私は〇〇鎮守府に所属する駆逐艦。名前は夕立。
そんな私は今、深海棲艦化しかけている。
原因は分からない。ある日突然に体がおかしくなり、そして気付けばもう戻れないところまで来ていた。
「……ぽい」
今の私には海が似合う。そう思ってしまうほど、私の体は海に馴染んでいた。
きっとこの体になった時に何かあったんだと思うけど、残念ながら思い出せない。
思い出せないということは大した事じゃないだろうし、どうでもいいかな。
だって、私はこうして生きている。それだけで十分だよね?
「…………」
……何してるんだろうか、私は。
艤装は外しているとはいえ、ここは海の上だ。敵も味方もいない場所。
そこに寝転んで空を見上げているだけなんて、あまりにも無意味過ぎる時間だと思う。
『ーー』
「あ……」
そんな時だった。ふと聞こえてきた音に反応して体を起こせば、そこには深海棲艦の大艦隊が見えた。どうやら私の鎮守府に向かっているようだ。
(みんなならきっと大丈夫なはず)
そう考えた私はもう一度眠りについた。
その日の夕方、いつの間にか私はほとんど深海棲艦になっていたのでその辺を航行していた姫級に今の鎮守府の状況を聞くことにした。
「エーット戦艦棲姫サンッポイ?」
「イカニモ」
「今〇〇鎮守府ヲ攻撃シテイルッテ聞イタノダケドドンナ戦況ッポイ?」
「マズマズダナ。ヤツラハカナリモチコタエテイルガモウスグ主力艦隊ガ到着スルカラ朝ニハ陥落スルト思ウゾ。陥落シタラ艦娘ドモヲ深海棲艦ニシナケレバナラン。仕事ガ多イナァ、ウゲッ!?」
気が付いたら私は戦艦棲姫をぶん殴っていた。
なんてことだ。私が守りたいと思っていた場所に手を出そうとするどころか、私の大事な仲間に手を出すなんて……。許さない。
絶対に許さない。
あの子達だけは傷つけさせない!
それからすぐに完全に深海棲艦化した私は、途中で会った空母水鬼とかいう奴を殴り飛ばして沈めた後、そのまま鎮守府に向かった。
途中、何度か砲撃されたり艦載機に襲われたりしたけれど、今の私にとっては痛くも痒くもない。
でも、少しだけ面倒臭いと思ったから全部避けずに受けた。すると砲弾は全て私の体に刺さり、爆発した。だけどそれがなんの問題も無いことを知っている私は特に気にせず突き進む。
そして、遂に鎮守府へと辿り着く。そこで艦娘と戦闘していた敵を蹴散らしながら「夕立!?」と言う仲間たちの声を無視しながら進んでいくと、そこにいたのは敵艦隊旗艦の戦艦水鬼改だった。
「オマエガ今回ノ元凶ッポイ?ジャア殺スッポイ!」
そこからはあっという間だった。私は怒りのままに目の前にいる敵を全て殺し尽くし、最後には敵艦隊の旗艦である戦艦水鬼改さえも殺した。
これでようやく終わった。後は逃げるだけだ。
その時、私は自分のお腹が空いたことに気が付き、近くに落ちていた敵の残骸を食べようとしたところでハッとなる。
これはいけないと慌ててその場を離れ、近くの岩陰に隠れると、しばらくして現れたのは……
「…時雨…」
私の大切な姉だった。
「ドウシテココニイルッポイ?」
「それはこっちのセリフだよ夕立。僕達はずっと君を探し回っていたんだよ?なのに君は今までどこに行っていたのさ」
「ドコッテ言イワレテモ……」
困ったなぁ。まさかこんなに早く見つかっちゃうとは思ってなかったっぽい。……まあいっか。どの道こうなる運命だったんだろうし、仕方ないよね。
それに、今はもう疲れちゃってそんな事を考える余裕は無いし。
「ねえ、聞いてるのかい夕立。どうして何も言わずに出て行ったのさ。何か理由があったんでしょ?」
「……」
「黙っていては分からないよ。僕は君の口から聞きたいな。ほら、言ってごらん?」
「………………」
時雨は優しい。優し過ぎるくらいに優しくて、だからとても心配性だ。……ああ、そうだ。時雨はいつもそうだった。私が無茶をして怪我をした時、時雨は泣きそうな顔をしながら必死に私を止めようとしていたっけ。
あの時の私はただ単に強くなりたかっただけで、別に死にかけてまで強くなろうとはしていなかったんだけど、それでも時雨は私を止めた。
『お願い、それ以上無理しないで』
『これ以上自分を傷つけるのは止めてよ!』
そう言った時雨の表情が今でも忘れられなくて、私はつい時雨の言うことを聞いちゃうんだろうな。……きっと今だって、時雨の願いを聞き入れてあげるのが一番なんだと思う。
でもね、ダメなの。私はやっぱり戦いたい。
「…………私ハモウ人間ジャナイカラ一緒ニイレナインダヨ、時雨」
「え……それどういう意味だい?」
「言葉通リ。私ハ深海棲艦ニナッチャッタノサ。ソレデ帰ル場所モアワケアクナルシ、皆ト一緒ニイラレナインダヨナ」
「な、何を言っているのさ夕立。冗談はやめて……」
「嘘じゃないっぽい。デモ安心シテホシーカナー。コレデモ私、強イノ。私ガ一番ダモンネ。今度ハ誰モ泣カサセナイカラ」
そう言って私は立ち去ろうとしたけど、それを時雨が止める。
「待ってくれ!本当に、本当なんだね?」
「ポイ」
「そっか……。なら、最後に一つだけ聞かせて欲しいことがあるんだ」
「ナニ?」
「……夕立は、僕の事が嫌いになったのかい?」
その質問に私は少しだけ考えて答えた。
「ソンナノ決マッテルッポイ!大好キダヨッ!!」
「……そうか。ありがとう、夕立。じゃあね。……さよなら」
「バイバーイ」
こうして私は時雨との別れを済ませ、鎮守府に背を向けて歩き出した。
さようなら、私の居場所だった場所。
別に続編は書きません。