お見合い相手が「高町なのは」だった件。   作:世嗣

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今日は非公式ではありますが高町なのはさんの誕生日です。
そんな日に日間一位を取れたのは皆さんの応援のおかげです。ありがとうございます。
これからものんびりとにはなりますが、アルフォートみたいな名前と評判の主人公と高町なのはさんの物語をお届けできれば、と思います。



わがままいったって君は恋人

 

 

 

 

「お疲れさまでしたー」

 

「二佐が帰ってる……」

 

「嘘だ……土曜の昼間なのに……」

 

「君たちが俺をどう思っているかよーくわかったよ」

 

「いえそんな! 実は今の二佐顔色エグいんでさっさと帰ってほしかったくらいです!」

 

「そもそも補佐今日出勤日じゃないんだから来なくてよかったのにというか!」

 

「言い方言い方」

 

 部下に心配されつつもアルファードが退勤。そのままの足で、喫茶店へと向かう。

 

 扉に手をかけたアルファードの意識が一瞬ふっと遠くなりかける。

 

「っと、ぶね……」

 

 ギリギリで立ち止まるとアルファードが目頭を揉んだ。

 

(さすがに5連勤仮眠一時間の強行軍はやりすぎたな……今日のミーティング終わったらちゃんと寝よう……)

 

 それは部下にもさっさと帰れと言われる。

 

 気を取り直して扉を開けるとからん、と軽やかな音がして、カウンターの向こうにいるマスターが「いらっしゃい」と言葉少なに迎えてくれる。

 それに頭を下げつつ、店の角、彼の―――いや、彼らのいつもの席へと向かう。

 

 そこには遠い空を見つめる、絵になるほどきれいな女性が一人。

 

「お待たせしてすみません、高町一尉」

 

「あ、アルファードさん。おしごとおつかれさまです」

 

「高町一尉こそ。お疲れさまです」

 

「あの、あんまり顔色すぐれないみたいですけど」

 

「お気になさらず。元からこういう顔色なので」

 

「そ、そうでしたっけ……」

 

「そうですそうです。あ、それで今日の定例報告ですがここに資料用意しました。俺の一週間の仕事と余暇時間はこんな感じなので、いい感じにすり合わせていきましょう」

 

 高町なのはとアルファードが「偽装恋人」というつながりを得て二か月が経った。

 

 その間、なのはとアルファードの関係が劇的に変わったかと言えば、そうでもない。

 いまだアルファードはなのはに敬語で「高町一尉」呼びで、なのはの方も「アルファードさん」呼びである。

 まあそれなのにデートはしてるし、なんなら膝枕イベントまで終わらせてしまってるあたり、恋人らしいことの実績開放順が変則すぎるのだが。

 

 そんな二人は今日もいつもの喫茶店でミーティング。

 週に一度行われているお互いの情報交換も兼ねたこの集まりは、二人がお互いのメールアドレスの交換もしてないせいで場所と時間を決めた現地集合、現地解散である。小学生のデートみたいな形式だな。

 

「最近娘がどこかで買い食いしてるみたいなんですよ」

 

「買い食いですか」

 

 お互いの近況報告が終わり落ち着いた頃合いで、ケーキを一口頬張ったなのはがそう言った。

 アルファードは「雑談のターンに入ったな」と思いつつ相槌を打つ。

 

 最初のころは意見交換だけの短いものだったのだが、最近では報告の後にスイーツをつまみつつ軽い雑談をするのが恒例行事になっていた。先週は実家からもらったりんごが山ほどあって食べきれないということを話していた。

 

「うちの娘、学校までは徒歩通学なんですけど、子どもが歩くにはちょっぴり距離があるんですよね。朝は途中まで一緒に行ってるんですけど、帰りはあの子一人で。

 それで時々……二週間に一回くらいあんまりご飯を食べないときがあって。珍しいなーと思ってちょっと『お菓子でも食べた?』ってカマかけてみたら『あ、アイスとか食べてないよ』って」

 

「それは間違いなくアイス食ってますね」

 

「ですよね」

 

「ええ、間違いないでしょう」

 

 アルファードがキメ顔で眼鏡をクイッと押し上げる。気づいてないけど買ってやったのはお前だ。

 

「ですよねぇ~。いや私もそうかなーと思いつつ特には突っ込まなかったんですよ? 

 ほら、やっぱり買い食いに心惹かれる気持ちって私もものすごくわかりますから……おいしいんですよね、公園でこっそり食べるお菓子の味とかって……」

 

「ええ、わかります。俺も子どものころは姉弟なんかとこっそり食べてました。まあ今にして思えば親はそういうのもわかって許容してくれていたんだとは思いますが」

 

「でもちょっと解せないところもありまして」

 

「ほう」

 

 アルファードが片眉を吊り上げた。

 

「なーんか、漏れ出る話を聞く限り誰かと一緒に食べてるみたいなんですよね。そうとは言ってないんですけど、ちょくちょく相談にも乗ってもらってるみたいで」

 

「彼氏でしょうか?」

 

「まだ小学生なんですよぉ……?」

 

「それは……最近の小学生は進んでると言いますし……」

 

「それ私たちが子どもの頃から大人は言ってますけど実際に子どもが進んでたことあります?」

 

「確かにないですね。言われてみれば、あれどっちかっていうと親世代がわからないことをする子どもを見て『あれついて行けへんねん』って気持ちが占める言葉って気がします」

 

 うむ、と頷くアルファード。心の中では「やっぱりなのはさんは目の付け所が面白いな」などと思っている。

 そんなアルファードを尻目になのはが大きなため息を吐き出す。

 

「あー、誰がヴィヴィオの相談とか乗ったんだろ……」

 

「はは、案外近所の気のいいおじいさんとかかもしれませんよ。クラナガンの住宅街、結構管理局を引退した歴戦おじいさんとかいるので」

 

「あー、そういえば前娘とジョギングした時なんか人のよさそうなおじいさんが話しかけてくれたかも。うー、相手がわかればお礼を言うなりなんなりできるのに……」

 

「どこのどいつなんでしょうね」

 

「まったくです」

 

 ここのコイツ。

 

 話しつつ、アルファードがこめかみを抑える。

 

(あー、あかんなちょお調子悪なってきた。今日が休みでよかったわ、午後からがっつり睡眠に使える……)

 

「あー、コーヒーの湯気で眼鏡が曇ったナー」

 

 アルファードが眼鏡をはずして目を押して薄く息を吐く。なのはに気づかれないようにコーヒーの湯気でわざと眼鏡を曇らせてから外す徹底ぶり。

 だが、めざといなのはは―――底抜けのおひとよし、きっすいのおせっかいやき高町なのははそのアルファードの不調の兆しを見逃さない。

 

「……アルファードさん、やっぱり疲れてます、よね?」

 

「そ、そんなことありませんヨ?」

 

 じっと高町なのはが見つめてくる。しばらくその無言の圧に耐えていたが、あんまりにも強情なその視線に、アルファードが根負けした。

 

「……はあ、降参です。嘘つきました。実はここんところ仕事が忙しくてあんまり眠れてません」

 

「もー、それならあらかじめそうと言ってください。私たちのミーティングは予定ずらしてもいいんですから」

 

「高町一尉のご迷惑をかけるわけにはいきませんから」

 

「私これでもアルファードさんの『恋人』ってことになってるんです。その私を恋人の体調も気遣えない人にしたいんですか?」

 

「む、そ、それは……」

 

「わかっていただけたら大丈夫です。じゃあ今日はもう解散にしましょう。なんなら送っていきますよ?」

 

「それはさすがに勘弁してください……」

 

 その後、アルファードは会計に立とうとしたが「私がやりますから」となのはに強引に仕事奪われてしまい、大人しく座らされてしまった。

 

(なんか、なのはさんには勝てないな。俺の隠しておきたいところまでついついむき出しになっちゃうというか……困ったな。これ以上なのはさんに弱いところは見せたくないんだけどな)

 

 会計が終わり店を出るとアルファードはなのはに自分の分の代金を押し付ける。

 

「もう、別に今日はいいんですよ?」

 

「いえ、こういうのはちゃんとしないと。俺たちはぎそ……まあ、いろいろ事情がある関係ですから」

 

「……まあ、それならいただきます。でも帰りは無理しないでくださいね」

 

「なあに、俺は72時間働ける男です。このくらいへっちゃらですよへっちゃら―――あれ」

 

 笑って見せたアルファードが社員寮へと帰ろうとしたとき、急に足がもつれて思考が鈍化し始めた。

 

(あ、やべこれ落ちる)

 

 一度やってしまったことがある。あまりにも体が疲労したせいで脳が無理やり体の電源を落とそうとしているのだ。

 

 ぽふん、と体が何やら柔らかいものに受け止められる。

 

「ふぇ、あ、アルファードさん?!」

 

 なのはの声が聞こえるが、アルファードはもう意識を保つことはできない。

 

「すみませ、なのはさ、ちょっとどっかで寝かせて―――」

 

 その言葉を最後に、アルファードの意識は暗い闇の中に飲み込まれた。

 

 

 

 

わがままいったって君は恋人

 

 

 

 

「どこだここ」

 

 目を覚ました時アルファードは知らない場所にいた。

 とりあえず状況を確認するため体を起こすと、ずるりとブランケットが滑り落ちる。

 

「えーと……」

 

 大きなテレビ、キッチンから吹き抜けになった食卓、どうやら自分が寝かされていたらしい四人くらい座れそうなソファー。明るい色調のカーテンの隙間からは西日が差し込んでいる。推察するに今の時刻は16時ごろ、といったところか。

 

「あ、起きた。もうだいじょうぶなんですか?」

 

 そこにぱたぱたと近づいてくる足音が一つ。

 まるで猫じゃらしをたらされた猫のように、お手と言われた犬が思わず手を差し出してしまうように、その音の方へと振り向いたアルファードが、固まる。

 

「よかった~。本当にぐっすり寝てたから『もしかしてなにか病気かも? 病院に連れて行った方がよかったかな?』と思ったけど、ちゃんと起きて。体調いかがですか?」

 

 エプロン服姿の高町なのはが、そこにいる。

 

「―――――」

 

「あれ、アルファードさーん、聞こえてますかー? アルファードさーん?」

 

「俺実は死んでてここ天国だったりします?」

 

「なんで!? アルファードさんは生きてますしここは私の家ですよ!?」

 

「ああ、よかった起きてまず見たのが偽装とはいえ恋人のエプロン姿はあまりにも報われすぎている……ん?」

 

 いまなんだか聞き捨てならない単語があった気がする。

 

 アルファードは眼鏡を押し上げるふりで顔を隠しつつ、寝起きで鈍い頭を必死に動かし始める。

 

「すみません、どうやら聞き間違いをしてしまったみたいで。申し訳ありませんがもう一度ここがどこか教えてくれへんでしょうか?」

 

 なのはが首を傾げる。

 

「私の家ですけど?」

 

「なんでそうなったん???????」

 

 アルファードの頭の上に10個ほどのクエスチョンマークが浮かんだ。

 

「あ、アルファードさんって時々言葉がなまりますよね」

 

「ああそれは母親の実家が……ってそやなくて」

 

 どうやら記憶がはっきりし始めたらしいアルファードは頭を抱える。

 

「いや俺確かにどっかで適当に寝せてくれって言うたで! でもそれは適当な……それこそ喫茶店とか、普通に五課の局員寮って意味で……なんで君の家に連れて来てもーてるんや!」

 

「だ、だってあそこからなら私の家が一番近かったですし、今日は娘は友だちと遊びに行ってましたし、それに私五課の局員寮の場所わかりませんし……というか、そもそもアルファードさんは自分の状態を見てなかったからそんなこと言えるんです! アルファードさんすごく顔色も悪かったし何かあったとき病院に連れていけないと困ります!」

 

「いやたかが寝不足やから君は心配しすぎやて。……コホン、あんくらいならちょっと休んでれば治るから」

 

「ただの寝不足で人は突然倒れたりしません。もしかしてですけどアルファードさん、ごはんも抜いてたんじゃないんですか」

 

「失礼な、ちゃんと食べてましたよ」

 

「何をですか?」

 

 ぐ、とアルファードがひるんだ。そして今までなのはを見つめていた目を泳がせて、ごにょごにょと言い始める。

 

「えーっとー、あのー、コンビニで売ってる栄養バー、とか……」

 

「ほらやっぱり。いいですか、栄養バーってあくまでも時間がないときに済ますものでこれを食べれば大丈夫!っていう理想の食べ物じゃないんですから」

 

 めっ、となのはが腰に手を当てて怒りながら、頭一つ分大きいアルファードを見上げた。

 

「自分の管理もちゃんとできない人の文句を聞く気はありません。大人なんですから無茶と無理の見極めをしてください」

 

「はい……」

 

「ほらだから座って。ずいぶん顔色はよくなってますけどまだ無茶は禁物ですよ」

 

 正論で叩きのめされたアルファードは、ぐいぐいとなのはに押されて元通りソファーに座らされる。

 ついでにブランケットまで再びかけられて、休む体制はばっちりだ。

 

「……俺が悪かったのはわかりますが、その、もう本当に大丈夫ですから。ほらこの通り―――っと」

 

「ああ、もうそんなふうに急に立ち上がるとよくないです。アルファードさんの体、いま栄養がなくて小鹿みたいなんですから大人しく座っててください」

 

「面目ありません……」

 

 しゅん、とアルファードが肩をすくめる。

 

(しょんぼりしてる……子どもみたい……)

 

 やっぱりちょっとかわいい人だな、と思いながらなのははキッチンに引っ込んでいく。

 そして、鍋で火にかけていたスープを器に注いで、アルファードの前に置いた。

 

「はい、どうぞ」

 

 スープを載せてきたおぼんを胸の前で抱えて、なのはが微笑む。

 

 アルファードは目の前のスープとなのはを代わりばんこに見比べながら、ポカンとした顔をしている。

 

「もう、なんでそんなびっくりした顔してるんですか。アルファードさんに、ですよ」

 

「俺に……」

 

 おそるおそる、といったようにアルファードが器を手に取って口をつける。

 

「……うまい」

 

「よかった。私の娘も好きなんです、この野菜スープ。

 じっくりことこと煮てるからお野菜もやらかーくなって、味もよく出ますし、なによりこのあったかさがすごく嬉しいですよね。風邪で食欲のない時とかでもこれなら食べれちゃったりして」

 

「ええ……ほんとうに、おいしいです」

 

 アルファードが再び口をつけて、かみしめるように「おいしい」とそう言った。

 

 誰かの手料理を食べるなんてずいぶん久しぶりな気がした。

 それも『自分のために作ってくれた料理』なんて、そんなの、自分なんかがいいのかとすら思ってしまう。

 

(あったかくて、深くて、やわらかくて、優しい味だ。なんか子どものころこういうの飲んだっけ。懐かしいな)

 

 すこしだけ、子どものころに戻ったような気がする。

 

「……おいしかったです。ありがとうございます」

 

「いえいえ、お粗末様です。お代わりいりますか? あ、りんごもありますよ。切ってあげちゃいましょうか、私最近うさぎさんにできるようになりましたから」

 

「りんご……い、いえ、これ以上ご迷惑はかけられませんって」

 

 む、となのはが頬を膨らました。

 

「アルファードさん、こういう時くらいわがまま言ってください」

 

「いや俺たちは偽装恋人なんですから……」

 

「アルファードさん、私怒りますよ」

 

 なのはがアルファードの隣に座ると、彼の手を取った。なのはよりも一回り大きい手。内勤をする非戦闘員とは思えないほどごつごつした、武骨な大きな手。

 その手を握って、高町なのはは言う。

 

「私が今アルファードさんにやさしくしてあげたいのは、あなたがアルファードさんだからです。偽装恋人相手だからじゃありません。あなたが、不器用だけど一生懸命で、ちょっとずれててかわいいところもある、そんな『アルファードさん』だからやさしくしたいんです」

 

 アルファードは嬢ちゃん(ヴィヴィオ)のことを「周囲にやさしいから優しくしてもらえる子」といった。

 ならばそのヴィヴィオのやさしさはどこから、誰を真似したものなのだろう。

 

 答えがここにある。

 

 ヴィヴィオは、なのは(ママ)のやさしさを真似したのだ。

 目の前の誰かを助けることに迷わず、自分の気持ちを伝えることをためらわず、みんなにやさしくできるから、みんなにやさしくしてもらえる、そんな桜の光に憧れていたのだ。

 

 だから、高町なのははアルファード・クラウンに手を伸ばすことをためらわない。

 だって高町なのはは『アルファード・クラウン』にやさしくしたいって思ったのだから。

 

「さみしいこと言わないでください。弱ってる時くらい、わがまま聞かせてください」

 

 なのはの瞳がアルファードを見つめていた。透き通るような水晶の瞳。

 その前では、もうわざわざ自分を取り繕うことすら馬鹿らしくなってしまう。

 

「勝てませんね、君には」

 

 アルファードが眼鏡をはずして目を揉みながら、本日二度目となる根負けで、息を吐いた。

 

「りんご、食いたいかもしれません。実は先週りんごの話聞いた時から食べたかったんです」

 

「―――! はいっ! うさぎさんにむいてあげますからね!」

 

「それは……ご勘弁願いたいですが……」

 

 「えーっ、なんでですかー」と唇を尖らせるなのはと、「俺ももういい大人だからです」と眼鏡をかけなおしたアルファードは、目と目を見合わせて、どちらからともなく小さく笑った。

 

 しばらくしてずいぶん回復したアルファードが「そろそろ帰りますね」と言ったのはわずかばかり夜の気配がやってき始めるころだった。

 

「本当に送っていかなくて大丈夫ですか?」

 

「ええ。タクシーも呼んでいただきましたし、それにスープとりんごのおかげで元気も結構戻りました」

 

「むりしちゃだめですからね」

 

「さすがにもう嘘は言いませんよ」

 

「ならいいでしょう」

 

「信じていただけてありがたき幸せ」

 

 玄関先で靴を履いたアルファードとそれを見送るなのは。

 とんとん、とアルファードがつま先を地面で叩いて位置をただすと「あ、そうだ」となのはが声を漏らした。

 

「せっかくですし、メールアドレス、交換しませんか?」

 

「メール、ですか?」

 

「はい。ほら、今日みたいに具合が悪いときとか都合が悪いとき連絡取り合えたら便利じゃないですか」

 

「あー、それは確かにそうですね」

 

「でしょう?」

 

(そのせいで今日は迷惑かけちゃったし)

 

 心の中の呟きを声にしなかったのは、それを言うとまたなのはに怒られてしまう気がしたからだ。

 きっと彼女は今日アルファードに迷惑をかけられただなんて、ちっとも思ってないだろうから。

 

「じゃあこれ、俺のメールです」

 

「はい、受け取りました」

 

 アルファードが通信端末を出して、投影したホロウインドウを空中で滑らせる。

 するとそれはなのはが胸元から引っ張りだした赤い宝石のデバイスに吸い込まれた。これでメールアドレスの交換は完了だ。

 

「じゃあ、また」

 

「うん、また」

 

 アルファードが高町家の扉を開けて、外に出る。

 その直前、少しだけ振り返るとそこには手を振ってくれているなのはがいて。

 

「―――ありがとうございました、()()()()()

 

 アルファードはそう言い残して、高町家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 タクシーの外、時速40キロで追い越していく生活の光。

 

(……久しぶりだな。むりしちゃダメ、とか叱られたの)

 

 まるで子どもに言い聞かす言葉だ、と苦く笑うアルファード。

 

「あれ、メール?」

 

 不意に、さっき出したばかりで手に握っていた携帯端末が軽い音を鳴らした。

 

(なんだ……?)

 

 アルファードが携帯端末のメールボックスを除くと、新着の件名が一つ。

 

 送り主は、『高町なのは』。

 書かれた言葉はたった一文。

 

『なのはさんって呼んでくれて嬉しかったよ。お大事に』

 

 すう、とアルファードが天を仰ぎ、ごん、と窓に頭をぶつけた。

 

「うお!? お客さん急にどうしたんだ!?」

 

「この行き場のない感情をどこにぶつけるべきか考えている」

 

「とりあえず、俺の車の窓にぶつけるのはやめてくれ」

 

 今日も今日とてアルファード・クラウンは、高町なのはの些細な言動に振り回されて、大いに感情を乱すのだった。

 

 

 

 

 

「あれ、ママ今日誰か来てたの?」

 

「あー、うんちょっとね。知り合いで風邪の人がいたからしばらくここで休ませてあげてたんだ」

 

「へえ~。なんの関係の人? 教導隊? それとも六課?」

 

「え? あー……あの人、私にとってなんの関係での知り合いなんだろうね?」

 

「えぇ……私に聞かれてもわかんないよ……」

 

 

 




 
なのは「なのはさんって呼んでくれて、う、れ、し、かった、よ、と。そうしーん」
レイハ「(人間で言う無の顔で送信する)」

『高町なのは』
最近ヴィヴィオを甘やかしてる人がいる気がする……。

『アルファード』
なのはに「アルファードさんって自分の子どもは甘やかしそうですよね」って言われてそんなことないですよと苦笑いした。

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