ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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第三章、はーじまーる。


第三迷宮・グリューエン編
護衛、フューレンへ


 

 

 ライセン大迷宮の攻略を終えてから、約一週間。

 

 ブルックの町に滞在していた俺達四人は次の旅に向けて準備をしていた。

 

 具体的には食品や道具類の補充に、南雲の新兵器の開発とユエとシアの重力魔法の修練である。ちなみに俺が一番暇なので補充は俺が担当した。

 

 この一週間、それはそれは騒がしかった。

 

 宿に泊まればマサカの宿の看板娘……ソーナというらしいのだが、彼女に隙あらばと覗き見されまくった。

 

 時には屋根から、時にはシュノーケルを自作して池の中から……何処にそんな力が湧き出ているのかは知らないが、看板娘の定義が崩れる気がする。

 

 幸い直感が反応するから見られる前に対処できた。彼女の母親がきつく叱っても懲りないのはもはや才能だと思う。

 

 さらに美少女三人組がブルックの町を歩けば告白はもちろんのこと、中には強引に手籠めにしようとする輩もいた。もちろんうちの女性陣に敵うはずがないので瞬殺されてたが。

 

 ちなみに俺は、と思われるかもしれないが、全然大丈夫じゃない。普通に狙われた。命を。

 

 流石に年頃の女の子にナイフを片手に「お姉さまに寄生する害虫が! 玉取ったらぁああ──!!」などと言われ襲撃されるのは……ちょっと引いた。

 

 まあ素手でナイフ折って気絶させたが。

 

 それが何度も何度も来るものだから疲れてきてたのだが、それに気付いたユエと南雲が何かした結果、途端に静かになった。少なくとも襲撃されることはなくなった。

 

 一応何をしたのか聞いたが、ユエには「……内緒」と言われ、南雲には「紅郎は知らなくて良いことだよ」と言われた。余計に怖くなった。本当に何をしたんだろうな……

 

 

 ぶっちゃけブルックでの騒がし姦しはこれだけではないのだが、言うだけでも疲れるのでこれで終わりにする。

 

 ブルックでの滞在も、もはや懐かしい記憶だ。たった数時間前にはブルックにいたのに、こう思えるのはブルックでの濃すぎる日々のせいだろうか。

 

 そう、俺達は既にブルックに滞在していない。次の大迷宮……グリューエン大火山を目指すべく旅を再開していた。

 

 途中で中立商業都市フューレンという大陸一の商業都市があるらしいので、そこにも立ち寄る予定だ。

 

 そのフューレンに立ち寄るついでに、ブルックでキャサリンさんから丁度良く依頼を受けて俺達は商隊の護衛をしていた。

 

 

「あいつが……」

 

「間違いないはずだ。決闘スマッシャーは一目見ただけじゃ凄さが分からないって評判だからな」

 

「はぁはぁ、ユエちゃんかわいい」

 

 

 当初の俺としては南雲の願いのためにも早めに大迷宮に行くべきか、と考えていたのだが、その当人が「急いでないから」とのことだったので護衛の依頼を受けることになった。

 

 その護衛依頼が始まる時に商隊のリーダーだというモットー・ユンケルという男からシアを売らないか、という値段交渉をされたが……

 

 論外だったのできっぱりと断った。

 

 そもそも奴隷ですらなく仲間なので売るとか以前の問題……なのだが、そこらへんの事情をモットーが知るはずもないので、それ以上の会話はしなかった。

 

 途中、南雲がモットーの名前を聞いたときから「……もっとユンケル? 商隊のリーダーって大変なんだね……」としみじみに言っていたが、何のことなのだろうか。俺にはわからなかった。

 

 

「今ならお近づきになれるチャンス……」

 

「今はやめとけ、気持ちはわかるが瞬殺されるぞ」

 

「シアちゃんもかわゆす」

 

 

 ……ふぅ。

 

 

「ブルックで慣れてなかったら〝威圧〟して黙らせてたな」

 

「変態が多かったもんね、あそこ」

 

 

 こそこそと囁かれる言葉と煩わしい視線。俺だけなら気にしないが仲間にまで向けられると腹が立つ。

 

 ライセン大迷宮では大してストレスを溜めなかったが、どうやら俺は人の多い場所は苦手らしい。

 

 地球にいた頃はそもそも沢山の視線を向けられることは少なかったから気付かなかった性質だ。

 

 この調子で大丈夫だろうか、俺。道程はあと一日のところまで来ているが、こんな調子ではまた同じことがあれば暴発してもおかしくないと思うのだが……

 

 どうにか、克服しなくてはならないだろう。

 

 ブルックで護衛依頼を受けてからかれこれ五日。

 

 依頼の目的地であるフューレンまで、あと一日のところまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし。

 

 最初に気付いたのは耳が鋭いシアだった。

 

 

「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」

 

 

 場所は街道沿いの森。シアの知らせが護衛たちに響き渡る。

 

 ……そう呑気に終わらせてはくれないらしい。

 

 とはいえ、数は多くともその強さは高が知れているだろう。俺が一人で突っ込んで殲滅してしまえば後腐れない。

 

 そう思っていたのだが、ここには妙にやる気のある少女がいた。

 

 

「ん、私がやる」

 

「ユエ?」

 

 

 ふんすとやる気を出しているのはユエだった。

 

 止める間もなくシアに近付き襲撃してくるであろう魔物との距離や位置関係を話し合っていた。

 

 ……なんであんなにやる気なのだろうか。いや、俺達以外の護衛の反応からするに手助けが必要なのは事実なのだが。

 

 

「……なんか、妙にやる気だな」

 

 

 ストレスでも溜まっていたのだろうか。しかしその様子は見られなかったし、機嫌が悪そうにも思えない。

 

 一体どうしたのだろうか、と考えていると、南雲が近付いてきて「そのことなんだけどね」と前置きして理由を話してくれた。

 

 

「ユエ、ライセン大迷宮で役に立てなかったことを結構気にしてたみたい」

 

「あれは……しょうがないだろ。あそこなんてユエじゃなければ魔法は使えなかっただろ。役に立ってない、なんてこともなかった」

 

「ユエはそう思ってないってことだよ」

 

 

 南雲の言葉に、少し考え込む。

 

 ユエのことを役に立たないなどと思ったことは一度もないし、むしろ頼りにしている。助けられた場面はいくらでも思い浮かべられる。これからも頼りにしていくことだろう。

 

 しかし、かつては弱かった過去のある南雲の推測は、信憑性のあるものだった。

 

 ユエのことを頼りにしている、ということを改めて言っておくべきかもしれない。

 

 魔物の襲撃が終わればすぐに……

 

 

「……あ」

 

「ん? どうし、」

 

 

 南雲が思わず、といった風に空を見上げる。

 

 それに追従するように空を見上げ─────

 

 轟音が響く。

 

 音の発生源に目を向ければ……東洋で見るような龍が雷の姿となって魔物へと襲い掛かり、あろうことか魔物自らが顎門の中へと飛び込んでいくかのように消滅していくのが見えた。

 

 時間にしてほんの数秒だっただろう。

 

 その僅かな時間で、百体以上もいた魔物は呆気なく消し炭となった。大地も焼け焦げている。本当に何も残らず消滅してしまった。

 

 

「見たことがないんだが……ユエのオリジナルか?」

 

「私も見たことがない……あ、そういえば前に地球の龍を話をしたから……それをモチーフにしたのかも」

 

「なるほど。流石だな」

 

 

 見たこともないはずの龍をイメージだけで構築し、さらに操るなんて並大抵の技量ではないはずだ。

 

 それも、魔法の天才であるユエだからこそ出来た神業と言えるだろう。

 

 その当のユエは、驚き呆然としている他の冒険者たちを見ることなくこちらに近付き、

 

 

「……どうだった?」

 

 

 と上目遣いで聞いてきた。

 

 もちろん、それに対して俺が返す言葉は一つだけだ。

 

 

「流石ユエだ。これからも頼りにしてる」

 

 

 これが俺の本心であり、同時にユエが今最も欲しいであろう言葉のはずだ。

 

 俺の言葉を聞いたユエは。

 

 

「んっ!」

 

 

 と。

 

 まるで太陽のような笑顔で、こちらに微笑んだ。

 

 

「「「ぐはぁ!?」」」

 

 

 外野がユエの笑顔に当てられて死んだようだ。南無三。

 

 

「くっ、あの笑顔……俺じゃなければ即死だった……っ!」

 

「うむ、尊死」

 

「魔法のこととか気になったけどぉ……もうなんでもいいやぁ。ユエちゃん可愛い!」

 

「いやでもあの魔法なんか生きてるみたいに……」

 

「ユエちゃんは女神ってことでいいだろいい加減にしろ!」

 

「「「それだ!」」」

 

 

 なんかおかしな会話が繰り広げられてる気がするが……気にしないことにする。

 

 こうして魔物の襲撃をユエのオリジナル魔法で解決した俺達は、他の冒険者からの魔法の追求を(物理的に)避けつつ依頼を継続し……

 

 今度こそ何事もなく、フューレンへと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依頼を終えた俺達は商隊から離れ、依頼書片手に冒険者ギルドにいた。

 

 宿を取りたいが肝心の場所がわからないため、依頼達成のついでにガイドブックでも貰おうと考えたのだ。

 

 ただ、そこで案内人の存在を教えられたのだ。なんでもフューレンでは需要のある職業なのだとか。

 

 せっかくなので料金を支払い、軽食を食べながら解説して貰うことにした。

 

 まずフューレンには、その巨大さ故に四つの区域に分かれているらしい。

 

 簡潔に中央区、観光区、職人区、商業区。大まかにこの四つに分かれていると説明された。そして中心部に近いほど信用度も高い、と。

 

 宿に泊まるのであれば観光区がおすすめらしい。ただ、宿は数多く存在するので要望次第でおすすめの宿も変わるのだとか。

 

 

「三人とも、希望はあるか?」

 

「……風呂付き。混浴。貸し切り必須」

 

「えっと、大きなベッドが良いです」

 

「部屋が広いと助かるかも」

 

「じゃあ最後に、警備が厳重な場所で」

 

「そうですね、その要望に合う宿でしたら……」

 

 

 案内人の女性はすぐにおすすめの宿をリストアップしようとしてくれた。

 

 ……しかし、それも途中で中断されてしまった。

 

 不意に強い視線を感じる。今までにないくらい不快感のある視線だった。それを感じたのは俺だけではないらしく、いやむしろ俺以上に感じているのか三人共眉を顰めていた。

 

 視線のする方へと目を向ける。

 

 そこにいたのは……なんだろうな、よく見る甘やかされた豚貴族……と言えばわかるだろうか。とにかく肥えた身体を持つ身なりの良いブタがニヤついた目で三人のことを見ていた。凝視していた。

 

 案内人の女性も気付いたらしく、顔を歪めて「げっ」と声を上げている。どうやら悪い面で有名らしい。

 

 ああこれ厄介なことになるな、と思いつつ近付いてくる豚貴族が、

 

 

「プギャ!?」

 

 

 転んだ。何もない場所で。

 

 一瞬、静寂になる。

 

 顔面から転んだ豚貴族は起き上がる気配もなく、むしろ顔を中心に血溜まりが広がっていて……

 

 

「ちょっ、おい坊っちゃん!?」

 

 

 巨漢の男が駆け出し慌てて助け起こすが、気絶してるのか返事もない。しかも血がどくどく出てるので焦った様子で「だ、誰か! 回復魔法を使えるやついないかっ!?」と周りに募っていた。

 

 豚貴族を見ていた冒険者も多いのか、ギルドが騒然としてきた。

 

 

「騒がしくなってきたし、場所変えよっか。リシーさんもそれでいいですか?」

 

「えっ? あ、はい。皆様がよろしければ」

 

 

 南雲の言葉をきっかけに全員が立ち上がってギルドを出ていく。誰も豚貴族を気にした様子がない。いやリシーさんは気にしてるけど。

 

 そんな中、俺は南雲に近付きことの真相を聞こうとしていた。

 

 

「なぁ南雲。あの豚貴族転がしたの、南雲だよな?」

 

「うん。だって面倒事の匂いがしたし」

 

「気持ちはわかるけどな……」

 

 

 そう、あの豚貴族を転がしたのは南雲だった。

 

 転ぶような突起を〝錬成〟で作って戻し、さらに頭に直撃する部分も〝錬成〟で作り戻す。それを誰にもバレることなく、それも一瞬で済ませたのだ。

 

 

「もし追求されても言い負かせる自身があるから、紅郎は心配しなくて良いよ」

 

「そういう問題……いや、まあいいか」

 

 

 豚貴族は、明らかに美少女である三人を手に入れたいと思っている男の顔だった。

 

 なら、俺が気にする必要もないか。今後は避けるようにすればいい。

 

 そうして案内人に連れられて、フューレンを歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

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