モブ冒険者だった僕だが、最後の意地くらい通してやった 作:ギル・B・ヤマト
『こっち来んな化け物!』
私は化け物。だからこのすごい力を使っちゃいけないんだ。
人を不幸にするから。
そんな考えから救ってくれたのは村の片隅で魔物から守ってくれた一人の男の子だった。
『大丈夫か、魔物なら追い払ったぜ!』
彼との初めての出会い。
失意の中に溺れていた私を救い上げてくれた人。私に手を伸ばしてくるその光景は何よりも輝いて見えた。
その後何度か会う様になって、だんだん話し合う様になって、お互いに絵本の勇者になりたい事を知った。
『ごめん。ちょっと時間掛かっちゃった……イテテ』
そしてボロボロになりながらも絵本を取り戻して来てくれたあの日。
『マーニャは優しいじゃん。そんな奴が化け物なんてありえねー。誰が言おうと僕が言ってやるぜ。お前は化け物じゃなくて優しい奴なんだって』
私の力をすごい力だと、人を救える力なんだと教えてくれて、そして私は化け物じゃなくていい奴なんだって言ってくれた日。
『……ねぇ』
特にいい奴だと言ってくれた日から私の彼に向ける感情は友情から確実に変化していった。
『もし私がピンチだったら……助けてくれる?』
幼い時の私はコレをなんて言うのか分からなかったけど今は分かる。
一つは『尊敬』
勇者ごっこの時もそうだったが彼はいつでも諦めずに向かっていた。
何度私に負けても、どれだけいじめっ子達に虐められても、やると言った事をやり遂げるまで諦めないその姿勢。
初めて会ってから段々芽生えてきたその感情は、この問いかけをした日に確実に咲いた。
そしてもう一つは──『恋』
私の大切な物を取り返してくれた時、私を肯定してくれた時に心が温まった気がする。
そんな事、彼と出会うまでは一度も無かった。私は確かに彼と出会ってから変化していったんだ。
『尊敬』と同様、だんだん芽生えたその感情もこの日に確実に咲いた。
だからこそ───
『勿論、ピンチになったらいつでも何処へでも駆けつけるぜ! それが勇者だからな!』
そう言ってくれた時私はこれまでにないほど幸せだった。
それから私はいつも彼と一緒に行動するようになる。
いじめっ子達と話に行った時も、家造りの手伝いをした時も、村の外にいる魔物狩りの手伝いをした時も、いつも、いつも彼と一緒に行動していた。
彼と一緒ならどんな時でも勇気を持って行動できる。
彼と一緒ならどんな事だって出来るとも思った。
でもそれは依存。
逆に言えば、私は彼が居ないと何も出来ない存在とも言えた。
村の中にずっと居るならそれでも良かったかもしれない。
けれどあの魔物が村に入ってきた時、一緒にいたいと言う願望は叶えられない理想になったのだ。
「今の魔物の声は……!?」
魔物の叫び声を聞いていち早く私は聞こえた方向へと走った。
全力で向かったつもりだが目的の場所に着いた時には手遅れだった。
大量の血の上に佇む巨大な魔物。
今まで手伝いで狩りをしてきた魔物達とは一線を超える存在。
常人ならこんな奴の近くにいただけで恐怖で動けなくなるほどの覇気を持つ恐ろしい存在だ。
でも彼はこんな程度でへこたれたりはしない。
(どこにいるの……!)
そう思って周りを見渡すと……いた。
あの魔物の正面で膝を崩している。
私が駆けつけるのが遅れてしまったから彼の父は犠牲になってしまった。
私が駆けつけた頃には彼は震えていた。強い魔物に襲われていたから……と言うよりは父という大切な存在を目の前で失ったからだ。
いつもの様に諦めずに向かってくる彼じゃない。
その目は
私が魔物を倒した後に王国の騎士が村へやってきて、体半分消えている魔物と血がドップリ付いている私の剣を見て慌て始めた。
王国の騎士から選定師に一度見てほしいと頼まれた私は待っていた。
その時に彼は来た。
「もう大丈夫なの?」
「……うん」
「その、お父さんの事……ごめん」
大切な存在を守れなかった悲しみは私にもある。
殺された人の中には村でよく会話している人だっていた。
でも私の心は不思議と落ち着いている。
さっき言った通り悲しみはある。でも物事を冷静に測れる余裕も心の中にあった。
(これが私なのね)
王国の騎士達からはもしかしたら勇者が出たかもしれないという会話が聞こえたが別に驚く事はなかった。
心の何処かで私は勇者かそれと同じくらい特別な存在なのではないかと思っていた。
生まれてから私は他の人達と違う事は分かっている。
昔はその事に嬉しいとか誇らしいという感情はなかった。そのせいで迫害されたから。
人というのは未知に恐怖を抱いている。
分からないから距離を置こうとしたり仲間はずれしようとする。その上私が何も反撃しないと分かったからイジメへと発展した。
イジメをするのは子供達でその親達は何もしないが私を庇う事もない。大人は皆、私の事を子供ではなく化け物を見るように怯えていた。
「……まあお父さんが助けれなかったのは悔しいけどマーニャが居なければもっと大勢の人が死んでた」
拳を握りながら彼はそう言った。
彼は自分が何も出来なくて守れなかった人がいる事をすごく後悔している。
その守れなかった人はお父さんだけではない。一緒に過ごしてきた他の大人達も入っている。
……村人達が怯えた視線を送っていたのも昔の話。
彼のお陰で村の大人子供関係なく仲良くなっていき、目線もいつのまにか優しいものへと変わった。
勿論過去にやった事に思う事はある。でも子供達はイジメを謝ってくれたし、大人達も時間が経ってからは段々と気にかけてくれたり助けてもらったりしてくれた。
今では気を許して仲良く話せる程になったし、昔は呪いとしか思えなかったこの力も人を救える力だと感じることができて感謝している。
まあ何人かは何も言わない屍になってしまったが。
さっきも言ったが悲しみはあっても涙は流さない。ただ私の心にあるのはそれが事実だと受け止められる冷静な感情。
時間が経つにつれてアップデートされていく心。
まるで「勇者であれ」と言われるように心が最適化されていく。
それは恐ろしい。まるで自分が自分ではなくなっていく様だから。今もその恐怖を出来るだけ見せないようにしている。
今まではそれでよかった。近くに彼が居たから。でも今は違う。常に前へ進んでいた彼が挫折を体験してしまった。
あの目は知っている。あの何かを諦めた目は私が彼に出会う前の目と同じだ。
諦めなかった彼の近くに居れば私も自然と勇気が出た。でももし王国に行く事になっても今の彼じゃ──
「俺、もっと強くならなきゃ」
その言葉を聞いて私はハッとする。
何を勝手に勘違いしていたのだろうか。私は彼の目をしっかり見た上で諦めた目をしている。今の彼はダメだと思っていた。
その事に私は恥じる。
今の彼を見れば諦めた目なんてしていなかったから。
──彼はもう挫折を越えている。
(……いつもの目だ)
私を助けてくれた時、ものを取り返してくれた時、そして大切な約束をしてくれた時の目をする彼に私は熱が入ったのを感じた。
「今度は全員守る。それくらいのつもりでもっと修行していくぞ。……今日のことはメチャクチャ悔しい。だからこの悔しさをバネにやっていくんだ……!」
(……すごい)
いつも彼のそばにいてその精神性には驚いていたが、今回は特に驚いた。彼は父を失ったばかりなのに、それで失意に溺れるどころかむしろバネとして這い上がろうとしていた。
(これなら頑張れる……!)
でも私は良くない方へと考えていた。相変わらず彼に頼った考えをしている。
「ねぇ──」
もし王国に行く事になったら一緒に行こう。
「マーニャ様、お待たせしました」
そう言おうとして王国騎士が声をかけてきた。
二人がその騎士へと視線を向けると、そこには隊長と呼ばれる男がいた。
それほど偉い人が来たと言うことは……準備ができたらしい。
「マーニャ様、選定師様がいらっしゃいました。私がご案内させて頂きます」
「……」
私は目の前で首を垂れる騎士ではなく隣にいる彼へと不安そうな目線を向ける。
元々人と会話するのが苦手な私だ。村の人ならともかく赤の他人な上に少し話しずらい雰囲気を持つ騎士の所へ行くのは少し辛い。
困った私は彼の方へ視線を向けて暗にどうすればいいと伝えるが、彼は選定師のいる方へ顎を向けた。
(うぅ……やっぱり行くしかないか)
いつまでも彼に頼ってはいけない。
そう思った私は覚悟を決めて一人で選定師の所へ行った。
「待ってたわ。マーニャさん」
少し豪華で失礼だが怪しいテントの中に入ったら、おばあさんが座っていた。銀髪で顔はしわくちゃ。そして彼女の首や手首に沢山かけられている丸い宝石がリッチさを出している。
しかし彼女の顔に影はなく明るく元気に見える。人を見る目はあまり自信はないがいい人そうだ、と勘で思った。
だがおばあさんを見る前から気になる大きなものが一つ。気になった私は遂に質問をする。
「え、えーと……その大きい水晶玉は?」
「ああ、これかい?」
おばあさん──選定師と私の間にはテーブルが置いてあり、その上に大きな水晶玉が置いてあった。
薄い水色でピカピカに磨かれている宝石の様な物。大切に磨かれているのか、水晶玉を覗いている私が見える程に綺麗になっている。
「これは占いの玉だよ。これで私は色々占うのさ。恋運とかその人の運命や……そして貴方が勇者なのかってね」
不敵に笑う──しかし敵意が全く感じない選定師は椅子に座るように促して来る。
私もそれに倣い座ると選定師が目を細めてこちらを見ていた。
なんというか品定めをされているようで少し居心地が悪い。
「あの……ちょっと恥ずかしいです」
「ん、ああっ。すまないねぇ……つい職業病でね。私は普通の人間では見えない物も見えるのさ。だからアンタから感じる強力な力を見て少し驚いてしまったわ」
「……」
「まあ気を悪くしてしまったなら済まないねぇ。後で何かこのお返しはするから今は占いさね。……そーれぇ」
その力は多分……勇者の力だ。
断定はできないが自分の勘がそう言っている。
そしてそれは正しかったようだ。水晶玉を光らせて唸っていた選定師の声が止んだ。
彼女を見てみるとやっぱりそうだったと納得した顔をして私の方を見ている。
「アンタは勇者だね、マーニャさん」
平然とそう言って来る選定師。この事実は世界を揺るがす驚愕的な事実だが、特に驚く事なく彼女は伝えてきた。
そしてそれを受け取った私も驚く事は無く、むしろストンと自然に納得できたくらいである。
互いに驚きは無し。だから世界の揺るがしかねないこの話題も日常会話のように続いて行く。
「じゃあ今から話し合うべき事はあれだね。マーニャさんがこれからどうしたいかって事だけど……」
これも簡単な事だ。要するに私が王城に行って生活するかどうか。
いやそもそも断ると言う選択さえ無いだろう。
元から勇者に興味のある私は田舎の中でも出来るだけ調べていた。やはりと言うか勇者は常に一人しか存在できないらしい。
勇者は何代もいるが二人も勇者がいた時代は無かった。
つまり私がこれを断ると言うのは人類の平和を捨てると言う事。それを王国の人達が許すはずが無い。
じゃあそう言った事情を一旦無視した上で、私は断る選択をするかといえば……
「やります勇者。私は元々勇者に憧れていましたし、その……自分はやっぱり笑顔のある世界を守りたいです」
そんな事ない。これは私が叶えたい夢だ。
それが理想だと夢物語だと笑われるような物でも譲れない思いがある。私が初めて貰った夢。何も無かった私が初めて手に入れた大切な
「そうかい……それはこちらにとっても好都合。アナタにそれをやる覚悟があると言うのなら私達は全力でそれを支援するまでね」
私の返答にニッコリとしている選定師。観察眼を鍛えられた私だからギリギリ分かる程だが、私の答えに選定師さんもほっとしている様子だった。
「なら早速王城へ行く準備をしなくちゃね。アナタが大切にしている物とかはある程度持っていくことが出来るけど、アナタから何か要望はないかい?」
「……物とかはないんですけど、一緒に行きたい人なら一人……」
私が持って行きたい物は数少ないがある。勇者の絵本がそうだ。
でも選定師に言われて真っ先に思い浮かべたのは絵本ではなく、いつも私と一緒にいる……
「ダメだ」
「!」
さっきまでの優しい表情じゃ無い。真剣な顔をした選定師に私は押される。この人は色々経験して来た人なんだと思う程の貫禄を私は感じ、無意識に気後れしてしまう。
「分かっていると思うけどね、ここから先の事は命懸けの事なんだよ。アンタにはとてつもない重りを持たせているのは分かっているが、だからって恋人を連れて行く事は出来ないよ」
「えっ、何でこ、恋人って!?」
「そりゃあそんな赤い顔して連れて行きたいとか言ったら、誰でも分かるさ」
(そんな分かりやすい反応してた!?)
そんなはずはないと両手で顔を触ってみたら確かに暑くなっていた。恥ずかしい。
というか恋人って、好きだけど、まだ好きなんて一言も言ってないのに彼を恋人って言ってしまった。これは誤解が……じゃなくてもっと言うべきことがあるはずだ。
「違います! いや、違わないけど……」
「おや、そこは否定しないんだね」
「彼はこ、恋人ですけどっ、師匠でもあるんです!」
「……ほぅ?」
その一言で選定師が興味深そうな表情に変わった。彼女だって王国の為に働く人なんだ。恋人だろうとその人が勇者である私を鍛えた人だと言えば、相手も易々と切り捨てる判断は出来ないはずだ。
「私達は昔から一緒に過ごして来て遊んでました。彼と私は勇者になりたい夢があって、それで勇者ごっこをやっていたんです」
「勇者ごっこで言うとあれかい? アンタが勇者役で彼を魔物役にして遊んでいたのかい?」
「違います。毎日遊び用の木の剣で一騎討ちしていたんです」
「……それでも遊びは遊びだと思うけど」
「いいえ、
「! ……それはそれは興味深いねぇ……本当に」
不敵な笑みを浮かべた選定師は入り口に立っている見張の騎士を呼んだ。私をここに連れてきた騎士でもあり、選定師様を守ると言う大事な役目を任される程の人だ。
彼を初めて見た時に感じ取った僅かな覇気から、並の人間ではないことがよく分かった。
「隊長さん、彼女と一緒にいた男性は見かけたかい?」
「はい、選定師様のところに来るまでずっと一緒だった者が一人」
「隊長さんの意見が聞きたいね。私は色んな人を見てきたが戦闘に関してはアンタの方がいいだろう」
「では所感ながら」
自分で言うのも何だが私は強い。
強い人全てがそうだとは思わないが強いからこそこの騎士さんの能力を見抜けたんだと思う。
なら私と同じように強いこの騎士さんも分かるはずだ。
「彼の能力は高いかと」
その言葉に自然と口角が上がる。
「私達や勇者様と比べれば劣りはしますが、あの年齢であそこまで行けるのは充分に強いと思います」
彼を褒められて私もいい気分になる。
そうだそうだ、もっと褒めてほしいと気分が上がるが、次に騎士から放たれた言葉は私の心をどん底まで突き落とした。
「魔王退治には?」
「……高く見積もってもギリギリです」
「! そんなことないはずです。一騎討ちだって自分と戦う度に色々やり方を変えて……!」
椅子から立って私は抗議する。彼らは魔王退治にギリギリ着いて来れる、いや高く見積もってと言ったなら着いてこれないと判断しているがそれは違う。
何せ遊びとは言え本気の私と戦って、彼は大体良いところまで行くのだ。
勝ちはしない。しかしその内容は惨敗など決してなく善戦。調子がいい時はそれ以上の成果を残す。
それは間違いなく彼が強いと言う事を表している証拠だ。
「色々やり方を変えて……彼を師匠と言ったのはその所かい?」
「え、はい」
だが選定師はその事を察していたようだ。
彼の強みは身体能力ではなく戦い方。その事を私がさっき言った短い話の中で選定師は理解したのだ。
でも反応が悪い。すぐには連れて行こうと選定師は思えなかったらしい。
「戦術の先生もいない環境で自力で考え実践する行動力。しかもその効果は身体能力の大きな差がある勇者と善戦できてしまうほど……だけど身体能力だけでみたらギリギリと言う点」
私には聞こえない音量で喋りながら悩む選定師。少し考えた後に私と目を合わせた。
「決めた。私は選定師なんだから選定師らしく判断しようじゃないか」
水晶玉に魔力を与え始めた選定師に私は困惑する。彼女の隣にいる騎士も言うことが無いのかただ佇んでいるだけ。
「私は見ての通り占いが得意でね、今その男の未来を占っているんだよ」
「未来、そんなすごいことが?」
「いやいや流石に完全予知までは無理だね。今やってる占いも未来を大体見るだけだ……だけど、そぉら!」
選定師の掛け声と共に光始める水晶玉。さっきの占いの時よりも大きな魔力がこのテント内を渦巻き、水晶玉へ吸い取られていく。
そして全ての魔力が入り込み静かになった瞬間。
「──!?」
「ッ!?」
「なんと……」
魔力が爆発した。
玉の中で渦巻いていた魔力が三つに別れ、そのまま勢いが止まらないまま外へ出て縦横無尽に暴れていく。
視認できなかったはずの魔力は赤、黒、紫の色がついていた。
その魔力に危険性はない。魔術や魔法のように魔力に攻撃性を持たせて魔力を具現化していないから、怪我を負うことはないはずだが……
『死』
魔力からそれを感じ取った私は尽かさずに
勇者の力によって極限にまで鍛えられたただの力が、魔法と物理の法則を超えて奇跡を成す。
「……消えた」
「選定師様、ご無事ですか」
「二人のおかげでね。それより今の色は……」
魔力の霧が散った後に、
しかし選定師の顔は晴れない、むしろ表情は悪化しているように見える。
「今のは一体……」
唖然とする私に選定師は重い表情で話し始める。
まるで今の魔力以上に良くないものを見たかのように。
「私がさっき占ったのはね、厳密には男の未来じゃないのさ。アンタと男の未来を見たのさ」
「……まあ恋人なら魔王の戦いについて行く可能性もあるでしょう」
選定師の言った内容に騎士が捕捉する。占いがどこまで調べる事が出来るのか分からないが、その方が王城側にとって知りたい情報を手に入れられるだろう。
ただ問題なのは……
「……その結果はあまり良くなかったようですね」
私の言葉に選定師は重く頷く。
「……ああ。占いで強い判定が出たら色が出るんだよ。玉の色が変化して、さらに反応が強いと今の様に飛び出してくる」
「ではあの色は……?」
「最悪の組み合わせだね。あれが一色だけで別の色と混じっているなら話は変わるが──」
「要するにあの判定は何ですか」
選定師の話を遮り私は答えを教えろと迫る。
「不幸の象徴だよあれは……つまり死だ」
「!?」
直球な言葉に私は目を細める。
選定師の言葉に嘘はないだろう。嘘をつくメリットもないしあの首に鎌をかけられたような死の気配が事実だと言っている。
「断言するよ。アンタの恋人はねぇ、アンタと関わったら確実に死ぬ」
「……そんな」
「今の占いは確定された未来と言ってもいい。私が軽く占っただけであんな絶対的な返答が来てしまうと言う事は……そう言うことさね」
その事実に気が遠くなりそうになる。
(一緒に行けない?)
遊ぶ時も食べる時もたまには寝る時だっていつも一緒だっだ。
同じ夢を持ったライバルでもあった。
才能や能力の差に負けない尊敬する人でもあった。
私の大好きな人だ。
それがこんな形で私の夢を否定させられるなんて……。
彼の未来には残酷な死が待っている。それは一体どうすれば……いや、私が守れば良いじゃないか。
魔王を倒す力を持っている私だ。私が守りに入れば彼を殺せる存在なんていない。
「私が彼を守ります!」
「ダメだ。アンタには魔王退治の役目がある。それにずっと守っていたっていつかは侵略して来た魔族に殺されるだけだよ」
「……でも私は勇者──「そんな甘い敵じゃないさ魔王は」
希望にすがる私の声を切った選定師の話しはまだ続く。
「そもそもアンタが彼を守っている間に何人死んでいくと思う? アンタが攻めに行ってる間に死んでしまう人がいるのは仕方がないさ。直接魔王を叩きにいくのが一番早く争いを終わらせる方法だからね」
目は刃物のように鋭く、この人と私の間には圧倒的な実力差があるのにそれを感じさせない威圧感を出してくる。
「けど、攻めることができるのに守りだけに専念するのはダメだ。魔王は限られた人でしか倒せない。例えアンタ以外に倒せる人が出てきても魔王とは戦ってもらう」
その言葉に付け入る隙なんてない。もし否定しよう物なら噛み砕いてやる……それほどの気持ちを私は感じ取った。
「これは人類を救う戦いだ。少しでも時間が経てば故郷で起きた悲劇が増えていくんだよ。親を失った子供や親友を失った人がたくさん出てくる……アンタはそれを許容できるかい?」
「それは……」
分かっている。今私が言った事は自分の願望だと。
でも諦めきれない私は反論しようとして、選定師の……私自身の言葉によって反論もできなくなってしまった。
「アンタはさっき自分の願いをどう言っていたんだい? それを叶えるために何が必要なのかは……マーニャが一番分かっているはずだ」
テントから出て月が照らす夜道を歩いている私は、ずっと彼と一緒に行動していた己自身の事を考えていた。
(思い返せば私の隣にずっといた……ううん、そうじゃない。
村で過ごした時はずっとそうだった。彼に甘えていればよかったんだ。私が辛くても困ったことがあっても彼を頼ればよかったんだ。
でもこれからは違う。
私はただの村人じゃなくで勇者になった。
それは人類を背負うことであり世界の平和を背負うことでもある。
命の価値は変わらないがあっさりと切り捨てられる世界に今から私は入るんだ。
甘い事なんてやっていられない。彼に助けてもらおうなんてすれば──
(彼は死ぬ)
私の大好きな人。
私に大切なものをくれた人。
私の人生に色をつけてくれた人。
本当は一緒に行きたい。でもこれからは一緒にいられない。
今から私は彼を拒絶する。
彼の命のために決別する。
そしてこれは私の覚悟でもある。
彼にとって私にとって辛い事だけど、これを乗り越えて私は、私と彼の理想の勇者になってみせる。
(大丈夫だ。辛いけど私はそれを事実として受け入れられる余裕がある。だって私は『勇者』なんだから)
心はもう勇者になるために最適化されているんだ。その事に葛藤もしたがそれももうおしまいだ。
夢を叶える。
長い間歩いていたような私は遂に
「私、勇者だって」
私は彼を拒絶した。
「……クソッ! クソッ!!!」
「…………… 」
握りしめた拳で彼は地面を何度も叩く。
でも悔し涙を流す彼に対して私は静かに去っていくだけ。
(これでいいんだ)
そうこれで世界は救われる。
私は誰よりも強い。誰よりも強くならなければならない。
私が魔王に負ける事は彼との日々が無駄だった事を意味する。
そんなはずはないし、彼を切り捨てた私が負けるつもりは毛頭ない。
大丈夫だ。彼とは
これで正しいんだ。
……そのはずなのに
『勿論、ピンチになったらいつでも何処へでも駆けつけるぜ! それが勇者だからな!』
昔にした大事な大事な、けれどもう叶えることができない約束を思い出してしまって。
「……ごめん」
心の傷は癒されず、私の涙が止まる事はなかった。
それから王城で正式に勇者になった私は無敗を貫き、過去の勇者ができなかった数々の偉業を成し遂げる。
皆からは歴代最高の勇者として崇められ、私もその期待と重みを背負って……理想の勇者として生きてきた。
そして数年後、私達は遂に魔王城で決戦を迎える。