獣に堕ちるぐだ男   作:ロクナナエイト

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続編希望の声が届いたので気分転換に書きました。
ご期待に応えられていたら幸いです。


獣に墜ちるぐだ男(英霊視点)

「はぁ(溜息)・・マスター、いったいどうしたのかしら。」

 

 ある日の午前、食堂の隅のテーブル。そこにはぐでぇっと身体を机に預け、何かをぶつぶつとつぶやくアビゲイルの姿があった。そこへ、

 

「どうしたのアビー?」

 

 ポール・バニヤンがやってきた。

 

「バニヤン・・・マスターがここ最近変なの。いつもはみんなの前でわくわくした目をしているんだけど、最近はほんのちょっとだけ達観しているというか、どこか諦めている感じがするの。・・でもほんのちょっとなのよ!たまにそんな顔をするだけで・・やっぱり私の気のせいなのかな?」

「うーん・・気のせいじゃないかな?昨日マスターと一緒にレイシフトで小さい特異点に行ったけど、いつも通りだったよ?」

「そう・・やっぱり私の気のせいかしら・・・でも最近はおじ様も変なのよ。おじ様ったら、マスターの夢の守りはしばらく自分一人に任せてもらいたいって言って、私を全然マスターに会わせてくれないの。この間もどうしても会いたいって言っても駄目だって言われてしまったし・・だからマスターの身に何か変化が起きてるはずなのよ。でなきゃおじ様がそんな事言いだすはずないわ。でもその原因が全く分からないの・・・」

「うーん・・・・・あ!じゃあマスターを一日観察しようよ!そうすればきっと原因も分かってスッキリするよ!」

 

 バニヤンの子供らしい純粋無垢な提案、当然まだ幼いアビゲイルはその話に乗った。

 

「まぁ!それは素晴らしいわ!」

(上手くいけばマスターともっと仲良しになれるかもしれないし、モヤモヤもスッキリするし、一石二鳥だわ!)

「うん!じゃあ行こう!」

 

 こうしてバニヤンに手を引かれながら、アビゲイルはちょっとした冒険に出発したのだった。

 

 

 そして朝の10時頃、アビゲイル達は他の英霊からマスターがトレーニングルームにいる事を聞いて、ウキウキ気分でドアの前までやってきた。果たしてマスターはどんな一日を送っているのか?そんな事を自問しながら自動ドアを潜ると其処には・・・

 

「・・えっと、マスターはここかしら?」

「ん?お前たちは・・」

 

 部屋に入ると入口付近にスカサハが立っていた。その奥ではマスターとニキチッチが仮想英霊を相手に訓練をしていた。どうやらスカサハがマスターに師事している途中のようである。

 

「こんにちは、スカサハさん!私達、マスターに会いに来ましたの!」

「おおそうか、あいにくと今は稽古の最中だが、あと1時間もしないうちに終わるだろう。」

「うん分かった!ここで待つ事にするよ!」

 

 素直に言う事を聞いて、壁にもたれ掛かりながら座って待つバニヤン。しかしアビゲイルの方は自分の知らないマスターの情報が欲しいのか、スカサハの好きそうな話題を振ってマスターの情報を少しでも引き出そうと試みた。

 

「あのぉ、よければマスターの訓練内容について教えては・・」

「おお!お前たちも武に興味が!」

「え!?、いや・・」

「構わん構わん!ではまず最初に、目の前の戦いを存分に見ていけ!他者の戦いをじっくり見る事でしか得られないものもある!」

 

 思わぬスカサハの喰いつきっぷりに若干引き気味になるアビゲイル。しかしバニヤンはの方は・・

 

「うん!よく見て頑張るよ!(ニコニコ)」

「よし、いい返事だ!」

 

 ・・・・意気投合している二人を他所に、アビゲイルは一人沈んだ顔をしていた。

 

(・・マスターはやっぱり、スカサハさんみたいな大人な体が好みなのかしら・・・だから普段から大人に囲まれているのかしら・・・?)

 

 それから30分程経って、ようやくマスター達は訓練を終えた。スカサハはマスター達と入れ替わるようにして鍛錬を始めてしまったので、マスターは一人で水分補給をし始めた。汗だくで水分補給をしているマスターを見て、アビゲイルは胸がドキドキしてしまった。

 

(マ、マスター・・・なんて・・すごい・・・///)

「あれ?アビーとバニヤン?どうしたの?何かあった?」

 

 マスターがアビゲイルに気付いた瞬間、彼女は急いで頬の緩みを引き締めると、振り返って満面の笑みをマスターに見せつけた。

 

「マスターこんにちは!今日はマスターと一日一緒にいたくなっちゃったの。いけない事だと分かっているのだけれど・・・ダメかしら?」

「え?・・・うーん、別にいいけど。たぶんつまらないと思うよ?」

「ううん、マスターと一緒にいるだけで私達は楽しいよ!さぁ行こう!」

 

 そう言ってバニヤンはマスターの右手をつかんでぴょんぴょん跳ね始めた。それを見たアビーは急いでマスターの左手を掴むと、そのままその幼い身体の全てを使って思いっきり抱き着いた。一方いきなり二人に腕を引っ張られたマスターは、苦笑いを浮かべながら取り合えず彼女達に付いて行く事にした。

 そんな風にしてはしゃいでいる二人を他所に、ニキチッチはマスターに何か耳打ちをした。そしてそれを幼いアビゲイルの瞳は捉えていた。

 

「マスター、例の二人に聞いてくる。上手くいけば、どちらかは引き込めるかもしれないからな。」

「うん、頼むよ。」

 

 言い終えてマスターから離れると、ニキチッチは霊体化して何処かにいってしまった。

 

「じゃあ行こうか。アビゲイル。」

 

 そう言って笑いながら”左手”をアビゲイルの顔の前に差し出すマスター。もちろん彼女は喜んでその手を取って再び抱き着き、3人でトレーニングルームを後にした。

 ・・・・ただ一つの違和感を覚えながら。

(・・あれ?マスターってあんな風に笑う人だったかしら?)

 

 

「じゃあ、いただきます。」

「「いただきます!」」

 

 トレーニングルームを後にした3人は丁度お昼時だった為、一旦食堂で早めの昼食をとる事にした。この時期の食堂のルールは少し特殊で、A,B,Cの食券から一つを選んでキッチンまで持っていき、それをそれぞれの料理担当の英霊に見せる事で、対応した定食が作られる仕組みとなっていた。今回マスターが選んだのはB定食、魚がメインの精進料理であった。ちなみにバニヤンが選んだのはA定食、大きなハンバーグが主役の高カロリーなセットであった。そしてアビゲイルが選んだのは、アサリのパスタで定番のボンゴレビアンコが主張するC定食であった。

 

「ぱくっ・・・うん・・美味しいね。」

「ハムッ!ハムッ!・・・ううーん!幸せー!」

「ふふ・・バニヤンったら、口の端にソースが付いているわ。」

 

 ハンバーグにはしたなく齧り付くバニヤン、そんな彼女の口にはベットリとソースが付いてしまっていた。それが気になったアビゲイルは、わざわざハンカチでバニヤンの口を拭いてあげた。

 

「・・・よしっ、これで綺麗になったわ。」

「ふへへぇ・・ありがとうアビー!大好きだよ!」

「ええ、私も大好きよバニヤン。・・あら、あちらの方は・・・」

 

 子供特有の素直な気持ちを伝え合う一幕を繰り広げていると、マスターの後ろから近づいてくる人影が。その人物は・・

 

「・・ご機嫌用、マスター。」

「・・・ん?ああ、スペースイシュタル!ご機嫌用!・・・今日はA定食なんだ。」

「ええ、善の私はB定食、悪の私はC定食を望んでいたのだけれど・・・今日は私が主人格だから・・・」

「へー、じゃあA定食は君の趣向?」

「・・・・・何よ、何か文句がおありかしら///」

「まさか、むしろ元気一杯の君にピッタリだなって、そう思っただけだよ。」

 

 ユニバースの世界からの来訪者、スペースイシュタルであった。そして現在、どうやら彼女は自身の趣向をマスターに認められて酷くご満悦なようだ。マスターの横に自然と座った彼女は、身体こそマスターの方を向いているが顔は定食を覗き込むかのように伏せられ、外野から全く見えない状態になっていた。そしてその表情は、普段の仏頂面からは想像できない程のニヤケ面に破顔していた。

 

「///~~~~~!!!・・・・ふぅ、そう・・ならいいわ。これからもその調子で女神を敬いなさい。」

「うん・・・さて、この漬物はどんな味かな?」

 

 軽く会話を済ませたマスターはそのまま食事を再開した。そして女神の方もハンバーグを切り分け始めた。そんな二人をみたアビゲイルはふと思う。

 

(・・・マスターさんは、本当に誰とでも仲良く出来るのね。そちらの女神様はもちろん、私とだって殺し合いを繰り広げた中なのに・・マスターが嫌いなタイプなんて、逆にいるのかしら?)

 

 過去に様々な闘いを経験してきたカルデアのマスター、その在り方にふと興味を持ったのだ。何故彼はこうも優しいのか?果たして現代の汎人類史に、ここまで器のデカい一般人が他にいるだろうか?いや、おそらくいないだろう。互いに殺し合った相手とこうも善良な関係を素早く築ける人間など普通は存在しない・・・じゃあ彼は一体?

 

(・・マスターさんは一体今までどんな人生を歩んできたのかしら?確か前にマスターさんから聞いた話では・・・普通の家庭に生まれ育ったって言っていたけれど・・・そんなはずないわ。いくら私が古い時代の英霊だとしても、マスターさんみたいな人が現代で生まれてくる確率がすごく低いって事くらい分かるわ。仮にもしマスターさんの言っている事が事実だとしたら、現代はもっと幸せな人で溢れているはずよ。でもマスターさんと近い生まれの英霊の皆さんの話では、現代では偽善と欺瞞が横行し悪が多く蔓延っていると聞くわ。)

 

 そこまでは一人で考えられたアビゲイルだったが、そこから前に思考を進める事は叶わなかった。

 

(・・・ならどういう事?マスターさんが嘘つきだって事?そんなはずないわ、マスターさんはそんな無意味な嘘は付かないもの。じゃあ英霊の皆さんがひねくれているだけ?それも違うと思うし・・・じゃあどういう事?そもそも現代の人って普段どんな事をして生きているの?)

 

 現代の知識をあまり聖杯から仕入れていなかったアビゲイルは、頭の中の矛盾を取り除く事が出来ずに堂々巡りを繰り返していた。同じところを何度も何度もグルグルと回っている気分で、段々と気分が悪くなってくる。・・・するとマスターが、

 

「・・・あれ?ねぇスペースイシュタル、口の端にソースが付いてるよ。」

「あら!私とした事が・・・そうね、じゃあマスター・・貴方が取って頂戴。」

「えっ!?なんで!?」

「それも女神の神官たる貴方の務めだからよ。ホラ早く!」

 

 女神の不手際を指摘する。指摘された本人はほんのり頬を染めた後、マスターに自身の身体を触れる事を許した。

 

「んもう・・分かったよ。動かないでね。」

 

 マスターは面倒くさそうに女神の方へ身体を近づける。きっとそのたくましく育った男らしい手の先を器用に使う事で、カッコよく拭ってあげるのだろうと妄想するアビゲイルだったが・・・実際はそんなものの比では無かった。

 

(よし、指先でそっと撫でるように・・・)

「・・・マスター、違うでしょ。」

 

 そう女神が呟くと同時にそっと素早く立ち上がると、そのままマスターの顔を両手で掴み、自身の口端へと持っていった!

 

(んおっ!?)

(んなっ!?)

(うふふ・・・)

 

 突然の事で全く対応できなかったマスターは、彼女の思うがままだった。勢いよく持っていかれた顔は見事彼女の口端へと運ばれ・・・傍から見ればマスターが彼女にキスをしてあげた構図の出来上がりである。

 キスが成立したのを確認した彼女はマスターをもっと感じていたいのか、そのままディープキスへと移行した。マスターの口に自身の舌を突っ込んで口内全体を嬲り回し、徹底的に自身の証を彼に刻み込む。当然それを見ていたアビゲイルは顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

(な、な、なーーーーーー!!!???マ、マスターに何てことを!!??)

 

 ここまでは彼女の策略通りに進んでいた。見事愛しのマスターとの深いキスをする事に成功した。しかしここからはマスターのターンであった。なんと彼は一方的な蹂躙が嫌だったのか、彼女の舌を自身の舌で押し返すと共に、今度は彼女の口内を嬲り回し始めたのだ!当然女神は驚いた!

 

(んむぅっ!!!???)

(お返しだよ。)

 

 彼女から受けた屈辱をそのまま返すように口内を舌で徹底的に攻めるマスター。当然反撃を予知できなかった彼女はトロ顔になって椅子にもたれ掛かる。

 相手がもたれ掛かってもなお攻め続けるマスター、しかもその表情は今までに見た事が無い程の妖しい笑みで満ちており、美味そうに女神の口内を味わうマスターを黙って見ていたアビゲイルも思わず喉を鳴らした。一体マスターに口の中を好き勝手に弄られるのはどれ程の快感なのだろうと・・・自分が艶っぽい目をしながら視線を送っている事に気づかないまま、時だけが過ぎていった。

 そして1分後、たっぷり女神の口内を味わったマスターは口を離して食事に戻る。

 

「・・・ぷはぁ!さてと、最後のお吸い物がまだ残って・・ん?どうかした?アビゲイル?」

「えっ!?いえその・・・今日のマスターは随分と大胆なのねって・・」

「ああ・・うん、もう我慢するのはやめたんだ。」

「えっ?それってどういう・・」

 

 一部始終を見ていたアビゲイルはマスターに思った事を素直にぶつけた。当然マスターから返事が返って来ると思っていたが・・・

 

「ゴクゴク・・・プハァ!ご馳走様マスター!このハンバーグすごく美味しかったよ!」

「あはは、それは良かったねバニヤン。・・・ほらアビゲイルも、食べ終わるまで待っていてあげるから早く食べな。冷めちゃうよ。」

「えっ!?・・ええ、そうね。そうさせてもらうわ。」

 

 さっきまで食べる事に集中していたバニヤンが食べ終わってマスターに話しかけてしまった。優しいマスターはもちろんバニヤンに笑顔を返して、アビゲイルに箸を進めるよう促した。まだ肝心な事を聞いていないアビゲイルであったが、ここはグッと気持ちを堪えた。

 

(大丈夫・・・まだ時間はあるわ。)

 

 

 

「それじゃあ、お休みなさいマスター。」

「うん、お休みバニヤン。アビゲイルも早く寝るんだよ。」

「もちろんよマスター、おやすみなさい。」

 

 時刻は午後7時、船から見える白銀の景色も真っ暗闇に染まり切ったこの時間。そして、ここから先はマスターのプライベートの時間である。カルデアの英霊達は全員このルールを順守している為、流石にこれ以上踏み込む事はいくら夢の守り人であるアビゲイルだとしても許されない。

 

「・・・あーあ、マスターがマイルームに戻っちゃった。もっと遊びたかったなー。」

「仕方ないわよバニヤン、マスターは多忙を極めるお方なんだもの。それよりホラ!私達も早く寝ましょ!」

「うん、そうだよね・・・じゃあねアビー、また明日。」

「ええ、また明日!」

 

 マスターのマイルームの前で別れる3人。マスターは自身のマイルームへ、バニヤンは寝る前にオヤツを食べたいが為に食堂へ、そしてアビゲイルは・・・

 

(・・・さぁ、ここからが本題よ。)

 

 彼女は今・・・そのルールを破ろうとしていた。

 

(今日1日マスターを見て分かった事は二つ、一つはマスターの体力が少し前よりも満ち溢れている事。)

 

 昼食後もマスターと行動を共にし、彼の動きを逐一覚えるよう努めていた彼女にとって、彼の身体の微々たる変化を看破する事はそう難しい事ではなかった。

 

(普段・・というより少し前のマスターは、なんて言うか気分が乗っていなかったわ。どこか英霊のみんなに遠慮して、自分は後ろで見ているっていう場合が多かった。でも今日は違った・・・ニキチッチさんとの訓練中、マスターはいつもより僅かに前に出ていた。まるで闘争心が抑えきれないかのように・・・)

 

 そう、今日のマスターはアビゲイルから見れば少し猛っているように見えたのだ。果たしてそれが何を意味するのかは分からないが、決して見落としてはいけないポイントだと・・彼女は一人確信していた。

 

(そしてもう一つ・・・今日の食堂でのあの出来事。)

 

 思い出して再び顔が赤くなる・・・あのような事がいきなり目の前で起きたのだ。まだ精神が幼いアビゲイルには刺激が強すぎた。

 

(スペースイシュタルさんがいきなりあんな事をしでかすだなんて思っても見なかったわ。でも一番驚いたのは・・・マスターが慣れた様子でやり返した事・・・)

 

 あの時、確かに彼は女神の口づけを自身の暴力的な衝動に任せてやり返し、結果女神を撃沈させるに至ったのだ。その事実がアビゲイルの心に深く突き刺さっていた。

 

(・・・ううん、あれだけじゃないわ。あの後にもマスターは色んな英霊の皆さんと出会っては過度なスキンシップを繰り返していた。流石にスペースイシュタルさんみたいにキスまでイッたりはしなかったけど、胸を大胆に押し付けられたり、股をはしたなくマスターの脚に絡みつけたり・・・あれじゃあ娼婦と変わらないわ。一体いつからカルデアはこんなに風紀が乱れてしまったの?そして何でマスターはそれを笑顔で受け入れているの?)

 

 この問題が今現在、アビゲイルの中でどんどん大きくなっていっているのだ。いつからカルデアは変わってしまったのか?いつからマスターはそれを受け入れたのか?・・・その疑問の答えを、知りたいのだ。

 

(だから今日・・・私はルールを破ってマスターの部屋に霊体化して侵入するわ。さっき会ったアルトリアオルタさんの言葉通りなら、もう既に中で二人はエッチな事をし始めているはず!なら後は二人が致しているところをこっそり盗み見して、終わったらマスターの前に出て脅しを掛ける!バラされたくないなら全てを話して!って。霊体化していれば私が盗み見しているって事もバレないし、万が一バレそうになってもマスターの夢の中へ逃げちゃえばいいんだわ!うふふ!私ってば完璧ね!)

 

 自身の計画に自信満々なアビゲイル。果たして成功するのか?

 

(じゃあさっそく・・・失礼しまーす。)

 

 霊体化してこっそりマイルームへと侵入するアビゲイル・・・がしかし、

 

「ンンンンンッ!!!掛かりましたな!!」

「なっ!?」

 

 マイルームに入ったその瞬間!扉の前で控えていたリンボの張った結界に引っ掛かり、そのまま霊体化を解除されてしまった。自身の姿がマスターに見つかったと思ったアビゲイルは、ルールを破った事をマスターに咎められると身構えて咄嗟に目を瞑る。しかし次に発せられた声紋に思わず肩透かしを喰らってしまう。

 

「待っていたぞ、アビゲイル。」

「えっ?えっ?・・・その声・・お、おじ様!?」

 

 聞こえてきた声の主は巌窟王、エドモンダンテスその人であった。思わぬ人物の登場に目を開けばそこには・・・部屋中に所狭しと並ぶ沢山の英霊達の姿があった。

 

「おじ様がどうしてここに!?いえ、おじ様だけじゃないわ。皆さん一体どうして・・・」

「貴女に選んでもらいたのだわ、アビゲイル。」

 

 突然割り込んできた声のする方を見て目を丸くする。そこにいたのはお昼頃にマスターと大人の攻防を繰り広げたスペースイシュタル本人であった。いやそれだけではない・・・よくよく見れば、今日マスターに淫らに迫った英霊の皆さんが勢ぞろいしているではないか。

 

「な、何?・・・マスター、この集まりは一体?」

 

 もはや何が何だか分からないアビゲイル。しかし今しがた彼女の心を支配したのは現状が分からないという焦りや困惑などでは無い。マスターとこの場のみんなに置いて行かれているという孤独・・そこから今すぐ抜け出したいという恐怖心であった。故に彼女は理解したかった・・マスターが今何を思っているのかを。

 

「・・・俺はね、もう我慢するのを辞めたんだ。」

 

 そこからマスターの独白が始まった。最初は彼の過去を一から丁寧に、それこそ子供に昔話を語る老人のようなペースで話を続けた・・・そして知る、彼が孤独に生きてきた事を・・・彼がもう人類を救う気などサラサラない事を・・・彼がもう生きる事すら諦めかけている事を・・・それが終わると今度はこれからの未来について語り始める。これからもカルデアのマスターとして人理を救う気でいる事、しかし戦う理由は人類の為ではなく自分が幸せになる為に戦うつもりでいる事、その為なら他者の命など平気で踏みにじるつもりでいる事・・・・・そして彼の話が終わった時、全てを知ったアビゲイルが抱いていた感情は・・・激しい怒りだった。

 

「・・・・という訳だから、俺はもう自分を偽る真似はしない。気に入らない奴は見捨てる、気に入った奴は助ける、命に優劣をつける・・・こんな俺だけど、アビゲイルはついてきてくれる?」

 

 そう問いかけるマスターの手は酷く震えていた。アビゲイルが自分の元から離れていくのが怖くて仕方がないのだ。今にもこの場から逃げ出したくてしょうがないのだ。しかし彼の両脇には彼の存在を後押しするように狐耳をした獣が二人、彼を支えるように腕に身体をくっ付けて静かにそこにいた。

 

「・・・その前にマスター、一つお願いがあるのだけれど・・・いいかしら?」

「(?)なにかな?」

「・・・マスターが見事人理を救済し、世界を取り戻したその日に・・・マスターをゴミの様に使い捨てようとした連中を、全員惨たらしく殺す事を許して欲しいのだけれど・・・駄目かしら?」

 

 断りの言葉が飛んでくるかもしれない、いや・・もしかしたら自分を否定する罵詈雑言が放たれるかもしれない・・・そう思って身構えていた彼だが、実際に彼女の口から紡がれた言葉は・・・彼を傷つけた全ての存在を消滅させんとする、重い忠誠の誓いだった。俯きながら誓いを宣言した彼女の腕には、いつの間にか彼女の武器である巨大な鍵が握られ、今からでも誓いを果たさんと暴れ出そうとする触手と一緒に武者震いを繰り返していた。誰がどう見ても、彼女が本心で怒ってる事がよく分かるであろう姿がそこにはあった。

 

「っ!じゃあ!!?」

 

 その怒りに安堵を覚えるマスター、その笑顔を見たアビゲイルも僅かに理性が蘇り、マスターに笑顔で想いを伝えた。

 

「もちろんよマスター、貴方に一生付いて行くわ!そして築きましょう!貴方が幸せに生きれる世界を!貴方が存在する事を許される世界を!」

「うん!うん!・・・ぐすっ、あ、ありがとう・・アビゲイル・・大好きだよ。」

 

 そう言って二人は熱い抱擁を交わした。・・・同時にそれは、また一人英霊が彼の元へと下っていった事に他ならないのであった。

 

 

 

「何て事もありましたわね?おじ様?」

「・・・・・・・・・何の用だ?」

 

 それから時は流れて現在、復讐者達との別れを経たマスターは・・・毎晩その喪失感に苦しんでいた。そんな彼をあやす為に多くの英霊が彼の元へと押しかけては、同じベットの上で体温を交わらせる夜を何日も続けていた。そんなマスターの夢を巌窟王の代わりに守る事になったアビゲイルは、まだ僅かにマスターと繋がっている巌窟王の元へと久しぶりに顔を見せに来ていたのである。

 

「んもう・・・そう言う決断をするなら早めに言って下さらない?マスターの国の言葉で言うなら、おじ様は報連相が全く出来ていなくてよ。」

「・・・・・留意しておこう。」

 

 決して首を縦に振らない巌窟王。そんな彼の頑固さにやれたれと首を横に振るアビゲイル。・・・そろそろ本題に入る事にしたのか、真剣な眼をしながら巌窟王を睨んで口火を切る。

 

「それで?本当にマスターとさよならするつもりなの?」

「・・・・・・」

「よろしいのね?もう二度とマスターに会えなくても・・・」

 

 無言のままの巌窟王・・・だったが、

 

「・・・時が来れば(ボソッ)」

「はい?」

「いずれ時が来れば・・・我らは再び・・・汝の道しるべとなる事も・・・やぶさかではないと・・・伝えておけ。」

 

 帽子で顔を隠しながらそっぽを向いて発言した巌窟王・・・それを見たアビゲイルは、

 

「うふふ!おじ様ったら、やっぱりマスターの事が大好きなのね!」

 

 巌窟王の分まで・・・目いっぱい・・笑うのだった。

 

 

END

 

 

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