ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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三話です。




誰か気付くかなぁ 2022/5/27


樹海、フェアベルゲン

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~」

 

「そんなに泣くことか……? いや、その前に人の服で顔を拭こうとするな。使うならこれを使え」

 

「ぐすっ、ありがどうございまずぅ」

 

 

 俺と南雲の過去、そして裏切りにあったユエの話をしていたら、シア・ハウリアが突然泣き出してしまった。

 

 多分、不幸な身の上にいると思っていた自分よりも不幸な目にあっている人がいたから、大袈裟に見ていた自分が情けないとか、そういうことだろう。

 

 とりあえず近くにあった服で涙やら鼻水やらで汚くなった顔を拭かせるのは嫌なので、南雲から渡されたタオルをシア・ハウリアに手渡した。少なくとも服を使われるよりはマシである。

 

 

「ユエはともかく、私達って泣かれるほどのことでもない気がする」

 

「そんなことありませんよ! 見知った人たちから裏切られて奈落? に落とされたんですから、私なんか全然です!」

 

「……思い出したら腹が立ってきたな。俺のことは許すけど南雲にしようとしたことは許せん。一度あったらフルボッコにしてやろう」

 

「ん、私も参戦する」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「やっちゃいましょう!」

 

 

 ウサ! と兎耳を立てて自己主張するシア・ハウリア。まるで「これからは仲間ですよ!」と言わんばかりの行動だが、こいつの同行を認めたつもりはない。

 

 まぁ鍛えたら強くなることは直感でわかるのだが、それとこれとは話が別なので。

 

 

「まるでさも私達は仲間ですよ、みたいな雰囲気出してるね」

 

「えっ!? 違……いえいえそんなことはないですよ〜」

 

「……今、違うんですか、とか言いそうになった。この勘違いウサギ」

 

「勘違いウサギっ!?」

 

 

 ……さてはユエ、シア・ハウリアに○○ウサギとか言うのハマってたりするのだろうか。どう言おうと俺は構わないのだが……なんだか、シア・ハウリアがいじられキャラとして定着しそうになってるのが気になる。

 

 こいつ、このまま旅に同行する……つもりなんだろうなぁ、恐らく。

 

 …………うーん。

 

 

「シア・ハウリア」

 

「は、はい! あの、名前を呼んでくれたのは嬉しいんですけど、せめてフルネームで呼ぶのは……」

 

「お前、俺達の旅に着いてくる気だな」

 

「え“」

 

 

 なぜそれを!? と言わんばかりに目を見開かせたシア・ハウリア。そんなの俺の直感とこいつの馴れ馴れしさでだいたいわかる。

 

 

「正確には旅の同行者が欲しいとか、そういうことなんだろうが……条件さえ飲めれば、連れて行ってもいい」

 

「え!? いいんですかっ!」

 

「……紅郎?」

 

「ちょっと考えがある。話だけでも聞いてくれないか」

 

「わかった、いいよ。紅郎が言うことだからね」

 

「……わかった」

 

 

 納得はしてないみたいだが、理解は示してくれた。本当に、うちの女性陣は懐が広くて助かる。

 

 もしシア・ハウリアを連れて行くとなれば、諸々問題が発生する。まずこいつが弱いこと。次にこいつが兎人族であること。さらには美少女であること。

 考えればまだまだ出てくるだろうが、それも俺の直感が正しければすぐに解決する。

 

 

「連れて行く条件だが、まずお前は魔力操作が使える。間違いないな」

 

「は、はい。あまり多用したことはないんですけど……」

 

「なら強くなれる下地は出来てるな。知ってるだろうが俺達は七大迷宮という大きな壁を超えなくちゃならない。だから、弱い奴を連れて行くことは出来ない。だがお前が強くなったなら、連れて行っても問題はないわけだ」

 

「あの、それって……」

 

「あぁ。【ハルツィナ樹海】で滞在している間に、俺達を納得させるだけの実力を身に着けることが出来たらお前を連れて行く。出来なかったら連れて行かない。単純だろう?」

 

 

 温厚な兎人族が、強くなることは出来るのか? 言うまでもない。出来るに決まっている。他の兎人族とは訳が違う。

 シア・ハウリアには魔力操作が可能であり、さらには〝未来視〟という固有魔法も有している。

 

 複雑で細かい技術はすぐには身につかないだろうから、教えるのは力押しが殆どになるだろうが……もし連れていけるとなれば、魔法の使えないライセン大峡谷で大きなアドバンテージとなる。

 

 出来ることなら強くなって、大迷宮攻略に欲しい。

 

 

「時間は惜しいが、暇があれば俺が教える。教えるのは初めてだが、パワー重視にすればいけるはずだ。で、どうする? やるか、やらないか」

 

「……や、やります! やらせてください!」

 

「よし。なら、細かい話は【ハルツィナ樹海】の迷宮に着いてからだ。ここじゃあやりづらいしな」

 

 

 とりあえず、鍛えることをシア本人に納得させることが出来た。次は、南雲とユエだな。

 

 

「いいよ、その条件なら」

 

「……俺が聞く前に納得してくれたな」

 

「紅郎のことならわかってるから。ライセン大峡谷にある大迷宮に必要だと思ったんでしょ?」

 

「流石だ、言うまでもなかったか」

 

「……むぅ」

 

 

 なんだかユエが不服そうにしているが、察しの良さは南雲が優ったようだ。

 改めて説明すると、ライセン大峡谷にあるはずの大迷宮は、間違いなく魔法が扱いにくい。ユエは完全な魔法使いタイプなので、戦闘力は減る。間違いなく火力でゴリ押しは出来ないだろう。

 

 つまり、戦力が減ったなら足せばいいじゃない、という話だ。

 

 

「……わかった。けど、それなら条件を追加させて」

 

「いいけど、流石に無理難題にはするなよ?」

 

「……わかってる。最後に私が、この厚皮ウサギと戦うだけだから」

 

「厚皮ウサギ……」

 

 

 しょんぼりと耳が感情表現しているが、そんなことよりもユエの発言だ。最後は実質的に、ユエが壁となるということか。

 しかし、そんなことを言うとは……何か心境の変化でもあったのだろうか。

 

 

「……ライセン大峡谷だと、役に立てないのは私もわかってる。だから、この残念ウサギが迷宮攻略に役立つかどうか、私が見定めたい」

 

「……わかった。その時は頼む。シア、聞いたな」

 

「はい! ユエさんを倒せばいいんですね!」

 

「違う。流石にそれだとお前が負けるから、傷一つでもつけたらいい」

 

「……やっぱりユエさんも強いんですね」

 

「……当然。舐めるな勘違いウサギ」

 

「いい加減名前で呼んでくださいよぉ!」

 

 

 色々と不安なところはあるが、シアなら問題ないと俺は思っている。

 

 俺の直感……ではなく、本当にただの勘なのだが。こういうやつは、諦めず最後まで突き進む……そんな気がするのだ。

 

 ……シアが「ついに紅郎さんに名前を呼んでもらえました……! この調子で行きましょう、私!」などと言ってるのが聞こえたらしい南雲が、無言で〝錬成〟してシアを拘束してるけど、まぁ気にしない。

 調子に乗ったらとことん調子に乗るタイプだろうからな、こいつ。最初の方で鼻を折っておくのが良いのだろう。

 

 

 

 

 ─────そうこうしているうちに、【ハルツィナ樹海】の手前にまで到達していた。

 

【ハルツィナ樹海】─────正確にはその深部にある〝大樹〟が今回の目的地だ。族長のカムに聞いた話だと、件の〝大樹〟は亜人族から神聖視されているらしく、亜人が近付くことは少ないが、ないわけではないらしい。

 そのため、近付くにしても他の亜人族にバレないように気配を消す必要がある。それはハウリアも同じことだ。

 

 彼らはシアを庇い、【ハルツィナ樹海】から追われる身となった。今更戻れば、どうなるかは分かりきっている。

 だが、守ると約束したのは俺だ。見捨てるという選択肢は、とうに消えている。

 

 久しく使っていなかった〝気配遮断〟を使って気配を隠し、ユエも奈落で培った技術で気配を消してみせた。南雲も〝気配遮断〟を保有しているが、その練度が違った。

 俺のものよりも南雲の〝気配遮断〟の方が効果が高く、俺のはせいぜいハウリアやユエと同レベル、といったところだ。

 

 ……まぁ、それでもハウリアたちは驚いていたが。むしろ驚いたのは俺の方なのだが、それは今はいいとしよう。

 

 そうして【ハルツィナ樹海】を進んでいく中で、幾体か魔物が出てきた。そのどれもが【ハルツィナ樹海】の環境を活かした奇襲を得意とする魔物ばかりであった。

 しかし、直感で出てくる魔物の位置を把握した俺が先んじて〝剣閃領域〟を使って斬り殺したので、大きな音は出さずに仕留めることができた。

 

 バレてはいけない場所で大きな音は出せないので、俺の剣かユエの風系統、それと南雲の固有魔法を主に使い、魔物を倒していった。

 

 ……そこまでは良かったのだが。

 

 

 

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 

 ピリリとした殺気と敵意。それが無数に俺達を囲んでいる。

 

 大声でこちらに注意を向けるように現れたのは、虎模様の耳と尻尾をつけた筋骨隆々の亜人。

 人間がいるから、この殺意。面倒だとは思った。

 

 弁明をしようとしたシアを見た途端、虎の亜人は目を見開き憤怒を露わにした。

 

 弁明どころか、話も聞こうとしていない。それだけシアが異端であり、俺達人間を敵だと認識しているのだろう。

 

 

「白い髪の兎人族……だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員か─────」

 

「黙ってろ」

 

 

 話を聞きそうになかったので、〝威圧〟────の派生技能、〝殺刃気〟で黙らせることにした。

 

 途端、先程までの威勢はどこへ行ったのやら、顔を青白くして無言になった。汗をダラダラと垂れ流し、呼吸も過呼吸気味になっている。

 

 それだけならまだ良い方で、隠れていた亜人族の中にはそのまま白目をむいて気絶した者もいる。バタバタと倒れる音と姿も丸見えになっているので把握するのは容易かった。

 

 〝殺刃気〟────この技能は、殺気を刃として変換、幻覚させる技能だ。この〝殺刃気〟は非常に強力で、奈落の深層にいる魔物でも必ず一瞬は止められる優れもの。地上にいる亜人族では耐えるだけで精一杯だろう。

 

 まぁ、ヒュドラ戦では使う機会はなかったけど。

 

 

「言っておくが、あんたたちに用はない。他の亜人族にもだ。俺達は樹海の深部にある大樹の下に行きたいだけだからな」

 

 

 だから邪魔をするな。言外にそう告げて先に進もうとした。

 

 しかし、それは虎の亜人の言葉によって遮られた。

 

 

「た、大樹の下に向かおうと言うのなら、無駄足になるぞ。今日の大樹は、霧が濃い……亜人族でも、霧が薄くなければ……方角を、見失う、ぞ」

 

「……ハウリア」

 

「……あっ」

 

 

 直感で、虎の亜人が嘘をついていないことはわかった。つまり、情報を隠していたか忘れていたか、とにかくフェアベルゲンにいたハウリアも知っている可能性は高かった。

 

 振り向けば、汗をダラダラと流して目を逸らすカム・ハウリアの姿があった。

 

 

「ふーん? その感じだと、忘れてたわけ? へぇ、なるほどね……覚悟、できてるよね」

 

「……慈悲はない」

 

 

 南雲がカチャリと〝ドンナー〟を構え、ユエが無言で手をハウリアたちに向ける。

 

 今回ばかりは、助ける気は起きなかった。なお他の奴らも知ってたのに言わなかったのはわかっているので連帯責任である。

 

 

「まっ、待ってくださいユエさんハジメさん! やるならせめて父様だけを!」

 

「シア!? 何を言うんだ! やられるときは皆一緒だぁ!」

 

「族長! 私達を巻き込まないでくださいよ!」

 

 

「「うるさい」」

 

 

「「「「アッ────!!!」」」」

 

 

 南雲は〝ドンナー〟のゴム弾連射を、ユエは風系統魔法〝嵐帝〟を使い、ハウリアたちを一網打尽に。

 

 ここ数時間で、地に落ちるウサギと天を舞うウサミミたちを見ることになるとは、思いもよらなかったなぁ。

 

 と、それはともかくとして。発動を続けていた〝殺刃気〟を止め、腰が抜けたらしい虎の亜人に顔を向けた。

 

 

「……とりあえず時間を空けたほうがいいのはわかったから、退散する。面倒かけて悪かったな」

 

「あ……あぁ」

 

 

 ピクピクと痙攣し地面の染みと化したハウリアたちを回収しながら、とりあえずは退散しようと樹海の外に出ようとする。

 

 というか、しようとしたのだが。

 

 

「あぁ、少し待ってもらえるかい」

 

「……あんた、誰だ?」

 

 

 気付けば、先程までいなかった亜人族の初老の男─────耳が尖っていることから、森人族と呼ばれる種だとわかる─────がこちらに声をかけていた。

 

 気づけなかった……わけではない、などと言い訳しても仕方がない。どうにも直感が働かなかったようだ。ユエや南雲は驚いた様子もないので、特に隠れていたわけではないということもわかっている。

 

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている」

 

「なるほど。それで、その長老様が何のようだ? 俺達は大樹に用があったが……今は行けないようだからな」

 

「その前に聞かせてもらいたい。お前さんたちは、大樹に何を求めて来たのだ?」

 

「【ハルツィナ樹海】深部の大迷宮と神代魔法。主に言えばこの二つだ」

 

 

 世間一般では、この【ハルツィナ樹海】こそが大迷宮だと言われている。が、それは間違いだ。歩いてみてわかったが、【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮だとすれば、それにしては難易度が簡単すぎる。

 

 どちらかといえば……最低限ここを超えてみろ、さもなくば挑む資格なし─────という感じなのではないだろうかと思っている。

 

 アルフレリック・ハイピストと名乗った森人族は、少し悩んだ様子をしたあとにさらに問いかけてきた。

 

 

「……では、〝解放者〟という言葉に聞き覚えは?」

 

「ある。オルクス大迷宮の底にある隠れ家に残されたオスカー・オルクスの記録から聞いた」

 

「その証拠は出せるかね?」

 

「オルクス大迷宮の魔石と、オスカー・オルクスの指輪なら出せるよ」

 

 

 先程まで黙って聞いていた南雲が、〝宝物庫〟から念の為持ってきていた奈落の魔物の魔石とオルクスの指輪を取り出した。

 

 オルクスの指輪に刻まれた紋章を見たアルフレリック・ハイピストは、一瞬動揺したように目を揺らしたが、すぐに落ち着きを取り戻して息をゆっくりと吐いた。

 

 

「なるほど……確かに、お前さんたちはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒に……ところで、なぜハウリアたちは倒れ伏しているのだ?」

 

「気にするな。説明不足だったアイツらの自業自得だ」

 

「そ、そうか」

 

 何処か気の毒そうにハウリアを見ていたアルフレ……いや長いな面倒だ。もう長老でいいや。

 とにかく、長老はこちらについてくるように言い出した。

 

 ……最も、他の亜人族、特に虎の亜人なんかは抗議の声をあげようとしていたが、俺が睨めばすぐに何も言えなくなった。先程の〝殺刃気〟がよほど効いたらしい。

 

 

「……やはり、来ていて正解だったか」

 

「一応言っとくが、手は出してない。ただ威圧はしたけどな」

 

「よほど強烈だったのだろうな。僅かだが、濃い殺気がフェアベルゲンにまで届いていたぞ?」

 

「……それは、すまない。調整し間違えたみたいだ」

 

 

 まさかの事態だった。ハウリアを除いた亜人族にだけ圧を放ったつもりが、その奥にあるフェアベルゲンにまで届いていたとは……流石にそこまでする気はなかったので、今後は使い慣らすようにしないといけないだろう。

 

 

「その殺気の正体を確かめるために、私がここに来たというわけだ。さぁ、フェアベルゲンまで案内しよう」

 

「……どうする?」

 

「行ってもいいんじゃない? 罠だとしても踏み倒せばいいし」

 

「……同感」

 

 

 ユエと南雲に短いながらも相談すれば、すぐに返答して了承を得られた。明らかに罠がありそうなこと前提みたいだが、元々誰であろうと信用していないのでそれで良いだろう。

 

 

「そのつもりはないから、安心してくれていい」

 

「嘘でないことを祈る。お互いにな」

 

 

 






ちなみにシアはヒロインになりません by.作者
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