ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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第九話。



ミレディ、最後の試練

 

 ライセン大迷宮は強敵だ。魔法分解作用や数々のトラップ、常に変わる迷宮内部などまともに攻略しようと思ったら相当な精神力を要求される。

 

 ではどうやって、このライセン大迷宮を攻略し、神代魔法を手にするか。

 

 簡単だ、あらゆる障害を壊してしまえばいい。

 

 こんな風に。

 

 

「こっちだ!」

 

 

 声を張り上げながら目の前に広がる障害を細かく斬り捨てる。

 

 〝直感〟のおかげでどの方角にゴールがあるのかは感覚でわかる。

 

 ならば迷うことなく、一直線で進めばいい。本当ならありとあらゆる障害が待ち受け、そもそも足場がなく進めない場所だって存在するのだろうが─────

 

 

「日頃の恨みを晴らすですぅ!」

 

「ん、すっきり」

 

 

 硬く厚い障害物は俺が斬り捨てシアが粉砕し、足場のない箇所はユエの魔法で助走をつけて無理矢理押し通る。

 

 それでも足りない場合は……

 

 

「南雲!」

 

「はい足場!」

 

「助かる!」

 

 

 〝南雲〟の宝物庫から予め収納してあった適当な物体を一時的な足場にして、跳ぶ。

 

 俺達の身体能力であれば、それが可能だ。ユエには厳しいので手が飽きがちな俺が抱えて跳んでいる。

 

 これを何度か繰り返せば、目的地まではあっという間だった。

 

 最後の壁を破壊した先には、広い空間がそこにあった。

 

 適当な足場に着地し、辺りを見渡す。

 

 

「到着、でいいのか」

 

「そうだと思うけど……というかそうであってお願いだから」

 

「ん、油断はできない」

 

「この迷宮なら何が起きても不思議じゃないですしね……ふふ」

 

 

 若干、シアから殺意が漏れ出ていたが、それだけ苦しめられたということだから理解できる。

 

 そうして見渡していたら、何度か見かけたことのある騎士ゴーレムが()()()縦横無尽に飛び回っている。

 

 いや、飛んでいる、というより落下しているというのが正しいのか。

 

 

「なんとなく察してたが、重力か」

 

「重力……それがこの迷宮で手に入る神代魔法なのかな、っと」

 

 

 南雲が考察しながらもドンナーで飛び回る騎士の一体を狙い撃つ。

 

 直撃、左腕が吹き飛んだ。しかし壁面に着地すると、壁面の一部が欠けた代わりに吹き飛んだはずの腕が直っている。

 

 別の部屋の騎士ゴーレムも直っていたけど、こっちも同じか。まあ出来るのにしない理由はないよな。

 

 

「分かってたけど、直るね」

 

「あぁ。それに動きも速い。最奥かは知らないが、間違いなく今までで一番近い─────」

 

 

 〝直感〟が反応する。

 

 それは、死の知らせだった。

 

 

「避けろ!」

 

「逃げてぇ!」

 

 

 俺とシアの警告はほぼ同時だった。

 

 こちらに向けて高速で落下してきたそれを避け、見つめる。

 

 騎士ゴーレムよりもはるかに大きい。最低でも二十メートルはある。そんな騎士ゴーレムが宙に浮いている。

 

 右手は赤熱化しており、左手には鎖が巻き付いたフレイル……それともモーニングスターか? とにかく凶器が備え付けられている。

 

 見るからにボス、という風貌だった。オルクス大迷宮で言うところのヒュドラが、あいつだ。

 

 ……しかも。

 

 俺の感覚が間違ってなければ、あいつはヒュドラよりも強い。

 

 下手をすれば全滅する。そんな存在だった。

 

 

「無事か!?」

 

「大丈夫!」

 

「ん!」

 

「はい!」

 

 

 とにかく全員の安否確認を優先。

 

 囲んでくる騎士ゴーレムたちに気を配りつつ、あの巨大ゴーレムから目を逸らさない。

 

 気を抜くことは出来ない。ほんの僅かであっても行動の予兆を見逃さない─────

 

 

「も〜、君達でしょ〜? 私の迷宮を壊してたの!」

 

「……は?」

 

 

 その声は。

 

 どこから聞いても女の声にしか聞こえなかった。ゴーレムから発せられている。しかも、あの巨大ゴーレムに。

 

 

「もちろん想定してなかったわけではないけどさぁ、駄目でしょ〜ちゃんと攻略しないと。君達みたいな子のことを考えて一生懸命作ったんだよー? もっと堪能してほしかったなぁミレディちゃんは!」

 

「……ミレディ・ライセン、でいいのか」

 

「おお? もしかして、私のこと知ってたりする?」

 

 

 正直、情報が多すぎて混乱してる。

 

 混乱してるが、とりあえずこの巨大ゴーレムが自分のことをミレディちゃんなどと呼んでいる以上、こいつをミレディ・ライセン……〝解放者〟の一人だと仮定する。

 

 どうしてゴーレムになっているのかとか、人間ではなかったのか、とか。

 

 聞きたいことは山程あるが、まず聞かなくてはならないことが一つ。

 

 

「一つ聞きたい。あんたがこの迷宮の最後の試練、ということでいいな」

 

「んー? なんのことか、」

 

「とぼけるならそれでいい。会話は終わりだ」

 

 

 こちらの真意を聞きたかったのかもしれない。会話の中で聞き出そうとしたのかもしれない。

 

 だがそれはあちらの都合だ。

 

 こちらが合わせてやる道理は、残念ながらない。

 

 〝飛刃〟を放ち、〝直感〟の向かう先に核に該当するものがあると感じ取る。

 

 しかし。

 

 

「おっと危ない!」

 

 

 ミレディは横に”落ちる“ことで攻撃を回避した。重力の方向を変えて回避とは、中々素早い。

 

 

「ふふ、先制攻撃とはやってくれ、」

 

 

 ミレディの口上の途中でロケット弾が飛び込んでいき、命中。爆煙を上げた。

 

 ……俺も同じことやったが、今回は命中したか。

 

 脅威度を判別して避けた、のか? それとも単に偶然か……

 

 そのあたりは戦いながら判断しよう。

 

 

「行くよ、二人共」

 

「はい! この大迷宮での恨み、晴らしてやりますよぉ!」

 

「ん、同感」

 

 

 三人が動き出し、それとほぼ同時に囲んでいた騎士ゴーレムが動き出す。

 

 それに合わせて爆煙の中から前腕部の一部が欠けたミレディが現れた。

 

 

「もう! そんなに話がしたくないのならいいよ〜だ! 私は強いけどぉ、あとで後悔しても知らな、」

 

「二度あることは三度ある、ですぅ!」

 

「ちょっ!」

 

 

 そこにシアが突っ込みドリュッケンを振りかざす。

 

 しかし、シアとミレディの間に騎士ゴーレムを挟み込みミレディは攻撃を回避した。

 

 

「危ない危ない、危うくミレディちゃんの端正な顔が傷付いちゃうところだったよ」

 

「ゴーレムなんだから顔なんてないようなものじゃないですか!」

 

「それ言っちゃったらおしまいでしょ〜!? そんなひどいこと言う子には、おしおきだ〜!」

 

 

 そう言ってミレディは右の赤熱化した拳をシアに振りかぶる。

 

 当たれば、死にはしないまでもかなりのダメージになるだろう。シアでそうなるのだから俺が喰らえば即死もありうる。

 

 なので、攻撃させない。

 

 〝高速抜刀〟を併用─────ミレディの右腕に向けて、〝縮地〟を使って距離を詰める。

 

 

「ふふ、見えてるよ〜」

 

 

 騎士ゴーレムの突進と左腕のモーニングスターがこちらに飛ばされる。当たれば攻撃を中断されるだろう。今ならば避けることは難しくはない、が。

 

 ここは、避けない。避ける必要がない。

 

 迫りくる騎士ゴーレムは高速噴射された水のレーザーによって切り裂かれ、モーニングスターは六発の銃声と共に軌道を大きく逸らした。

 

 

「なっ!?」

 

「私達もいるってこと、忘れてた?」

 

「ん、紅郎の邪魔はさせない」

 

 

 ─────全く。

 

 最高だな、俺の仲間は。

 

 刀に手を添え、ミレディの右腕に向けて刃を振るう。

 

 

「〝荒御刈(あらみがり)〟」

 

 

 振るわれた刃は、見事にミレディの右腕を切り落とした。

 

 しかし、ミレディが他の騎士ゴーレムと同じ特性を持っているのなら切り落としたとしてもくっつけることが可能だろう。

 

 時間は奴に味方する。

 

 ならば。

 

 

「─────畳み掛けるぞ!」

 

 

 そんな時間を、与えなければいい。

 

 空中で身を翻し、鞘を腰から外して両足に当てる。

 

 そしてそのまま〝縮地〟を発動、高速で来た道を戻り左腕へと向けて刀を振り上げた。

 

 

「左腕も、貰うぞっ!」

 

 

 その勢いのままに左腕に対して〝荒御刈(あらみがり)〟を発動、ミレディの両腕を奪い取るに至った。

 

 今のミレディには両腕がない。そうなれば残るのは─────

 

 

「これでっ!」

 

 

 南雲がシュラーゲンを〝宝物庫〟から取り出し、撃ち放った。

 

 目標は核らしきものが存在する胸部。南雲であれば、ちゃんと狙ってくれると思っていた。

 

 奴に残された手段は回避か防御、迎撃は出来ない。騎士ゴーレムはユエが優先して撃墜してくれている。

 

 シュラーゲンの銃撃は、確かに命中した。

 

 ─────突然高速でやってきたブロックに。

 

 重力で操り当たる直前に壁となったのだろう。おかげで直撃は免れ、胸部にはダメージがない。

 

 

「残念だったねぇ?」

 

 

 ミレディの挑発が響き渡る。

 

 

「別に、これでも良かったよ」

 

「え?」

 

 

 だが、それで終わる南雲じゃない。

 

 用意周到な南雲なら、時間があるのなら何かしてくれると思っていた。

 

 

「どっちかが当たれば、それで良かった。シアにはもう、核の場所も伝えてあるから」

 

「隙ありっ、ですぅ!」

 

 

 シアの掛け声が響く。

 

 彼女は既にミレディの胸部に到達し、ドリュッケンを振ろうとしている最中だった。

 

 その距離は、ほぼゼロ距離。

 

 外すことは絶対にない。

 

 

「しまっ」

 

「どぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 ミレディが気付くも時すでに遅し。

 

 ドリュッケンがミレディの胸部に直撃した。

 

 大槌が胸部にめり込み、さらにシアはドリュッケンのギミックを発動させる。

 

 打ち込んだ方とは逆の方向から衝撃が発生し、さらに深部へと破砕を広げていく。

 

 その衝撃にミレディは吹き飛び、地面に倒れる。

 

 ─────だが。

 

 

「ふふ、残念、効いてないよぉ」

 

「っ、そんなっ!?」

 

 

 確かにシアの一撃は直撃した。防ぎようがなかった。

 

 しかしミレディの核の周りを何か黒い装甲が守っていた。ヒビこそ入ったが、壊れていない。

 

 そして、その装甲の材料には覚えがあった。

 

 

「アザンチウム……!」

 

「おや? 知ってたんだねぇ〜」

 

 

 アザンチウム……確か、南雲によれば世界で一番硬いとかいう鉱石。

 

 シアの一撃でもヒビを入れるのが精々と考えると、相当な硬さだ。

 

 とはいえ、流石にアザンチウムの修復は出来ないだろう。アザンチウムの装甲を破るとしたら、今しかない。ゴーレムの表面装甲が直される前に破壊する。

 

 そう考えていた時、〝直感〟が反応する。

 

 反応したのは天井だった。

 

 

「っ、くそマジか!」

 

「皆さん! 降ってきます!」

 

 

 ミレディは、決着をつけるためか時間を稼ぐためかは知らないが、天井を重力で操作して、落とそうとしているのか! 

 

 

「騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」

 

 

 そういうミレディは余裕綽々。これでどうなるにしろ時間が出来たと、そう思ってるのだろう。

 

 ─────けどな。

 

 南雲とすれ違い、そして託す。

 

 

「南雲─────後は任せる」

 

「うん、任せて」

 

 

 仲間の承諾を得て走り抜ける。

 

 ─────この程度でやられるほど、俺たちは軟じゃないんだよ。

 

 未だに倒れるミレディのところへ接近し、核付近に乗り移る。

 

 

「よぉ」

 

「なっ、なんでここにっ」

 

「もちろん、お前を倒すためだよ」

 

 

 もう時間がない。巨石群が高速で落下しており、俺も間もなく直撃するだろう。

 

 だからその前に、こいつを殺す。

 

 

「無駄だよ、いくら君の剣がすごくてもアザンチウムを斬るなんて……」

 

「まださ、試したことがないんだよ、()()

 

「えっ?」

 

 

 刀を抜き放ち、構える。

 

 ─────突きの構えへと。

 

 剣とは、何も斬ることだけしか出来ないわけではない。

 

 叩く、斬る、そして突く。

 

 それが剣というものだ。それは刀であっても変わりない。

 

 普段なら、確かに壊すのは不可能だったかもしれないが……今なら出来る。

 

 仲間の残した傷跡があるからな。

 

 刀の切っ先を、突き下ろす。

 

 

「─────〝奇虚穿(くしこせん)〟」

 

 

 突き下ろされた刃は、何の抵抗も見せることなく。

 

 アザンチウムを貫き、そのままミレディの核ごと穿った。

 

 

 

 




奇虚穿(くしこせん)
 突きの技能。あらゆる障害を無視し、穿つ。
 刃が通らなければ効果を発揮できない荒御刈と和御喰と比べて、特殊な効果こそないがどのような場面であれ使える。


戦いなんて、如何にして何もさせずに勝つかが重要。
つまりそういうことです
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