ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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十話。
早足できました。


攻略、完了

 

 

「ふぅ」

 

 

 息を吐く。

 

 戦闘時間で言えば、大した時間は経っていないだろう。しかし一歩間違えれば死にかねない激戦だった。

 

 ……そう断言できれば良かったのだが。

 

 

「君、後先考えないって言われない?」

 

「いや、一度もないが」

 

「それじゃあ皆思ってるよきっと。自分の命を度外視してまで私のところに来るなんて……」

 

「そんなわけないだろ。俺だけなら生き残れるってわかってたから、こんなことしたんだよ」

 

「……まあ、確かにこれを見たら納得かな」

 

 

 周囲には不自然なほどに物体が存在せず、ただ塵だけが積もっている。これはミレディが物体を寄せなかったというわけではなく、ただ〝剣閃領域〟を全力稼働させて塵になるまで刻み続けた結果だ。

 

 俺だけなら生き残れる。その言葉はそのままの意味だからだ。

 

 ところで今話している相手は倒したはずのミレディ・ライセン。倒しきれなかった、というわけではない。

 

 ミレディの核は貫いた。力も残されてはいないだろう。それでも僅かに残った力を掻き集めて、俺との会話を続けている。

 

 最も直感はこいつの死を予見してはいないので、まだ何かあるのだろうが。

 

 

「ところで一ついいか」

 

「何かな? あまり時間は残されてないから、手短にね」

 

「─────あんた、全力じゃなかっただろ」

 

「……」

 

 

 ミレディから感じた死の予感。あれは間違いではない。

 

 今の俺が万全のミレディに挑んだとして……今のゴーレムなら倒せる。

 

 ─────人のままだったなら、負けてたのは俺だった。

 

 

「あんたが死に物狂いで来てたのなら、負けてたのは俺達だ。少なくともそれくらいの戦力差があった」

 

「んー……面白い考察だけど、根拠は?」

 

「……俺の勘だ」

 

「あはは! なぁにそれぇ」

 

 

 はーおかし、とミレディは笑った。

 

 俺は至って真面目なのだが……そんなに笑える要素でもあっただろうか。

 

 

「せっかくだから答えてあげるけど……例え全力を出せたとしても、私が負けてたと思うよ。ここ、魔法分解作用がすごいから」

 

「逆に言えばここじゃなければ勝ててたんだろ。なら同じだ」

 

「さぁ、どうかなー?」

 

 

 のらりくらりと明言を避ける。

 

 どうせ死ぬわけでもないだろうに……いや。

 

 死ぬ覚悟は、とうの昔に決まってるのか。

 

 なんとなくだが、それだけはわかった。

 

 

「……そろそろ、時間、かな。最後に……聞いていい?」

 

「なんだ」

 

「君達は……神代魔法を知っていた。それを求めるのは、なぜ?」

 

「……俺自身は神代魔法に興味はない。魔法の適性とかないしな。ただ、仲間に故郷に帰りたい奴がいる。傍迷惑な神とやらに世界を越えて連れてこられたせいで、神代魔法でもなければ帰れないんだ。だから、神代魔法がいる」

 

「……そっか」

 

 

 しばしの沈黙。

 

 先に沈黙を破ったのは、俺だった。

 

 

「そろそろ行くぞ」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「嫌だ」

 

「待って待って本当に大事なことだから聞いて!?」

 

 

 流石に本気で焦ったような声音を出しているが、急ぐ必要性なんてどこにもない。

 

 だってこいつ、消えそうな雰囲気出してるけど全部演出だろ。直感だけど俺にはわかる。

 

 

「すぐに仲間と合流して聞きに行く。たった数分だ、待てるだろ」

 

「……えーっと、もしかして……気付いてる?」

 

「最初から気付いてたが」

 

「えぇー……」

 

 

 引かれている声音だが、そんなのこっちのセリフだ。今は真面目にしているが、迷宮のウザさは間違いなくこいつの素だ。

 

 なら当然、こういうことも考えるわけだ。

 

 

「せっかく驚かせようとしたのになぁ。もう台無しだよ〜」

 

「あっそ」

 

「素っ気ない! もう、じゃあ待ってるから早く来てね! 本当に大事な話だから!」

 

 

 散々話していたゴーレムから、気配が消える。

 

 ……このゴーレムもあとで修理して使われるんだろうなぁ。

 

 相変わらず性格が……いいや、違うか。

 

 

「……ウザさはともかく。何百年と待ち続けたあんたには、敬意を表する」

 

 

 託せる誰かを、孤独の中で待ち続けるのは並大抵の地獄を軽く凌駕するものだったはずだ。

 

 それに耐えきり、最後まで壁として立ち塞がった。

 

 

「ミレディ・ライセン。誰もあんたを覚えてなくても、あんたは確かに偉大な人だよ」

 

 

 それを、本人に言うつもりは欠片もないのだが。

 

 少なくとも、今この場においては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人を探せばすぐに見つけることができた。

 

 ……のだが、南雲には相当無理をさせてしまったらしい。顔の一部からは血が出てしまっていた。

 

 俺に出来ることならなんでもする、と言えばユエが反応して「なんでも?」と言って獣な風格を醸し出し、それを南雲がニコニコとした笑っていない笑顔で牽制し……まあいつも通りと言えた。

 

 会話を済ませた俺達は奥にあると思われる神代魔法を取得するべく足を動かし……

 

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 

 小さいミレディ(ミニ)が現れた。

 

 

「神代魔法はどこだ?」

 

「あれっ、無視っ!?」

 

 

 予想できていたことなので、大して驚くこともなく神代魔法の所在を聞こうとした。

 

 三人は……まあ予め話していたので驚きはしてもそこまででもなかったらしい。

 

 

「神代魔法の前に、一つ忠告!」

 

「忠告?」

 

「君達がどんな神代魔法を求めているにしろ、必ず全ての神代魔法を手に入れること! 君達の目的のためにも、必ず必要になるから」

 

「……わかった。そうするよ」

 

 

 それがどういう意味なのかは、流石に分からなかった。

 

 ただ悪いことではない。それだけが直感で感じ取れたことだった。

 

 ミレディ(ミニ)は魔法陣を起動させ、ひらひらと手を振って促す。

 

 

「はい、起動したよ。ほらほら、早く乗りなよ〜」

 

「……わかってる」

 

「あ、そういえば……」

 

 

 ユエ、南雲、シアの順番に魔法陣の上に乗り、ミレディの神代魔法を取得していく。

 

 予想通り重力魔法だったらしく、当然の如く南雲が適性が最低、ユエが最高でシアはちょっとだけ、という有り様だった。

 

 で、肝心の俺は……

 

 

「あれ、君は乗らないの?」

 

「いや、俺は……」

 

「ミレディ、そのことで聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

 南雲が簡潔に説明してくれた。

 

 それを聞いたミレディは……

 

 

「え……え、嘘、本当に?」

 

 

 明らかに動揺していた。

 

 今までに見たことがないほどに戸惑っている。

 

 

「……どうしたの?」

 

「いや、そんなはず……でも嘘を付く理由なんてない……誤作動? もしものために自動的に整備されるように…………もしかして……?」

 

「おい、どうした」

 

 

 ぶつぶつと俯いて考え込んでしまった。

 

 ……よほど、俺みたいな事例は想定外だったらしい。

 

 とはいえ、作った本人たちにもわからないのであればどうしようもない。

 

 今回の神代魔法も諦めたほうが良いだろう。

 

 

「……試しに乗ってみてくれる?」

 

「あぁ」

 

 

 起動した魔法陣に手を伸ばし……一定の範囲に近付いた途端、弾かれた。

 

 オルクス大迷宮だけの不具合……というわけではないらしい。

 

 となれば神代魔法全てに存在する仕様……だが、何のために存在してるんだ? 

 

 取得されたくない相手がいて、その対策のために付けた機能……なのか? 

 

 恐らくが付くが……

 

 

「……ごめん、今すぐどうこうは出来ない。他の神代魔法も、君だけは取得出来ないと思う」

 

「そうか。まあ、良いさ。むしろ諦めが付いた」

 

「紅郎……」

 

「紅郎さん……」

 

 

 元々、俺は神代魔法なんて求めてなかった。今更手に入らなかったからといって、落胆することもない。

 

 

「代わり……にもならないけど、はい、これ。君が〝宝物庫〟を持ってるみたいだし、君に預けるよ」

 

「これは……攻略の証と、鉱石?」

 

「君もオーちゃんと同じ錬成師みたいだし、上手く活用してよ」

 

 

 オーちゃん……オスカー・オルクスか。

 

 言い方から察するに、親しい仲だったのだろう。

 

 ミレディから渡された鉱石を見つめる南雲は、何処か楽しそうに見えた。新しいものを開発するのが楽しみなのだろう。

 

 

「……そうだ。ミレディ、他の大迷宮の場所を知らないか。オスカー・オルクスの手記から情報は得ているんだが、詳しい場所が失伝しててな」

 

「……そっか、失伝しちゃうくらい長い時間が経ったんだね……いいよ、教えてあげる」

 

 

 奇しくもミレディから他の大迷宮の場所を知ることが出来たのは良い偶然だった。

 

 早めにライセン大迷宮を攻略できたのは、良かったと言えるだろうな。

 

 

「……それで全部?」

 

「そうだよ〜。他の大迷宮も一筋縄じゃいかないと思うけど、まあ頑張ってね〜。流石にここほど性格悪い迷宮もないと思うから!」

 

「「「「それはそう」」」」

 

「自分で言っててなんだけど酷くなぁい?」

 

 

 思わず全員でハモってしまった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう何も言うことはなかったんだけど……最後にもう一つ」

 

「なんだよ」

 

「─────君達が君達である限り、必ずあのクソ野郎どもと戦い、神殺しを成す。それを伝えたかったんだ」

 

 

 ミレディの言葉には、なぜだがそうなるだろうという力を感じられた。

 

 預言者とかそういうのではないのだろうが……だが、まあ。

 

 

「それならそれで構わない。邪魔をするのなら、神であれ殺す。とはいえ、障害にならないなら戦うこともないと思うぞ」

 

「あのクソ野郎どもが障害にならないはずがないし、多分大丈夫!」

 

「そんなに言われるって相当だな……」

 

 

 それだけ、この世界の神は悪性の存在なのだろうか。

 

 ……多分、そうなのだろう。

 

 長年の間、人を弄ぶことに快楽を覚えるような神だ。ろくなやつじゃない。

 

 そして、必ず障害になるという、ミレディの言葉も……正しいのだろう。

 

 

「じゃあな、ミレディ・ライセン」

 

「またね〜」

 

 

 手を振り、次の大迷宮を目指すべく足を……というか車に乗って進む。

 

 ライセン大迷宮からどんどん離れていくのが見える。

 

 ……次の大迷宮も、こことは別の意味で強敵なのだろうな、と思っていたら。

 

 

「……ぶっちゃけもう会いたくないですぅ」

 

「ん」

 

「うん」

 

 

 三人のミレディへの評価は普通に低かった。もう二度会いたくないと断言してるくらいには。

 

 まあ……残当? 

 

 流石にフォロー出来ないわ。そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんなこともあるんだねぇ。念の為のクソ野郎ども対策にしてたのが、まさかこんな事態になっちゃうなんて」

 

「世界を越えれば、そりゃいるよね」

 

「─────()()()()()()()

 

「まあ、悪い神じゃなさそうだし……信じてみようかな」

 

「まさか、私が神様を信じる日が来るなんて……思わなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




真面目ムーブなミレディでした。というかこれ以外書けねぇ。
またしばらく書き溜めます。どのくらいかかるのかは未定です。
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