モブ冒険者だった僕だが、最後の意地くらい通してやった 作:ギル・B・ヤマト
というか……賢者の回想、物凄く長くなってる。
「……ご、ごめんなさい」
「言葉に反省の心がこもってない」
「うるさいなぁ! こんなやらされの謝罪なんか「うるさい」イテッ!?」
次の日、僕はイジメてた子達の所へ謝りに行っていた。マーニャと一緒に。
昨日完璧なまでの敗北を経験した僕はそのショックから熱を出した。
しかし勇者であるマーニャはそんな事してる暇はないと言いやがって回復魔法で熱を治した上に、ごめんなさいしに行くぞと僕をベットから引っ張り出してきやがったんだ。
「いいよいいよマーニャちゃん」
そう言ってくるのは昨日いじめていた女の子のアリスだ。
コイツも勇者マーニャのようにいじめるのを止めようとして僕にボコられた奴。
ちなみに聖女の力で僕のイジメを止めに来た彼女だが、聖女は守りと回復の力を持つ人類の頂点。
全ての魔術に通じていた賢者である僕と相性が少し悪いのと、よく力を振りかざす事をした僕とあまり力を戦いに使い慣れてない差があって彼女は僕に負けている。
しかし銀色のロングヘアーに赤いのに優しさを感じる瞳をしている彼女は僕を蔑む所かこんな事を言っている。
「でもそんな事言ってたらコイツは付け上がるだけだっ……ですよ?」
そして勇者である彼女は慣れない敬語を使っている。
慣れない言葉だから聞いている側のこっちとしても妙に気になってしまう。
ただ目の前のアリスはそんな事は思っていないだろう。
彼女はどこまでも優しい奴だから。
そして強い力を持っているはずなのにそれを振り回さない嫌なやつでもある。
「そんなにかしこまらなくていいのよ? 敬語じゃなくて普通の言葉で話してほしいな」
「で、ですが。聖女……様にそんな風に話すのは」
「それ言ったらマーニャちゃんだって勇者でしょ? お互い憧れのクラスを持ってるんだから気楽に話しましょ?」
「で、でも」
「それに私達は人類を守る役目を持ってる。そんな人達がフレンドリーでいた方が皆んなも安心すると思うの」
「は、はi「敬語」……うん。分かったアリス」
そう言われたアリスは嬉しそうに笑みをこぼした。
本音はただ普通の会話をしたいだけだろうがそれらしい理由を言って勇者を強引に納得させた。
……いや納得すらして無いな、これゴリ押しだろ。
「レックスもマーニャちゃんと仲良くしてね」
それでいて彼女は優しいというか、みんな幸せになってほしいという頭お花畑だから僕にそんなこと言ってくる。
イジメをしていた奴にイジメを止めた奴と仲良くしろって言ってきたのだ。
「嫌だ」
普通無理だしそれ以前に僕のプライドが許さない。そう断言した。
「コラ」
「イタッ!?」
すぐさま勇者のゲンコツが炸裂する。
僕はこの後マーニャに引っ張られながら城中でいじめていた奴に謝罪をしまくった日になった。
この時はまだ持っているのに強い力を振るわない彼女達を僕は嫌っていた。
「ちっ……お前強すぎないか?」
「当たり前だよ。私は勇者なんだから」
「……ムカつく返しだけど認めるしか無いな」
僕は気に入らない奴はとことん気に入らない。
己のプライドとかで気に入らない奴を見逃せない性分になってしまった僕は、初めて会った日の翌日からマーニャに一騎討ちを申し込んでいた。
いじめていた奴で僕より弱いのは後回し。
聖女のアリスは強いがあいつを虐めようとするならマーニャが襲いかかってくる。
それならマーニャから仕返ししようと思ったのだが……
(強すぎる)
勝てなかった。
今度は油断もせず全力でやった。
賢者らしく無い小賢しい方法も使っていると試合を見ていた大人達は思っただろう。
戦いの中では勝つ為にプライドも捨てて全力で行った。
なのに……それでも勝てなかった。
賢者である僕は彼女の中に秘めている力に気づいている。流石は勇者と言った所かその量は今まで見てきた誰よりも大きい。
まあ昨日はあまりのビビり具合にろくな戦い方が出来ないだろうとたかを括っていたが。
(コイツは手慣れていやがる)
昨日はそこまで感じていなかったが今回戦ってようやく分かった。
戦い慣れしている。
単純なパワーとパワーのぶつかり合いではなく、剣の技術や策を用いた戦いを彼女は既に経験している。
恐らく動きの慣れと色んな攻撃へ冷静に対処できることから、少しではなく沢山しているだろう。
「お前……辺境の村に住んでただろ? 何でそんなに多彩に戦える? 戦闘経験が尋常じゃなさすぎるぞ」
軽蔑や皮肉でもなく純粋な疑問。
そこから出た賢者の質問にマーニャは隠すこともなく返答をする。
「私にはずっと戦いの練習相手がいたの。その人と戦ってたら色んなことができる様になった」
「練習相手……?」
帰ってきた返答は賢者の頭へさらにハテナが追加される結果になった。
勇者が住んでいた村は何処にでもある村だ。魔王城の近くにあるわけでも無いから強い魔物も生息していない。
人間に関してもそうだ。あそこに引退した強い冒険者の話なんて聞いたことがない。
「まさか無名の天才がいたのか、それもお前以上の天才が……!?」
「違うよ」
これしか無いと確信した僕の言葉を戯言の様に勇者は断言した。
懐かしみながらも悲しみも混じった顔で彼女は話し始める。
「その人は私より早く走れないし、大岩を持つことだって出来ない。技だって私より覚えるのが遅いし、決して才能があるとはいえなかった……何処にでもいる村人だったよ」
「何だよそれ、つまりただの雑魚じゃん」
勇者の言っていることがまるで理解出来ない。
速さも力も才能も無かった? そんな奴が天才であるお前の練習相手になるわけがない。
そんな奴は圧倒的な力の差を見せつけられてビビって消えるか諦めるかの二択だろ。
そんな不可解な感情を顔に出していたからか、勇者は笑みをこぼしながら王城の練習用の剣をこちらに向けた。
「ううん……確かに才能は無かったけど強かったよ。今のアンタよりも強かった」
「…………!!」
今僕の顔を見たら王城にいる大人達はこれまで無いほどブチギレていると思ったことだろう。
僕もそう思う。賢者である僕がそんな雑魚より弱いと言われたのだ。己のプライドがひび割れた音が聞こえた気がする。
しかもそれを笑顔で言ってきやがった。
(人を尊敬することしかできない奴だと思ったが、蔑みもできるじゃねぇか……!)
さっき負けたばかりだが今のでやる気が限界突破した。疲れ果てた体に鞭を打って魔法陣をありったけ展開した。
「そんな戯言撤回してやるよ、お前に勝ってな!!」
「いいよ。
誇らしい笑顔をする彼女の言葉を歯切りに魔術と剣の激突の音が王都に響き渡る。
その時だろうか、僕の目的が弱いものイジメから勇者とそいつを超える事に変化したのは。
「また負けたんだ」
「……そうだよ、また負けたよ勇者に」
勇者と戦いの練習を毎日するのが王城にの日常になった頃。
僕は相変わらず勝つことが出来ず、練習で付いた怪我を治療してもらっていた。僕の周りが光で満ちて怪我がひいていく。
そして膝枕をしてもらっている彼女に僕は質問した。
「……何で僕を治療するんだ?」
「何でってレックスが怪我してるから」
「そうじゃなくて」
真顔でそんな事を言ってくるアリスに僕は頭を抱える。これはハッキリ言わないと分からないと治療してもらってる身ながら思った。
「僕はお前のことをいじめてたんだぞ? 何でそう簡単に治療してくるんだ……普通こうならないだろ?」
「ならないって睨み合うより仲良くしていた方がいいじゃない」
これまた真顔でそんな事を言ってきた。
僕も頭を抱えるを通り越して呆れ顔になる。一周回ってアリスはこういう奴なんだと、脳が適当に理解してしまった。
というよりこの状況を早く何とかしたい。
僕にはとても屈辱的だが、勇者の奴が容赦なく戦うものだから、立ち上がることさえ出来ない怪我を負っている。
「何でそんな顔するの」
「お前の頭がお花畑だからだ」
「ヒッドーイ!? 今人の頭を「よっと」うわっ!?」
そんな会話をしていたら傷が完治したらしい。
体を違和感なく動かせることに気付いた僕はすぐざま膝枕から逃げた。
そのままレンガの大地を立って後ろにいる聖女に振り返る。
「お前は強いだろ、何でその力を僕みたいに使わなかった」
僕が聖女であるアリスを気に入らない理由の一つとしてコイツが強いからというのがあった。
弱い奴をいじめる僕にしては意外かもしれないが、逆に僕と同じように力を持っているのに全くその力を振わない姿が酷く苛立っていた。
しかしそうしない理由だけは今までの事でよく分かった。いや、さっき初めて直接聞いたから確証が持てたというところか。
「私は人が悲しむ所より笑顔でいる方が好きだから」
「…………」
だからそんな事を笑顔で言ってくる彼女は簡単に想像できたし、いちいち反応するのも馬鹿らしいとも思った。
「僕は絶対に理解できないな、その考え……」
そう逃げるように僕は言った。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「…………まあこれが僕のやる事だ。お前らはさっさと親のところへ行って来て安心させてこい」
「うん、またねお兄ちゃん!」
「…………」
そう言って明るい少年達は親のところへと向かった。
向かう途中もこちらへ手を振る事をやめないその姿を僕はただ無言で見る。
(これが僕のやる事、か…………)
数年たって僕達は魔王討伐の旅に出ていた。
そもそも勇者、聖女、賢者の僕達が王都に集められたのはこの為だ。
賢者である僕がまあまあヤンチャな事をしていたが、それも勇者のマーニャが来てくれた事で沈静化される。
仲が悪かったアリスとレックスもそれがきっかけで少しづつ関係が良くなり、最終的には三人で魔王を倒す訓練をするようになっていた。
そして僕が結局勇者に勝つことが出来ないまま始まった冒険。
最初の出来事は魔王城近くにある村での戦いだった。
魔王の直属の部下『魔王幹部』
それがこの村に突如現れたのだ。実践経験を余り少ない中僕達はその村へ突入した。
そして僕達にとって初めての激戦になるはずだったが……
快勝だった。
圧倒的までとは行かないが魔王幹部に対して想定以上に苦戦なく勝つことが出来たのだ。
僕もアリスも魔族に勝つ為に努力はしてきた。しかし相手が相手だからこんなにも上手に行けるとは思っていない。
ここまで善戦出来た理由はアイツのおかげだ。
(やっぱりアイツは僕以上の天才だな)
そう思わされた張本人へ目を向ける。
今回の戦いで一番活躍したのは勇者だ。僕も魔王幹部との戦いに入ったが僕よりもそれどころか幹部よりも一段と早い動きで相手を翻弄していった。
「…………」
王都にいた頃より良い騎士の鎧を着た彼女。
彼女は幹部に勝ったことに喜ぶ事なくさっきまで戦っていた村の跡地を見ていた。
恐らく間に合わなかった人達の事を思っているのだろう、その顔には後悔が混じっている。
(いや、少し焦りもあるな)
伊達に数年間一緒に戦いの練習をして来たわけでは無い。嫌な話だがマーニャの些細な違いでさえも僕は見極められるようになってしまった。
とはいえそれは勇者の動きが分かるようになって来た証でもある。
いいのか悪いのかそんな複雑な気持ちになっていたら後ろから誰かに抱かれた。
「……普通に声を掛けてこいよアリス」
「いーやだ」
面倒臭そうに後ろを振り向くとやっぱり聖女のアリスがいた。
どうやら村人達の治療が全て終わったらしい。
彼女の魔力量の変化を見てそう思った僕は次に彼女の小さい異変へ気づく。
聖女は僕の顔を見て不思議そうな表情をしていた。
「どうかしたの……?」
「いやいや聖女様よ、マーニャに治療して来てくれないか?」
「勇者殿が……? 彼女物凄く元気そうだけど」
アリスはそう言ってくるがそれは間違いだ。
ただ今回は彼女の目が節穴だから、ではなくマーニャが隠すのか上手だから見逃していると言えるだろう。
アリスは僕達二人と比べると戦闘面では一歩劣る。その分治療や防御面では僕達より優秀なのだがこのマーニャの些細な違いは気付かないだろう。
「元気そうに演技してるだけだ。マーニャの事だから勇者が弱っている所は見せちゃダメだとか思ってるんだろ」
さっきの戦いで途中から僅かに動きが鈍っていた。それは幹部は気付けないだろうし常に戦って来た僕でやっと分かるほどだ。
「……ハッ!」
「あらぁ!?」
聖女のガッシリアームを解いて聖女を僕より前に押す。
そしてそのまま勇者の所へ行くよう指示するのだがその前にもう一つ僕は伝えなければならない。
「あと勇者に伝言だ」
「へ? ………………あ、『今回のお前の怪我を見抜けたのは僕だから感謝しろ。後次の一騎打ちで勝ってやるから首を洗って待ってろ』って言えばいい?」
「ちげぇよ!?」
一体コイツは僕の事を何だと思っているのだろうか?
「元いじめてた奴」
「心読むな!? ってそれ言われると何も反論できない……」
咳払いして変になった空気を消す。そして一本指を立てて聖女に説明した。
「僕達が間に合わなかったから救えなかった命はあるかもしれない。でもマーニャがいなければここにいる人達は全員死んでた」
「………………」
聖女がぽかーんとした顔でこちらを見ているが気にしない。話し続ける。
「だから誇るんだ。僕達はここにいる人達の笑顔を守ったんだって。そして次はもっと大勢の人を守ろうってな」
その言葉を最後に僕は息を吐いた。
少し間をおいて聖女にやってほしい事を伝える。
「今の言葉を賢者ではなく聖女であるお前が言った事にして伝えてこい」
そう伝えきったのだが……聖女を改めて見るとぽかーんとした顔をし続けていた。
コイツ、僕が話し始めてから終わるまでずっとこの顔だぞ。いくら気にしないと思ってもここまでされたら突っ込みたくなる。
「なんだ……僕の顔に虫でもついてるのか?」
「…………うんうん、そんな事ない」
「なら行け、さっさと」
ようやく彼女の変な顔が消えていった。それにため息をしながら今度こそ僕は勇者の方へ送ろうとする。
しようとしたが……
「一つ質問」
彼女は僕の指示を聞く事なく逆にこちらへ聞いて来た。
その事に面倒事を予見しながら僕が折れるまで聞いてくるだろう、彼女の性格を思い出してまたため息をして許可する。
「……なんだ」
「何でレックスが言わないの?」
ほらやっぱり来た。面倒事が。
まあそうだよな、そこが疑問になるのは当然だ。じゃあ何でそんな事をしないかって言うと……僕のプライドの問題だ。
僕は視線を逸らして言う。
「僕……そんなキャラじゃないだろ」
「へ?」
恥ずかしそうに小さく言った言葉をアリスは見逃さなかった。見逃して欲しかったのだが。
僕はこれ以上恥ずかしくて何も言わないというか何も言いたくない。
そんな気持ちで彼女がどう反応するか待っていたら。
「プッ……アハハハ! キャラなの!? と言うかそれってツンデレじゃん……ププッ!」
「……お、お前。僕がプライドを折ってまで伝えたのに……!」
笑いやがった。
彼女らしい笑顔をこれまでにないほど充分に披露して腹を抱えている。
今僕の顔は真っ赤になっているだろう。まあここでアリスをボコそうとしたら逆に僕がボコされるからしないが。
この地獄がどこまで続くのだろうかと思ったら、彼女は急に腹を抱えるのはやめた。
彼女の顔から笑顔は消えている。いやいつもの明るい笑顔ではあるが彼女らしくない真剣さがある。
「ヤダ」
「は?」
シンプルかつ簡素な言葉に僕は混乱する。
お前なんて言いやがったと問い詰める前にアリスに手を引かれてしまった。
そのまま連れて行かれるが……っていうかこの方向は勇者がいる所じゃないか!?
「何をするんだ……!?」
「そりゃあ今賢者様が言った事を伝えてくるの。勿論賢者様の口からね! おーいマーニャちゃーん!!」
「や、やめろーー!?」
そんな風に僕達の冒険は始まった。
それと同時に勇者マーニャの快進撃も始まる事になる。
「ありがとうございます賢者様」
「ありがとな賢者の兄ちゃん!」
「この恩は絶対に忘れません! 本当に助かりました!」
それから沢山の村で沢山の人達を助けて来た。
その度に来るのは村人達からの感謝の言葉。
そして笑顔。
老人が、酒場のマスターが、綺麗な踊り子が、そして子供までと沢山の人から感謝されて来た。
「笑顔……か」
これが人助けというものか、王都に住んでいた頃の僕では考えられない事を目の当たりにして痛感していた。
人を痛めつける事しか知らなかった僕が数年という年月をかけて大勢の人の優しさに触れていく。
そうしていく内に僕の心も変化していった。
「なぁ……マーニャは何でそこまで強くなれたんだ?」
目の前には侵略して来た魔族達から守った村の姿が見える。僕達も成長して、最初の戦いの時と違って村への被害は最小限に収まっていた。
これが僕達の日常になりつつある。
そして夕日を背に心の変化を起こした張本人に昔したのと似たような質問をしていた。
村全体が見える丘で僕とマーニャは横に並んで座っている。
「昔、村で同じ年齢の練習相手がいたから」
彼女も昔の様に返す。しかし僕はその人に今まで以上の興味を抱いていた。
「その人はどんな人なのか教えてくれないか……?」
出会った頃ならこの質問に彼女は答えなかっただろう。しかし今は何年も戦って来た戦友の仲だ。
絵本らしくそれまでの間に絆とやらも培って来た。
彼女も渋る事なく普通に教えてくれる。
「その人は……私の憧れの人だったの。勇者の力を使う事を恐れて何もできなかった私を助けてくれた人」
「……意外だな、お前は最初からそんな感じだと思ってたよ」
率直に思った事を言った。
僕が今まで見て来たマーニャは誰よりも前に出て、人を助けるためにその身まで投げだす『勇者らしい人』だった。
「ううん、私も最初は臆病者だった。でもね、その人が居たから私は頑張れた。私をいじめてた人達と仲良くするのを手伝ってくれたり、蔑んでくる大人達から守ってくれたり……」
「…………」
今の彼女とは真反対の過去の事を聞いて僕は内心絶句している。
今の彼女を見ればそんな事はあり得ないと思えるほど、過去の自分から成長していたのだ。
「その人が居たから私も勇気が出せた。この勇者の力が化け物みたいな恐ろしい力じゃなくて、人を救えるスゲェ力なんだって気付くことができた」
彼女のその語る様は自信満々でなにより──誇らしそうだった。
それほど彼女にとってその人は大きな存在だったのだろう。
だからこそこの疑問に早く気づく。
「なぁマーニャ。失礼だと分かった上で聞きたいことがある」
「…………」
言い始めがおかしいが僕は真剣だと彼女も分かっているだろう。
無言だが彼女の仕草からして肯定だと分かった僕は続けて話した。
「その人は何で王都に来なかったんだ?」
マーニャはその言葉に少し間を開けて……話してくれた。
「私のせいなの」
「なに……?」
後悔した表情で彼女は言ってくる。
「私が王都に来る数日前に住んでた村へ魔物が入って来たのは知ってるでしょ?」
「ああ……」
確か入って来たのは指名手配されるほどの魔物だったはず。
それほどだと対峙するのに。王都にいる精鋭騎士を何人も必要するぐらいの強さを誇っている。
それを瞬殺してみせたのがきっかけでマーニャが人類の探していた勇者だと分かり王都へ来たはずだ。
「その時に何人か犠牲になった人がいるの」
その情報も知っている。
確か大人が何人も犠牲になったと聞いてる。
その中には目の前でその光景を見てしまった少年の父親も居たのだとか……。
「もしかして」
「ええ、その人の父親が死んじゃったんだ……私が遅れたせいで」
「……そうか」
それで彼はトラウマになって来れなくなったのだろう。いくら彼女を育てた人とは言え小さい頃にそんな悲劇に遭えば立ち上がれなくなる。
(僕だったら無理だろうな)
弱い奴をいじめることしか知らなかった僕ならその時点で魔物と戦う事は出来なくなる。
「私ね。その人と一緒に絵本の勇者の事を話してたの。それで私達はそんな勇者見たいな人になろうって
彼女にとって一番辛い過去。それが王都に来る直前に起きていたとは思ってもいなかった。
「だから決めた。私はその人が憧れた勇者に相応しい人になるんだって。その人に胸いっぱい張れるほどの勇者になるんだって」
その目には後悔は消え強い闘志が宿っていた。
「私は勇者だって分かった。なら私は約束を守る為に最高の勇者としてあり続ける。それが私の意地よ!」
トラウマを乗り越えたそのあまりにも眩しい姿を見て僕は……ため息を吐いて立った。
「……完敗だ」
「え?」
「お前は強いな。才能もあるのに努力も怠らずにやっていたって、僕以上の天才かよ。……いや天才だったな」
振り返るとマーニャは驚いた顔をしている。
「僕だったらそんな目にあったら立ち上がれないな。だってのにお前はそれを乗り越えてきた」
そして座っている彼女に対して僕は不敵な笑みを浮かべる。
「約束か……なら僕も約束しよう。これまで通り魔術の天才である僕も勇者に最大限力を貸す」
これは今までと同じ事をこれからもずっとやるという宣言だ。でも僕の意志は違う。
どこか彼女を認められなかった僕がようやく認めて、そして全力で彼女の約束を支えるという宣言。
「それで僕以上の天才であるマーニャは歴代最高の活躍をするだろう」
そうして僕はマーニャに手を差し伸べる。
「だからさっさと魔王を倒してその人に見せつけてやろうぜ。最高の勇者って奴を」
「……ええ! 私がその人の思う最高の勇者たらんとする為に、全力で頑張りましょう!」
その手をマーニャが掴んで立ち上がる。
そうして僕とマーニャは人生で一番大切な
だが──
「くそッ……こんな事になるなんて」
魔王城で僕は己の失態に舌打ちしていた。
前を見ると一緒に来てくれた騎士達の死体があった。
沢山の死体から出てくる血はこの城の中を真っ赤に染める。
──そしてその真っ赤な世界の中心に居たのが勇者だった。
僕にとって魔王以上に、いや誰よりも強くて頼りになるマーニャが敵になってしまった。