ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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五話デース。今話で一度、更新をストップします。


大樹、四つの鍵

「……で、なんでこうなった」

 

「いやぁ、ハウリアたちがしつこいから……うん、心を圧し折った。ハー○マン式で」

 

「何やってんですかハジメさぁん!!」

 

 

 シア、大絶叫である。いや気持ちは……わからないけど、理解はできる。

 ある日突然、温厚な家族が敵は殺戮する類の輩に変わったら誰だって驚くし嘆く。

 

 しかも、変えられた本人たちは何一つとして後悔した様子もないのだから、根本から変えられたんだろうなぁ、ということがわかった。

 

 

「やりすぎだ、南雲」

 

「うん、自分でも途中でやりすぎかな、とは思ったんだけど……」

 

「……だけど?」

 

「途中でやめて元のハウリアに戻っても面倒だし、ならとことん突き詰めようかな、と」

 

「何やってんですかハジメさぁん!?」

 

 

 シア、二度目の大絶叫。声に惹かれて魔物がゾロゾロと出てきているが、その殆ど……いや全てがこちらに来る前にハウリア暗殺術によって殺害されている。

 

 もちろん、実行者はハウリア族たち。精神が攻撃的になったからか、隠密術にも磨きが掛かったように見える。

 

 

「うぅ……私の家族はみんな死んでしまってますよこれぇ。何してくれてんですかハジメさぁん」

 

「やりすぎたとは思ってる。後悔はしてません」

 

「全然反省してないですこの人ぉ!」

 

 

 ついにメソメソと泣き出してしまった。十日間の特訓でも泣きそうにはなったが、泣き出したりはしなかったシアが泣いている。

 

 ……うん、同情する。俺も爺さまが豹変したら……泣きはしないが、偽者かと疑う。間違いなく。

 

 

「それで、そっちのほうはどうなったの? 無事に合格できた?」

 

「……話を逸らした」

 

「……あー、うん。シアは無事に合格した。これからは俺達の旅に着いてきて貰うことになる」

 

「そっか。じゃあこれからよろしくね、シア」

 

「うぅ……よ、よろしくおねがいしますぅ」

 

 

 渋々と……本当に渋々とだが、シアは南雲の挨拶に返事をした。家族を変えた張本人によろしくと言われるなど、かなりアレだな。

 

 しばらく談笑を続けていた俺達だが、今日から大樹に行くという目的は変わらない。

 ハウリアたちを案内人として、これから向かうことになるだろう。

 

 ……その前に。

 

 

「少し、時間を貰う。いいか?」

 

「……構わない。けど、どうしたの?」

 

「私も問題ないけど」

 

「いや、なに────ちょっとハウリアたちに、心構えを教えてやろうと思ってな」

 

「「「心構え?」」」

 

 

 俺には、やることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつ、何処からでも構わん。俺に傷をつけてみろ。そしたら合格だ。逆に俺がお前たちを無力化できたら、俺の勝ち。簡単だろう?』

 

 

 ハウリア族一同(シアを除く)は、彼らを鍛え上げたハジメ─────ボスのさらに上の存在……ビックボス・紅郎から試練を与えられていた。

 

 その内容は、上記の通り。

 

 紅郎に傷をつけること。言うだけなら簡単そうに思える試練を、しかしハウリアは侮ってはいなかった。

 

『あの』ハジメをして規格外と称した実力を、侮っていいはずもない。

 

 自分たちの使えるものは全て使って、一矢報いる気持ちで挑む。さもなくば、即座に敗北が決定する。そう理解できた。

 

 森の中。開けた場所で佇む紅郎を囲むようにして身を隠すハウリアたち。決して姿は見せてはいけない。見られた瞬間、何をされるかわからない。

 ハンドサインを駆使してカムが指示を出し、タイミングを見計らう。

 

 そのために動き出そうとした─────その瞬間だった。

 

 

 キン

 

 

「っ!?」

 

 

 一人のハウリアが持っていた武装が、全て切り裂かれた。

 

 全てだ。メインも、サブも、隠し武器も暗器も、全て。1秒の狂いもなく、同時に。

 

 紅郎の選んだ無力化は、彼にとって最も簡単な武装の排除だった。

 

 直感で位置はわかるし、何処に武器を仕込んでいるかも把握できる。それに何より、ハウリアたちは既に〝剣閃領域〟に入り込んでいる。

 〝剣閃領域〟の射程は腕を磨くごとに少しずつ伸びていき、今では五十メートルもの射程を有する。

 

 遠距離からの暗殺を目的としているハウリア以外は、紅郎に近付いた時点で負けている。

 

 ─────しかし、これで終わるハウリアではない。

 

 武装がない? なるほど、これでは傷をつけるのにも苦労することだろう。亜人族の中では比較的非力な兎人族では、抑え込むことも難しい。

 が、ハウリアにはハジメから教わったことがある。

 

 

『数の暴力は偉大である』と。

 

 

 射程圏内の武装を切り終わった紅郎の隙を突くように、一斉に武装解除されたハウリアたちが飛びかかる。

 ある者は死角から。ある者は上空から。ある者は身体を低くして。ある者は囮として真正面から。

 

 一秒でもいい。僅かでも抑え込めれば、遠距離武器を持つ者が狙撃し、当たれば良し。当たらなければ、そのままリンチにまで持ち込む。

 例え千切っては投げ、千切っては投げを繰り返されようとも、気絶しない限りは戦える。

 

 勝つまで戦う─────そのつもりでハウリアは挑んでいた。

 

 これぞハジメ式『キリングマシーン・ハウリア〜(首が)ポロリもあるよ! 〜』である。相変わらず殺意で染まった目がギラギラとしてて怖い。

 

 

 ─────しかし、そこは紅郎。例え囲まれ数の暴力が押し寄せようとも、自前の技能で斬り伏せる─────このようにして。

 

 

「〝荒御刈〟」

 

 

 〝荒御刈〟─────対象を選択、切断する技能。これを使い、紅郎はハウリアたちの意識を刈り取っていく。

 

 僅かでも存在する隙間をくぐり抜け、すれ違いざまに切り捨てる。もちろん傷は何一つとしてなく、代わりに力なく倒れ伏していくのみ。

 

 〝幻縮地〟─────速度こそ〝縮地〟そのものには劣るが、相手を惑わし、小回りが効くという点では最適な技能。それを使って襲いかかってきたハウリアの意識を刈り取ることなど、数秒もあれば十分すぎる。

 

 そうしてハウリアたちの意識を奪った紅郎は、直感で死角から飛んできた矢を掴み取る。

 

 

「……あと、八人」

 

 

 位置も数も把握している。

 

 数という利点を失いつつあった今のハウリアでは、あとは消化試合にしかならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだな」

 

「……えぇ、我々の負けです」

 

 

 

 ハウリアとの戦い。それが終わったため、紅郎はハウリア一同を集めて反省会とでも言うべきことを行おうとしていた。

 

 粘りに粘られて小一時間は経過したが、疲労困憊で動けないのはハウリアのみで、紅郎に疲れは見られない。

 侮っていたわけではないが……ハウリア族は、改めて紅郎の強さを認識した。

 

 

「さて。俺がお前たちと戦った理由、わかるか?」

 

「それは……我々がどれだけ強くなったのかを確かめるため、でしょうか?」

 

「間違ってはない。けど、それがメインじゃない。俺がお前たちと戦ったのは、お前たちに戦う理由を見失わせないためだ」

 

「戦う、理由?」

 

 

 ハウリア一同、全員が首を傾げた。

 

 戦う理由。それは、自分たちがこれ以上淘汰されないためだ。家族を失うこともなく、外敵を排除するため。

 

 ぱっと思いついた理由は、ハウリア全員が共通していた。

 

 

「お前たちが戦うのは、力を得たのは家族を守るためだろう。その過程で敵を殺すことも、排除することもあるだろう。けど、それが理由になっちゃいけないんだ」

 

「……」

 

「もし、お前たちを虐げてきた者共に報復することが出来たのなら、今のお前たちは必ず楽しむ。悦を入ることだろう。それじゃあ駄目だ。それを続けていたら、お前たちは戦う理由を見失い、ただの外道に成り果てる。お前たちを襲った人間のようにな」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

 

 ハウリアは息を呑んだ。その仮定は、確かにあり得る未来だからだ。

 

 もし、自分たちが今まで敵うことのなかった者たちに報復することが出来たなら……それを考えて、ハウリア一同は否定することが出来なかった。

 

 

「……だから、俺はお前たちと戦った。一度実力差を思い知らせて、その上でこの話をするために。ハウリアは家族思いなんだろう? なら、あいつを……シアを悲しませてしまうことはするなよ。お前たちが外道に成り果てたら、一番悲しむのはシアなんだから」

 

「……ご忠告、感謝いたします」

 

「おう。さて、あいつらを待たせてることだし、ほら立った立った。大樹までの案内、任せたぞ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

 

 ちなみに、この紅郎の行動によって、ハウリア族の紅郎への忠誠度がMAXを超えて上がってしまったのだが……当の本人は、知る由もなかったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大樹への道程は、不自然に思うほどに何も起こらなかった。

 

 他の亜人族が邪魔してくることもなく、魔物が襲撃してくることもなかった。

 

 後者についてはハウリアたちに索敵を任せたので、こちらに来る前に殺された、といったところであろうが。

 

 そうして何の問題もなく進み、ついに大迷宮だと思われる大樹へと到達した─────

 

 ……のだが、その先には予想外の光景が広がっていた。

 

 

「……枯れてる?」

 

 

 亜人族から神聖視されているという大樹は、枯れていた。周りの木々が青々とした葉を広げているにも関わらず、だ。

 

 カム曰く、この大樹はフェアベルゲンが建国される前から存在しており、常に枯れたままであり、しかし決して朽ちることもなく変化もしない。大樹の周囲を漂う霧のこともあって神聖視されてきた、らしい。

 

 まさかこれだけのはずはないと考え、まずは大樹の根本に建てられた石板に近付くと、そこに描かれている文様の一つが、俺達の知っているオルクスのものだということがわかった。

 

 わかったが、そこで止まった。オルクスの指輪を翳してみても何の変化も起こらないため、どうしようもなかった。

 

 ……刀で物理的に切り開くわけにもいかないだろうし。

 

 

「大迷宮の入り口がここなのは、間違いなさそうだけど……ここからどうするんだろ」

 

「……何かが足りない?」

 

「足りない、となると……証が足りないってことかな。大迷宮は他にもあるし」

 

 

 推測を話し合っていると、ふとしたようにユエが石板の後ろに回り込み、何かを見つけたように様子を変えた。

 

 

「……紅郎、こっちに」

 

「これは……」

 

 

 同じように回り込んで見てみれば、そこには表に描かれていた文様に対応するように七つの小さな窪みがあった。

 まるで嵌め込んでくださいと言わんばかりで、早速オルクスの指輪を対応する窪みに嵌め込んでみた。

 

 そして、変化は起こった。

 

 

 〝四つの証〟

 

 〝再生の力〟

 

 〝紡がれた絆の道標〟

 

 〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

 

 上記の内容が石板に浮かび上がり、淡く輝いていた。

 

 

「四つの証……オルクスの指輪みたいなものを四つってことか」

 

「……再生の力……私?」

 

「多分、神代魔法の中に再生に関する魔法があるんじゃないかな。紡がれた絆は……亜人に連れてきて貰わないとここには辿り着けないから、それじゃない?」

 

「あぁ、なるほど」

 

 

 つまり、今の俺達は四つも大迷宮を攻略していないし、再生に関する魔法も持ってないから行けない、と。

 

 ……まぁ、亜人族という問題を先にクリアしたと考えればいいか。

 

 

「となると、先にライセン大迷宮から、か」

 

「そうなるね─────ハウリア」

 

「「「「なんでしょう、ボス!」」」」

 

「聞いての通り、私達はここを後回しにして他の大迷宮を優先する。その間、私達が来るまでここを守っておいて。いい?」

 

「「「「イエスマム!」」」」

 

 

 ……うん? 

 

 

「ちょっ、ハジメさん!?」

 

「もしもここの大迷宮が壊れたら大問題なんだから、そのための監視は必要なの。ハウリアも異論ないみたいだしね」

 

「父様たちがハジメさんに従わないわけないじゃないですかぁ!」

 

 

 いや正論過ぎて何も言えない。

 

 

「……いいのか、カム」

 

「問題ありません。ボスの命令ならば、我々は従います。まぁ命令がなければ我々も連れて行ってもらおうと思っていたのですが……」

 

「えっ!? 父様聞いてませんよそんな話!」

 

 

 ちなみに俺も初耳である。

 

 だが、流石に数が数なので連れていくわけにもいかない。何人かは確実に置いてけぼりになるし、時間を食う。それならむしろ連れて行かないほうがいい。

 

 

「さ、早く行こう?」

 

「え、あの、お別れの挨拶とか、」

 

「さっきので終わったでしょ」

 

「あんまりすぎですぅ!?」

 

 

 

 最後……というわけでもないだろうが、別れの挨拶すら満足に出来ず、引きずられていくシア。泣きべそをかいているが、ハウリアは気にした様子もなく見送っていた。

 

 

「……哀れ、ウサギ」

 

「家族に何も思われず見送られるって……流石に同情する」

 

 

 ……まぁ、もしかしたら。

 

 本当は悲しい気持ちを抱えているのを隠して、お互いにしんみりとした雰囲気にならないようにするために、ハウリアはわざとそのようなことをしているのかもしれないが─────

 

 それを教えるのは、ここに戻ってくるときでも良いだろう。

 

 

 

 




そういうことにしておく。真相はどうであれ。
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