し涙を流す哀れな僕をマーニャは静かに去っていくだけ。

 

 

 

 

 

 

 それが僕とマーニャの苦い別れの記憶。

 マーニャは勇者(主人公)で僕はその隣に立つこともないただのモブ。

 そう思い知らされた別れと言えただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って静かに涙を流す彼女に気付けたら、結果は違ったかもしれないが……。

 




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