「もしもキタサンブラックがドンモモタロウに影響されたら」というお話 作:K氏
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:クロスオーバー ウマ娘プリティーダービー 暴太郎戦隊ドンブラザーズ キタサンブラック ドンモモタロウ タグを見たな!これでお前とも縁が出来た!
――その日、あたしは不幸だった。
「あ、あわ……」
ダイヤちゃんと公園で会う約束をしていたあたしの前に、突然どこからともなく現れた、長い柄をした巨大なハンマーを持った、やけにカラフルな怪人の群れ。
まだ子供だったあたしは、襲ってくる怪人の群れに、逃げ惑うしかなかった。
正直、びっくり半分恐怖半分といったところだろうか。
何せ、テレビのヒーロー番組でしか見ないような怪人が、急に目の前に現れて襲い掛かって来たのだから。
それでもなんとか必死に逃げ回ったけど、ウマ娘とはいえ所詮子供の足だ。あっという間に追いつかれてしまった。
「アノーニ!」
怪人が、ハンマーを振り上げる。
あたしの口からは、もう悲鳴すら出てこない。
――ああ、もう駄目なのか。
そう思っていた、その時だった。
「――ハーッハッハッハ!」
――高笑いと共に、人生を変える事になるヒーローがやってきたのは。
「やぁやぁやぁ! 祭りだ祭りだ!」
そのヒーローは、赤かった。グラサンのような目に、額には大きな桃。
そんな赤いヒーローが――何故か神輿のようなもので担がれながらやって来た。
うん、今にして思えばツッコミどころ満載だとは思う。まず下で担いでる男の人達誰? とか、ヒーローの登場の仕方、それでいいの? とか。
でも、別にいいやってなった。だって目の前に現れたんだもん。ヒーローっていう、夢みたいな存在が。
「女子一人に寄ってたかっての悪行三昧。悪縁契り深しとは言うけれど、俺にかかれば、その悪縁、あっという間に一刀両断! 縁と浮き世は末を待てとは言うけれど、俺にかかれば、あっという間に結ぶぜ良縁!」
長々と口上を述べたヒーローは、神輿から飛び降りると、あたしと同じようにぽかんとしているらしい怪人に一気に近づき、手にした刀で斬ッ! と斬り捨てた!
「さぁ、楽しもうぜ! 勝負勝負!」
「ッ、アノーニ!」
ようやく我に返ったらしい怪人達が、ヒーローに殴りかかる。だが、ヒーローはどこからともなく取り出した黄色い銃で、次々と狙い撃ちにしていく。
そして、近づいてきた怪人も、ヒーローの言う通り、あっという間に刀の錆になってしまった。
その光景を見て、あたしは――感動していた。
本物のヒーローは、いたんだって。
「す、すごい……!」
そうして感動している内に、怪人達は皆、ヒーローに倒されてしまった。
「よう、嬢ちゃん」
敵を倒し終えたヒーローが、こちらに歩み寄ってくる。
「はっ、はい!」
「これで、お前とも縁が出来たな」
「えっ、縁?」
唐突な言葉に、首を傾げるあたし。
そんなあたしを他所に、ヒーローは続けた。
「俺はもう行く。だが、縁あれば千里。もしかしたら、また会う事もあるかもしれないな」
「っ、はい!」
感極まるあたしを尻目に、ヒーローは軽く手を振ると、扇子を振り、再び高笑いを上げながら何処へともなく去っていった。
「……なるんだ」
その時、あたしは決めたんだ。
「あの人みたいな、縁を大事にして、人を笑顔に出来るヒーローに!」
******
「……ふぅ」
その日、新人トレーナーである彼はとにかく忙しかった。
何せ、新人の肩書がある通り、初めにやる事が多いのなんの。
担当ウマ娘がいない身ではあるが、将来的に就くであろうウマ娘の大まかなトレーニングメニューの作成やら、コンディション管理の方法やらと、覚える事が山積みであった。
だが、これも夢を叶える第一歩と考えれば安いもの、否、寧ろ喜ばしいものだ。
「でも、疲れるものは疲れるんだよなぁ……」
しかし、身体機能は正直だった。肉体は休息を求め、脳は糖分を欲していた。
正直、座り込んだベンチから一歩も動きたくなくなってしまっていた。
「……って、いかんいかん、こんな調子じゃ。俺はもっと頑張るんだ」
そうは言っても、無理して動けば過労で倒れるのは明白。ここは本能に従い、少し休憩をとる事に決めた――までは良かった。
――ミシッ
「……へ?」
何か、嫌な音がした。
そして。
――バキィ!
「へぇッ!?」
何故か、ベンチの後ろに立っていた木が、折れ始めていたのだ。
「ちょ、ちょっと待っ――」
慌ててその場を離れようとした瞬間、木が真っ二つになり、新人の元に倒れてくる。
「わぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴を上げながら己の身を庇う新人。だが、無慈悲にも木は彼の元へ――
「――セイヤぁ!」
――倒れる事は無かった。バキィ! という新たな音がして、己の身体に襲い掛かる痛みが無かった事に気が付いた新人は恐る恐る目を開く。
はたして、自分の身体は無事であった。そして見渡してみると、周囲がざわざわと騒がしい。
そして――草原に散らばる木片と、その前で屈みこんでいる、一人の黒髪のウマ娘の姿。
「も、もしかして……助けて、くれたのか?」
恐らくはそうなのだろう。突然現れた彼女は、あの木をどうにかして吹っ飛ばし、自分を救ってくれたに違いない。
ならば、礼を言うのが筋というものだろう。
そう思った新人は、彼女に声を掛ける。
「あ、ありがとう。助かっ――」
「ハーッハッハッハ!」
「へぁ!?」
突如として高笑いをする、眼前の黒髪のウマ娘に驚く新人。
そんな彼に、黒髪のウマ娘が振り返る。
「――貴方、目が合いましたね! これで縁が出来ましたね!」
「え、縁!?」
何故そこで縁!? というツッコミがでないまま、呆然とする新人。
それを他所に、快活そうなそのウマ娘は、懐から扇子を取り出すと、それを慣れた手つきで広げる。
そこには『縁』と達筆な字でデカデカと書かれていた。
「あっ、キタちゃん! 此処にいたの?」
「おお! ダイヤちゃん! ちょいと『お助け大将』をね!」
そんなところに、長い栗毛をなびかせたウマ娘がやってき、キタちゃんと呼ばれた黒鹿毛のウマ娘は彼女を連れて去っていく。
「あの人とも縁を結んだの?」
「当然! 袖振り合うも他生の縁! この世は縁で溢れかえってるからね!」
後には、呆然と立ち尽くす新人と、事の成り行きを見ていた生徒達のどよめきだけが残されていた。
「な、なんだったんだ、一体……」
******
謎の黒鹿毛のウマ娘に助けられた、その数日後。
新人トレーナーはグラウンドにやってきていた。目的は一つ、ウマ娘達の模擬レースを見る為だ。
芝のレースで、距離は1600m。馬場は先日の雨で稍重になっている。
「今日は……そこまで目立つ子はいないわね」
「まぁ、これで何かしら活躍するようなウマ娘がいれば御の字、といったところだな」
ベテランや中堅どころのトレーナーがそれぞれ思い思いの考えを述べる中、新人もまた、将来有望そうなウマ娘を探していた。
(……うーん、先輩方が言う通り、どうにもこう、ピンとくる子がいないなぁ)
デビュー前というのもあるが、どのウマ娘もこれという決定打に欠けるような印象が、新人にはあった。
無論、新人の相マ眼がまだまだ肥えていないというのもあるだろう。ウマ娘には年齢を重ねてからようやく活躍できるようになる晩成型も存在する。それを見抜けるだけの目は、まだ新人に備わっていなかった。ただそれでも、何か、何かあるはずだ。そう思って目を凝らしていると――
「――ハーッハッハッハ!」
聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。
ぎょっとして見てみれば、そこには確かに、扇子を扇ぐあのウマ娘の姿が。
「今日は天晴れ日本晴れ! 良いレース日和で何より何より!」
どこか芝居がかった口調でそうのたまう彼女は、確かに別の意味で目立っていた。
「……なんだアレは?」
「ただの目立ちたがり屋でしょう。放っておきましょう」
そんな彼女に対する周囲の反応は、当然と言えば当然か冷たかった。
だが、新人は彼らとは逆に、そのウマ娘から目が離せなかった。
「……ええと、あの子は……」
はっ、として手元の資料を捲る新人。そして、該当するウマ娘の名前を見つけた。
「名前は……キタサンブラック、か」
キタサンブラック。どうしてだか、心惹かれるものを、新人は感じていた。それは、あのウマ娘の纏う雰囲気だろうか。
そして時は少し経ち、レースが始まった。スタート直後、キタサンブラックは僅かに出遅れた。だがすぐに立て直し、好位置をキープしていく……どころか。
「な――あそこから先頭を取りに行くのか!?」
キタサンブラックはそのまま先頭に躍り出ると、後続から3馬身といったところをキープする。
(さぁさぁ、ご照覧あれ! これがキタサンブラックの走りだぁ!)
キタサンブラックの口元が孤を描く。隊列はそのままコーナーに差し掛かり、最後の直線へと差し掛かる。そして――ゴール直前、キタサンブラックは更に加速した。
だが、後続も彼女に追いすがろうとする。番手についたウマ娘との差が2馬身、1馬身と縮まっていき――
「――ゴォォォル! 勝ったのはキタサンブラック! 辛くも押し切りました!」
結果は、キタサンブラックの勝利。だが、完勝とは言えない、レースとしては極々ありふれた勝利。
そんな結果であっても、キタサンブラックは――高々と笑っていた。
「ワーッハッハ! 勝鬨天晴れ! あ、大勝利!」
満足げに笑うキタサンブラック。圧倒的な勝利でもないのに、自信満々に笑うその姿に、新人はますます心惹かれていく。
(……あの子なら、もしかして)
そして、レース後。あの結果という事もあり、スカウトの手はまばらであった。
そんな中、新人はさも当然のようにキタサンブラックの姿を探す。
そして、僅かに人だかりが出来ている場所を見つける。
「キタサンブラック! 君、中々いい勝負根性じゃないか! どうだ! 私と組まないか!?」
そこには、ほんの数人程度ではあるが、キタサンブラックにスカウトをかける先輩トレーナーの姿が見受けられた。
「良き良き! 縁の輪がどんどん広がる! これが喜ばしくなくてなんと言おうか!」
一方のキタサンブラックも満更ではないらしく、ニコニコと頷きまくっている。
(……この調子だと、俺の出る幕、無さそうだな……)
そんな様子を見てしまうと、新人としては手を出しづらい。諦めて帰ろうとした、その時だった。
「――おーい! そこの人!」
不意に、キタサンブラックが声を張り上げた。
しかし、新人は「まさか、自分ではないだろう」と高を括り、首を振りながら去ろうとする。
だが――
「まぁ待ちなすって!」
ぽん、と肩に手を置かれた。
えっ、と声を上げる新人。振り向けば、そこにはキタサンブラックが立っているではないか。
「またお会いしましたね! いつぞやの人!」
「えっ、あ、ああ、そうだね」
思わず動揺する新人だったが、何とか平静を保つ。
そして、思った。「どうして自分に声をかけてきたんだろう」、と。
その答えは実に明快で、単純な事であった。
「貴方、私のトレーナーになりませんか!」
キタサンブラックは笑顔で言う。とても眩しい、満面の笑顔。まるで向日葵のような、屈託のない、無垢な表情。
「えっ、えーと……ナンデ?」
新人としては願ったり叶ったり、渡りに船には違いないが、しかしどうして自分なのだろうか。
「一目惚れだからです!」
「ひっ、一目……!?」
「ああ、色恋の意味じゃないですよ! あたし、好きだと思うものが大体一目惚れなもので!」
だろうな、とは思いつつも、どこか残念に思ってしまう自分がいた。だが、それでも新人は考える。
自分はウマ娘にとって初めての担当トレーナーとなる。それならば、やはりベテランの方が……。
「……正直、俺なんかよりもあっちの先輩がたの方が――」
「いいえ! 貴方との縁! これは間違いなく良縁と見ました!」
「……その心は?」
「直感です!」
直感なのかと、新人はガクッと倒れてしまいそうになる。
それを他所に、キタサンブラックは続ける。
「一樹の陰、一河の流れも他生の縁! 私の魂がこの人だと語り掛けて来たならば、その縁に乗っかるのもまた一興!」
はたして一興で済むんだろうか、と不安になる新人。
「さぁ! どうです!? 組むか、組まぬか!」
ずいっと寄ってくるキタサンブラックに少しドキリとしながらも、彼は答えを出す。
それはもう――彼の心が告げていたから。それが運命ではないのかと言われたならば、それに乗っかる程度には、彼も酔狂な人間であった。
「――うん、わかったよ。君と組もう。よろしく頼むよ、キタサンブラック」
「ワーッハッハ! そうこなくっちゃ! こちらこそお願いしますよ、大将!」
新人の差し出した右手を両手で握ると、キタサンブラックはブンブンと振った。
こうして、トレーナーになったばかりの青年と、桃の戦士に影響を受けたウマ娘の物語は熱く動き出す。そして、友やライバルとの交流やレースを通じ、これから幾千もの物語が生まれていくのだ――
「――さて、とりあえずあたしはこれで!」
「え゛っ!? いや、あの、打ち合わせとか……」
「あたし、一応配送業のバイトやってるんで! こうして縁を繋げていくんですよ! それでは!」
「えっ、あっ……」
――先行きは少し、ほんの少し不安だが。