記憶喪失になってからトレセン学園がおかしい   作:記憶にございません

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虚偽

 

 

「…………どうなってんだ?」

 

 意識が回復した日から一週間が過ぎ、リハビリなども必死に努力してはいたものの結局は大晦日を病院のベッドの上で迎えることになってしまった俺は、今日までに見舞いに来てくれた多くのウマ娘たちに対して強い疑問を抱いていた。

 

 俺が目覚めたことを知って病室にやってきたウマ娘の人数はこの一週間で二十を優に超えており、意外にもその誰もが一人一人個別に顔を出しに来ていた。

 二人以上で訪問してきたのは二日目のテイオーとマックイーンのときだけであり、他のウマ娘たちは『大事な話がある』と事前にメッセージを送ってきてわざわざ誰もいない時間帯を狙って俺の前に姿を現した。

 で、だ。

 そうして一対一で話していくなかで、彼女たちにはひとつ大きな共通点が存在することが判明したのだ。

 それは──

 

 

『トレーナー……実は私たち、みんなに隠れてお付き合いしていたんです。記憶がないので実感が湧かないでしょうけど、トレーナーは私の恋人だったんですよ?』

 

 こういった発言のことである。

 俺と相対したウマ娘は誰も彼もが顧問と生徒での秘匿恋愛をしていたのだと口々に主張してきた。

 ちなみに先ほどのはサイレンススズカという少女の言葉だ。

 参考程度に別のウマ娘から伝えられた衝撃の真実は以下の通り。

 やれランニングのトレーニング中に熱くなって河川敷の下で互いに想いを伝えて相思相愛になった、だとか。

 私生活がだらしない俺の寮室に押し入って世話を焼いてくれるウマ娘に依存して俺のほうから手放せなくなった、だったり。

 夢を語らい勝利を誓い最後まで担当の成長と青春の両立を後押しするのが世の一般で言うところのトレーナーだと考えていたのだが、どうやら記憶を失う前の自分はトレセン学園への就任と同時に、見境なく未成年を誑かしまくるカスみたいな淫行教師へと進化してしまっていたらしい。

 健全の"け"の字もない。

 どちらかといえばケダモノの"ケ"の字が先行しまくっている。

 

「本当かよ……俺マジでそんなことしてたのか? 物理的に不可能じゃない……?」

 

 ただ、彼女たちのもたらした情報に対しては正直なところ半信半疑だ。

 なにしろ二十数人の女子生徒たちからそういった話を振られたのだ。疑わないほうが失礼なレベルだろう。

 例えば他のウマ娘たちが普通に接してきて、たった一人誰かからそんな真実を告げられた場合であれば、大変不本意ながら信じる方向性に舵を切る可能性も無きにしも非ずだった。

 しかし現実は学校のクラス一つ分並みの人数からの大量攻撃だ。

 あまり考えたくはないことだが、もしかすると俺が記憶喪失なのをいいことにみんなで口裏を合わせて単にからかっているのかもしれない。

 あのテイオーとマックイーンの名前を歪曲して伝えてきたゴールドシップとかいう前例が、その可能性の信憑性を高めていると言ってもいい。

 

 ただ、俺に対しての恋人宣言をしてこなかったりそういった話を匂わせてこなかったのが、クリスマスチキンの代わりに寿司を持ってきたゴールドシップと、初日以来ここへ訪れていないクリアウィングだけだったのも事実だ。

 彼女たち二人が俺をからかわないまともなウマ娘なのか、それとも主犯だからこそ実行犯にはならないということなのか──今はまだ何の結論も出せやしない。

 

「……はぁ、考えるの疲れた」

 

 ベッドに倒れこみ、枕元のスマホで時刻を確認した。

 もうとっくに深夜だ。

 暗い部屋のなかで自身の過去に苛まれつつ、看護師がきたら寝たふりをするという行為を延々繰り返している。

 

「にしても、担当はいない──か」

 

 薄暗い天井を眺めながら独りごちる。

 遡ること五日前、昼頃にとあるチームを監督している男性トレーナー……いわゆる"先輩"から電話で連絡が入ってきたのだが、その時に最も重要な情報を聞かされた。

 俺がトレセン学園で従事していた職務についての話だ。

 簡単にまとめると俺は様々なチームのサブトレーナーとしてトレーナー業を始めることになったらしく、誰か一人のウマ娘を固定で担当したことはなかった、という内容だった。

 なんでも色々なウマ娘や沢山のトレーニング方法を学びたいと配属当初に強く希望していたようで、運良くそれが通った結果多くのチームをローテで渡り歩く不思議な立ち位置のサブトレーナーになっていたとのこと。

 その中でも特に世話になっていたチームこそが連絡をくれた先輩の所であり、そんな彼だからこそ知っている"俺"の話は大変参考になった。

 

「……見境がないのは事実だったんだよな。何やってんだ俺は」

 

 本当に見境なく沢山のチームのウマ娘たちに声をかけ、月並みなアドバイスや練習メニューのちょっとした見直し、個室での相談や息抜きの外出の付き添いなどのメンタルケアといった、とにかくサブトレーナーで出来る範囲のサポートを多くのウマ娘たちに施していたとのことだった。

 ひとつのチームのサブトレーナーを務めるだけでも大変なのにそういった無茶な過密スケジュールをこなせていた辺り、体力だけは一人前だったようだ。

 

 ……そういう中途半端な立場で支援してたからウマ娘たちにも嫌われて、こんな大袈裟なからかいドッキリをくらっているのかもしれない。

 きっと新米のくせに立場をわきまえず行動していたのだろう。

 これを機に反省して、今度からは範囲を絞って業務に着手することにしよう。

 方針も決まったことだし、今夜は一旦寝てしまおうか。

 

 

 

 

「喜悦ッ。まさかキミに"あーん"できる機会が訪れるとはっ」

「……あ、あの、理事長?」

「リンゴが剥けましたよ、霜月トレーナー。食後に食べさせてあげますね」

「ありがとうございます。……いや、えっと、一人で食えるんですけど……」

 

 翌日。

 なぜか俺はトレセン学園の理事長を名乗る変な喋り方のロリっ娘と、同期であり事故の際に助けた張本人とされている桐生院トレーナーという女性の二人から、まるで要介護患者かのような扱いを受けながら昼食をとっていた。

 なにこれ……。

 

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