老人─────イシュタルの説明によると。
魔族との戦いで人族が危機に瀕しているので、助けてほしい、ということらしい。少なくとも俺はそう認識した。
自分勝手に呼び出しておいて、よくもまぁ堂々と戦ってほしいなどと言えたものだ。
イシュタル曰く呼び出したのは自分たちではなくエヒト神という神様のようだが、誰が呼び出したか、というのは関係ない。
問題なのは、ここにいる全員が、戦うことを当然と思っていることだった。
それは、クラスメイトも同じことだった。特に、クラスのリーダーとも言える
クラスの空気は完全に天之河のカリスマに飲まれ、一緒に巻き込まれた畑山先生の声も、まったく届いていない。
結局流されるようにイシュタルの先導についていき、翌日に戦うための術を教えるということになった。その過程で王国という国の王族の自己紹介をされたが、そこはどうでもいいので省くとして。
そのまま一人一人に与えられているという個室へと入り、天蓋付きのベッドの上に寝転がった。
「……さて」
どうしたものか、と呟く。
異世界……というもの自体に馴染みがない。何処か別の国に連れて行かれた、というほうがまだ理解できる。
しかしながらあの短時間で大人数を移動などできるはずがないので、本当にここは異世界という場所なのだと納得している。
そのうえで、どうするのか。
「……暴力は危ないことだ」
俺はそれを爺さまに教えてもらった。暴力を振るうということは、他者を傷つけるということだと。
───わかっている。そんなことはわかっている。
しかしこれからは、戦うことを望まれるのだ。
「……」
目を閉じる。
脳内でイメージする。
刃を持ち、誰かに振るう自分の姿を。
それを何度かイメージして…………目を開ける。
「とりあえず、寝よう」
再び目を閉じる。今度は何かをイメージすることもなく、眠りについた。
翌日になり、早速訓練と座学が始まった。
まず集められたクラスメイトたちに銀色のプレートが配られ、それを騎士団長のメルド・ロギンスが説明を始めた。
曰く、これはステータスプレートと言い、自身の客観的なステータスを表示してくれるアーティファクト───現代では再現できない魔法の道具であり、最も信頼できる身分証明書であるらしい。
プレートに自身の血を垂らし、ステータスオープンと言えばプレートに自身のステータスが表示されるらしく、早速クラスメイトたちが血を垂らし始めたのを見て、針を指に刺して血が浮いた指をプレートに押し付ける。
するとプレートの魔法陣が一瞬輝き魔法陣が蘇芳色となると、プレートに文字が表示された。その内容を見てみると、このようになっていた。
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桜田紅郎 17歳 男 レベル:1
天職:剣鬼
筋力:80
体力:80
耐性:50
敏捷:150
魔力:20
魔耐:20
技能:剣術・先読・縮地・気配遮断・威圧・直感・求道・言語理解
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「なるほど」
俺は剣鬼らしい。
……まぁそれは置いておくとして。
随分と……こう、アレだな。偏ってるな。魔力やら魔耐やらは低いのに、敏捷なんかは150と高めだ。
チラリと他のクラスメイトのステータスを覗き見ると、100を超える者は少なく、殆どが50〜90あたりだった。
逆に魔力や魔耐が20と同じかそれよりも低い者は殆どいなかった。
結論。俺のステータスは少しピーキーであるようだ。
そう脳内で納得していると、メルド団長がステータスの説明を始めた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない。
ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
説明を噛み砕くと、レベルは上限。ステータスは鍛錬や経験で上昇。魔力が高い者はステータスが高くなる傾向にある、といった感じだろう。
次に天職についても説明されたが、要はどの分野の才能が秀でているのか、ということのようだ。
剣士ならば剣術やそれに関する技能。治癒師なら治癒魔法、といったように。
俺の場合は剣鬼であるので、剣に関することに才能があるのであろう。それにしてはあんまり関係なさそうなものもあるが。
そして、メルド団長がステータスプレートの内容を報告するようにとのことなので、早速といったように天之河がメルド団長にステータスプレートを見せていた。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや〜、あはは……」
「……なるほど」
一瞬天之河のステータスが見れたが、確かに規格外だった。
敏捷こそ俺には劣るが、それ以外のステータスは全て天之河が上回っている。それに技能の数も俺よりも多い。
天職は勇者という、よくわからないものではあるが、現段階ではクラスメイトたちの中でも上位の力を持っているのは間違いない。
次々とメルド団長に見せに行くクラスメイトたち。ある程度終わったところを見計らって、俺の方もメルド団長へと足を向けた。
「ほう、こいつは……光輝ほどじゃないが中々……ん、求道? こいつは知らないな。確か、紅郎だったな。技能はステータスプレートに触れればわかるはずだから、こいつを見てくれないか」
「わかりました」
メルド団長に言われるままに求道の部分へ触れると、効果が表示された。
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効果:求める者に力をもたらす。
成長速度及び成長限界、成長率を向上、拡張する。また、自身の求めるものを獲得しやすくなる。
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「こいつは……光輝とは別の意味で規格外だな」
「そう、でしょうか」
「そうだよ。何せ普通のやつよりも早く、高く成長できるんだぞ? 時間さえあれば、光輝よりも強くなることができるかもしれないな。ま、がんばれよ」
バシバシと背中を叩いてくるメルド団長は、なんだかとてもフレンドリーだった。こういうのも悪くない。
そうしてメルド団長の元から離れると、交代するように見知ったクラスメイトがメルド団長の方へと向かっていくのが見えた。
何処か顔色を悪くし乾いた笑みを浮かべていたのは、南雲だった。
「……何かあったのか」
何があったのかはわからないが、少し気になったので南雲に目線を向けたまま。
メルド団長にステータスプレートを渡した段階で、先程まで浮べていた笑顔を固めたメルド団長に、雲行きが怪しくなり始めたことを理解した。
そして、メルド団長が説明した南雲の天職は、錬成師。珍しくもない、至ってありふれた生産職であった。
クラスメイトのほぼ全員が戦闘職であるのに対して、南雲だけが生産職───つまりは、明らかに劣っていると見られる。
そういった汚点を、南雲を下に見てイジメていた檜山たちが見逃すはずもない。
彼らは南雲に近付き、嘲笑した。生産職であることを、ステータスが低いことを。そして、役立たずであることを。
檜山が南雲の弱さを露見させたことで、他のクラスメイトからも笑う声が聞こえてくる。
「あぁ」
────イライラする。
「それは、悪いことか?」
沢山の笑いが響く中で、彼の声はとてもよく聞こえた。
ぴたりと止まる笑い声。そして、クラスメイトの殆どが彼───桜田紅郎に目を向けた。
「なぜ決めつけられる。何もしていないのに」
圧を感じさせるその声は、クラスメイトの動きを止めるのには十分過ぎた。
しかし、それでも声をあげるものはいる。
「っは、見ればわかるだろうが! こいつは生産職で、ステータスも低い! こんなの、役に立たないに決まってるだろう!」
檜山は感じられる圧を忘れるように大声を出し、南雲ハジメを罵倒する。
役に立たない落ちこぼれ。こいつみたいなのが、一体何の役に立つというのだ、と。
「生産職では何もできないと思っているのか? それなら、お前の頭は残念に過ぎる」
「なっ」
「桜田! それは言いすぎなんじゃないか!?」
しかしそんな檜山の反論も、桜田紅郎からすれば大したことではない。光輝も何か言っているが、紅郎は敢えて無視した。
役に立たない? 直接的な戦闘ではそうかもしれないが、彼が同じ異世界人だということを忘れていないだろうか。南雲ハジメならば、異世界の兵器を再現可能かもしれないのだ。
役に立つ道具。役に立つ技術。そういったものが、異世界人の頭には詰まっている。
「では反論してみろ檜山。南雲の何処が役に立たないのか。反論できないのならば、口を閉じろ。これ以上話すことはない」
紅郎はそう言ったきり、無言になった。
紅郎の言葉で、檜山の声も、加えて他のクラスメイトからの笑い声も止まった。
反論できなかったからだ。もしも南雲が、異世界の兵器を作れる────あるいは作れるようになったのならば。
役に立たない、などと言えるはずもない。
自然と、クラスの雰囲気は気まずいものとなっていた。
「あー……まぁ紅郎の言った通り、天職を先入観だけで見るのは危険だ。役に立つ、立たないはもっと時間を掛けてからでもいいだろう。よし、早速訓練に取り掛かるぞ」
そんな雰囲気を察したメルドが、クラスメイトたちを動かしていく。
そんな中でクラスの集団から離れていく紅郎に、近づいていく生徒がいた。
「珍しいわね、桜田くん。貴方があんなに言うなんて。もしかして、怒ってたの?」
「八重樫か」
八重樫雫であった。彼女は紅郎に近付き意外そうに言うと、紅郎は「当然だろう」と呟いた。
「なぜ何もしてない段階で、あそこまで言われなくてはならない。何もしていない、出来ていないというのであれば檜山も他のクラスメイトも変わりはしない。まるで自分だけ棚に上げて言う檜山にも、他人事みたいに笑うだけのクラスメイトにも、腹がたった」
「もしかして、この世界に来る前からそう思ってたの?」
「……そういうわけじゃない。けど、檜山たちの度が過ぎるようなら止めようとは思ってた」
「止めていなかった時点で、ただの言い訳に過ぎないけどな」と紅郎は続け、自嘲した。自分にどうこう言う資格があるとは、紅郎には思えなかった。
きっと上手く言いくるめられた檜山や、正しいことだけを信じる正義漢の光輝などには目の敵にされるだろうが……それは承知の上だ。
「何かあったら相談してね」
「……その時は頼りにさせてもらう」
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魔力の色に関する部分を修正、真紅から蘇芳色としました。