プロローグ
「っと着いたな。ちゃんと目的の場所に送ってくれたのか....?」
「きゃっ!いやっ!やめて!離して!」
「ん?」
いきなり何もないところから現れた男が現在の状況を確認しようとすると、背後から少女のものだと思われる高く綺麗な声が部屋に響いた。
その声に気づき男が振り返るとそこにはまるで手術室のような部屋であり、部屋の中心には手術台と思われる場所で手足を拘束された黒髪の妖艶な雰囲気を醸し出す少女がいた。少女はガチャガチャと音を立てながら身体を必死に動かして抵抗していたが、拘束具はびくともしない。
少女の周りには複数の大柄な男たちがその少女のことを囲っており、今にも少女を襲ってしまいそうな状況であった。男がいる場所は改めて見るとどこか研究所のような施設であり、人間の鼻腔を刺激する血の匂いで充満していた。
「あの子は....!よし、神様はしっかりと送ってくれたみたいだな」
男は部屋にいる少女の危機的状況を見ると、顔に若干不快感を表したが、その後どこかワクワクしているような覚悟を決めたような声で言った。
「せっかくこの世界に来たんだ、出来るなら救いたいって思うよな........おいっ!そんな汚い手でその子に触れるな!」
そのまま扉を蹴飛ばすような勢いで少女がいる部屋へと入って行き周りの男たちに怒鳴り声を上げた。
まずは目の前の少女を救う──それがこの男、神楽慎吾にとってこの世界初めての目標である。
*********
「いきなりですまんが、お主はもう死んでしまったんじゃ。どうもこちらで不手際があったらしく、本来なら死ぬはずのないお主をこちらに連れてきてしまったようじゃ.....本当にすまん」
「は?」
一人の男、神楽慎悟の前でゆったりとしたローブを着た長い顎髭の目立つ爺さんが頭を下げていた。まだ状況を把握出来ていない慎悟は最初何を言われたのか理解出来なかったが、しばらくすると自分の最後の場面を思い出し困惑しながらも声を出した。
「確か俺は夕飯のカップラーメンを準備していて.....あれ、そこから記憶がないぞ?」
「そうじゃ、お主がカップラーメンが出来るのを待っている間にそのままぽっくり死んでしもうたんじゃ」
「えー、カップラーメン待ってる間に死んだって.....あまりにもあっけなさすぎるし実感ないわ。というより爺さんは誰なんですか?あ、もしかして神様だったりします?」
「その通りこの世界の神じゃが......お主、儂に怒りを抱いてはおらぬのか?」
「え...?」
爺さん──神様は死んだことに対してあまり関心を持たない慎悟にそんなことを聞いてしまった。
慎悟からしてみたらまだ現実感がないというのもあるのだが、そもそも慎悟は自分が生きていた世界に特に未練を持っていなかった。毎日をなんとなく過ごし生きていた為、刺激のある生活をしていなかった。
だから死んだと言われても、あぁそうなんだ、死後の世界って何が出来るんだろうくらいにしか思っていない。
「まぁ、そうだな〜特に必死で生きていたわけでもなかったですし、家族も俺以外もう全員いなかったから別に怒りとかはないですね」
「む、そうか.....それはそれでなにやら罪悪感があるのう」
「別に気にしないで下さい、それよりも俺ってこれからどうなるんですか?このまま天国にでも行ったりするんですか?」
「いや、それなんじゃが、お主にはそのまま別の世界で過ごしてもらいたいと考えておる」
「別の世界?よくある異世界に行くとかそんなのですか?」
「う〜ん、異世界といえば異世界なのじゃが....お主が行くのは『魔法科高校の劣等生』の世界じゃ」
生前にたくさん溢れ自身も読んでいたジャンル、異世界転生ないし召喚系だと思った慎悟は神様にそう尋ねたが神様は小さく首を振りこれまた生前にあった『魔法科高校の劣等生』の世界だと言った。
それを聞いた慎悟は目を見開いて驚きをあらわにしながらも声を出した。
「魔法科高校の劣等生か〜、友達がめっちゃ好きで俺もちょっと読んでたけど随分と大変な世界に行くんですね」
「うむ、それじゃから何か強い能力をあげようと思っとったんじゃが最近はそういうのが厳しくなっての〜そこまでのものは与えられなかったんじゃ」
「えっ、まじですか....具体的にはどんな能力を....?」
「病気などにならない頑丈な身体と成長速度を少し上げるでギリギリじゃな」
それを聞いた慎悟は内心それでも十分じゃねと思ったが、自分が行く世界がどのような場所であるかを思い出し苦い顔をして項垂れた。魔法科高校の劣等生の世界は主人公の周りで様々な事件が起こるのだが勿論死ぬ可能性もあるし平気で一般人も巻き込まれる。
慎悟がそのような反応をすることはすでに予想済みであった神様は、ニヤリと笑いながらまるでなにか秘策でもあるような顔をしていた。神様のそんな顔を見て慎悟は頭の中に?を浮かべながら首を傾げた。
「じゃがな慎悟よ儂は考えたのじゃ....力を与えることが出来ないのならばお主が自分で強くなればいいと」
「強くなるって......まさかここで鍛えろって言うんですか!?嘘ですよね!?」
「安心せい、ここではなくもっと別の場所じゃ。そこでお主のことを鍛えてもらおうと思っておる」
「鍛えてもらう?一体誰にですか?」
「それは会ってからのお楽しみじゃ、時に慎悟よお主はドラゴンボールを知っておるか?」
「ドラゴンボールですか?はい、知ってますし大好きな作品ですから最新作まで全部見てましたよ」
「そうかそうか、では早速お主を鍛える場所に向かおうとするかのう」
そう言って神様はどこからともなく現れた杖を手にし、それを二回コツンコツンと床に打ちつけた。すると慎悟と神様の周りを白い光が覆い始め気付けば一瞬で慎悟たちの姿は見えなくなった。
移動中慎悟は何故神様が急にドラゴンボールのことを聞いてきたのか考え、自分を鍛えてくれる人がドラゴンボールに存在する人なのではという結論に達し興奮して叫びそうになった。しかし、落ち着いて考えてみると自分はドラゴンボール基準の強さにならなくてはいけないのではないかと思い顔を青くして、
魔法科高校の劣等生よりもキツくない?てか、無理じゃね?
と心の中で独りごちた。
*********
「さてと、着いたぞここじゃ」
「着いたって.....一体ここどこですか.....?」
「ここは全王の宮殿じゃよ、お主も聞いたことがあるのではないか?」
「全王って.....えっ嘘でしょ.....」
神様からのまさかの発言により慎悟は絶句してしまった。全王の宮殿については彼も勿論知っている、ドラゴンボール世界において最強とされる全ての宇宙を統べる神々の王──全王が住まう場所であり、神でさえおいそれと簡単に行くことが出来ない。
慎悟が言葉をなくし神様があたりをキョロキョロとしていると宮殿の方から一人の天使が現れ穏やかな顔をしながら神様に話しかけた。
「お久しぶりです、ゼルファさん」
「おぉ!これはこれは大神官よ久しぶりじゃ、いきなりすまんのう」
「いえいえ、ゼルファさんからのお願いですから私も断ったりなどはしませんよ。横にいる彼がそうですか?」
神様をゼルファと呼んだ天使は微笑みながら隣にいた慎悟のことを見た。小柄で青白い肌に白い髪、白い瞳を持ち頭の後ろには青白い輪が浮いていた。その姿を見た慎悟は驚きすぎて目を白黒させていた。
その天使は大神官と呼ばれており全てを統べる神、全王の側近の天使である。実力はドラゴンボール世界でも五本の指に入ると言われておりどれ程の力を持つのかは未知数である。そんな彼は神様の隣にいる慎悟を見て微笑んでいた。
「そうじゃ、慎悟というやつなんじゃが......儂の勝手でこんなことになってしまったからのう、せめてある程度戦えるようになってから送り出したいんじゃ」
「分かりました、私としては特に問題はありませんので責任を持って彼を鍛えましょう.....ですが.....」
そこまで言った大神官は言葉を区切り、顔を真剣なものに変え慎悟の方へと歩いていき彼の目を真っ直ぐと見据えた。慎悟はその目に気圧されてしまい声も出せずにその場でじっとしていることしかできなかった。
「慎悟さん、でしたか。あなたはそれでいいのですか?ゼルファさんはこうおっしゃっていますが、もし慎悟さんがそのことを望まないのであれば無理して私に鍛えてもらう必要はありませんよ」
慎悟はしばらくの間大神官の問いに対して答えることが出来なかった。彼からしてみればいきなり死んだと言われあれよあれよとこの場に連れて行かれただけなのだから無理もない。
だが、慎悟は考えこれはチャンスなのではないかと思った。どこまで強くなれるかは分からないが鍛えてくれる相手はこの世界最強といっても過言ではない人であり、あの悟空のように強くなれるかもしれないんだ、だったらこの機会を逃すわけにはいかない。
頭の中でじっくりと考え答えを出した慎悟は頭を下げながら自分の気持ちを大神官に伝えた。
「いえ、どこまで強くなれるか全く分かりませんが、俺は強くなりたいです!お願いします、俺を鍛えて下さい!!それが望みです!」
「ふふっ、そうですか、ではこれからよろしくお願いしますね慎悟さん」
「はい!」
「うむ、それでは後は任せたぞ大神官よ、儂もちょくちょく様子を見にくるつもりじゃが何かあればすぐに呼んでくれて構わんからな」
「はい、大丈夫です。慎吾さんのことはお任せください」
「神様もありがとうございました、強くなれるよう頑張ります!」
神様はその後愉快そうに笑いながらいきなり消えてしまった。どうやらもう帰ったのだろうと慎悟が思っていると大神官が後ろから話しかけてきた。
「では慎悟さん、早速ですがまずは慎悟さんがどの程度の力があるのか知りたいので私についてきて下さい」
「は、はい!分かりました」
緊張している慎悟とは反対に大神官はとても楽しそうにニコニコとしていた、それは慎悟の反応に対してではなくこれから慎悟がどこまで強くなるのかという親心に似たようなものからであった。
(ゼルファさんから聞いたときはどうなのかと思いましたが実際に見てみると分かりました、慎吾さんには一人の人間とは思えないほどの潜在能力があります。これから彼がどうなっていくのかとても楽しみですね)
*********
それから時間が経ち、慎悟はもうどのくらいの年月が過ぎたのかも分からないまま大神官に修行をしてもらっていた。余談ではあるがこの世界の時間軸的には物語の主人公である孫悟空がまだ存在する前の段階であり、それを聞いた慎悟は肩を落とし残念がっていた。
現在の慎悟はすでに過去とは比べられないほど強くなっており全宇宙規模で見ても間違いなく実力者といえるレベルまで鍛え上げられていた。
そして、今日は慎悟が大神官に鍛えてもらう最後の日でもあった。
「フッ.....!」バシン
「慎悟さん今日はここまでにしましょう。見違えるように強くなりましたね」
「ハァ、ハァ、ありがとうございます。でもまだまだですよ、結局大神官様には
「ふふっ、私に一撃でも攻撃を当てられた時点でもうかなりの実力ですよ、この話を聞いた他の天使たちがとても驚いていましたからね」
大神官が言っているように慎悟は一度だけまぐれでもなく実力で大神官に攻撃を当てることが出来ていた。手も足も出ない天使がいる中でそれを行った慎悟は紛れもなく強者であり、大神官も攻撃を当てられた時は驚いていながらも自分のことのように慎悟と喜んでいた。
「身勝手の極意を習得しただけでも素晴らしいことですのにそこから更に極めていくとは私も予想外でした」
「それもこれも全部大神官様のおかげですよ、本当にありがとうございました」
慎悟のこの言葉は嘘偽りなく彼の本心からの言葉である。自分の力ではない大神官様のおかげであると本当に思っている。大神官もそれが伝わったのか少し困った顔をしながらも笑顔で慎悟の感謝の気持ちを受け取った。
「明日ゼルファさんがこちらに来て慎悟さんを新たな世界に送ると仰っていましたよ」
「分かりました、そういえば魔法科高校の劣等生の世界に行くために鍛えてたんだよな〜途中から忘れてたわ」
「私も止まることなく成長していく慎悟さんを見て段々と楽しくなってしまいましたよ」
しばらくの間、大神官と雑談をした慎悟は次の日に備えてゆっくりと休み全王様の相手なんかもしながらその日を終えた。
次の日起きて身支度を整え宮殿の外に出るとすでに大神官様と神様が慎悟のことを待っていた。
「お、来たかのう、では慎悟よもう準備は大丈夫じゃな?」
「はい、おかげさまで。あ、それと実は向こうの世界で二つ行きたい時間があるんですけどいいですか?」
「うん?なんじゃ?」
慎悟は新たな世界に向かう前に神様に行きたい時間があるとお願いをした。それは2062年と2092年であり、それぞれ主人公の叔母である四葉真夜が大漢に誘拐されてしまった日と主人公である司波達也が巻き込まれた沖縄海戦の日であった。
慎悟からその西暦を聞いた神様はそれがなんの出来事を表しているのか瞬時に理解し慎悟のお願いを了承した後、顔を隠せという意味を込めて慎悟にある仮面を渡した。慎悟はその仮面を見てーーいや、どこのサイヤ人だよーーと思いながら苦笑いして仮面を受け取った。
そして慎悟が大神官と神様にお礼を言って移動しようとすると宮殿から小さいマスコットのようなものが猛スピードでこちらに向かってきて慎悟の前で止まった。
「慎悟〜もういっちゃうの?」
「全王様?!え、えぇ、俺ももう十分強くなりましたしそろそろ本来行くべき世界に行こうと思いまして」
「そうなのね.....それじゃあしょうがないのね........また僕と遊んでくれる?」
慎悟はこの宮殿にいる間大神官さまとの修行の他に全王様と一緒に遊ぶということをしていた。機嫌を損ねればかなり危険な全王だがそれ以外の部分ではとても純粋な部分が多いため、慎悟は敬いながらもどこか弟のように感じながら全王と接しており、全王もそんな慎悟の態度をとても気に入っていた。
「はい、勿論です。約束します」
「うん!ならいいのね!」
「私としましても是非慎悟さんには戻ってきてもらいここにいてもらいたいものです」
「向こうでの生を全うしたらまたここに戻って来ればいいじゃろ、長くてもどうせ百年足らずじゃ」
「まぁ皆さんからしたらそうかもしれないですけど.....」
最後になんか締まらない感じになってしまったが慎悟は神様の手によって全員に見送られながら自身が過ごす新たな世界に向かっていった。
*********
「もう慎悟さんは行ってしまいましたよ、最後に挨拶しなくてもよろしかったのですか?」
そう言って大神官がある場所に目を向けるとそこから青色のローブを着た一人の天使が姿を現した。他の天使と同じように青白い肌に白い髪を持ち、髪はツインテールにしていた。しかし、その整った顔はどこか寂しげであった。
「あなたも来ていたら慎吾さんも喜んでいらしたと思いますよ、マルカリータさん」
「........」
「ふふっ、あなたは慎悟さんと出会ってから随分と変わりましたね、なにかご用件でもあるのですか?」
「いえ、その、私は......」
大神官に質問を投げられたマルカリータは顔を少し歪めながら彼女らしくないはっきりとしない言葉を発していた。それを見た大神官はマルカリータが何を言いたいのか察し、その珍しすぎる彼女の態度から少しばかりの悪戯心が彼に湧いてきてしまった。
「まさかとは思いますが、慎悟さんの所に行きたいなど等のことは言いませんよね?」
「?!!」
「マルカリータさん、天使がどのような存在であるのかあなたなら理解出来ていますよね?」
「はい.....」
どんどんと悲しげな顔をして俯いてしまうマルカリータを見て大神官は心の中でため息をつき、私もまだまだ甘いものですねと思いながら自分の娘であるマルカリータに声をかけた。
「分かりましたマルカリータさん、慎悟さんのところへ行くことを許可します」
「えっ!?本当.....ですますか?」
「はい、私も彼には無事に戻ってきてもらいたいのですから出来る限り慎悟さんのサポートをお願いします」
「あ、ありがとうですます!全身全霊を以って慎悟さんのサポートをさせて頂くのですますよ!」
そう言って先程とは打って変わって嬉しそうな表情をしながらマルカリータは大神官の前から消えた。大神官という立場からしたらあまり褒められたことではないと理解していても娘のことを応援したくなってしまった大神官であった。
「慎悟さん、マルカリータさんのこと頼みましたよ」
ここまで読んでいただきありがとうございました。現在三話まで書けているのですが正直続くか分かりません。
皆さんの反応を見て今後続きを書くか決めたいと思います。感想もお待ちしてます!