地上に出ていきなりシア・ハウリアを一行に加えることになった俺達は、シア・ハウリアの家族がいるという場所まで行くことになった。
車で行くのでそう時間が掛かることもなく、辿り着いた先には数十人に及ぶ兎人族の集団と、それに襲いかかる魔物が六匹……いたので、ささっと片付けた。具体的に言うと斬って撃った。空を飛んではいたが、俺達の敵ではなかったのである。
「助けていただき、ありがとうございます。娘のシアの危機も救って頂いたそうで……」
「気にしなくていい。話はあっちでつけたからな」
魔物もいなくなったからか、礼を言いに来たのはシア・ハウリアの父親でありハウリアの族長をしているというカム・ハウリアだった。
見た目は濃紺の短髪をした初老の男性に兎耳を生やした感じで、端的に言うと似合ってなかった。
似合っていないが、それが種族の特徴なのだから文句を言ってはいけない。
南雲なんかは凄く微妙な顔をしてるけど、それでもである。
「とりあえず樹海の道案内をしてもらうから、その時はよろしく頼む」
「紅郎、また魔物が来てたから仕留めておいたよ」
「あぁ、すまん。流石に探知は苦手だから、そっちは頼む」
「うん、任せて」
ハウリアが集まっているからか、魔物がこちらに来るらしくそれの処理を南雲と俺で担っている。
魔物が来たかどうかは直感が反応しないと分からないので、最初に魔物を見つけるのはだいたい南雲だったりする。
俺が斬って、南雲が撃つ。そんなことを繰り返していけば、まるでヒーローを見るような輝きを持った目でこちらを見てくるハウリアの子供が何人か。
茶化したシア・ハウリアにイラっとした南雲がゴ厶弾を連射してタップダンスを踊らせていたが、本人の自業自得なのでフォローとかはない。
ライセン大峡谷は魔法が使い難いため、ユエの方は魔物の襲来に警戒するだけに留まっている。もちろん来たら魔法ブッパだけど。
「うぅ、ちょっと茶化しただけなのに……」
「自業自得だ。今後はやめておけ」
「はい、そうします……それにしても、ハジメさんって、強かったんですね」
「そりゃあな。なんだ、そこまでは見えてなかったのか」
「は、はい。見えたのは紅郎さんの場面だけで……」
南雲が戦えることが意外なのか、驚いたような顔を見せたシア・ハウリア。話の内容がおかしいようにも思えるが、こいつの持つ特異性が全てを説明してくれる。
シア・ハウリアは、生まれながらにして魔力操作を可能とする特異体質を持つ。突然変異、と言っていいかもしれない。
他のハウリアが同じ色の髪なのに対して、シア・ハウリアだけ一人異なる色の髪なのは、魔力を有さない亜人族唯一の例外だからだろう。
そんなシア・ハウリアには、一つの固有魔法がある。それが〝未来視〟だ。なんでも仮定の未来を魔力を大量に消費する代わりに見ることが可能らしい。
意図的に見ることも可能だが、突然未来が見えたりすることもあるらしい。突然見える未来は本人が直接間接問わず危険だと思った時に発動し、魔力を持っていくのだとか。
その〝未来視〟によって、シア・ハウリアは俺達を見つけたそうだ。ただ、気になることを呟いていた。
「未来で見えたのは紅郎さんなんですけど、こう、霧がかかったみたいにぼやけて、見えにくかったんです。いえ普段はもっとはっきり見えるんですよ? 本当ですからね?」
と、このようなことを言っていた。多分、〝未来視〟が効果を発揮しづらいタイプがいるのだろう。それが偶々俺だった、そういうことだろう。
なお言い訳についてはノーコメント。特に言及するほどのことでもない。
そうして先に進んでいけば、ライセン大峡谷から脱出できる場所であり、ハウリアの兎たち曰く帝国兵が居座っているという出口までたどり着いた。そこは階段のようになっており、登りきれば無事にライセン大峡谷から脱出できたと言えるだろう。
「ここに帝国兵が居座ってるんだっけ?」
「はい。でも、もう諦めていないかもですけど……」
「いたら面倒だけど、まぁその時はその時で。ほら、行くぞ」
いようといなかろうと、障害となるなら排除するだけだ。どのような手段であれ、だ。
そうして先に進もうとしたが、そこで待ったをかけられた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……なんだ、急に」
「もし、帝国兵がいたら……紅郎さんとハジメさんは、どうするんですか?」
帝国兵───いや、敵対する人間がいたら、どうするのか。
それを聞かれて、何の躊躇いもなく南雲は答えた。
「敵になったら殺す。ただそれだけだよ」
「で、でも、そんなことをしたら同族と敵対することに……」
「その質問、意味ある? そんなの、話を聞いた時点で分かりきってたことだよ。それを承知で、私達は君達を守ることに決めたんだから。相手が同族であろうとなかろうと、道を阻むなら敵で、敵は殺す。単純でしょ」
「……まぁ、そういうことだ。話がそれだけなら早く進むぞ」
何処か戸惑うような雰囲気を出していたシア・ハウリアだったが、自分たちを守ってくれると再確認したからか、これ以上止めることも聞いてくることもなく同じように歩き出した。
そして再び進み出して階段を登りきり、ついにライセン大峡谷からの脱出を果たした。しかし、ここからが本番だ。
登った先で見えてきたのは三十人ほどの集団。武装していることから、こいつらがハウリアの言う帝国兵だろう。野営跡や大型馬車が見えることから、本当にここでハウリアが出てくるまで居座っていたのだろう。
最初は驚いたような顔をしていた帝国兵は、しかしすぐに顔を喜色に変えた。
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ。こりゃあ、いい土産ができそうだ」
帝国兵の一人がそう呟いているのが聞こえた。誰一人として兎人族を獲物としか見ておらず、どのように調理してやろうか、という下衆な顔をしている。脅威にも思ってないのか、武器を抜く様子すらない。
その集団に歩いて近付いていけば、俺達の存在にようやく気がついたのか怪訝そうな顔をこちらに向けてくる。
「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな? あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁいいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
奴隷商か何かと勘違いされているが、面倒なので訂正はせず、ただ事実のみを伝えた。
「断る。俺達も暇じゃないからな、そこを退いてもらいたい」
「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「後ろのハウリアから話は聞いたよ。帝国兵なんだろう。それをわかった上で言ったんだ」
暗に兎人族を渡す気はないし、むしろお前たちが退けと言ってやった。会話を続けていた男は、額に青筋を浮かべて顔を歪めていた。まぁ怒ってるってことなんだが。
「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。一丁前に武器を身につけてるみたいだが、そんなのでこの数をどうにかできると思うなよ? くっくっく、そっちの嬢ちゃんたちもえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して奴隷商に売っぱらってやるよ」
「そうか」
躊躇いは───少しあった。本当に人を殺していいのか、俺は人を殺すことが出来るのか。
しかし、それを自分の中の天秤に掛ければ、答えなんて一つしかなかった。
距離は……多少だが離れている。だいたい三メートルほど。一歩で進むには長い距離だが、俺にとっては一歩よりも短い。
〝縮地〟を使うまでもなく、一息で男との距離を詰める。
「───は」
そのまま、横を通り過ぎるように〝高速抜刀〟で男の首を切り裂いた。
呆気なく切られた首は地面に転がり、それに遅れて身体から大量の血が吹き出し、そのまま倒れ込んだ。
後ろの兵士たちは、頭と胴体が別れた男の末路に何が起きたのかわからず呆然としていたが、それに追い打ちを掛けるように銃撃音が辺り一帯に響いた。
ドパァァンッ!
合計六発。一発しか聞こえなかった銃声から六発の弾丸が放たれ、六人の兵士の頭を吹き飛ばした。
後ろを振り返れば〝ドンナー〟を構え撃ち放った南雲の姿が見えた。
残った帝国兵たちも、何が起こったのか理解できてはいなかったが、それでも攻撃されたとはわかっているのだろう。それぞれの獲物を構え、こちらに向けてくる。
─────そして武器を構えた者から順番に、〝剣閃領域〟と〝飛刃〟で頭を切り飛ばした。
魔法を使おうとする者。こちらに向かって走り出す者。全員を抵抗させることなく、切り捨てる。
そうして、全員皆殺しにした。逃げる者もいた。立ち向かう者もいた。それでも殺した。
残ったのは、血の海に沈む三十ほどの死体のみと、帝国兵が使っていた馬車と数十頭の馬だけだった。
「……紅郎」
「俺は平気だ。あいつらも弱かった。馬車も手に入ったことだし、南雲に連結でもしてもらうか」
「……わかった」
ユエは心配そうにこちらを見ていたが、大丈夫だと伝えればすぐに離れてくれた。
……今は、それがありがたい。
「紅郎、連結は終わったからこっちに乗って」
「悪い、助かる。しかし、やっぱり馬車を使うか」
「うん。せっかく置いてあるんだし、使わなきゃ損でしょ?」
俺が言うまでもなく、いつの間にか車と馬車の連結を済ませ、ハウリアを馬車に乗せていた南雲。一部は馬に乗せて進むようだ。
【ハルツィナ樹海】も、遠くから見えるには見えるがここからだと半日ほど掛かりそうだから、時間短縮にもなる。
早速車に乗り込み、そのまま南雲が【ハルツィナ樹海】へ向けて車を走らせた。もちろん一緒にいる馬の速度に合わせて、だが。
……なぜかシア・ハウリアも乗ってきたことについては、何も言うまい。
「……紅郎、人を殺すのは初めて?」
「……あぁ。俺達のいた世界だと、人殺しは御法度だったから……魔物には慣れたが、これにはまだ慣れないな」
隣に座ったユエが心配そうに見上げてくる。
敵は倒す。障害となるなら排除する。それは今だって変わることはないし、変えてはならない一線だろう。そうでなくては、肝心なときに守りたいものを守れない。だから、殺すことを躊躇わない。
けど、それと人殺しに慣れるかどうかは別だ。多分、何度やっても気持ち悪さしかないだろう。
「紅郎はそうなんだ。私は……何も感じなかったかな。見知らぬ誰かを殺したところで、何とも思えない」
「……異世界に一番適応してるの、南雲なんだろうな」
「そうかな? んー、そうかも?」
南雲の心は予想以上に強メンタルだ。本当に気にしていないのだろう。俺だって〝鋼心〟っていう技能を持ってるんだがなぁ。
心の中でちょっとヘコんでいると、俺の手に合わせてくるように置かれる小さな白い手。もちろんユエである。
「……大丈夫」
「……ありがとう、ユエ」
ほんの一言の励まし。しかし、その気遣いが有り難かった。なんだか良い雰囲気に成りかけていたが、居心地悪そうにしていたシア・ハウリアがその雰囲気をぶち壊した。
「あ、あの! 皆さんのこと、是非とも教えてもらいたいのですが!」
「……空気を読まないウザウサギめ」
「ウザウサギっ……!?」
「うん、まぁ同意。居心地悪いっていうのは察せられるけど」
シア・ハウリア。こいつはムードブレイカーかもしれない、と俺は思った。
雰囲気も台無しになってしまったので、俺達はシア・ハウリアの望む過去の話をし始めることになった。
その頃には、もう人殺しの気持ち悪さは消えていた。
耐えるメンタルは最強クラスだけど奪うメンタルはハジメちゃんには及ばない紅郎くんでしたー。