モブ冒険者だった僕だが、最後の意地くらい通してやった 作:ギル・B・ヤマト
「リーダー……リーダー…………?」
暗闇の彼方から誰かが
久々に黒歴史を思い出した所で、現実が俺を呼んでいるらしい。
そんな冗談はともかく、リーダーになった俺を呼んでいるということは何か要件があるんだろうが……
(眠い)
今は
どんな感じに寝たのか覚えていないが、とりあえず寝たふりを──
「リーダー……って、寝たふりしてんじゃねぇ!!」
「あイタッ!?」
変な声が出てしまった。
何だ何だと起こしてきた本人を見ると、見覚えのある女性……というか見覚えありすぎる仲間がいた。
「何だミシェルか……今気持ちよく寝ている所だから起こさないでくれ」
ミシェルと呼んだ女性は冒険者パーティーの仲間だ。
カウンターに座ってる俺の横から、肘をかけてその黄金の目でこちらを見ている。
「酒場で寝ている奴は起こさなきゃならんだろ。……それともマスターの怒鳴り声が来る前に、私のパンチでも喰らいたいかい?」
そう言って銀髪を揺らすミシェルは武道家をやっている。
褐色肌で筋肉質な女。
しかしその筋肉はムキムキというよりスタイリッシュという言葉が合っており、その身体のラインも含めてモデルでもやっているのか? と思うほどの美貌だ。
「……いんや、流石にお前のパンチは欲しくないな。ってその鎧どうしたんだ?」
「あぁ、このヘコみかい? 今回のクエストで出来ちまった奴だよ、もう忘れたのか?」
「……うーん」
彼女の装備は元々黒の鎧を武道家用に要所要所取り外した物だ。
取り外した所は、彼女の肩や膝、肘に胸など、体全体ではなく一部だけついている。
そのおかげで褐色肌と黒の鎧(一部だけ)の見える量のバランスが良く、とてもクールな女性へと仕立て上げていた。
とはいえ今はお金だ。
ミシェルが着けているこのかっこいい鎧。見た目に比例して高価な物なんだ。
(うーん。膝の部分と肘の部分だけで15万7000G掛かるんだよなぁ……うわぁ、報酬金が吹っ飛ぶぞ〜〜………………)
修理代でどれだけ掛かるか考えていたら、後ろから誰かが足音と武器の音を鳴らして近づいて来た。
「まあこの人なら忘れてもおかしくありませんね。ここはどうでしょう。このメイスで頭を叩けば記憶が戻るかも……?」
「いや戻らねぇよ。戻るどころか記憶喪失だわ」
振り返ると青と白をベースにした修道服を着た一人の男が立っていた。
いかにも聖道教会に所属していますという雰囲気を出しているこの男性の名前はボウルス。
冒険者パーティーの僧侶でありメガネをかけた地味男である。
顔も普通で、付けているメガネも普通で、髪は茶色に瞳の色も黒と、どこを見ても「地味、普通」という感想が出てくる男だ。
そんな地味男は彼の身長の1.5倍はありそうなメイスを持っていた。
「ところで質問いいか?」
「はい何でしょう? 迷えるお羊……ええと、記憶紛失者でしたっけ? ………………ヒック」
「……やっぱ酒飲んでるんじゃねぇか」
片手にビールを持って。
「ええ、私は僧侶ですから」
「いや僧侶が飲んでたらアウトだよ」
こりゃあダメだ。いつものように出来上がってる。
そう赤くなったボウルスの顔を見て僕は止めるのを諦めた。
さっき聖道教会に所属している雰囲気を出してると言っていたが、実際に所属している。
ただ聖道教会ではお酒類を飲むのは禁止されているはずだが……?
……まあボウルス以外でも酒飲んでる奴居たしなぁ。
冒険者パーティーはメチャクチャ厳しい所もあるから、そういう部分はあえて見逃してるって噂もあるし。
とそんな事を思い出していたが、よく考えればもっと気にすべき事が目の前にあった。
「なぁボウルス、そのメイスどうするつもりだ……?」
今の彼は酒が入ってて正常な判断ができない状態だ。
つまり──
「………………殴ります」
「あぁコイツ本気だぁ!? やめろぉ!?」
やっぱり殴って来た。コイツ僧侶のくせに人を殺そうとしてやがる。どうなってんだ!?
そう心の中でそう愚痴るが、このやり取りも既に何回かやっている。もう慣れてしまったから作業の如く、いつものように受け止めるとしよう。
……酔っ払った僧侶がメイスで殴って来る状況に慣れてるって何だよ、というツッコミは置いとくとして。
今の俺は
本気のボウルスならともかく、ヨロヨロになったコイツの攻撃なんて簡単に対処できる。
そう思って白刃取りもどきをしようとするが、その前に横から大柄の男が止めた。
「また酒を飲んでいるようですな」
メイスを掴んで止めた本人は白髪に長い髭。顔は皺くちゃになっているが、その目付きはベテラン冒険者と言える鋭さがあった。
背中に弓と矢を掛けていて、トンガリ耳のコイツはジョイス。
このパーティーの後方支援プラス魔法使いだ。
ちなみにトンガリ耳の通りエルフだ。
「リーダーもここで寝るのはあまりお勧めしませんぞ。いつお金が盗まれてもおかしくないのですから」
「おうおっちゃん。いつもの忠告ありがとう」
威厳のある、しかし優しさも感じるような目線に俺は毎回同じ返答をする。
冒険者とは魔王が復活してから急激に増えた、魔物退治をする専門家の総称だ。
ようは魔物を倒せるほどの力が有れば誰でも冒険者になれる。
だからゴロツキとかが冒険者やっていてもおかしくないし、その冒険者が集まる酒場でその忠告は間違いないのだが……
「まぁ大丈夫だろ? 私達は『絵本の探求者達』だし」
ミシェルがそう言って好戦的な笑みを浮かべて周りを見た。
そう、俺達はB級冒険者パーティー『絵本の探求者達』
B級冒険者四人で組んでいる、それなりに有名なパーティーだ。
E級から始まり、頂点まで昇り詰めたらS級まで上がれる冒険者。
B級まで上がれば冒険者達から見ても有名人みたいな物で、実力的には人類の中でも上位だといえる。
S級と比べるとショボイと思われてしまうが、そもそもS級の定義が『世界を救える人達』という世界でも三人しか成れない階級だし、A級だってパーティーを組めば国同士の戦争の戦況を変える実力を持っている。
モブの俺がここまで来ただけでも十分だ。上を目指せるなら勿論目指すが。
そんなパーティーにゴロツキ冒険者が手を出すのは考えずらい。
手を出した瞬間に、ミシェルの音速の百裂拳がこの酒場で披露される事になるだろう。
それどころか俺達の人脈的にヤバい奴らも敵に回す事になる。それはゴロツキ達でも分かるから、多分襲われる事はない。
……と、ここまで説明したが酒場で寝るのは良くない事だ。お店のマナーと言う物があるからな。ゴロツキは知らんけど。ここは普通に反省である。
「……いや寝ちゃうのは油断ありすぎだな。ごめん、相当疲れてたみたいだ。次から気をつける。マスターもすまん!」
「いいえ、いつもお金を落としてくれる常連です。少しくらい寝ていても問題ありませんよ」
「ははは……」
そう笑顔で小さく手を振ってくるマスター。
マスター的には特に問題なさそうだった。
いや言葉に甘えずしっかりしないと。これでも俺はB級パーティーのリーダー、外見も大切だ。
そう思っていたらミシェルが話しかけて来た。
「しかしリーダーがここで寝るなんて珍しいわね。いつも真面目なアンタなら、パーティーの待ち合わせ場所で寝るとかしないと思うんだけど……というかリーダー、顔色悪いぞ?」
珍しい物でも見るようなミシェル。
それはジョイスも同じことを思っていたようで、口を開いた。
「何か悪い夢でも……?」
「まあ……悪いというか、苦い過去を思い出してた」
黒歴史、本気で主人公になれると思っていた恥ずかしい過去だ。
振り返るだけでも心が苦しくなる。とにかく今は別の話題に変えよう。
「……そういえばみんなは何でここに?」
「忘れたのか? 絵本についてだよ、勇者の」
「ああそうだった。……やばいな。俺がそんな事を忘れるなんて」
「そうですな。みんなリーダーの夢で集まったチームだと言うのに」
呆れ顔で見て来るミシェルに俺は冷や汗をかきながら、ようやくここに来た理由を思い出した。
マーニャと別れてから数年経った今、俺はこの絵本に書かれていることについて調べている。
『絵本の探求者達』という冒険者パーティーを建ててまで。
絵本に書かれている財宝。
未だ王国が見つけていない架空のダンジョン。
そして勇者が持っている聖剣など。
それらが実際にあったのかそれともモチーフとなる物があるのか、はたまたただの空想なのかをはっきりする為に僕達は冒険している。
何で絵本の出来事なのにそんなに本気になって調べているんだって?
その疑問は最もだがこの絵本は街で売っている普通の本とは違う。
この本には遥か昔から世界各地で伝えられている『おとぎ話』が書かれている。
これがどんな意味をするかと言うと、この絵本に描かれている出来事が実際に起きていた可能性がある事を示す。
少し前まではただの物語として読まれていた『おとぎ話』だが、冒険者という魔物退治兼未知の場所への探索者が現れてから、絵本とそっくりのものが出てくるようになったのだ。それも沢山。
これを聞いた小さい頃の僕は、勇者を諦めた代わりにこの勇者の絵本の探索者になる事を決めた。
マーニャから勇者になれない絶対的な事実を叩かれた事もあって、逃げるように夢を変えた経緯もあるが……
ともかく新しい夢に向かって走り始めた僕は、数年経ってB級冒険者になれた。
B級冒険者になってからも少し経つが、いい仲間にも巡り会えて充実した冒険者生活も送れている。
場所を少し移してカウンターから少し離れた円テーブル。
そこで俺達四人は囲むように座っていた。
みんな真剣そうな表情でこちらを見ている。
それは当然、今から話すのはクエスト関係の話だからだ。
「それで今回の件だが……勿論遺跡の探索結果についてだ」
そうして最初に俺が言った会議の題を聞いて、ミシェルは嬉しそうに声を上げる。
「待ってました! 新しい発見に新しい変化! そして新しい強敵!」
「今回は新しい敵の情報は無いぞ」
「あらかじめ僧侶の私があえてが聞きますが、ミシェルにとっていい情報は無いという事ですね?」
「ああ」
戦闘狂のミシェルに早速俺が突っ込み、いつのまにか解毒魔術(酔い覚まし代わりだけど)を受けてたボウルスが追撃をした。
「……それは残念」
明らかにテンションが下がったミシェル。
しかし顔を俯いている彼女に特に慰める言葉はない。こんなやり取りも幾らでもやって来ている。
さっきボウルスがあんな事を言ったのも、最初にこの事をハッキリさせないと、強敵は? 強敵は? とミシェルがうるさくなるからだ。
結局ミシェル以外が軽く呆れたりするだけで会議は進んでいく。
「それで、今回の発見というのはやはりあの
ミシェルを気にせず話してくるジョイスだが、やはり聡い上に誰よりも知識のある彼は薄々分かっているらしい。
俺の夢を知って最初に参加して来たエルフだ。既に確信を得てから聞いている。
そしてその確信は当たっていた。
「あぁ、絵本の最後の方に描かれていた新しい聖剣についての情報だ。……初めて場所が描かれている情報が見つかったんだ」
拳に力を入れながら僕はそう言う。
「ああそれやっと見つけたのね」
「素晴らしい事ですね! やはり遺跡の奥で見つけた情報は、勇者が持つ聖剣とは別の聖剣の事でしたか!」
「うむ……長い間封印されていた伝説が、見えて来たわけですな」
僕が言った情報に仲間は、普通、感動、納得と様々な表情をする。ちなみに上からミシェル、ボウルス、ジョイスだ。
ミシェルは戦闘狂だから予想通り。
ボウルスは酒を飲む奴だがあくまでも聖道教会所属の一人。
神の教えの一つ、聖剣伝説に新たな1ページが刻まれるかもしれないからこの反応も予想通り。
ジョイスも……どう言う目的かは知らないが、絵本について知りたがってるのは分かっているから予想通り。
「なんつーか……予想通りの反応だな。みんな」
「何今更なこと言ってるのよ。私達は数年の付き合いでしょう?」
簡単に反応が予想出来るほど一緒に冒険して来た。パーティーを組んでから数年、色んな所へと冒険し、時には命の危険を乗り越えた。
仲間の全てを知っている訳ではないが信頼できると断言できる。
そう一つの目標へ、確実に近づいた実感をしたからかそんなふうに思い耽っていた。
(いやいやまだ道のりは長い。ようやく一歩目を掴めただけで、ゴールにはついてないんだ)
だがその思いを顔を振って消し去る。
まだ聖剣が見つかった訳ではないんだ。あくまで封印されている場所が分かっただけ。
しかもそれが複数見つかった事から、ダミーや間違いの可能性もある。
そもそも絵本に書いてあることが実際にあったと言ったが少し語弊がある。
全ての情報が見つかった訳でないのだ。
間違った情報や見つからなかった情報もあった。
そうでなければ俺達が出る前に、今頃王国の兵士達が血眼になって聖剣を探している。
「とはいえまだ確定した情報じゃない。これからも聖剣の探索は続くし、この情報に振り回される事もあるだろう」
まだゴールは遠いしその道のりは困難だが……でもひと段落はついたんだ。
「でも今は、一歩目を掴んだこの日を祝おうじゃないか!」
「「「おう(えぇ)!!」」」
そうして会議は終わり、ジョッキを持った俺達の祝福会が始まったのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ねぇ〜……もう終わっちゃうのか〜? 夜はまだ始まったばかりなのよぉ〜……ヒック」
「そーですよーリーダー。まだ僧侶の私は飲み足りてませんよ〜…………ヒック」
「ミシェルはともかくお前はダメだろ。今更だけど」
「僧侶ですから問題ありません」
「キリッとしながら意味わかんないこと言うな」
それから祝福会が終わり、日が落ちた頃に酒場を出ていた。
酔っているボウルスはジョイスに、ミシェルは僕が肩を貸している。
「そういうリーダーは全く酔っている様子がありませんな。もしや飲んでいなかったので」
「まあそうだな……」
ジョッキを片手に飲んでいたが、アルコールが入った物ではなくジュースを飲んでいた。
何というか、ビールとか飲めないんだよな俺……。
「というか何だか騒がしいな……」
そんな会話をしていた所で周りがガヤガヤしているのに気づく。
この時間はいつもなら静かなのだが、前を見てみると人集りが出来ていて騒がしい。
「何かお祭りでも……あ」
「心当たりがあるのかおっちゃん?」
「それが──」
ジョイスが何か言う前に人集りが騒ぎ出した。
(なんだなんだ? いきなりうるさくなって来たな……って)
不意に来た大声に耳を抑えるが、目の前の光景を見てこうなるのも仕方がないと納得する。
(ああ。そりゃあ
人集りの前にある大通りに騎士団が通っていた。
重そうな鎧を着た騎士達が何十人も隊列を組んで歩いており、その中心には三人が騎乗していた。
一人は守りと回復を極めた聖道教会の頂点──聖女
一人は回復から黒魔術まであらゆる物を会得した魔術の頂点──賢者
そして──
「……ちょうど今日でしたな。魔王退治の軍が出撃するのは」
遅れてジョイスがそう言う。
そうだ。あの時約束した夢はもう終わりかけていたんだった。
魔王が支配していた暗黒時代。
それが目の前に映る三人の快進撃で終わりを告げようとしていた。
今まで倒せる事のなかった魔王幹部達を容易く破り、今まさに人類の希望として崇められているS級冒険者達。
そしてそのS級冒険者達の頂点に立つ彼女は──勇者
綺麗な姿は変わらず、しかし着ている鎧は銀色に光り神々しい。
まさに人類の救世主と言える輝きと頼もしさ。
それをただ見ている俺でさえ感じ取れてしまうほど彼女は強く育った。
(本当に立派になったな)
彼女や賢者達を見に来た人達は、応援の声や人類の悲願を叶えてほしいなど様々な声援が届いている。
その中で誰も彼女を蔑む声なんてない。当然だし、そんな奴居たら俺がぶん殴りに行くが。
その光景はまるで絵本のようで。
マーニャは文字通りその絵本に出てくる勇者そのものだった。
(それで本当に……遠くなっちまったな)
僕とマーニャの間はせいぜい五メートルぐらいしか無いはずだ。
しかし心の中ではもっと離れているように感じてしまう。
「ねぇ、本当にいいの? リーダー」
そう遠い目をしていた僕に話しかけるのはミシェルだ。
「……お前酔っていなかったの「はぐらかさないで、割と真面目に聞いてんのよ」……そうか」
さっきの赤い顔をした彼女はいない。今はいつもの様に、いやいつも以上に真剣な眼差しでコチラへ問いかけている。
「昔勇者様と誓ったんでしょ? 彼女の隣に立つ男になるって」
パーティーを組んで数年経った仲だ。僕の黒歴史は全員には話した。
とはいえみんな苦しい記憶だとはわかっているから、そんなにズバッと入り込む事はないのだが……
まあさっき言った通り彼女は真剣に聞いているんだ。その事に気づきながらも少し考えるが……やっぱり考えは変わらない。
「そりゃあ隣に居たいけどダメだ。実力が違いすぎる」
こんな事いくらでも悩んできた事だ。それも一時期は生活が崩壊しかけるまで。
でも結局辿った答えは一つだ。
僕はマーニャの隣に立つ資格は無い。
元々マーニャと僕の土台からして違う。僕も僕なりに努力していたが、『才能』という圧倒的な壁を越える事は出来なかった。
「勇者と僕がいる世界は違いすぎる。お互いに合った場所にいる方がいいさ」
「…………ハァ……」
僕の頑固さにミシェルは諦めたのだろう。彼女らしく無い重いため息をしていた。
そうすると彼女の目線は悲しくも優しくなる。
「……ごめん。リーダーの気持ちは知ってたはずなのに、こんな質問しちゃって」
「分かってる、諦めきれなかった頃の僕を知ってるからな。そうしたくなるのも無理はない」
静かに言った僕達の言葉は、騒音の中へ消えていった。
⭐︎⭐︎⭐︎
それから勇者達の出撃を見届けた僕達は、宿への帰路へと付いていた。
ミシェルはもう普通に歩いており、今酔ってるのはジョイスに肩を貸されているボウルスだけだ。
「それでリーダーはどうするのですか?」
「それ気になるわ。私は魔物とバトってこうかなって思うけど」
そう言ってくる仲間達だが、さっきの会議では数日だけパーティー活動は休止にすることを伝えてある。
今までほぼぶっ続けで冒険していたし、今なら区切りがついて休むのにも丁度いいからだ。
「俺は実家に帰るよ」
当然俺も予定を考えてある。
そもそも絵本の探求ともう一つ、実家にお金を送るために俺は冒険に出たのだ。
俺の家はお父さんが死んでしまったから貧しい。それを解決するべく今も仕送りしている。
とはいえ冒険の合間合間に何回も送っているとはいえ、たまには姿を見せないとバチが当たるだろう。
今のタイミングで一度母さんに顔を見せようと言う考えもあった。
「やっぱり戻るか。まあ私も平常運転だし……あんたは? おやっさん」
「私も魔物を狩りながら趣味に走るつもりで」
「趣味って確か、フィールドワークだったか? キノコや薬草の?」
「そう言った所ですな」
そう言っていつもの様に雑談をしながら宿の前まで戻った俺たちだった。ちなみにボウルスはずっと寝たままだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「帰って来たのかい!」
「ああ、久しぶりお母さん」
その翌日、俺は早速実家まで帰ってお母さんと抱きついていた。
昔から変わらない家の木の匂いが、俺を懐かしいと思わせる。
「母さん、これお土産だ」
「……こんなに」
「俺も冒険者になったからな、これぐらいのお金は稼げれる様になったんだよ」
テーブルにドスンッと重い音を鳴らしならが、俺は冒険袋を置く。
その中身を見ると、沢山の金貨や農業に役に立つ物が入ってあった。
「今までも仕送りしてたけど、これならより一層生活が楽になるだろう」
「……ありがとう。本当に助かるよ」
「父ちゃんは俺が小さい頃に死んじまったしな。これぐらいの事はするよ……二階行ってもいいか?」
「勿論だ! あんたの部屋だからね!」
年齢を感じさせないとっても元気な声を出したお母さんに、手を振りながら俺は階段を登っていった。
たまに木が軋む音を鳴らしながら自分の部屋の前まで着く。
(懐かしいな……。小さい頃は毎日ここから走ってはマーニャの所へ行っていたんだっけ)
昔のことを懐かしながらドアノブを回した。
するとそこは自分が住んでた時と変わらない風景が広がっていた。
ベッドにタンス。どれも昔の記憶と同じ位置に置いてある。
(母さん……掃除してくれたんだな)
それどころか埃が少しも溜まっていない。俺が冒険者になってからも、この部屋を大切に保管してくれたらしい。
王国から村へとそれなりに長い旅をして来た俺は、負担を減らしたいと言わんばかりに、鎧を素早く外す。
そしてそれらを部屋の片隅に綺麗に置いた後、ベットで横になった。
そこで思い出の品を見た。
「……これまた懐かしいな」
横になった自分が見えたのは本棚と、その本棚と部屋の壁の間に挟まっている剣だった。
ボロボロになった木剣。小さい頃に勇者ごっこで飽きるほど使った子供用の剣だった。
「俺とアイツは、ずっと離れ離れのままだな。……あの日から」
『……これで終わり。もう関わらないで、ずっと』
別れたあの日に言われた言葉は今も心の奥に刻まれている。
とはいえあれから数年は経っている。忘れられない傷にはなったが、俺はこの傷と折り合いは付けたつもりだ。
お前は弱いと足手まといになると言われたのも当然傷ついた。だが今にして思えば仕方ないと思っている。
村の中では強い方の俺だったが、所詮村の中の話だ。世界には地形を変える程の力を持っている奴がいる。
勇者とその仲間はそいつらと戦って勝たなければならないんだ。そりゃあ切り捨てられる。
でも……。
(これが未練って奴か? もうマーニャの冒険は終わろうとしてるのに、俺はまだ一緒に冒険したいと思ってやがる)
ミシェルに言った言葉は嘘では無い。
今も俺はマーニャの隣に資格はないと思っているし、これ以降でもずっとそんな機会はないと思っている。
でもそれはそれとして、やはり一緒に冒険したいと思っている俺もいた。
「……ハァ〜〜」
静寂な部屋の中で俺のため息がよく聞こえた。
精神的にもとても疲れた気がする。そうして俺は目を閉じた。
「ご飯よー!」
お母さんの一声で僕は目を覚めた。
想いに耽っていたのかそれなりに時間が経っていた様だ。
来た時と比べて外も暗くなり扉からご飯の匂いが漂っていた。
「分かった! 今行く!」
子供用の剣をもう一度見て、俺はそのまま食卓へと言ったのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「なんだって? お前……今なんて言った!?」
「ま、待てって……!?」
翌朝。
俺は家の外で村の住民の胸ぐらを掴んでいた。
そのまま勢いを付けて家の壁にぶつけてしまう。
この住民はここに住んでいるが、たまに別の村や町に行って仕事をしている時もある。
そんな彼が魔物に会う可能性も承知で、日が明ける前に別の町から大急ぎでこちらに来たそうだ。
重大な情報を伝える為に。
そしてその情報を真っ先に伝えようとした人物が俺だ。
今この村の中で一番強いのは俺。
だからこの魔物どういうより人類に関わる情報を俺に伝えてくるのは間違っていない。
しかしその情報を聞いて俺は取り乱してしまった。
「落ち着けって! 死んじまうぞ!?」
「! ……悪い。頭が混乱してた」
「は、はぁー……キツかった……」
別の男が全力で割り込んできてようやく俺は混乱から抜け出す。
さっき胸ぐらを掴まれていた男は深呼吸しながら、勇者達の情報を伝えてくれた。
「勇者達の魔王討伐は失敗だ。魔王城への転移陣から戻って来れたのは賢者だけ。聖女と騎士達は死んじまったらしい」
「…………」
やはり聞き間違いではなかった。
俺が聞いたのは想像する中でも最悪に近い結果だった。
この世界で魔王を倒せると言われているのは、勇者、聖女、賢者の三人。
その三人と国が全力を挙げて集めた精鋭達が全滅したというのだ。
それを表すのは人類の敗北。
誰もが彼らならやってくれると信じていた。
歴代の勇者達の誰よりも早く快進撃を進めていき、それどころか今までの勇者達が成し遂げなかった、魔族を一人だけで討伐する偉業もマーニャは成し遂げている。
人類最高の勇者。
そう言われていたマーニャが負けたのだ。
これほど絶望的な状況は無い。
(……そういえばアイツは?)
だが一つ聞けていない情報がある。
聖女と騎士達は死んでしまった。
賢者は重傷を負って戻ってきた。
なら──
「……勇者は?」
──マーニャはどうなった?
「瀕死の賢者様が言ってたらしいんだが……」
それを聞くと男は今まで以上に気まずそうに言った。
「洗脳魔法によって魔族の手に落ちたらしい」
俺の耳が遠くなるのを感じる。
それってつまり──
「勇者は人類の敵に回っちまったんだ」