モブ冒険者だった僕だが、最後の意地くらい通してやった 作:ギル・B・ヤマト
「やばいなこれは……」
住民から詳しい情報を聞いた俺は自分の部屋へと戻っていた。
ベットに腰をかけて頭を抱えている自分は側から見ればとても追い詰められている様にみえるだろう。
実際に追い詰められている。
それは勇者が敵に回った事で、人類がかつて無い危機に陥っていることもそうだが……
「マーニャは大丈夫なのか?」
それと同じくらいマーニャを心配していた。
話によれば聖女を殺したのは操られた勇者と聞いている。
俺が冒険者で頑張っていた時期から彼女達の仲がいい事はよく話題になっていた。
俺でいうならミシェル達。
そんな親友を洗脳されたとはいえ己の手で殺めてしまった事実は彼女をとても苦しめるだろう。
(アイツはいじめてきた奴だって心配するほど優しい奴なんだよ……!)
この村で一緒に過ごした事を思い出すと、いつも誰かの助けになったり傷を癒したりばっかだった。
それも酷いことしてきた奴関係なく出来るだけ全員にだ。
そんなマーニャが親友を手にかけてしまった。その事実を考えると……
(待て……今はその事を考える時じゃ無い。いや大切な事だけどもっと優先しないといけない事があるだろ……!)
そこでヒートアップした感情に気づいた。
突然の情報に俺は混乱している。洗脳させられた事に怒りも混じって正常な判断が出来ないでいた。
確かにマーニャが辛い思いをしているのは許せる話では無い。だが俺がそんな事を思ったままで何かが変わるか?
変わらない。
思う事は大切でも今を変える事が出来るの行動する者達だ。
この状況をどうにかする為に何をすれば良いのか考えろ。まずはそこからだ。
(そうだ。とにかく今は冷静に判断できる様にしないと……)
とにかく落ち着こう。
とりあえずいつも気持ちを穏やかにさせる様な姿勢になろうと思いベッドで仰向けになった。
体調維持の為にいつでもすぐに体を休めれる様にこの姿勢でどこでも眠ってきた。
当然眠りに近づければ心も落ち着く様になる。
今まで落ち着く時はいつもコレを活用したし、今回もそれを狙ったのだが……
(まずマーニャを止める為に今すぐにでも出発するか? その前に準備だ。薬草、魔法瓶、装備もいい物を揃えないと……いや俺はB級冒険者だぞ? S級冒険者に立ち向かう事すら……)
効果は乏しかった。
状況が状況だ。
人類の危機でもあるし幼馴染が負けたショックもある。とてもいつもの方法では落ち着けるわけがなかった。
結局衝撃的な情報にぶん殴られた俺は、心の整理も出来ないまま時間が無駄に過ぎ去っていくだけだった。
「……しまった。もうこんな時間かよ」
考える事に夢中で気がついたら夜になっていた。
途中でご飯もあっただろうが気付けていなかったらしい。
お母さんも俺が混乱した時は時間が過ぎるのが一番だと良く知っている。あえてここまで来て声をかけなかったのだろう。
だいぶ時間は消費してしまったが混乱した頭は元に戻った。今なら心も比較的落ち着いている。
(こんな状態になってしまったのも久々だな)
冒険でもこんな風になったのは何回かあった。
その度に仲間達に迷惑を掛けてしまい、掛けた分だけ次はこうならない様努力してきたわけだが。
(結局またなっちまったか。はぁ〜……不甲斐ねぇ)
何度目かのため息が出てしまう。
頻度は下がってきたが結局混乱してしまった事に対して無能さを感じてしまう。落ち着いたがネガティブな気分だ。
(とにかくいつでもここを離れる様準備しないとな……でも離れたってどこへ逃げればいいんだ?)
勇者が敵に回った。それどころか聖女も死に賢者もずっと戦えない程の傷を負われている。
この状況はハッキリ言って詰みだ。
人類はただ滅ぼされるのを怯えて待つしか出来ない。
今までだって魔王が人類を脅かす事はあった。
でもそんな事になっても今まで人類の繁栄を守る事ができたのは、勇者というカウンターが居たからだ。
勇者が居れば倒す事も出来るしそれが無理なら封印という手段も使える。
例え賢者や聖女が居なくても勇者さえ居れば魔王退治は可能なのである。
勿論賢者も聖女もいた方がいい。どちらも人類の頂点なのだから成功する確率も安定性もグンと上がるだろう。
だからこそ王様達は
それで魔王との争いを終わらせようとしたのだろうし、俺が王様でも同じ手段を取る。
それが最悪の結果として返ってきてしまったわけだが。
(魔王だけでもキツイのに勇者も敵に回ってしまった。人類側に魔王も勇者も止める人間なんていない。どこへ逃げても最後は全て滅ぼされるだけだ)
考えただけでも現実逃避したくなるほどの悪夢だ。
魔王だけでも相当厳しいのにそこへ魔王と同等に強い勇者まで加わってしまった。普通ならすぐに人類が滅んでもおかしくない状況だ。
(ただ不幸中の幸いか聖女様が最後の力を振り絞って勇者を封印したらしい)
賢者の話によると封印期間はおよそ一年。
その間は今までと同じ生活を送れる……訳もなく、予想だが魔物達の攻めは激しくなるだろう。
情報を届けてくれた住民が教えてくれたが、これからA級冒険者達を比較的魔王城に近い村や町に防衛してもらうらしい。
その他にも人材育成などいろいろするようだ。
B級冒険者も後から随時王国から指示が出るそうだ。
それまでの間に俺は母親が逃げた先でも安定した生活を送れる様にしなければならない。
(ひと段落ついた先にいろいろやること増えたなぁ……)
さっきとは変わって将来のことを思う。
やっと仰向けになった効果が出たのか、それとも絶望的だと改めて気づいて混乱するのかアホらしくなったからか、今後の事を考えれる余裕が生まれていた。
出来るだけお母さんに負担をかけないようここから離れるか、そんな事を考えながらなんとなく体を横にした。
「あっ」
しかし目の前に映った物を見てそれは中断する事になる。
昨日も似たような状況になった気がする。
これがデジャヴかと関係無い知識を思い出しながら、目の前にある物を改めて見る。
「状況はだいぶ変化してるけどこいつは俺が出て行ったきり、何も変わらないなぁ……」
本棚とその隣に置いてある子供用の剣。
こんな状況だからこそ些細な心の安心が欲しくなるもの。
懐かしいという感情に引っ張られて俺の思考の先は今から過去へと変わっていく。
「今世界を侵攻しようとしている勇者は昔、この村で俺と遊んでたんだよな……」
これも癖という物だろうか、どうしてもアレを見ると過去のことを思い出したくなる。
初めて出会った時のこと。
勇者ごっこを始めた頃のこと。
いじめっ子達と戦って絵本を取り戻したこと。
村で色んな人のお手伝いをしたこと。
そして最後に別れた時のこと。
色んな事があった。嬉しい事も嫌な事もあったが今では全ていい思い出だと言える。
その中で印象に残ってるといえばやはり最初の出会いだろうか。
魔物がいじめていた少女を助けた時、手に持っている絵本に目が行った。それでマーニャと俺は仲良くなって、ボロボロになっていく絵本を毎日読むようになったのだ。
そういえば今冒険で持っているのは複製本。
元々マーニャと一緒に読んでいた本はこの村から出る時にどこかしまった記憶がある。
「……どこに入れてたんだっけ」
今はどこにあるんだろうか? 数年前の話な物だから少し記憶が曖昧になっている。
確かそこの本棚にしまったはずなのだが、今までもその絵本は見当たらない。
「……『おとぎ話の勇者の絵本』。あれがあったからマーニャと仲良くなれたもんな」
少し悲しい気持ちになりながらも俺は過去のことを思い出していく。
勇者ごっこした後の時のことを。
勇者ごっこで遊んだ後は毎回二人で読み合っていた。最初はお互いに話しづらいところもあったが、この絵本が話の切り口になったおかげで次第に仲良く会話できるようになった。
途中からマーニャがものすごい早口で滑舌良く、勇者を語ってくるようになった物だ。
(懐かしいな……)
そして俺がいじめっ子から絵本を取り戻した日。
最後辺りのページを話し合って、その時の綺麗な彼女に見惚れて好きになったのだ。
そう。あの闇に囚われたお姫様を救いに行く勇者様が描かれているページを見て。
(それで約束もしたんだったな。いつでも助けるって──)
思考が真っ白になる。
(……今更思い出した)
そのページに書いてあるのは不確定な情報だ。でも可能性が低いだけで現状を打破できるかも知れない情報なんだ。
思い出したのは当然闇に囚われたお姫様とそれを取り戻す勇者様。
(
その展開に酷く見覚えがある。特にお姫様の方へ。
今の状況とよく似ている。魔族に洗脳された絵本のお姫様と、同じく洗脳された勇者マーニャ。
立場が真逆だが起きている事は同じだ。
そして大事なのはもう片方の勇者……が持っている新しい聖剣。
それもつい昨日会議で話したばかりの重大な聖剣だ。
(絵本で洗脳されたお姫様を……勇者が新しい聖剣の力で取り戻しているんだ……!)
どうしてこんな事を忘れていたのだろうかと自分のバカさに文句を言いたくなるが、今はそれ以上に喜びが勝っていた。
可能性は高くないしむしろ低い方だろう。
それに今まで以上に危ない冒険にもなる。
だが──
『でも危険だからって諦めなかったぜ。絵本の勇者は』
俺の憧れた絵本の勇者はそんな事でやめたりはしなかった。
『勿論、ピンチになったらいつでも何処へでも駆けつけるぜ! それが勇者だからな!』
少しでもマーニャを助けられる可能性があるなら、俺は諦めたくない。
「最後くらい……俺だって意地は通したいさ」
マーニャを助ける。
俺の今後の行動はそれ一筋だと決心した。
そうして日がさらに沈み深夜になった頃に俺は静かに一階へ降りていた。
お母さんに気づかれない様に忍び足で動き、テーブルの上に袋と手紙を置いた。
たくさんものが入った袋の中身は俺の全財産と冒険以外で使う道具が入っている。これで一年以上は生活には困らないだろう。
(早く出ないとな……お母さんは妙に察しがいいし)
本当ならお母さんと正面向いてこの事を話すべきだろうが、そんな事すればお母さんは必ず止めてくる。
昔から母一人で育てた子供だから大切にしているのは分かっているし、だからこそ話し合いをしたく無い。
もしお母さんに止められたら俺の心は迷ってしまうだろう。お母さんを一人にするのが我慢できずに。
ここに長居する必要はない。
決心して出口の扉のドアノブを持とうしたその時だった。
「私に何も言わずに出て行くのかい?」
聞こえるはずのない声を聞いて振り向く。
そしたら壁にもたれ掛けているお母さんがいた。
おかしい、いつもなら寝ているはずなのに……
「マーニャを助けに行くんだろう?」
その言葉に俺は目を見開く。だがお母さんはそんな俺の姿を見て呆れる様にため息を吐いた。
「何で分かるかって? アタシはアンタを一人で育ててきたんだよ? それくらい分かるさ」
「……止めに来たのか?」
わざわざ起きているという事はそうしに来たのだろう。もし止めるつもりがないのならお母さんは寝て見過ごすはずだから。
……早くここから出た方がいい。ここで止められたら俺に迷いが生まれてしまう。
気持ちが揺らぐ前に去らなければ。
俺はすぐさまドアノブに手をつけた。
「アンタを止めに来たんじゃないよ。ただ忘れ物を届けに来たんだ」
「な、止めに来たって……それに忘れ物なんか──」
振り返るとお母さんが一つの絵本を見せてきた。
勿論絵本と言えばただ一つ。
昔マーニャと毎日読んだボロボロになったおとぎ話の勇者の絵本だ。
それをお母さんが大切に持っていた。
「母さん……それは」
「アンタの大切な物だからね、あの剣とは違って本はしっかり保管しないとダメになっちゃうからアタシが持っていたのさ」
「でも俺、複製本はあるんだぜ? 冒険なら別にそれがあれば──」
「分かって無いね」
俺の言い分を強く断言するお母さん。
これも懐かしい。俺が昔危ないことや悪いことをした時はこんな風に叱ってくれた。
「アンタが行こうとしているのはどうせ危険だ旅なんだろう? だったら心の拠り所が必要さね。言っていただろ? いつでも諦めない事が大切だって」
俺が小さい頃に飽きるほど言っていた事だ。絵本の勇者に影響されて、この事をモットーに俺はこの村を過ごしてきた。
「ならマーニャと一緒にボロボロになるまで読んだこの本は必要だね。アンタの心の拠り所になる思い出は、この本にしか入ってないんだから」
「…………」
「心が折れそうになった時に読んでみな。それで思い出せるはずさ。アンタは助けるべき人がいるってな」
そう言われてしまうと俺はなにも言い返せない。
ただ静かに差し出してきたその絵本を俺は受け取った。
「お母さん。俺を止めないのか?」
「なんだい止めて欲しいのかい?」
「……いや止めてほしくない」
「まぁそうだろうね。マーニャを救いに行くんだから。惚れた相手だ。絶対に救いな!」
「……ああ」
いつもより勢いを感じるお母さんに俺も心の迷いが消えて行く。そうだ、心が迷っている状態でマーニャを助けに行くなんて無理だ。
俺はこんな所で弱気になっている場合じゃない。
「力はあっても心が弱けりゃあ意味ないもんな……」
お母さんも俺の背中を押してくれた。
その事に感謝を抱きつつも勇者の本を受け取る。
「ありがとう母さん。俺一人で冒険するけど絶対にこの事は忘れない。見てやがれ俺がマーニャを救いに行くさ!」
「ああそれでいいんだ。昔みたいに最後まで噛みついていきな! その根性が私の自慢の息子の良いところだからね!」
「おう!」
「……ただもう一つ。お前は間違えてる所がある」
「?」
トンッ、トンッと後ろのドアから音がする。
一体誰がきたのだろうか、普通ならこんな時間に人なんて来るはずがないのだが……
「ようやく来た様だね、アンタの親友が」
「……まさか」
「しっつれいしまぁーす! とりゃああ!!!」
「げぇっ!?」
嫌な予感がして身構えていたら誰かが扉を蹴って入ってきやがった。
なんだこんな時にダイナミックに入って来やがって──
「ってミシェルじゃねぇか!? 何でこんなところに」
「何言ってんだ? さっさと勇者を助けに行こうぜ」
よく見たらミシェルだった。
いつもの様にニヤリ顔をして俺の前に堂々と立っている。さっき礼儀知らずな入り方をしたというのにこの自信たっぷりな姿は間違いなく彼女だ。
というか勇者を助けに行くって言ったよな今?
「あれ、何その間抜け顔。リーダーならもう分かってると思ってたんだけど」
「ミシェル、リーダーの心境を考えなさい。あれほど勇者様に惚れ込んでいた人ですよ? 彼女の不幸を知れば……」
頭にハテナを浮かべている俺の事をよそに次の仲間が入ってくる。
そいつは扉から来る逆光で光ったメガネをクイっとさせて、無駄にカッコよく入って来た。
「ボウルスじゃねぇか。なんだカッコつけて、いつもの地味男はどこ行った?」
「扱い雑すぎですよ……僧侶の私とミシェルの反応の差何ですか」
「その様子だといつも調子に戻った様ですな、リーダー」
「おっさんまで……!」
それだけじゃない。
彼女達の後ろを見ればジョイスもいる。つまり『絵本の探索者達』が集結したわけだ。
「ようやく来たねアンタ達。アンタらのリーダーは冒険行く気満々だよ」
「お久しぶりね、リーダーの母さん」
「こんな時に失礼して申し訳ありません……」
ミシェルがお母さんに手を振りボウルスが申し訳なさそうにお辞儀をしている。前に何度か会ったことのある仲間達とお母さんはすっかり気が置けない仲になっていた。
「いいさいいさ。今から行く冒険はこれ以上に危険になるんだろう? すぐに駆けつけてくれる仲間がいた方がアタシは母として気が楽だよ」
「流石はリーダーの母、こんな時に心が強いのは同じですな。冒険の土壇場で何度リーダーの覚悟に助けられたことか……」
「アンタにそう言われると私も鼻が高いね」
特に驚いた様子も無く普通に会話するその姿から、お母さんは必ず来るだろうと思っていたらしい。
というかこの感じ、ミシェル達は俺が冒険に出て行くことに気づいているな。
「お前らもしかして俺の冒険の事……?」
「……はぁ〜?」
深くは語らない質問だったが俺が何を言いたいかは理解したらしい。ミシェル達は何を今更と驚いた表情をしている。
あ、これ俺だけ仲間はずれになってる?
そんな些細な不安を後押しする様にミシェルは呆れ顔で近づいてきた。
「何言ってるんだよ。私達は『絵本の探索者達』。聖剣の事ぐらい分かるさ。それにリーダーはもう家を出て行ってると私達は思ってたんだぜ?」
「聖剣の存在にいち早く気付いて行動に移していると思ってましたがやはり。リーダーは勇者の事でそれどころではなかったようですね」
図星だ。俺が情けない事になっていたのを軽く見破られて、顔が赤くなってしまう。
「しかし先ほどはいつものように会話をしておりましたな。あれを見る限り心の問題は解決したようで」
そんな恥ずかしい俺を特に嘲笑う事なくよく見せる笑顔でジョイスはそう言ってきた。
ああ恥ずかしい! 全て見通されているじゃねぇか!?
「全部合ってやがる……」
「リーダーの考える事なんてよく分かりますよ。勇者様の事なら特に」
今更と言わんばかりにボウルスは言ってきやがった。
正論なので何も言い返せないのが悔しい。
……つまりこいつらは俺がする事を完全に理解した上でここへ来たという事だ。
でも俺は『絵本の探索者達』のリーダー。気持ちでは理解できてもこれは命が掛かっている冒険だ。
確認しよう。まあ無駄足になると思うが。
さっきのふざけた雰囲気も消して真剣な顔でミシェル達を見る。
「いいのか? この冒険は今まで以上に危ない事になる」
「何を今更。今までの冒険で危険じゃなかった事なんてあった?」
「だけど今は絵本に書いてあるだけの聖剣だ。無い可能性だってあるぞ」
「私達は『絵本の探索者達』ですよ。そんな事承知済みです」
「…………なら付いてきてくれるのか?」
「愚問ですな」
全員が当然と言った表情で返してくれる。
こんなお金にもならない冒険について来てくれるとはっきり答えてくれたのだ。
「ほらリーダー。幼馴染を助けたいんでしょ? ならさっさと冒険に出ましょうよ」
ミシェルが手を腰に当てながら言う。
そこに重々しい感じはしない。むしろ気楽そうに言ってきた。
「……あぁ」
そんないつも通りの会話に俺は軽く笑う。
そうだな、今までの命懸けの冒険もこんなノリで乗り越えてきた。
やる事には全力だし冒険を舐めているわけでもない。ただ隣に信頼できる『仲間』がいるからこんな風に笑顔で楽しんでこられたんだ。
「お前らはもう覚悟決まってるしな。ならリーダーの俺もウジウジしてらんねぇ」
仲間達の平常運転の姿を見て俺も調子が戻ってきた。
その姿を見て満足したのかミシェル達は家の外へ出て行く。
「アンタ達、私の息子をよろしく頼むよ」
「勿論。僧侶である私とその戦友達に任せてください」
「またねぇ〜リーダーの母さーん。後ドアの修復はボウルスがやっとくから」
「何で私が」
「またお会いしましょう。リーダーの母殿」
ミシェル、ボウルス、ジョイスが出て行き(ボウルスは出るついでに魔法で直した)そして最後尾になった俺は扉の前で一度振り返る。
「お母さん、マーニャを助けに行ってくるぜ」
「いってらっしゃい。必ず助けてくるんだよ!」
お母さんの頼もしい声を聞いて俺は手を振って家を出た。
冒険と同じように俺が先頭に残りの仲間達が後ろからついて行く。
「ありがとなみんな」
「仲間ですからこれぐらいは当然です。僧侶ですから」
「僧侶関係なくない?」
「そこ、いい空気なんだから突っ込まない」
「はいはーい。ごめんなさーい」
「反省してませんな」
村から少し離れた所で俺達は月下の光に照らされていた。幻想的な風景だが、そこにいる俺達がこんなのでは台無しである。
「勇者を救いに行く空気じゃねーな」
「本当にそうだな」
はっきり言って似合っていない。もしかしたら月は祝福してくれたのかもしれないが、祝福している相手が残念だ。
でもこれでいい。
俺達はいつもこんな感じで冒険を始めて壁を乗り越えてきた。
「それじゃあ行くか、勇者……いやマーニャを救いに行く旅へ!」
「「「おうっ!」」」
そうして俺達は新しい冒険へと出た。
※軽いネタバレ
次はすごく時間が飛びます。
どれくらいかと言うと終盤まで。