ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

26 / 39
四話


捜索、襲来せし竜

 

 明朝を過ぎ、北の山脈地帯で車を走らせる。

 

 水妖精の宿から手軽に食べられるようにと握り飯を貰って感謝し、生きているようであれば行方不明者を探す……それだけのはずだった。

 

 

「ヒャッハー! ですぅー!」

 

「美少女の思わぬ一面……」

 

「シアさん、すげぇ乗り方」

 

「揺れてる……色々と」

 

「相変わらず豪快だな」

 

 

 俺は車の上に乗り、シアはバイクを走らせている。相も変わらずご機嫌な様子。それを見る男子たちは、一部鼻の下を伸ばしたりしてる。豊かな胸が跳ねてるからな、分からなくもない。

 

 本当なら俺は車内に乗るはずだったが、思わぬ乗客に車両の上に逃げてきた次第だ。

 

 お察しかもしれないが、クラスメイトと畑山先生一行である。

 

 昨日の話で畑山先生の行動力に火をつけてしまったのか、明朝から待機して出待ちされていた。

 

 本当ならば普通に置いていくし、そもそも馬を使って移動しようとしていた先生たちと車を使おうとしている俺達では移動力に差があり、そしてその速度差に合わせる理由もなかった。

 

 

「きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます」

 

 

 しかし、このように堂々と諦めるまで追いかける宣言をされてはこちらの方が面倒である。南雲も同じ意見だったのか、本当に仕方なく、という雰囲気で車両に乗せることとなった。

 

 ちなみにシアを除いた女性陣が車内に、俺を含めた男性陣が車外に、という運びとなった。先生の連れである騎士も、置いてきたのか姿は見えなかった。

 

 ……南雲やユエ、それに畑山先生は俺も車内にいることを望んでいたようだが、流石に女子率が多すぎるので遠慮した。

 

 それに、俺が外にいることで役立つこともある。

 

 〝直感〟からの反応。方角は、北東くらいか。

 

 手を下に伸ばし、窓ガラスをコンコンと二回叩く、

 

 

「南雲、北東に」

 

「わかった」

 

 

 会話は簡単に済ます。車の進行方向が北東へと変わる。

 

 未だに遠いが〝直感〟で目的のところまである程度の方角はわかる。南雲にそれを伝えて進路変更を行い、さらに先へと走らせる。

 

 シアもそれに追従してバイクを走らせ、男子の目線がそちらに向かう。

 

 それを無視しつつ〝直感〟の反応を確かめていく。

 

 正直なところ、俺の〝直感〟は反応する時としない時がある。それがどのようなタイミングで反応し反応しないのかは俺にも分からない。

 

 しかし、主に命の危機や強大な敵などの危機的状況には必ず反応する。

 

 今回反応しているのは、二つ。

 

 一つはこの山脈地帯には珍しい人間の反応。これが行方不明者であるのは間違いない。幸いにもそこまで急ぐ必要はなさそうだ。

 

 もう一つは……敵の反応。それもかなりの大きさだった。

 

 それが、空にいる。

 

 

「大物だが……来るか、来ないか」

 

 

 来ないのであれば構わない。戦う敵がいないのは楽でいい。

 

 だが来るようであれば……その時は殺す。

 

 

「……この状況を見るに、来ないわけもなさそうだが」

 

 

 こんなにも車を走らせているというのに、魔物が一匹も見受けられない。

 

 ある地帯で魔物の群れが確認された、という話だったが、その影響で魔物が逃げ出した……というにはあまりに気配がなさすぎる。

 

 そして逃げ出したとすれば、その魔物たちは一体何処に消えた? 

 

 ただの大量発生、というには不自然すぎる。

 

 

「思った以上の面倒事だな、これは」

 

「紅郎さーん? どうしましたかー?」

 

「なんでもない。それより前を見ろ、転ぶぞ」

 

「は〜い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車である程度進み、今度は徒歩で山を登っていく。

 

 南雲は新たに作った鳥型の〝無人偵察機・オル二ス〟で周辺を捜索、痕跡はないか探していた。こういう俺では手が届かないところを探してくれるのは本当にありがたい。

 

 〝直感〟の反応からしてこのペースで進めれば遭遇するのは難しくない。その分、大きい反応も近づいて来ているようだが……

 

 しかし。

 

 

「もうちょっと早くできないか。急いでるんだが」

 

「む、無茶、言うな、よ……げほっげほっ」

 

「ひゅー、ひゅー……」

 

「はぁ、はぁ」

 

 

 なんとなく予想していたが、クラスメイトたちは俺達の移動速度についていけなかった。

 

 ユエは魔力強化で、同じくシアも魔力強化で身体強化を行うことで問題ないが、クラスメイトたちは体力が限界のようだった。

 

 ……全力疾走でどれだけの人間が体力を持たせられるのか。その結論が目の前の惨状だった。

 

 仕方ないので先生たちはここで休憩してもらって、先に俺達だけで進ませてもらうことにした。まあ元々先生の方から来たんだし、頑張ってもらおう。

 

 そうして先に進んだ俺達は小川と言うには少し規模の大きな川に到着。魔物が周辺にいないことを確認した後、捜索の方針を話し合った。

 

 とはいっても、どうしても捜索の大部分は南雲に頼らなくてはならないので、〝オルニス〟を上か下、どちらに割り振るのかという話し合いになっていた。

 

 

「どっちにしようか?」

 

「……反応があるのは下だが、この位置からなら上だな。南雲、頼めるか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「ん……」

 

「〜♪」

 

 

 捜索の要になるのは南雲なので逆に手持ち無沙汰になった二人、ユエとシアは川に足をつけて気持ち良さそうにしている。

 

 しばらくすると先生たちも追いついてきて、素足を曝け出している二人に男子からの熱い視線が送られる。視線に気付いたらしく、二人とも川から足を出した。

 

 

「これは……」

 

「南雲、何があった?」

 

「川の上流に……盾、鞄……まだ新しいみたい」

 

「わかった。行こう」

 

 

 南雲が〝オルニス〟から見つけた痕跡へと急行する。

 

 そこには確かに南雲の言っていた痕跡があり、盾……ラウンドシールドや鞄が散乱していた。

 

 盾に関してはひしゃげて原型を留めていない。鞄に関しても紐が切れている状態だった。

 

 少し周辺を探せば、争いの痕跡も発見できた。恐らく件の冒険者たちが魔物と交戦したのだろう。

 

 遺留品と思わしきものも発見でき、しかし数が多いため身元特定に繋がるものだけを優先して拾い、中には写真の入ったロケットも確認できた。

 

 この様子からして、冒険者パーティが全滅あるいはその一歩手前にいるのは間違いなさそうだった。

 

 更にここから東に行ったところに大規模な破壊跡が確認できた。

 

 そこは大きな川であり、水量も多く流れも激しかった。本来なら真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。

 

 ……レーザー、があるとは思えないから、恐らくヒュドラみたいなドラゴン系のブレスか。となるとあの大きな反応は……いや、それ以上に気になる部分があるな。

 

 何故かはわからないが、他の魔物の痕跡も見られた。足跡からして情報にあったブルタールというオークに似た魔物……それがなんでドラゴンと同じ場所にいるのか。

 

 ……敢えて思考から外していたが、もしかすると……いやそれを考えるのは後にしよう。

 

 反応は近い。下の方だな。

 

 

「下に行こう。もし生きているのなら町から遠ざかるとは考えにくい」

 

「あ、おい、桜田!」

 

「……いいの? あれ」

 

「えっと、大丈夫だと思います。紅郎さん、こういう時には間違えませんから」

 

 

 川を下り進んでいく。すると今度は大きな滝へと当たった。

 

 滝の崖を軽快に降りていき、反応の出所を探し……意外な場所に反応があった。

 

 南雲も気付いたらしく驚いた様子でこちらを見ていた。

 

 

「紅郎、これって」

 

「大当たりだな。反応はあったが、生きてるとは思ってなかった。ユエ、頼む」

 

「ん。〝波城〟〝風壁〟」

 

 

 滝壺……その奥に反応があった。

 

 まるでユエは魔法を使い、モーセのように滝を割って入口を作ってみせた。

 

 先生たちは驚愕のあまりにぽかんと口を開けたままになっていたが、俺達が気にせず中へと潜るとそれに気付いて急いで後を追いかけてきた。

 

 中には洞窟が広がっていたらしく、それなりの広さがあるようだ。

 

 最奥まで進むと、一人の男が倒れているのが見えた。歳が二十くらいの青年だろうか。間違いないだろうが、彼が行方不明者の一人だろう。

 

 先生たちは心配そうに顔色の悪い青年を見ているが、滝の外に大きな反応が来ていることを感じ取った俺としてはあまり悠長にはしてられない。

 

 なので無理矢理叩き起こした。

 

 具体的には刀の頭で額を叩いて。先生たちは戦慄の表情を浮かべていた。

 

 

「ぐわっ!? いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

「……長くなりそうだな。時間がない、南雲は状況説明を頼む。俺は外にいる奴の相手をしてくる」

 

「例の奴だね。わかった、気を付けて」

 

「桜田くんっ? 何処に……あっ!」

 

 

 先生たちを置いて、滝の外へと走り出す。

 

 なぜ彼……恐らく依頼対象のウィル・クデタと思わしき男を狙っているのかは不明だが、明らかにこの大物……竜はウィルを探していた。

 

 そして今、滝の外にそいつはいる。ブレスを放ったり突っ込んできたりしないのは不明だが……確実な証拠が欲しいのだろうか。

 

 ……わかってはいたが、人為的なものだな。今このタイミングでブレスを撃たれるのが一番危なかった。

 

 だから、先に俺が出る。

 

 流れ落ちる水の激流を超えた先、確かにそいつはそこにいた。

 

 空中より金の瞳で睥睨する、黒い鱗を持つ竜。

 

 

「グゥルルルル」

 

 

 唸り声をあげる黒竜。

 

 恐らくは冒険者パーティ全滅の原因。圧からして油断していい相手ではなさそうだ。

 

 ならば先手必勝。

 

 

「ふっ!」

 

 

 距離が離れているから〝高速抜刀〟を交えた〝飛刃〟を連続で飛ばす。

 

 高速で飛来した見えない斬撃。それは確かに黒竜へと命中し、血を飛び散らせた。

 

 

「グゥルァ!?」

 

「……浅いな」

 

 

 しかし、傷が浅い。大したダメージにはなってなさそうだ。

 

 肉が硬い……のもあるだろうが、それより鱗か。まず剥がさないと大きなダメージにはならないな。

 

 ……それよりも腹を狙ったほうが早いか?

 

 そう思考していると黒竜の口に魔力が収束しているのが見えた。このまま消し飛ばしてしまおうという判断か。

 

 黒竜から黒色のブレスが放たれる。直撃すれば、俺の耐久力では死ぬかもしれない。

 

 あくまで直撃すれば、だが。

 

 

「〝和御喰〟」

 

 

 ブレスに合わせ刀を振り上げ、喰わせる。

 

 放たれたはずのブレスは刀へと収束するが、ヒュドラの時のように刀が壊れたり受け止めきれなかったりはしない。

 

 この程度であれば、十分許容範囲内だ。

 

 

「お返し、だっ!」

 

 

 刀を振り下ろし〝飛刃〟に纏わせ黒色の刃を放ち返す。

 

 それを避ける間もなく直撃した黒竜は「グゥルァァァァ!」と先ほどよりも大きな声を上げて空から地へと落ちた。

 

 胴体からは血が流れ続け、ただの〝飛刃〟よりも大きなダメージとなったのが伺える。

 

 黒竜はこちらを睨んでいるが、もう飛んだりはしない。ブレスも放たない。同じことをしても二の舞いになると学習したのだろう。

 

 それにしても、随分と知性……というより意思が薄いな。

 

 〝直感〟の反応も最初から妙だった。大物だし敵ではあるが、まるで人形を相手にしているような……

 

 人形……奈落にいたアルラウネとは別物の支配能力か?

 

 

「まあ操られてるなら斬ればいいか」

 

 

 そう結論つけると、刀を納めて抜刀の状態へと移行する。

 

 しかし斬るにしてもあの鱗が邪魔だ。

 

 なら。

 

 

「まずは、その鱗から剥がしてやるよ」

 

 

 そう口にした俺を見る黒竜の瞳には、なぜだが恐怖があるような……そんな気がした。

 

 多分気の所為だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ウィル・クデタを発見した紅郎パーティ(+α)。

 

 戸惑い、現状を把握できていないウィルだったが紅郎に任されたハジメが彼に(若干乱暴に)説明を行い……

 

 

「あっ、あなたたちはっ! 竜がいるとわかって、彼を一人で行かせたのですか!?」

 

 

 なぜだか怒らせてしまった。

 

 なぜ怒るのか。理由はわからないでもない。

 

 ウィルの同行したパーティを全滅させた竜とは、ウィルにとってそれだけ恐ろしい存在なのだろう。

 

 それを、たった一人で、向かわせた。

 

 それがウィルの怒りを買ったようだ。

 

 

「あなたたちは何もわかっていない! イルワさんから依頼を受けたあなたたちは確かに強いのでしょう! ですが一人で挑むなど自殺行為だ!」

 

「お、おい南雲……でいいんだよ、な? 早く桜田のところに行ったほうが良くないか? いくら迷宮から帰還して強くなったからって、一人で竜は……」

 

 

 ウィルは怒りのままに言い募り、それを見たクラスメイトの一人はようやく危機感が芽生えてきたのか、未だにハジメのことを愛子から教えられても半信半疑になりながら、紅郎の元へと急ぐべきだと口にする。

 

 そしてその意見は他の同行者達も同じようで、紅郎の向かった方角を心配そうに見ていた。

 

 しかし、その心配をしているのは彼らだけであり、残った三人に危機感はなかった。

 

 

「紅郎さんが負ける……負けますかね、紅郎さん」

 

「……ん、想像つかない」

 

「実際に見てみないとわからないよね。ほら、行くよ」

 

 

 そう言い歩き出した三人を追いかける一行。

 

 誰一人として焦りを見せないハジメ、ユエ、シアになぜここまでと困惑が強いクラスメイトたち。

 

 ウィルも怒りが過ぎて冷静になったのか、言葉を選びながら紅郎をよく知る彼女たちに問いかける。

 

 

「何か、勝算があるのですか?」

 

「勝算……というより、事実だよ。別に私達が一緒に行っても良かったんだけど─────」

 

 

 そこまで口にして止めたハジメは、何処か悔しそうにしていた。

 

 そして、怒りを堪えているようでもあった。

 

 

「─────紅郎は、一人の方が強いから」

 

「……ん」

 

 

 ハジメのその言葉に、ユエも静かに頷いた。

 

 彼女の言う、一人の方が強い、という意味。

 

 ウィルも、愛子も、クラスメイトの誰もがそれに疑問を持った。

 

 ─────その言葉の真実を知ったのは、洞窟を出た後のことだった。

 

 

「これ、は……」

 

 

 言葉が出ない。まさしく今の彼を表すのに相応しかった。

 

 ウィルの見た光景は、とてもではないが信じがたいものだった。

 

 あんなにも冒険者パーティを蹂躙した黒竜が。

 

 あれはど歯が立たなかった化け物が─────

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、終わりか?」

 

「グ、ゥルルルル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────今、彼の目の前で傷だらけの状態で倒れ伏している、などと。

 

 手に持つ武器は見たことのない形をしていた。刃は紅く、まるで血のようだった。

 

 黒竜は何箇所も鱗が剥がれ、大小無数の斬り傷から血が辺りに零れ落ちていく。

 

 満身創痍。そう例えるのが正確な状態だった。

 

 しかも黒竜には翼がない。まるで斬り落とされたかのように……いいや、実際に斬り落とされたのだろう。

 

 誰から見ても、勝者は紅郎だった。

 

 

「ほら」

 

「……ん、さすが紅郎」

 

 

 二人は当然という顔をする。

 

 あの紅郎が─────()()()()()()()()()()()()()()()()紅郎が、あの程度の存在に負けるはずがなかった。

 

 彼女たちはそれを何よりも知っていたから。

 

 ─────しかし。

 

 窮鼠猫を噛む、という言葉がある。

 

 

「あっ!」

 

 

 愛子が声を上げた。

 

 最後の力を振り絞ったか、黒竜が予兆もなく紅郎を噛み砕こうと顎門を開ける。

 

 危ない、と誰かの声が聞こえる。

 

 牙が目の前にあっても微動だにしない紅郎の死を、誰もが予想し、

 

 

 カチン

 

 

 ただ、鍔が鳴った。

 

 

「〝紅刈喰〟」

 

 

 紅郎は静かにその名を呟く。

 

 黒竜は顎門を開けたまま、ただ微動だにせず。

 

 力を失ったかのように、その場に倒れた。

 

 その身体にはもう既に力はない。

 

 完全に気を失った黒竜は倒れると同時に黒色の魔力に繭のように包まれ、その姿を人間のものへと変えた。

 

 気を失ってはいるが、一目見ただけでも黒髪の美女とわかる整った顔立ちをした女性だった。

 

 黒竜であった女性が倒れ、それを見る一人の剣■。

 

 

「……さて、後処理だな」

 

 

 ただ勝者(化け物)だけが、そこに立っていた。




 ぶっちゃけ紅郎なら一人でも大迷宮攻略は不可能ではないという……まぁ神代魔法取得できないんですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。