ここまで期待をされると嬉しくなると同時に恐れ多いです。
では、どうぞ!
慎悟が2092年から新たにたどり着いた場所はなにやらマンションのような場所であった。全体的にとても綺麗な部屋でキッチンやトイレ、お風呂だけを見ても見るからに最高の設備ということを感じ取った慎悟は生前自分が暮らしていた安いボロアパートを思い出し、そのあまりも違う現在の部屋を見て額に手を当てて上を向いた。
一人で住むにはかなり広くどう考えても同居人がいる前提の間取りをしており、慎悟はこれからこの家の管理が大変だと思い小さく息を吐いた。
「一人暮らしでこれは広すぎるよ神様、掃除めんどくさそう.....」
一通り部屋の中を散策しその一つ一つに驚き、反応していた慎悟はリビングにある机の上になにやら置き手紙と封筒のようなものが並べて置いてあった。椅子に座った慎悟がまず手紙の方を手に取り内容を見るとそれは神様からのものであった。
内容を要約すると慎悟の住居とその世界での戸籍などを決める際にどうせなら不自由なく暮らしてもらいたいということでいいとこのマンションを配置したりお金に関しても口座に湯水のごとくたんまりと入っているので遠慮なく使って欲しいということが書かれていた。
いたりつくせりだなぁ、と慎悟は思わず苦笑いしてしまったがその気持ちは純粋に嬉しかった。戸籍情報が書いてある資料を見てみると慎悟は一般の両親から生まれた──つまり、非魔法師の家系から突然変異的に誕生した魔法師であると記載されており、父、母共にすでに他界していると書かれていた。
親戚もすでにおらず慎悟はこの世界でも天涯孤独ということだった。慎悟はそれに関して何か思うことはなく、資料から目を離して隣にある封筒に目を向けた。
その封筒には『国立魔法大学付属第一高校』の受験案内書と書かれていた。どうやら慎悟は通信教育によってすでに義務教育課程は終えており第一高校の受験を控えているようだった。
「受験か.....魔法を使うどころかCADすら触ったこともないのに大丈夫かよ.....勉強、しないとな......」
この世界の魔法という存在は知っていてもその内容についてはあまり詳しく知らない慎悟は無事に合格するためにもしっかりと受験勉強しなくてはいけなくなり、そのことを考えるとどうしても気分が下がってしまい机に身を投げ出してうーうー唸ってしまっていた。
「なにをうーうー唸っているのですますか?」
「いや、だってこの世界の魔法の理論てめっちゃ難しいじゃん。だからそのための勉強が..........え?」
「どうしたのですますか?そんなに不思議そうな顔をして」
「マ、マルカリータ?!なんでここにいるの?!」
唸っていた慎悟に後ろから声を掛けたのは第11宇宙の天使──マルカリータであった。彼女は慎悟が驚愕している反応を見て悪戯が成功したような小悪魔的な笑みを浮かべていた。
慎悟にとってマルカリータは他の天使たちの中でも一番縁のあった天使であった。最初は慎悟に対して特に興味を持っていなかったマルカリータであったが、驚異的な速度で成長していく慎悟を見て彼女から話しかけたのが二人の関係の始まりである。
あまり感情を大きく出さないマルカリータを前にして初めは少し苦手意識を持っていた慎悟であったが、いざ話してみると意外と人間臭いところもあるということが分かり、それからは地球のことについて彼女に教えたりと現在の関係は良好である。
「大神官様からの命令で慎悟さんのサポートをするために来たのですますよ」
「大神官様が......いや、でも担当の破壊神とかはどうしたんだよ?」
「それに関しても大神官様が対応してくださったので問題ないのですますよ、それとも慎悟さんは私ではご不満なのですますか?」
「うっ、分かったよ.....今日からよろしく頼むよマルカリータ」
悲しげな顔をして俯いてしまったマルカリータを見て慎悟は自分を無理矢理納得させて了承の返事をした。その返事を聞いたマルカリータは先程までの表情が嘘のように満足気な笑みを慎悟へと向けたが、マルカリータとは反対に慎悟はまた彼女にしてやられたと溜息をついた。
次の日、慎悟はマルカリータからこの世界の魔法について教わっていた。昨日の夜慎悟が受験勉強をどうしようか悩んでいると、私が教えて差し上げるのですますよと横からマルカリータがそんな事を言った。
彼女は慎悟の完璧なサポートが出来る様にと既にこの世界の知識を頭に叩き込んできたらしく、それを聞いた慎悟は渡りに船だとマルカリータから教えを請うことにした。
さすがは天使ということかマルカリータの教えは驚くほど分かりやすく慎悟もその知識をするすると理解していった。
「なるほどね、魔法を使用するには魔法演算領域という精神領域を使うのか。でもこれって俺の中にもあるもんなの?」
「昨夜慎悟さんの身体を調べた時にそれらしきものがあるのを確認したため問題ないのですますよ」
「調べたって.....天使ってナチュラルにそういうことするよね」
マルカリータの発言を聞いた慎悟は微妙な表情をしながらジトっとした目で彼女を見るがそんな目線をマルカリータは無視した。睡眠や食事を必要としないマルカリータは昨夜慎悟が寝室で睡眠をしている間に彼の身体に異常がないかわざわざ調べてチェックしていた。
また、そのあと慎悟の寝顔をじっくりと見ていた時間はマルカリータにとって至福の時間でもあったとかなかったとか。
「あと、この
「細かい部分は異なるのですますけど、基本的には気と変わらないものだと認識しても問題ないのですますよ」
「そうか、じゃあCADに気を流しても正常に作動するのか。あ、でも俺CAD持ってないやどうしよう」
「それでしたらこちらをどうぞ」
マルカリータは自身が持つ杖の中から腕輪型のCADを取り出し慎悟の手のひらに置いた。彼女のローブの色と同じ青色のCADであった。
「え、これCAD?マルカリータが作ったの?」
「はい、今のこの世界の技術では作ることの出来ない慎悟さん専用のCADですますよ」
「まじか、今度買わなきゃと思ってたから助かるよ、ありがとう」
「これが私の仕事ですますから」
マルカリータにCADのお礼を言った後慎悟は早速とばかりに椅子から立ち上がり広い場所に移動した。そしてCADを腕に付けて気を流した。
するといつも気を使った時とは違い身体の中から何かが抜けていく感覚に陥り頭の中に式のようなものが流れ込んできた。
(あぁ、これが起動式か....)
そのまま慎悟の魔法演算領域内で起動式に記述された手順の通りに想子情報体「魔法式」を組み立てられ魔法を発動した。
それから慎悟は家の中を動き回り壁も活用して飛ぶように移動していた。慎悟が使った魔法は自己加速術式というものであり、自身の速度を一定の速さまで上げて動くという魔法である。
しばらく魔法を使った後、慎悟は部屋の真ん中で止まり手を閉じたり開いたりしていた。そこにマルカリータが近づきなにやら感触を確かめるようにしている慎悟に話しかけた。
「初めての魔法はどうですますか?」
「確かに便利なもんだけど、わざわざ使うものでもないかなって思っちゃった」
「私達からしたらそう思ってしまうのもしょうがないのですますよ。しかし、この世界の人間にとって魔法というものは簡単に力を行使できる脅威的なものなのですますよ」
確かに慎悟がそのような感想を持ってしまうのも無理のないことであった。CADにサイオンを流して魔法を行使し自身の速度を上げたが、そもそもそんなことをしなくても慎悟達ならば一瞬でそれ以上の速度で動くことも可能である。
といっても魔法の種類はそれこそ無数に存在するものであるため全く使えないというのは一概に言えるものではないことも事実である。
それから慎悟はマルカリータの指導の下、入学試験で使われる理論7教科の勉強と魔法実技のためにCADの使用に慣れるなど忙しい毎日を送っていた。
一日、二日とあっという間に時間は過ぎて行き気が付けばすでに試験の日を朝を迎えていた。慎悟は朝起きてから顔を洗った後リビングに向かい、出会った頃からでは想像が出来ないほど料理が上達したマルカリータの朝ご飯を食べ、クローゼットになぜか入っていた学ランを着て玄関へと向かった。
玄関に着くと待ってましたと言わんばかりにマルカリータがそこにいた。
「あーまさかとは思うけど、もしかして付いてくるつもり?」
「はい、そのまさかですますよ」
「いや、無理だって、どう考えたって目立つでしょその服装とかさ」
「人間から姿を認識させなくさせるなんて私達なら造作もないことですますよ。安心して欲しいのですます、試験の内容に口を出したりはしないのですますから」
「はいはい、分かったよ、もう好きにしてくれ......」
マルカリータの扱いに慣れている慎悟はこれ以上何を言っても彼女が意見を変えることがないことは分かっていたので、説得を早々に諦めて今度こそ家を出た。
*********
慎悟の家から第一高校まではそこまでの距離はそこまでないためしばらく歩いていると校門前まですぐに着いた。多くの受験生が校門をくぐっていくなかで、慎悟はそこで立ち止まり第一高校を見上げた。
前世でもあまり見たことがない程の巨大な校舎であり、逆になんで立ち止まってこれを見ないんだという感情を抱いていた。第一高校は国内でも有数の魔法科高校であり、その設備は通常の高校の規模を軽く超えていると思われる。
それからじっくり眺めた後大きく深呼吸をしてから慎悟も校門をくぐった。
『気合い十分ですますね』
『あぁ、勿論だよ』
試験は理論7教科と魔法実技で評価され、理論7教科のうち、2教科は魔法理論と魔法工学で、試験には小論文が含まれる。また、試験は二日間に分けられ初日が理論、二日目が実技である。
教室に入って行き受験番号の席を探しそこに座ると慎悟はすでに集まっていた他の受験生達から多くの視線を感じた。なぜだ、と首を傾げながら思っていると、自分の見た目が銀髪に銀の瞳という日本人にしては珍しい色をしているのだからと思い出し苦笑した。
また、それと同時に今この場で身勝手の極意の状態を解いて元の黒髪黒目に戻ったらどんな反応をするんだろうと悪い事を考え始めた慎悟であったが、横からとても冷たい視線を感じたためすぐにその考えを捨てて姿勢を正した。
『真面目にやります』
『...........』
テレパシーを使って慎悟が謝るとマルカリータは目線を正面に向け慎悟から外した。
それから間もなく試験官が教室に入り、試験用紙が全員に渡ったことを確認してから筆記試験が始まった。ちなみに受験番号は『59』であった。
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筆記試験が終わった後、慎悟はどこかに寄り道するわけでもなく真っ直ぐと家に帰っていた。
「まぁ、まずまずってかんじかな」
「何問かミスをしていた箇所があったのですますが、それ以外は問題なかったのですますよ」
「試験内容よりもマルカリータの横からの視線の方が緊張したわ......」
「そんなことで緊張しないで欲しいのですますよ、明日も試験があるのですますから早く寝るのですますよ」
お前は母親かよ、とマルカリータに思った慎悟ではあったが彼女なりの気遣いだということは理解していたため、言われた通りご飯を食べてシャワーを浴びた後慎悟はすぐに寝てしまった。
試験二日目も慎悟は遅れることなく第一高校に着き昨日とは違い教室に行くのではなく、実技専用の会場へと向かった。
実技試験は初日の筆記試験とは異なり一人ものの数分で終わる。一体何をするのかというと専用のCADを使って魔法の処理速度を計るのである。
現在の魔法の評価基準は魔法式を構築する速さ・キャパシティ・魔法の干渉力、この三つを統合したものであり魔法力と呼ばれている。そして、この三つの能力を見ることがこの実技試験の目的である。
慎悟は自分の番が来るまで他の受験生の結果を見て自分がどの程度の結果を出せばいいのか考えていた。全体的に500ms台の人が多くそれ以上になると人数が限られてきたため、慎悟は300前半を目指して試験に臨むことにした。
「次の方、受験番号59番、神楽慎悟」
「はい」
名前が呼ばれたため慎悟は実技試験用のCADの前に立ち、CADに手を触れサイオンを流すと頭の中に来た起動式に思わず顔を顰めた。乱雑で整理されてされていないはっきり言ってヒドイ起動式だったのだ。そのせいか慎悟は思わず力が入ってしまいサイオン──というより気を多く込めてしまい、機械が前方に勢いよく動き出したと思ったらすぐにこちらに戻って来た。
やっちまったと思った慎悟が結果を見るとそこには無常にも115msと表記されていた。これには試験官も周りの受験生も声が出せず固まってしまっていた。それを見た慎悟は焦りながらも試験官へと声をかけた。
「お、おかしいですね、きっと不具合ですよ。だってこの結果人間の反応速度超えてるんですよ!」
「そ、そうですね。すみません、機械の不具合だと思われますので少々お待ちください」
そう言って試験官は周りに指示をだし試験用のCADの調整をしだした。慎悟はそれが終わるのを待っている間、他の受験生の視線に晒されることとなり、横にいたマルカリータも呆れた目で慎悟を見ていた。
『なにをやっているのですますか?』
『思わず力が入っちゃって......』
『はぁ、次はしっかりとやるのですますよ』
『はい.....』
すぐにCADの調整が終わったためもう一度慎悟が試験を行った。今度は間違えないようにと恐る恐る色々と調整した慎悟であったが、結果は205msとその日の第一高校実技試験の中で一番のスピードを叩き出して慎悟の試験は終わった。
試験から二週間程度経った後、第一高校から慎悟の入試結果が届きそれを慎悟とマルカリータの二人で確認を行った。結果は当然合格でありマルカリータは当然だという態度で、慎悟はホッとしたという感じであった。
合格したというのに特に反応を示さなかったマルカリータを見て慎悟はもう少し一緒に喜んでくれてもいいじゃないかとも思ったが、すぐにそんなことは忘れてその日はすぐに眠ってしまった。
深夜、街の多くの人が夢の中にいる時間で嬉しそうに眠っている青年の寝顔を、微笑を浮かべながらいつも以上に愛おしそうな目で眺めている天使がいたそうな。
読んでいただきたいありがとうございました。
今日急いで友人の家に行き魔法科高校の劣等生の原作を七巻まで借りてきました。少しずつ読みながら書いていきたいと思います。