凌辱エロゲの純愛トゥルーエンドのアフター風な、ヤンデレと泥沼な同棲ラブコメ   作:和鳳ハジメ

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がぶがぶ/16 ロード・オブ・ザ・ペアリング

 

 

 それは蜘蛛の糸のように、細く頼りない希望であった。

 多くを望みすぎると、途端に切れてしまうような。

 こちらの善性を試している、一筋の光明。

 

「きっと、初雪さんも、僕が、伝えて、でも、僕は…………」

 

 意味を為さない言葉の羅列、思考が文章を結ばない。

 ふらふらと揺れる視界の中、吉久は目当ての物を捜し当ててヨタヨタと初雪の眠る寝所へ戻る。

 その傍らに膝をつくと、震える手つきで彼女の左手を取り。

 

(――――そういえば、指輪って長さを計っただけで良いんだっけ?)

 

 霞がかった思考が、ふと冷静さを取り戻す。

 サプライズで喜ばすならば、初雪が眠っている今こそ絶好の機会だ。

 万全を期す為にも、しっかりとサイズを確認しておきたい所。

 

「調べるか、こういう時のスマホってね」

 

 己の精神が紙一重で保たれているのが分かる、眠らないと回復しないだろう。

 もっとも、眠った所で劇的に何かが変わる訳ではなく。

 すり減った耐久性の上限はすり減ったまま、つまりはジリ貧。

 

「…………そうだ、その為のペアリングなんだ。僕は信じてる、一緒の指輪を付けたら初雪さんは落ち着いてくれるって、元に戻らなくて良い……でも、少しでも落ち着いて、――――僕の想いが伝わるのなら」

 

(…………――――――吉久君をペアリングッ!?)

 

「あれ? 今……いや僕も疲れてるんだな、こんなにも安らかに眠ってるのに…………いや、こんなに笑顔で眠ってたかな? うん、夢の中だけでもさ、良い夢を…………っと、見とれてないでサイズを計らないと」

 

(うッ、顔に出ていましたか……それにしてもペアリングとは、ええ、吉久君のアイディアではなさそうですが――――ふふッ、楽しみです)

 

 寝たふりをしていた初雪は、心の中で小躍りした。

 実の所、ベッドに運ばれた時点で起きていたのだ。

 腕枕してもらおうと、タイミングを伺っていた所にペアリングという単語。

 

(寝たふりという選択は間違っていませんでしたね、ああ、どんな指輪を選んでくれるのでしょう、どんな渡し方をしてくれるのでしょうか、ふふッ、今から楽しみで仕方ありません)

 

 奇しくも明日は休日は、もしかして、もしかするならば、デートに誘ってくれてその最中に。

 等と、初雪は妄想が止まらない。

 何を着ていこうか、どんな下着を、ディナーの予約は必要だろうか。

 

「――――よし、ちゃんとメモも取った。何を買うかは……うん、今は眠いし後で、指輪って何処で買えるのかなぁ……あー……、実際に送って拒否されたら……僕、立ち直れないなぁ……何か保険、保険をかけておくべきか」

 

 再び鈍りだした思考の中、目に入ったのは裸でシーツにくるまった初雪の姿。

 美しい彼女の事後の姿など、エロいとしか言いようがない。

 同時に、このままだと風邪を引く可能性がある。

 

「ちゃんと掛け布団…………おっぱい」

 

(…………かなり精神に来てますね、明日は優しくしてあげないと)

 

「このおっぱいが僕の前から失われる可能性……」

 

(絶対にあり得ませんから、安心して腕枕を早くプリーズ、吉久君の愛しい恋人が添い寝を待ってますよ)

 

 セックスの時は暴走してしまったが、性欲が発散されたのなら多少は冷静にもなる。

 そしてペアリングだ。

 大きな疲労感もあって、恋愛脳に陥りつつある初雪。

 ――それを、今の吉久が気づけるはずが無く。

 

(…………………………今の内に全てのサイズを計って等身大の初雪さん人形を作る準備をしておいた方が良いのでは?)

 

 謎の使命感が沸き上がる、その勢いのまま再び巻き尺の出番だ。

 

「――――先ずは乳輪のサイズからだ、それから乳首の大きさ、バストポイント…………そうかお尻の穴の皺の数は知ってるけど、皺の大きさと形とかは計ったコトなかったな、今の内にやっておくか??」

 

「何をしようとしているんですか貴方はッ!? ち、ちちちち、乳首の大きさとかッ、お尻の穴の皺の大きさとか!! そのデータで何をしようとしているのですッ!!」

 

「あっちゃぁ……ごめん、起こしちゃったね。ところで何時から起きてた?」

 

「今はそんな話をしていませんッ!! さぁ吐きなさい私のデータで何を企んでいるんですッ!!」

 

「ちょっともしもの時に備えて、等身大の人形を作っておこうかと」

 

「は?? 浮気? 浮気ですか?? 生身の私が寝ているというのに乳輪の大きさを計ったばかりか、人形を性欲の対象にする?? セックスした恋人を放置して腕枕もせず? 事後の姿に欲情して襲うこともせず?? ――――ぶっ殺しますよ??」

 

 ハードなセックスの疲れがなんだ、この大馬鹿者を一発殴らないと。

 全裸で拳を握りしめる初雪を前に、疲れ切っている吉久は己の言葉の意味を自覚せず、そして欲望丸出しで告げた。

 

「いやもう今日はクタクタで疲れたから、君のおっぱい吸いながら寝させてくれない? 今なら君のコトを初雪ママって呼べると思う」

 

「――――さぁ、此方にいらっしゃい吉久坊や、ママのおっぱいチューチューしながら寝ましょうねぇ、貴方の愛しいママの腕枕は此方ですよぉ」

 

「初雪ママーー!! おっぱい、おっぱい、おっぱ…………zzz」

 

 有言実行とはこの事か、吉久は速攻で準備を整えた彼女の隣に寝ころぶと。

 赤子の様に乳首を吸って十五秒、完全に寝落ちして。

 残るは、母性と性欲と優越感の狭間にいる初雪だけだ。

 

「よちよち、よちよち、……ゆっくり寝てくださいね吉久君。――――これからは、こういうプレイも取り入れた方が良いのでしょうか……、うっかり乗ってしましたが恐らくは過度の疲弊による錯乱、で、でもですよ?」

 

 これはこれで、安全にかつ確実に吉久を籠絡できる方法なのかもしれない。

 もし彼が起きたときに、この赤ちゃんプレイを否定しても。

 強引に持ち込んで、その光景を録画出来れば。

 

「――――――悪く、ありませんね」

 

 これで彼の枷がまた一つ、そして今までとは少し意味合いの違う証拠だ。

 彼自身の痴態であるならば、気軽な脅迫に使える筈。

 けれど。

 

(計画の算段よりも、今は一緒に眠りましょう……)

 

 長い夜が終わり、部屋には二人分の寝息があった。

 

 

 

 

 

 

 そして次の日である、二人は何事もなかったかの様に起き出し。

 吉久は昨日のセックスの後始末、初雪はシャワーを浴びた後で朝食の支度を。

 その後、いつデートに誘われるかとソワソワしている初雪であったが。

 

「じゃあ僕は今からちょっと出かけてくるよ、安心して相手は男っていうか兼嗣だから、晩ご飯までには帰ってくると思うからさ。――ああ、そういえば君も出かけるんだよね、そのお洒落的にさ。時間が合うなら一緒に帰る? 後で連絡して良い? じゃあ改めて行ってきます!!」

 

 ぱたん、と閉じる玄関の扉。

 

「――――え? は? デート……、デートは??」

 

 置いていかれた、恋人なのに、彼女なのに、お嫁さんなのに。

 てっきりペアリングを一緒に買うのだと思っていた、なのに、後輩と遊ぶ。

 こんな事が許されて良いのか、そもそも本当に後輩と遊ぶのだろうか。

 

「…………サプライズの可能性はどうでしょうか、ですがペアリングとは二人で一緒に付ける物、私も選びたいです」

 

 とはいえ。

 

「吉久君が選んだ物ですもの、変なデザインは選ばないでしょうし」

 

 以前、彼が初雪の為に手に入れたウェディングドレスのデザインを見れば。

 彼のセンスが、そこまで悪くない事は見て取れる。

 勿論、手に入るドレスのデザインの幅が無かった可能性もあるが。

 

(――――吉久君が、私に似合わない物を選ぶ筈がありません)

 

 故に、信じていいと思うのだが。

 

「でも……一緒に居たいです吉久君、デートしたいです、何で、何で側に居てくれないんですか?」

 

 寂しい、さっきまで目の前に居たのに。

 もっともっと側に居てほしいのに、お揃いの指輪を買うなら一緒に買いたいのに。

 心の中の不満が、どろりと流れ始める。

 

(私から逃げる算段を、いえ、――今まさに逃亡しようとしていませんよね、吉久君??)

 

 昨晩、彼は己が寝たフリをしていた事を見透かしていた可能性がある。

 もしかして、あえて「ペアリング」と言ったのではないか、彼への向ける執着を少しでも軽減する為に誘導されたのではないか。

 

(あはッ、そうなんですか吉久君? 指輪一つで全てを帳消しにすると? それすらもフェイクにして私を捨てようとしているのですか?)

 

 本当にペアリングを買いに行っている可能性だって、勿論ある。

 初雪の愛は、その可能性が高いと告げている。

 だが憎悪の部分は、謀られていると、この期に及んで弄ぶつもりだと。

 

「…………何で、最初からそうして想いを告げてくれなかったんですか?」

 

 何で、どうして、何故、彼は普通に想いを伝えられた筈だ。

 彼と己は、普通の恋人として、何の蟠りもなく愛を育めた道があった筈だ。

 それなのに、――彼はそれを放棄し初雪を陵辱し、苦しいからと勝手に解放して、辛いからと指輪と送り誤魔化そうとしている。

 

「許しません、私は……貴方を許しません吉久君」

 

 行かなければ、追わなければ、もし、もし、本当に彼が初雪を謀っているのなら。

 

「――――包丁、持って行きましょうか」

 

 澱みきって逆に澄み渡った様に見える青瞳で、初雪は出かける準備をする。

 

(幸せなんです、貴方と一緒に暮らせて。でも辛いんです。一緒に暮らす貴方を疑うのが。憎しみを向けてしまうのが。こんなに、……こんなに、愛しているのに)

 

 そして。

 

(貴方はそんな私を見て、苦しんで……昨日なんてママと呼んで私のおっぱいを…………――――んん??)

 

 あれ? と玄関ドアを開けようとしていた手が止まる。

 昨日、吉久は追いつめられた果てに妙な醜態を晒していなかったか。

 

(…………そ、そうですよね、普通なら、以前の吉久君でも私の事をママなんて呼ばなかったですし)

 

 もしや自分は彼を追いつめすぎて、精神と性癖を歪ませてしまったのでは。

 その瞬間、パチンとスイッチが切り替わる様に初雪の気持ちが切り替わった。

 

(――――吉久君を救わなくては)

 

 何て愚かな行為をしていたのだろうか己は、憧れと愛と性欲と理性で一時は壊れかけた彼を。

 初雪という愚かな女は、己の望みを押しつけ壊そうとしていた。

 壊れて、そのまま己だけの狂う男にしようとさえしていた。

 

「私は決して、貴方を苦しませるだけ為に側にいるのでは無いのですから――――」

 

 可哀想な吉久、自分に出来ることがあるなら。

 何でも叶えてあげたいと、初雪は静かに笑みを浮かべ行動し始めた。

 

 

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