入学編全然終わらないです。九校戦編やりたい......
では、どうぞ!
一瞬で終わってしまった勝負に生徒会の各々は驚き動かなくなってしまったが、慎悟は倒れている服部を起こし壁際まで運んだ。
慎悟には見えていた。
達也が魔法を使わず身体技能のみで服部の背後を取り、CADからサイオン波を三連続で出していたことを。そして、三つ波が服部に当たる瞬間に重なったことを。
達也は軽く一礼した後CADをしまうためにケースが置かれた机へと歩いて行った。感情を表に出さず自分の勝利に興味がないようであった。
「......達也君、今の動きはなんだ?自己加速術式を予め展開していたのか?」
歩いていく達也の背中を摩利が呼び止めた。
「そんなことをしていないというのは先輩が一番お分かりだと思いますが。あれは正真正銘、身体的な技術ですよ」
「あれは兄の体術です。兄は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」
達也の隣までやってきた深雪は摩利にそう言った。対人戦闘に長じていた摩利は八雲の名声を知っていたため深雪の発言に驚きを隠せないでいた。
真由美や鈴音も魔法なしで魔法と同等の動きをした達也に驚愕していたが、しだいに別の疑問が頭に浮かんできた。
「じゃあ、あの攻撃魔法も忍術ですか? 私の目には、サイオンの波動そのものを放ったように見えたんですが.....」
魔法師が使った魔法の術式について問い詰めるのはマナー違反とされているが、真由美は自身の得意魔法と似ているが全く異なる攻撃方法を行った達也の魔法に興味を抑えきることが出来ないでいた。
真由美の問いに達也は頷いてから答える。
「そうです、あれは忍術ではなくサイオンの波動です。振動の基礎単一系魔法でサイオンの波を作り出し服部副会長を
「酔わせた?」
魔法師はサイオンを光線や音波と同じように知覚できる。魔法を行使する上でそれは必須の技術であるが、副作用として予期せぬサイオン波に曝された魔法師は、実際に揺さぶられたように錯覚する。
その錯覚によって激しい船酔いに陥ってしまうことがあるのだ。
「そんな、信じられない.......。魔法師は普段、日常生活でも常にサイオンの波動に曝されて、サイオン波に慣れているはずよ?それなのに、その魔法師が立っていられない程のサイオン波なんて、一体どうやって........?」
「........」
『なぁ、マルカリータ?気の所為じゃなければ達也がこっちを見ている気がするんだけど.....』
『気の所為ではないのですますよ。おそらく、慎悟さんに答えて欲しいのではないのですますか?』
『いや、達也が何をしたのか具体的には分からないよ』
『慎悟さんには見えていたはずですますよ、ですからもう一度よく考えてみるといいのですますよ』
真由美の疑問に誰も答えを出せずにいる中で達也は壁際にいた慎悟に視線を向けていた。視線に気付いた慎悟はマルカリータに言われたとおり先程見た光景を思い出し、頭の中で組み立てて考えた。
(達也は三つのサイオンの波を服部副会長の位置で重ね合わせていた......てことは.....)
「波の合成.....か?」
「!なるほど、そういうことですか」
「どういうこと?慎悟君、リンちゃん」
慎悟が呟いた言葉から結論を導き出した鈴音は真由美に問われた後、一度慎悟を見た。どうやら自分が話していいかの確認のようだ。小さく慎悟が首を縦に振ると鈴音は自身の見解を説明し出した。
振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、その波がちょうど服部のいる位置で合成するように調整、三角波のような強い振動を生み出したのだと。
しかし、それではなぜ達也が試験での評価が低いのか疑問が出てくる。あの短い時間で三回も振動魔法を発動できるほどの処理速度があるのに実技の成績が良くないからだ。
達也に関して新たな疑問が生まれた時、彼の手元をチラチラ見ていたあずさが興奮冷めやらぬといった様子で達也に詰め寄って行った。
「あの!もしかして司波君のCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」
「シルバー・ホーン?」
「知らないんですか!神楽君!世界で初めてループ・キャスト・システムを実現した本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADエンジニア!その名もトーラス・シルバー!そして彼がフルカスタマイズした特化型CADのモデル名がシルバー・ホーンなんです!」
「あ、あぁ、そうでしたね......」
シルバー・ホーンを知らなかった慎悟にあずさは人が変わったように饒舌に説明しだした。あまりの熱意に慎悟は気圧され返事を返すことで精一杯である。
慎悟がそんな状態であるのにも関わらず、あずさは構わず話し続けループ・キャスト・システムの説明の途中あたりで真由美があずさを止めたため話はそこで終わった。しかし、話は終わってもあずさは止まらず目をハート型にして達也が手に持っているシルバー・ホーンを見つめていた。
ちなみにループ・キャスト・システムとは同一の魔法を何度でも発動できるように組まれた起動式のことである。
「でもリンちゃん、それってよく考えたらおかしくない?」
「えぇ、おかしいですね。ループ・キャストは全く同一の魔法を連続発動するもの。それでは波を合成するための振動数の異なる複数の波動を作り出すことは出来ないはずです。振動数の定義を変数にしておけばそれも可能でしょうが、座標・強度・持続時間に加えて、振動数まで変化するとなると........」
そこまで言って鈴音は目を見開いて驚愕し、達也のことを見た。
それを実行していたのかと。
「多変数化は処理速度としても、演算規模としても、干渉強度としても........
全員が驚いて達也を見る中で当の本人はいつもと変わらない口調でなんてことないように言った。
「うっ....なるほどテストが本当の能力を示していないとはこういうことか.....」
すると、先程まで気を失っていた服部が頭を押さえながら半身を起き上がらせた。慎悟が身体を支えようとしたが、その前に真由美が服部を覗き込むように身を乗り出して声をかけた。
「はんぞーくん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
顔を赤くして返事を返した服部を慎悟は、おいおい、といった顔でその様子を眺めていた。服部の反応があからさま過ぎたからである。
それから服部は深雪の方に振り向いた。
「司波さん、先ほどは身贔屓などと失礼なことを言いました」
「はい...」
「目が曇っていたのは僕の方でした、許してほしい」
「いいえ、私の方こそ生意気を申しました。お許しください」
二人がお互いに頭を下げて謝罪を行った後、服部は達也を一瞥してから何も言わず第三演習場を出た。
『彼への印象が変わったのではないのですますか?』
『そうだな、少なくとも森崎よりは話の通じる人だと分かったよ』
*********
「さて、当初の予定通り風紀委員会本部に行こうか........と言いたいところだけど」
服部が去った後摩利はそんな事を言い、言葉を区切ってから慎悟を見た。見られる理由が分からなかった慎悟は困惑したが摩利はすぐにその先を話し始めた。
「今度は慎悟君が模擬戦をやってみないか?」
「はぁ.......俺ですか?」
「そうだ、達也君の実力を見たから今度は慎悟君のが見たくなってな。どうだろうか?」
摩利のお願いは慎悟にとって別に断ることでもなかったのだが、相手によっては断るつもりでいた。変に手加減するのが面倒であるため。
だから慎悟は返事の前に誰と模擬戦をすることになるのか摩利に聞いた。
「相手は誰になるんですか?それによりますけど」
「そうだな、よし私が慎悟君の相手になろう!」
慎悟の問いかけに数秒悩んだ摩利であったが、自分がお願いしている立場だということを考え自身が相手になると言った。これに一番最初に反応したのは真由美だった。
いくら実技で素晴らしい成績を収めていたとしても一年生が三年生と戦うのは些か厳しいのではないかと指摘し、それによって摩利は考えを改め頭を悩ませた。
そんな中で、先程からこちらを伺っていた達也が声を上げた。
「でしたら俺が慎悟の相手になります」
「達也君が?さっき戦ったばかりだと思うが、大丈夫なのか?」
「えぇ、あまり消耗はしていないので問題ありません」
「ということだが、慎悟君はそれでもいいか?」
「はい、大丈夫です」
慎悟としても達也の方が色々とやりやすいと思っていたため異論はなかった。
それから先程と同じように今度は慎悟が服部のいた位置に立ってCADを構えた。達也も右手にシルバー・ホーンを持ち既に準備は完了しているようであった。
『どうするのですますか?』
『とりあえず向こうのレベルに合わせて頃合いを見て終わらせるかな』
『そうですますか、本気ではやらないのですますね』
『それじゃあ勝負にならなくなっちゃう、マルカリータ達を相手にするのとは違うんだから』
マルカリータとちょっとした雑談をした後、両者が揃ってから再び審判をやることになった摩利が同じようにルール説明をし、試合開始の合図をした。
「では、始め!」
*********
「お兄様、なぜご自分から慎悟君と模擬戦を?」
試合開始前、深雪は達也にそんなことを聞いていた。いつもの兄にしては積極的に慎悟との勝負を望んでいるように見えたからだ。
それに対し達也は自身のCADを調整しながら答えた。
「慎悟の実力をこの目で判断できる絶好の機会だと思ったからだ、現状あいつに関する情報は少ない。少しでも何か分かればいいのだが.....」
「たしかに慎悟君には気になる点が多いですから。では、先程と同じように?」
「あぁ、体術で先手を仕掛けるつもりだ。その後は慎悟の対応によるが一筋縄ではいかないと思っている」
そうして二人で会話をしていると慎悟がCADを左手に着けて開始地点に来ていた。その際、慎悟が着けているCADを達也は見たがそれはどの会社にも存在しない達也が見たこともないデザインをしたCADであった。
(なんだあのCADは、あんなモデルは見たことがない。どこかの新機種か?)
実際はマルカリータが慎悟の為に作った一点物のCADであるため、達也が知ってるわけもないのである。
シルバー・ホーンを右手に持ってから達也も開始場所へと行き、摩利の開始の合図を待った。
*********
模擬戦が開始した途端、達也は服部の時と同じように魔法を使わず高速移動をし慎悟の背後に周りCADを構えたが、既にそこには慎悟はいなかった。
どこに行ったのかと達也が思案すると背後からとてつもない気配を感じた。振り向くと慎悟は既に達也に向かって拳を突き出していた。
達也はそれをギリギリで回避し、一度慎悟から距離を取った。
「いきなり攻めるね、達也」
「.........」
笑いながら語りかける慎悟とは反対に達也は無言であった。今の攻防だけで慎悟がかなり実力者だと理解したからだ。しかも自分と同じように実践経験も積んでいると。
「中々やるな慎悟君も」
「達也君も慎悟君も魔法は使ってないのよね?」
「はい、どちらも起動式を展開した形跡がありません」
二人の様子を見ていたギャラリーもとても驚いていた。服部との戦いでも見た達也の身体的技術もそうだが、それに追い付くどころか反撃をした慎悟に対してでもであった。
両者互いにしばらく見合ってから今度は慎悟が攻撃を仕掛けた。注意深く慎悟のことを見据えていた達也だが一瞬にして自分の目の前に現れた慎悟に反応が遅れてしまった。腹部に放たれた拳を回避は不可能だと即座に判断した達也は両腕をクロスさせてその攻撃を受けた。しかしその衝撃を抑えきれず、達也は数メートル後ろに吹き飛んだ。
そのでたらめな速度と威力の一撃に達也は苦悶の表情を浮かべたが、受け身をとって両足で着地しすぐさま慎悟へと向かって行った。慎悟は達也の攻撃を回避しつつ時に弾き、受け流して一切ダメージを受けていなかった。
自分の攻撃が全く慎悟に届かないのを見て、達也は驚きを隠せずにいた。蹴りは弾かれ突きは最小限の動きで避けられる。そして避けた動作がそのまま蹴りなどの動作に繋げられるため対処が遅れる。
しかも慎悟は、視線を達也の目から離さずノールックでそれをやっている。それはまるで、肉体が状況に応じて自動的に的確な行動をとっているようだと達也は感じた。もはやCADを使う暇すらない。一瞬でも気を抜けば問答無用で刈り取られる。
この刹那の戦いの中で達也は自分の中の何かが研ぎ澄まされていくような感覚に陥った。もっと戦っていたいと。
しばらくの間続いた二人の攻防であったが終わりは唐突に来た。蹴りで達也が軽く飛ばされ二人の距離が開いた時、摩利がそれを止めたのだ。
「二人とも!そこまでだ!」
摩利のその宣言に達也は無意識のうちに不満気な顔をして彼女を見た。達也からしてみれば、まだまだこれからという感じであったのだろう。
摩利は達也の顔を面白そうな顔で一瞥してから全体に聞こえるように言った。
「今ので十分慎悟君の実力が分かった。これ以上やるとどちらかが倒れるまでやりそうだからな」
「二人ともCADを使わないで体術のみで戦うから驚きを通り越して呆れちゃうわ」
摩利に続いてそう言ったのはやや困った顔をしていた真由美である。魔法師が魔法を使わずにここまでの戦いを繰り広げたのだから彼女も何か思うところがあるのであろう。
模擬戦はそこで終了し、お互い駄々をこねることなく勝敗はなしという結果になった。達也は結局使うことの無かったシルバー・ホーンをしまうためにケースの場所へと歩いて行くと深雪が達也を労った。
「お兄様、お疲れ様です。お身体の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、多少痛みはあるが大したことはない、すぐに直るさ......それよりもだ」
「まさか慎悟君がお兄様と対等に渡り合えるとは思いもしていませんでした」
深雪は慎悟がかなりの実力があると理解していたが、自分の兄ほどではないだろうと考えていた。しかし、今の勝負を見るとその考えも変わってくると同時に疑問も出てくる。
一体
さっきの試合を外から見ると慎悟の動きははっきり言って異常であった。人間は誰しも何か行動に移す際、脳から来た信号が神経を伝って身体中に伝える。そしてその際身体の動きにはどうしても無駄が生まれてしまう。その無駄をどれ程減らせるかで動きの精度を上げ、戦闘を有利に進めることが出来る。
しかし、慎悟にはその無駄というものが一切無かった。少ないではなくそもそも無いのだ。攻撃を最小限で避け、その流れで反撃する。それは一種の武術の完成形のように見えた。
「それにしても慎悟君は誰から教わったの?達也君は忍術使いの人から教えてもらってるそうだけど」
一息ついていた慎悟に真由美がそんな事を聞いてきた。今一番知りたかった質問を聞いた司波兄妹はぐるりと顔を動かし慎悟を見た。一言一句聞き逃さないという姿勢がこれでもかと伝わってくる動きだ。
それに対して慎悟は少し言葉を濁らせながら答えた。
「あーえっと、昼に同居人がいるって話したじゃないですか、その人のお父さんに修行してもらったんです」
「同居人って、たしか慎悟君の弁当を作ってくれた人よね?その人のお父さんは高名な方なの?」
「うーん......すみません、それは秘密ということにしてください」
「そっか、ならこれ以上聞くのは失礼ね。ごめんなさいね慎悟君」
一連の会話を聞いた達也はさらに考え込んだ。
慎悟をあのレベルまで鍛えた者なら表では聞かなくても裏では名が広がっていてもおかしくはない。しかも慎悟と現在暮らしているのはその者の娘、気になることが多すぎた。
もはや達也は慎悟に対して警戒感というよりも興味の方が強くなっていった。
*********
その日の夜、達也と深雪が夕飯を食べ終わり各自自由な時間を過ごしていると家の端末に着信が入った。着信相手を見た達也は頬を緩ませそれを深雪に伝えた。それからソファに座り着信に応答すると、リビングの大型のモニターに二人の女性が映った。
どちらの女性もとても美しい容姿をしており、妖艶な美女という言葉がよく似合う風貌であった。
「達也、深雪。遅れてしまったけど、入学おめでとう」
「おめでとうございます。達也さん、深雪さん」
達也と深雪に笑ってそう言ったのは、彼らの母親である深夜とその妹の真夜であった。深夜は粛々と真夜は右手を小さく振りながら二人の入学を祝った。
「ありがとう、母さん、叔母上」
「ありがとうございます。お母様、叔母様」
「本当はもっと早くに連絡したかったのですが、こちらでやることがあったものですから」
「とか言って、真夜が勝手に調べさせたんでしょう」
真夜の発言に深夜はジト目を向けて言葉を返したが、当の真夜はどこ吹く風といった感じで全く聞く耳を持たなかった。それどころかニヤリとした笑みで深夜を見た。
「深夜だって顔には出てなかったけど、いつも以上に落ち着きがなかったじゃない」
「うっ.......それは......」
深夜と真夜はそれから言い合いを始めてしまった。いきなり始まった姉妹の言い合いに達也と深雪は置いてけぼりを食らってしまい、顔を見合わせてどのタイミングで話しかけるか困っていた。
そんなどうしていいか分からない状態になっていた二人を見た深夜は一度一息ついてから気を取り直して達也達に顔を向けた。
「........とにかく、今日話したいことは他にもあるのよ」
「他にも?」
達也がそう聞くと、深夜はこくりと頷いてから先程とは打って変わって落ち着いて話し始めた。
「達也達が入学した第一高校に気になる子がいるの」
「もう達也さん達も会ってるのではないでしょうか?」
深夜と真夜の言った人物が誰なのか、達也のみならず深雪までもが数時間前まで一緒にいたある同級生の名前が頭に思い浮かんだ。
二人の反応を見た深夜と真夜はある程度のことを察して、笑みを深めながら続けた。
「──その生徒の名前は......神楽、神楽慎悟君よ」
「慎悟、一つ聞きたいことがあるんだが.....」
「ん?どうした達也?」
「慎悟が一緒に住んでいる人も.....同じように鍛えてもらってたのか?」
「あぁ、なるほどね。そうだよ俺よりも前から修行してた。そう考えると姉弟子だな」
「そうか....その人は慎悟よりも強いのか?」
「昔は手も足も出なかったけど今は分かんないなぁ、お互い本気でやり合うなんてことないし。でも楽に勝てる相手じゃないことは確かだな」
「.....そうか」
読んでいただきありがとうございました!
では、また次回の更新で!