異世界へ、来訪
俺は至って平凡な人生を送ってきたと自負している。
なんてことのない一般家庭の子に生まれた俺は、サラリーマンの父と専業主婦の母と暮らしていた。
なんてことのないありふれた人生だったと思う。けれど、それは俺が六歳の時に崩れ散った。
父と母が事故に遭い、亡くなったのだ。
以降は、父の父にあたる人物……つまりは俺にとっての爺さまにあたる人が身寄りのない俺を引き取ってくれた。
そこで剣術を教えてもらった。竹刀を持たせてもらい、打ち合って……爺さまの腕の骨を折ってしまった。
俺自身、爺さまを傷つけようと思っていたわけではない。ただ全力でやろうと思い、竹刀を振るった。振るってしまった。
……爺さまは厳しくも優しい人だったから、俺が爺さまの腕を折ったことも、気にしていないと高笑いしながら一蹴した。
しかし、暴力の危険性をたっぷりと教え込まされた。これは必要なことだと俺自身わかっていたので、素直に聞き入れた。
爺さまがなくなったのは、爺さまが俺を引き取ってから数年後のことだった。
悲しくはあった。けれど、泣きはしなかった。あの爺さまだから、泣くより笑えと言いそうだったから。
小学校、中学校までは義務教育として通っていたが、高校に入るつもりはなかった。そんなお金を、俺は持っていなかったからだ。
中卒で終わるつもりだったが、しかしそれに待ったを掛けた人物がいた。
よくわからなかったが俺の保護者となってくれるらしく、高校の指定はあるが高校、大学まで通わせてくれるらしかった。
断る理由もなかったのでその提案に乗り、俺は思わぬ形で高校に入学することになった。
そして、高校生活2年目となったある日。
俺────というより俺たちは、異世界というところに呼び出された。
意味もわからず、
戦うことを強いられたのである。
月曜日。それは、一週間という長くも短い期間の始まりの日を表す。具体的に言うと休み明けである。
学生であれば誰もが休みを欲しがり、終わらないでほしいと思っていることだろう。そのために月曜日を憂鬱に思う者も多いはずだ。
しかし、それが俺こと
学校を憂鬱に感じたこともないし、休みを欲しがったこともない。生憎友人もいないので休みの日に誰かと遊ぶという発想が出てこないし、何かしたいこともない。
なので、学校に行ってやることなんて勉強、運動、部活の剣道くらい。部活の剣道でも、俺は誰かと親しくなったことはない。
特に嫌いでもなく好きでもない高校通いを続ける俺は、いつもの日常を過ごそうとしていた。
俺の朝は早い。朝6時に起きて朝食を済ませ、そのまま制服に着替えて出る準備をする。
それが終われば俺の保護者に当たる人物を起こし、何事もなければそのまま学校へと向かう。
学校から家への距離は近く、徒歩十分ほどで到着する。そのため、部活動でもない限り人はおらず、授業が始まるまでは静かに席に座って待つのが俺の日常だった。
ただ最近、そんな俺の日常に加わったものがあった。
ガララと開けられた扉から、一人の少女が入ってくる。
「おはよう、桜田くん」
「あぁ、おはよう八重樫」
その少女の名を
そんな彼女がなぜ俺と挨拶なんてしているかといえば、切っ掛けは大したことでもない。
ただ、俺と彼女は一度だけ剣道で勝負をしたことがあって……それで、俺が
意味がわからないと思うだろう。負けて勝った、とは一体どういうことなのかと。簡潔に言うと、俺がルール違反をしたことによる反則負けで俺は負けたのだが、八重樫は自分が負けたと思っている。
なので、俺達の中では勝ったけど負けて、負けたけど勝った、というややこしい認識になっているのである。
まぁ兎に角、それ以降八重樫とはこういうふうに挨拶をする仲になった、というわけなのだ。
といっても、それに続く関係性はなく、本当にただそれだけなのだが。
俺と八重樫の席が隣同士であるのも、こうやって挨拶をするようになった切っ掛けかもしれない。
そうしてじっとしていると八重樫に見られ続けるのが日課となってしまっているので、なんとなく手持ち無沙汰になってしまうので、最近では図書館から借りた本を読むことが多い。
そうやって時間を潰せば、徐々に教室内のクラスメイトも増えてくる。大半は関係のない人物ばかりだが、中には厄介……というより、面倒な奴もいる。
檜山大介という輩が、その典型的な例だ。
彼は一人のクラスメイトが入ってきたことを認識すると、すぐさま立ち上がり近づいていった。
「よぉキモオタ!」
最初にそんな言葉で始まる嘲笑。それに続いて彼と親しい者たちが口々に悪口を言い合う。
それを言われている本人───南雲ハジメは、檜山の言った通りのキモオタと呼ばれる部類の人間ではない。むしろ至って平凡であり、オタクではあるがここまで敵愾心を持たれるほどに人格に問題があるわけではない。
ただ単に、妬みや嫉妬から彼はイジメられているのだ。高嶺の花である
そこで助けよう、という発想にはならない。彼の場合、下手な介入はイジメを悪化させかねない。現に白崎が南雲に話しかけたことで、周囲からの目線に殺気じみたものが混ざっている。
彼のことを思うのであれば、少し間を開けるか、人のいないところで接触させるべきなのだ。
……流石に顔を引き攣らせている南雲が不憫でならないので、白崎の幼馴染だという八重樫に相談でもしてみるべきかもしれない。
この日までは、そんな悠長なことを考えることができた。
変化が起きたのは、昼休みの時だった。
突如教室内に魔法陣のようなものが広がり、光り輝く。咄嗟に身体を動かそうとしたが間に合わず。
魔法陣の輝きが爆ぜ、視界を覆い尽くす。咄嗟に目を腕で庇い、光を遮ろうとする。
光が収まったところで腕を下ろし、周囲を見渡した。
すぐに見えるのは、こちらを取り囲む数十人の人々と、へたり込んでいるのが大半のクラスメイトたち。
それと、目前にある巨大な壁画。
そこまで確認した時点で、明らかに覇気の強そうな老人が前に進み出て、そしてこう言い放った。
「ようこそ、トータスへ」と。