1.うわああああ(PC書き文字) 鬼龍が『
深紅のスポーツ・カー。
それが、アクセル全開でスラム街を爆走していた。
マフィアが幅をきかせ、弱者が溢れる暗黒街には到底似つかわしくない光景であった。
積み上げられたゴミ山を蹴散らし、真っ直ぐに向かう。
その先にあるのは、ここ一帯を牛耳るマフィアン・コミュニティの総本山。
「闇のシンデレラ城」こと『
街ゆくまともな住人は、その様子を見て、
「なんだあっ、映画の撮影か?」
だの、
「ユーチューブだろ」
だの、好き勝手に吐き捨てる。
どうせ、自分たちの生活には関わりのないことだ。
せいぜい、大規模な抗争が起きた時に巻き添えを食わない様に願うばかりである。
もう起きてるだろうが えーっ!?
「鬼龍だぁっ!!」
「撃ち殺せえっ!!」
迎え撃つはマネキンが如く血色の悪いマフィアの戦闘員。
マシンガンやショットガンを躊躇なく発砲する。
深紅のスポーツ・カーはその形をガタガタに変えながらも、スピードを緩めることなく突っ込んでくる!
「どけ、雑魚どもに
「ヒヤッホーゥ! あの時の借りを返してやるぜ、鬼龍!」
雑魚マフィアをかき分けて出てきたのは……
なにっ ABブラザーズ!?
キー坊と鬼龍にズタボロにやられたままフーバー・ダムで猿空間送りにされた彼らは、痛ましくもコルセットと一生を共にする哀しい現在であった。
その怒りと増悪を込めて、ロケット・ランチャーを撃ち込む。
なすすべなく着弾したスポーツ・カーは大破し、路上に乗り上げて爆発した。
「イエィッ! 鬼龍が死んだあっ!!」
「ほう、蛆虫らしく、目は腐っているようだな」
「なにっ!?」
ABブラザーズがコルセットごと振り返る。
そこには鬼 龍 !
「鬼龍ゥーッ!!」
ブラザーズが鏡合わせに小銃を抜く前に、鬼龍は音速の霞打ちでブラザーズの顔面を陥没させた。
アヘアヘと倒れ伏すABブラザーズ。
かろうじて死んでいないのはさすがと言えた。
鬼龍は『
そのひとりひとりを蹂躙しながら。
2.あ…あの…おじさん、ダ・ヴィンチちゃんのファンなんスよ。握手してもらっていいスか? あざーす
南極点、標高六千メートル地点──人利継続保障機関、カルデア。
外は極寒の地である。
普通の人間ならば、いや、生物が生存できる環境ではない。
だからこそ、秘密秘匿を旨とするカルデアの本拠地は、ここにあった。
しかし、そこに、今、ひとりの侵入者の姿があった。
その男──鬼 龍 !
男子便所の排気口。
そこから、コートを翻して、鬼龍はしなやかに降り立った。
厳重な警備?
決して開かれない玄関?
IQ.二百を誇る 鬼 龍 ! にとって、そんなものを突破することは、公園を散歩する様なものである。
南極までどうやってきた?
アメリカ軍を自在に従える鬼 龍 ! にとって、たわいのないことである。
ついでに、アメリカ軍のサーバーからカルデアのデータもいくつか取ってきていた。
周囲の気配を探る。
誰もいない。
ククク、と笑う。
鬼龍は腹の調子を整えるために個室に入り、一旦、用をたした。
「ウオオオオオーッ!」
この一手間が──後に鬼龍を救うことになるのだった。
鬼龍がカルデアに赴いたのは、理由がある。
どこぞの鷹兄とは違う。
ちゃんと、
ひとつは、締め上げたマフィアの戯言。
──本物のレオナルド・ダ・ヴィンチがいる。
信じられない言葉であった。
命乞いの言葉にせよ、虚言が過ぎる。
トドメをささんとする鬼龍に、マフィアは言った。
「ほ、本当だよ! この間、闇オークションで競り落としたんだ! 本物のダ・ヴィンチが描いた絵だよう!!」
鬼龍は、そこまでいうなら観せてみろ、と脅す。
マフィアは金庫を開けた。
中にあったのは──
「バカな……」
鬼龍の審美眼をして、『本物』と言わしめる芸術であった。
そのあとマフィアに事情を聞き出して病院送り程度に痛めつけ、絵画をパクって逃走した。
向かう先は、カルデア。
会うべきは、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
そして、現在。
カルデアのトイレで特大のアレを出し切り、腹の中は好調。
その時、大爆発!
──なんだあっ!?
鬼龍は爆発元へかけた。
中央官制室。
その先に炎が見える。
シャッターが降りている。
「チィッ!」
鬼龍は滑り込みでそこに入った。
と、同時に──
不思議な光に満たされていた。
3.二千四年の冬木が未だに伏線回収されてない事実に、一番驚いてるのは俺なんだよね
オルガマリー・アニムスフィアは、孤独に震えていた。
誰もいない。
足元で、何かが光り、衝撃があった。
覚えているのはそれだけ。
気づけば、惨劇の地に立っていた。
その光景に、その場の魔力。
脳内情報を照らし合わせて、導き出す。
ここは、特異点F。
つまり、二千四年の冬木。
マスター適性のない自分が、なぜレイシフトしているのかわからない。
ただ、いくつかハッキリしていること。
それは、ここはとんでもなく危険な地で、自分は、とんでもない事件の渦中にいるコトだ。
頭の中を廻る。
ああ、なんて戻ったら言われるだろう。
カルデア、没収されちゃうのかな?
わたし。
やっぱり、わたしなんかじゃ、ダメなのかな……
オルガマリーがへたり込みそうになるのを、しかし、世界は許さなかった。
「GUOoooooo──!!」
唸り声。
人ではない。
振り向くと、剣を携えた骸骨たちがゾロリと並ぶ。
敵意を持っている。
「あっ……いや……!!」
装備は、ない。
せいぜい、いつも持ち歩いているドライフルーツぐらいしかない。
そもそも、あんなコトになって、レイシフトに巻き込まれるなど思ってもいなかったので当然だ。
なにより、今までオルガマリーは、敵意や嫌悪に触れることはあったが、殺意や、それを具現化した凶器の鋒に立ったことなどなかった。
「いやあーっ!!」
思わずうずくまる。
顔を手で庇って、叫んだ。
すると──鋭い風切り音。
ボ ボ パ ン
空気を炸裂させる音。
それがオルガマリーの耳に届いた。
ガラガラと、硬いものが崩れゆく音がした。
「フン、寄ってたかって小娘ひとりに、大仰としたものだ」
悪辣とした声。
聞いたコトのない声。
オルガマリーが目を開けて、それを見た。
その男は、オルガマリーの前に、燦然と立っていた。
長いコートを靡かせ、音を置き去りにする速度で拳撃を放ち、骸骨たちをワンパンで粉々にしていく。
悪魔を超えた悪魔──
怪物を超えた怪物──
その名は 鬼 龍 !
4.誰にも認められず、誉められず……人生の悲哀を感じますね
鬼龍がオルガマリーを助けたのは、彼のフェミニズムから言うと当然なので割愛する。
ただ、今回はフェミニズムの他に、鬼龍自身が、我が身に起きたことが理解しきれずにいて、誰かしらにその説明を求めていたのはある。
この場に、およそ似つかわしくない少女。
米軍資料から、カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアであることは明白である。
「あ、ありが……」
「フン、礼などいらん。貴様のためにやったんじゃない」
俺の自尊心が、ヤツらの存在を許さなかっただけだ。
ばさっとコートを翻して、鬼龍は言った。
だから、オルガマリーも、それ以上は口を開かなかった。
そして、お互いの話である。
オルガマリーは現在の状況。
ここがどこで、カルデアで何があったのか。
鬼龍は自身がなぜカルデアにいたのか。
なぜオルガマリーを知っているのかを話し合った。
「ってちょっと待ちなさいよ! だったら、あんたカルデアに不法侵入した上に、カルデアが召喚したレオナルド・ダ・ヴィンチに逢おうとしてたってこと!!?」
「その通りだ」
ニマーッと笑う鬼龍。
まるで悪びれていない。
味方だと思ったのに、不審者だったなんて……と頭を抱えるオルガマリー。
彼女を他所に、鬼龍は歩き出す。
ちょっと待って、とオルガマリーが言う。
鬼龍は足を止めた。
「ほう、この俺の歩みを止めるか?」
「待って! こんな状態でわたしをひとりにする気!?」
「ククク、カルデアの所長なら、この程度のトラブルは想定済みではないのか……?」
「──ッ!」
痛いところを見抜かれている。
正直、何が何だかオルガマリーにもわかっていない。
自分はあくまでカルデア、レイシフト案件の責任者であって、機械的な部分での指揮権、その全権はレフ・ライノールが担ってくれていた。
レフ……死んじゃったのかな?
唯一の味方。
カルデアで、ではなく、オルガマリーの人生においての。
生身のままレイシフトさせられたと言うことは、あれは次元、時間の断層を破壊してしまうほどの爆発だったのだろう。
その渦中で、管制室にいたレフが生きているとは思えなかった。
顔を俯けると、自然に涙がこぼれた。
「顔を上げろ」
鬼龍は言った。
オルガマリーに、厳しい言葉を投げかける。
「今、おまえが下を向いて、なにか良いことがあるのか?」
──!
オルガマリーは、涙を拭き取った。
よし! と顔を上げて、足に力を入れた。
ずんずんと歩み出した。力強く。
「そうね! キリュウの言う通りだわ! わたしはカルデアの所長だもの! そうね、いっそ、こんな特異点ぐらい、ちゃちゃっと片付けてやるわ!!」
ぐっと拳を握りしめて、高々と宣言する。
ククク、と鬼龍は笑っていた。
5.ムフフフ、ランサーはstay nightまで、FGOからはキャスターに変身するの
その後、生き残っていたカルデアのマスター、藤丸立香(♀)とデミ・サーヴァントと化したマシュ・キリエライトと合流。
さらにはドクター・ロマニの助けもあり、一行は賑わいを見せ始めた。
藤丸と鬼龍はサーヴァントのことを三人から聞き、マシュ・キリエライトと鬼龍の二人は向かってくる骸骨、魔獣たちをカンタンに蹴散らす。
「で、デミ・サーヴァントのマシュはともかく……キリュウさんの戦闘力はどうなっているんだ? 運動能力、反射能力、こちらで測れるデータだけでも、並みのサーヴァントのそれを上回っているんだけど……」
ロマニが驚愕し、オルガマリーたちも同意する。
鬼龍のパンチは速い。
とてつもなく速い。
音が、後から聞こえるのだ。
つまり、音速か、それを超えている。
そんなものを、鬼龍は軽々と乱打するのである。
敵の攻撃は柳の葉のごとくひらりひらりと躱し、マシュを含めた攻防に全く遅れを取らない。
音速戦闘という領域は、戦士系サーヴァントにとって、ひとつの区分点であるといえる。
そういう意味では、鬼龍の攻防速度は平均的な戦士系サーヴァントのそれに匹敵していた。
「アンタ、本当に人間なの? 実は受肉したサーヴァントとかじゃなくて?」
「ククク、俺がサーヴァントとやらなら、まず真名を隠すのが常ではないのか?」
「偽名だったりしてー?」
「先輩、失礼ですよ! すみません鬼龍さん……」
そんなこんなで、男一人と女三人。
てんやわんやで冬木を練り歩く。
途中、何度かサーヴァントに襲われるも、やはり鬼龍の人から隔絶した戦闘力と、防御を担うマシュのコンビネーションは抜群で、これを楽々撃破した。
「うーん……サーヴァントは、基本神秘を含まない攻撃は通さないハズなんだけど……」
「ククク、ドクター・ロマニ。灘神影流は毒物、呪術にまで対応した殺人術よ。ならば、どんなに神秘があろうとも、元が人たるサーヴァントに通じん道理はない」
そういうものなのかなぁ。
ロマニの疑問は絶えなかった。
そこに、パチパチと拍手が。
「誰!?」
オルガマリーが音のする方に向く。
そこには、杖を携えた、青髪の青年がいた。
「いやァ、ピンチになったら颯爽と……と思って見てたんだけどよ、やっぱそうそう、オイシイとこどりってのはいかねぇもんだな」
それが、サーヴァントであることは一目瞭然である。
杖を持ち、相対するだけで魔力を感じる。
キャスターのサーヴァントに違いない。
キャスターはじろり、と鬼龍を見た。
「特に、そこのオッサンは、やけに戦い慣れてやがる。使う技術こそまだ武技の範疇に見えるが……」
見透かすような目であった。
しかし、鬼龍はそれをがんとして迎え撃った。
二人の間に、えもしれぬ空気が滲み出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
藤丸立香が二人を止めた。
なんという命知らずだ。
二人の間に体を割り込ませたのだ。
「ねぇ、キャスターさん……でいいのかな? 攻撃してこないってことは、味方だと思って良いのよね?」
「さぁね、嬢ちゃん。攻撃しない、敵意がないから味方……ってのは、判断としちゃあ早計すぎるぜ」
「身に染みる言葉だ。この俺にとってはな……」
言葉は強い。
だが、臨戦態勢は解いていた。
対象線上に藤丸立香がいるためだ。
攻撃すれば、巻き込みかねない。
つまりそれは、キャスターは味方とは言い切れずとも、現状害意はないと判断できた。
「協力してくれるのね、キャスター」
切り出したのはオルガマリーであった。
キャスターはああ、と返した。
その後、キャスターから、この冬木のコトのあらましを聞く。
横槍の入った聖杯戦争。
生き残りは少ない。
カルデアの味方は自分だけ。
絶望的な状況ではあるが、光明が射してきた。
キャスターの提案。
オルガマリーの、そして藤丸立香の主導のもと、彼らは聖杯を牛耳るセイバーの元に向かうことになった。
6. ククククク 恥ずかしがることはないよ、うぬぼれは若者の特権よ
洞窟の前で、一行は足を止めた。
その気配を感じたのは、キャスター、マシュ、そして、鬼龍。
「大変だあっ! みんなそこから逃げて!!」
ロマニが通信越しに叫ぶ。
ほぼ同時に、それは飛んできた。
それは、矢であった。
空気を裂き、大気の抵抗を焼き切る破壊の化身。
キャスターはオルガマリーを抱えた。
マシュは藤丸を抱えて。
それぞれ飛んだ。
鬼龍はあろうことか、矢に向かって突進した。
「キリュウ!!」
キャスターの腕の中で、オルガマリーは叫んだ。
死んじゃう!
キリュウが死んじゃう!!
絶望の未来を予測する。
手を伸ばすが遠ざかる。
彼女の目の前で、信じられないことが起こった。
鬼龍が矢に向かって手を伸ばした。
矢の鋒が、鬼龍の指先に触れた瞬間、その軌道を変えて、鬼龍の斜め後方に撃ち込まれたのだ。
何が起こったのかわからない。
それは、マシュや藤丸は愚か、下手人すらそうであった。
「矢除けの加護か!? やるじゃねえか鬼龍!」
キャスターだけが、ひゅう、と口を鳴らす。
その正体は、灘神影流『弾丸すべり』。
音速にせまる破壊の矢を、鬼龍は楽々と受け流したのだ。
元より、鬼龍は完全な不意打ちであった、音速の二倍から三倍の速度のライフル弾を、頭に当たった瞬間に弾丸すべりで流せる技量の持ち主である。
目に見える矢。
真正面から向かってくるもの。
それも、音速を少し超えた程度のものなど、受け流すことは簡単なコトである。
「この俺に不意打ちなどきかんぞあーっ」
煽る言葉に誘われて、下手人は姿を現す。
キャスターが、やっぱりな、とため息をついた。
「やっぱりテメエか、いっつもセイバー贔屓だな、テメエは」
「言われるほど、いつもいつもアレを贔屓しているつもりはない」
ムッとした表情で、男は言う。
そりゃどーも、とキャスター。
手に持つのは弓。
アーチャーだろう。
「お嬢ちゃんたち、先にいきな。なに、この男とはちょっとした縁があってよ」
「俺は構わんぞ。どうせおまえ抜きじゃあ、アレは倒せん」
「ヘッ、減らず口叩くなよアーチャー。わかってんだろ? 俺なんてもんは、所詮お嬢ちゃんたちの水先案内人よ!」
「ならば、ここが貴様の行き止まりだと教えてやろう」
軽口を叩き合うも、その体から発する殺気、魔力は尋常ではない。
──鬼龍!
キャスターが叫んだ。
「……お嬢ちゃんたちを、たのむぜ」
フン、と鬼龍は鼻を鳴らす。
「言われるまでもないわっ」
7.怒らないで下さいね。アーサー王なんてエクスカリバーあって円卓いながら蛮族に滅ぼされてバカみたいじゃないですか
辿り着いた先、待ち構えていたのはアーサー王。
女性であった。
なにっ 鬼龍は手が出せないっ!
この役立たず! とオルガマリーに怒鳴られるが、こればかりは仕方ない本当に仕方ない。
しかし、戦闘はマシュ・キリエライトが擬似宝具を展開し、藤丸立香が令呪による阿吽の呼吸で支援し合い、アーサー王を撃破した。
なにっ アーサーがダイ・ジェストで死んだあっ
追いついたキャスターの霊子拡散も見届け、一行はあと、カルデアに帰還するだけどなった。
が、そこに声が。
声の主は、レフ・ライノールであった。
7.欺瞞だ すべてが欺瞞に満ちている
──いやだ
向かう先にはカルデアス。
極小の地球。
人理を護る叡智の結晶。
しかし、現在のそれは、オルガマリーにとっての処刑道具であった。
レフ・ライノールの正体。
彼は、自らをフラウロスと名乗った。
人理を終わらせる。
いや、人理は終わったのだと謳い上げた。
「ほぅ、ソモロンの七十二柱か……」
鬼龍がつぶやくと、レフは邪悪に顔を歪ませて、肯定する。
「そうだとも。私は人理を見届ける役……そのつもりだったが、ああ、失敗したよ。こんな出来損ないどもが牙を剥くとはね」
だが、お前たちが生きていたところでなにができる?
一連の絶望を話した後、彼はオルガマリーに哀しき現在を叩きつけた。
お前はもう、死んでいる。
だから、レイシフトできた。
だから、お前はもう、どこにも帰ることはない。
──だから、せめて夢の中で殺してやろう。
カルデアス。
超高密度の霊子領域。
それはブラック・ホールであり、太陽でもある。
この場合、正体はどちらでもいい。
ただ一つの真実は、あそこに叩き込まれれば、形を保てずに死ぬと言うコトだ。
そして、オルガマリーの体がそれに引き摺り込まれかけていることだ。
いやだ!
オルガマリーは目に涙を浮かべて叫んだ。
いやだいやだいやだいやだいやだ!!
まだ、何も褒められてないのに!
みんなに嫌われたまま、死ぬなんて!
──いやだ!!
絶望に泣くオルガマリー。
絶望を笑う、レフ・ライノール。
絶望に自失する、藤丸とマシュ。
しかし、鬼龍は──オルガマリーの手を握った。
「なにっ」
レフが叫ぶ。
予想外であり、予定外の出来事。
オルガマリーの目の前には、空を飛んでその腕を掴み、カルデアスから引き剥がす鬼龍の姿があった。
「バカなあっ!?」
レフの戸惑いは尤もである。
バカな! どうやって!?
鬼龍は笑った。
「空眼の目付けの応用……ククク、やってみればできるものだ」
灘神影流──『空眼の目付け』。
極限究極の状況下で、離脱した精神体が、空に飛び上がって下界を鳥瞰し、あらゆる危機を回避させるという神のみわざ。
灘神影流で、不完全ながらそれを扱えるのは現当主、宮沢熹一──キー坊のみである。
しかし、空眼のように、精神体を飛び出させ、それを自在にコントロールできるものがいる。
高潔なる鷹。
宮沢三兄弟の長兄、宮沢尊鷹その人である。
かつて、キー坊は当主になるために、尊鷹と戦い、空眼の目付けを発動した。
すると、それに相対した尊鷹は、自らトランス状態に入り精神を離脱させ、キー坊の精神体と、精神体同士で殴り合うという暴挙を持って対処したのだ。
精神体のダメージは、全て本人たちの肉体にフィードバックされていた。
精神体を離脱させ──物体に干渉する。
その術が、灘神影流にはあるのだ。
鬼龍は、オルガマリーを救うために、一か八かでこれを行い、そして成功させたのだった。
純粋なる精神体は、物質界の事象に左右されない。
つまり、カルデアスの超重力を無視して、オルガマリーを引き剥がすに至ったのだ。
「キリュウ!!」
「フン、手間のかかる女だ。だが、俺は女に涙を流させる蛆虫だけは許せんのだっ」
着地する二人。
鬼龍の精神体が肉体に戻る。
世界が歪み、軋み、そして崩壊を始める。
「チッ! まぁいい。どうせ肉体もないんだ。この世界が崩壊すればカルデアに戻らず死ぬしかない……」
祈る時間だけは与えよう。
ロマニと幾らかの言葉を交わした後、レフ・ライノールは冬木から姿を消した。
地下空洞が崩れ落ちる。
世界が闇に包まれた。
8. 待てよ、物語はこれから面白くなるんだぜ?
オルガマリーは目を覚ました。
焼け落ちたばかりの管制室。
異常を示すカルデアス。
全て──夢ではなかった。
ドクターロマニと生き残ったスタッフたちが、オルガマリーを笑顔で迎えた。
よく、生きていてくれた!
掛け値無しの、喜びの声であった。
オルガマリーは、なんだか少しだけはずかしくなって、でも、嬉しくて、つん、と口を尖らせた。
「──って、ちょっと待って! なんでわたし、カルデアに戻れたの!?」
レフの話が本当ならば、自分の肉体はここにはない。
既に爆発で木っ端微塵のはずだ。
だが、頬にはぺたもちの感触がある。
生きている。
それが事実である。
レフの言葉は嘘だったのか?
それに対し、ロマニはただ、わからない、と答えた。
「立香ちゃんとマシュが戻った時に、マリーも戻ってきたんだよ。理由はわからない。突然現れた……としか言えない」
つまり、死んでいたことは事実なのだ。
蘇生した、なぜ……
いや、それより。
「待って、藤丸立香とマシュって……キリュウは!?」
「ああ、彼なら……」
オルガマリーは駆け出した。
管制室!
キリュウ!
わたしを助けてくれた人!
あなたも、幻だったの!?
飛び込んだ先に、それを見た。
「だーかーらー! 私は本当にレオナルド・ダ・ヴィンチなんだってば。なんならモナリザ描こうか? ラフなやつでいいなら」
「くっ、完璧主義のレオナルド・ダ・ヴィンチが、『ラフなやつでいいなら』などと言うはずがない! しかし、俺の直感はおまえのことをレオナルド・ダ・ヴィンチそのものだと言っている……どう言うコトなのだ」
「私もカルデアにいて、色々やることが多いのだよ。鬼龍くんとは是非、芸術について語りたいとも思うけどさ。そのヒマが、ちょっと今はないかな〜」
レオナルド・ダ・ヴィンチに質問攻めする鬼龍であった。
オルガマリーはづかづかと歩みよって、怒鳴った。
「キリュウ! ダ・ヴィンチの仕事の邪魔するのをやめなさい!!」
鬼龍をダ・ヴィンチから引き剥がすのに、結構な時間がかかった。
とりあえず落ち着いた状態になり、オルガマリーはロマニとダ・ヴィンチを伴い、鬼龍と管制室で話し合う。
「キリュウ。わたしたちと一緒に、人理継続……グランド・オーダーに力を貸してくれないかしら?」
鬼龍はクク、と笑う。
「ほう、なぜこの俺が、お前たちのために働かねばならん」
「鬼龍。レフの言う通り、現在人理は焼却された状態にある……このカルデア以外に、人類が生存できる世界はないんだ」
「だとして、だ。この俺が人理のために働いて、なんの利益があると言うのだ?」
世のため人のために。
そんな言葉は偽善で欺瞞。
静虎やキー坊ならともかく、世の道徳に背反することを理念ともしている鬼龍にとって、それはなんら説得材料になりはしない。
「私が、キミのために作品を作る……それじゃダメかい?」
ダメだね、と鬼龍。
「ダ・ヴィンチ。俺はお前のことは心から尊敬するが、それはお前が描きたいものを描いて、芸術を生み出せるからだ。後年のピカソのように、大衆や個人に媚びるために描いたものになど、蛆虫ほどの価値もないわっ」
「むむむ、そう言われると、ちょっと納得しちゃうのが、悔しいかな私も芸術家なんだな〜……」
ダ・ヴィンチですらダメ。
ならば、もうどうしようもないのでは。
そこに光明射したのは。
「君の疾患を治すと言ったら、どうかな?」
ロマニ・アーキマン。
「冬木では、こっちからバイタルは全て把握していた。鬼龍くん。君は心臓に遺伝的疾患を抱えているだろ?」
「……」
バースト・ハート。
龍の遺伝子に組み込まれた時限爆弾。
ガルシアも、ジェットも、抱えていた心臓疾患である。
かくいう鬼龍もまた、バースト・ハートなのだ。
遺伝的要因であるこの病は、薬で進行を遅らせるのがせいぜいであり、根本的な治療をするなら心臓移植が必要である。
……少なくとも、鬼龍はそう考えていた。
「俺のバースト・ハートを治せるのか、おまえが?」
「治してみせる! カルデアは人理を継続させるための、あらゆる科学と魔術を集めて扱うことを目的としているんだ」
「この俺に、悪魔を超えた悪魔たる俺に、契約をする意味がわかるか?」
「人理を継続させるためなら……グランド・オーダー完遂のためなら、どんな犠牲も払うべきだと、ボクは思っているよ」
ロマニと、鬼龍はじっ、と睨み合った。
沈黙。
それを、鬼龍が先に破った。
「いいだろう」
オルガマリーとダ・ヴィンチがほっと胸を撫で下ろす。
「ロマニ・アーキマン。クク、何を隠しているかは知らんが、おまえの腕にはまぁ、一応期待してやる」
「……光栄だよ」
こうして、宮沢鬼龍は、人類継続保障機関──カルデアの臨時職員となった。
待ち受けるのは、人類の過去。
鬼龍自身が敬愛し、そして愚弄するそのものである。
次回予告!!
鬼龍たちがたどり着いた特異点。
フランス。
そこで待ち構える悍ましい事件──
「ジル・ド・レェ。あなたの悪い噂を耳にしたわ。それは口にするのもおぞましい鬼畜の所業……」
異
常
性
愛
者
「それ……あなたの口から言いますか、レディ」
悍ましき敵たち──
「なぁ、マリー。なんでわざわざ貴女が街の復興を手伝うんだい? この世界にも大工ぐらいいるだろうに」
「あら、アマデウス。こういうのは、みんなでやるから尊いんですのよ? 民たちとの絆が深まりますわ!」
可憐で頼もしい仲間たち──
「汝は龍! 罪ありき!
「ウアアア龍属性付与ダーッ! タスケレクレーッ!!」
頼もし過ぎる仲間たち──
「マスター、怒らないでくださいね。龍殺しの英雄代表格の俺の龍特攻は、スキルで付与なんだ……すまない……」
落ち込んだ英雄──
「フン、せっかくフランスに来たんだ。エッフェル塔には寄らないのか?」
「鬼龍さん! 私たち観光に来たわけじゃないよ!?」
「マスターの言うとおりです! それにエッフェル塔の完成は千八百八十九年で、この特異点の時代よりだいぶ後だと思われます!」
「マシュ! それ言っちゃダメなやつ!! 世界史専攻だから私も知ってたけど!!」
「……ククク、やるじゃないか。今のはお前たちの知識を試したんだよ」
「嘘つけっ! めちゃくちゃ口惜しそうだったじゃないの!?」
そして、現れる最強の敵──
「そんなっ! ジークフリートさんを普通に殴り飛ばすなんてっ!!」
「マシュ! えっ? 消え……」
「これが幽玄のかわし……朦朧拳や。お嬢ちゃん」
コートを靡かせる長髪の男。
どことなく、鬼龍を思わせる振る舞い。
「なにっ! 熹一だとっ!?」
「鬼龍……ククク、生きとったんか。お前の血を浴びて、ワシは生まれ変わったんや」
──NEO・宮沢熹一としてな。
ジル・ド・レェの召喚せし切り札。
灘神影流と幽玄真影流を納め、
灘・真・神影流の当主となった男。
宮沢熹一・オルタ。
春草にすら勝てない鬼龍が、果たしてこの怪物に勝てるのか?
異
常
性
愛
者
ジル・ド・レェの魔の手も迫る!!
そこに現れる──愛のサーヴァント、清姫。
◆この特異点の目的は……?
人類最後のマスター(ではない)、 鬼 龍 !
彼の、彼らの明日はどっちだ!?
続く!!(続かない)