ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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第八話ー
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ライセン、世界一のウザさ

 

 ブルックの町を出た俺達は旅を再開し、ライセン大迷宮を目指すべく歩を進めていた。

 

 正確には車に乗ってだが、そこは大して気にすることでもない。

 

 大迷宮を探す過程でライセン大峡谷を通ることになったが、そこで出るわ出るわ魔物の群れが。

 

 途中までは近付いては斬り、シアが殴り、ユエが強引に魔法を使い、南雲が銃で狙い撃つ、という工程を繰り返していたのだが。

 

 俺はともかく、いつもよりも消費の激しい魔力を使うユエのことを考えて、進んでいる間は〝威圧〟で魔物が近づかないようにすることにした。

 

 〝殺刃気〟を使っても良いのだが、アレの場合、効力が強すぎて動けなくなるので自分から退いてくれない。そうなると通行の邪魔になる。

 

 そんな事情から〝威圧〟による魔物避けを駆使することになった。

 

 そうしてライセン大峡谷を〝直感〟によるなんとなくの方角へと進むこと、約三日ほど。

 

 俺達はついにライセン大迷宮への入口を見つけた……の、だろうか。

 

 いや本当にここなんだよな? そう思いたくなった。

 

 いやだって、大迷宮の入口(らしき)ところにはなぜだが看板が置かれており、

 

 

 〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ 〟

 

 

 なんて書かれていたら、そりゃあ疑いたくもなる。南雲達もそんな感じだった。

 

 

「なんだこの看板」

 

「うーん……本物、で良いんだよね? でもなんでこんなにチャラいの……?」

 

「……紅郎」

 

「間違いない、んだが……」

 

 

 〝直感〟も反応している。ここが大迷宮であることに間違いはない。

 

 ……看板が全てを台無しにしてるんだよなぁ。

 

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

「まあ入口を見える形で置いとくほど〝解放者〟も意識してないわけが……っておい待て!」

 

 

 シアが奥の壁をぺしぺしと叩き何処かに入口はないものかと探しているが、そんな警戒心もなく近付いたら……

 

 そう思ったときには既に遅く。

 

 シアの叩いていた壁が前触れもなく回転し、

 

「ふきゃ!?」

 

 という声と共にシアは壁の向こう側へと連れ去られてしまった。

 

 

「忍者屋敷かな?」

 

「……油断大敵」

 

 

 南雲は素直に感想を、ユエは呆気なく引っかかったシアへの呆れから言葉を漏らした。

 

 

「……とりあえず、行くか」

 

 

 奇しくも扉を見つけたことで、ここが大迷宮である信憑性が増した。

 

 最初に攻略したオルクス大迷宮とはまた雰囲気が違うが、大迷宮であることには変わりないのだろう。

 

 向こう側へと行ったシアを追いかけるべく、俺達も回転扉へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、この時の俺達は知らなかった。

 

 まさかこの大迷宮が……ここまで悪意のあるものだとは。

 

 ミレディ・ライセンの作り出したストレスのオンパレードが俺達に牙を剥いた─────

 

 

 

 

 

 

 

 消えたシアを追いかけるようにして回転扉を潜り抜けた俺達は、ライセン大迷宮の攻略を進めていた。

 

 最初の回転扉でシアが壁に貼り付けになったり、ミレディ・ライセンの底知れないウザさの一端を知ることになったが、その時はまだ余裕があった。

 

 しかし、ライセン大迷宮は相当に厄介な場所だった。ミレディのウザさというものを含めずに、だ。

 

 まず魔法分解作用。これが一際強くなっていた。魔法に特化したユエは最上級はもちろんのこと上級魔法すら使うことができず、中級魔法での戦闘を余儀なくされた。

 

 また南雲もユエほどではないが影響を受けており、一部の固有魔法は使用不可になっている。また〝纏雷〟の出力も大幅に下がっているためにドンナー・シュラークの威力も半減してしまっている。

 

 対策はしていたつもりだったが、やはりシアを連れてきたのは正解だった。シアの身体強化は分解作用の影響を受けない。まさに独壇場と言える。

 

 それは俺にも言えることだが、頼りになるのは間違いない。

 

 さて、そんなシアだが……結構精神的にキている。

 

 

「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 

 

 ……具体的には、こんな感じに。

 

 色々あったからなぁ。主にウザさが原因で。

 

 このライセン大迷宮は分解作用があるためか、魔法的なトラップは仕掛けられていない。そもそも仕掛けられないのだろう。

 

 代わりに物理トラップが多くあった。

 

 例えば高速回転するノコギリ刃。これは俺が切り裂いたので問題はない。

 

 例えばヌルヌルと傾斜上に滑る落とし穴。落ちきってしまえば体長十センチほどの無数のサソリの群れに放り出されていただろう。

 その時に見つけたミレディの書き置きには悪意しか感じられなかった。

 

 例えば天井が落ちてくることもあった。そこは〝剣閃領域〟も使って切り刻んで穴を作ったので被害はなかった。

 

 全方位から飛来する毒矢。硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴。アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋。

 

 そしてついでのように配置されているウザい文章。

 

 俺はまだ耐えられるが、三人のストレスは相当なものになっていた。

 

 ……いや、それだけなら良かったのだ。それだけなら。

 

 問題だったのは……ゴールに付いたと思ったら、スタート地点に戻されたこと。

 

 迫りくる大岩(斬った)と鉄球(薬品付き。斬った)のエリアを過ぎて大扉の前へと到達し、大量の騎士のゴーレムらしき敵がいるエリアに至り、いざ最後の試練へ、という気持ちだったというのに。

 

 扉を抜けた先は、最初のスタート地点。しかもミレディの文によれば迷宮の構造は常に変わり続けているときた。

 

 ─────この時点で三人のストレスは限界を超えた。

 

 何度も何度も大迷宮へと挑み、その度に変わる構造とトラップ。そして当然のように配置された文章。

 

 それを四日も繰り返し、シアの現状に至る、と

 

 

「疲れる……本当に疲れるよー」

 

「ん……」

 

 

 流石に二人も堪えたのか、抱きついてきてくる。

 

 今は魔力回復も兼ねた休憩中。精神的疲労回復のためにも、メンタルケアは必要だった。

 頭を撫でたり、ユエに請われて血を吸わせたり(しばらく顔が真っ赤になった)……三人とも、四日も理不尽に晒されたら怒りすら飛び越えてしまったらしい。

 

 とはいえ、そろそろゴールも近い。

 

 というか近くする。

 

 

「本当は、大迷宮でこんなことしていいのかとは思うが……」

 

「紅郎?」

 

 

 南雲が不思議そうにこちらを見上げてくる。

 

 そろそろ、良いのではないだろうか。

 

 ライセン大迷宮がどういうコンセプトで作られたのかは察しはつく。

 

 あとは条件を満たしているのかどうか。そこも、恐らく問題はない。

 

 四日間も彷徨ったのだ。それでも駄目なら……まあ、その時に考えよう。

 

 

「南雲、ユエ、シア」

 

 

 三人に声をかけて、目線をこちらに向けさせる。

 

 

「そろそろ、この大迷宮を攻略するぞ」

 

 

 変わり続ける迷宮と物理トラップ。

 

 ゴールに辿り着くにはどうすればいいのか。俺の答えは簡潔だ。

 

 それら全てを、斬り抜ければいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆小噺◆

 

 

 

 

 

「紅郎は大丈夫なの?」

 

 

 南雲が突然、そんなことを聞いてきた。

 

 

「大丈夫って、何が?」

 

「ミレディのウザい文章と迷宮そのもの」

 

「あー……」

 

 

 その言葉で何が言いたいのか察せられた。

 

 三人はこの大迷宮で多大なストレスを掛けられている。

 

 南雲は俺のストレスは大丈夫なのかと心配してくれているのだ。

 

 

「それについては問題ない。確かにストレスは溜まるが、試験と思えばある程度は耐えられる」

 

「試験?」

 

「この迷宮で如何にして冷静さを保ち、変わり続ける迷宮に対して諦めず、トラップを乗り越えられるのか。つまり忍耐力を試すのが、この迷宮の試験……試練だと俺は思ってる」

 

「あ……」

 

 

 ミレディの文章は、確かにウザいし見たくもないものだ。トラップもまた意地悪さが前面に出ている。

 

 その上で耐え忍び、迷宮を攻略する。ミレディのウザさは恐らく意図したもので、これぐらい耐えられなければ駄目だと突きつけているのだ。

 

 

「それが、この迷宮の意味」

 

「多分な」

 

 

 というかそうであってほしい。これが生来のウザさだったら俺も困る。

 

 

「すごいね。私、そんなこと全然思いつかなかった」

 

「俺だって普段なら気付かなかった。文章が過剰に多いから思いついただけだよ」

 

「そっか」

 

 

 南雲は短く呟き、胡座をかいていた俺の足に頭を乗せた。

 

 

「ね、紅郎」

 

「なんだ?」

 

「紅郎は、ちゃんと寝れてる?」

 

 

 突然、そんなことを聞いてくる。

 

 ……寝れている、か。

 

 一瞬、どう答えたものかと迷い。

 

 

「……ごめん、なんでもない。それじゃあ、おやすみ」

 

「おやす……いや待てこの状態で寝るのか、って寝るの早っ」

 

 

 静かな吐息が空間に広がる。

 

 南雲は今眠りにつき、ユエとシアも同じく就寝中。

 

 ……俺は。

 

 

「……いつからだろうな」

 

 

 そんなことを呟く。

 

 本当に、いつからだろうか。

 

 ─────俺に睡眠が必要なくなったのは。

 

 ……まあ、困ることはないからいいんだけどさ。少なくとも俺は気にしていない。

 

 そうして俺は、穏やかな寝顔の南雲を眺めながら夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

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