「知ってることは全部話してもらうぞ」
「うむ、わかっておる。わかっておるから、その、後ろから刃を突きつけるのはやめてくれぬか……?」
「お前が話し終えたらな」
黒竜を倒したら美女でした。
……異世界だし、そういうこともあるだろう、うん。ユエとシア、それに南雲の件で慣れたよ俺は。
俺達は黒竜……ティオ・クラルスと名乗った女に、なぜウィルを襲ったのかを聞こうとしていた。
ティオ・クラルスは強敵だった。斬っても斬っても倒れないタフネスに強靭な肉体、面倒だと何度思ったことか。
……いやまあ、どうにか殺さず捕らえられないかと相手を削るのを優先し、手加減したからというのもあるが。
ティオ・クラルスから語られたことは、端的に言えば「とある男に操られてウィルを襲うように命令された。自分を操っていた男は数千にも及ぶ魔物を従えていた」というものだった。
より詳しく説明すると、まずティオ・クラルスは竜人族最後の生き残りであるクラルス族の姫であるらしい。姫云々はどうでも良いが、竜人族には表舞台には関わらないという掟があるそうなのだが、例外的にティオがやってきたらしい。
その理由は、数ヶ月前に起こった大魔力の放出とそれにやって来訪してきた『何か』の確認。つまり、召喚された俺達のことだ。
それを調べるために竜人族の里を出たティオ・クラルスだが、長旅の疲れを取るために山脈地帯で竜の姿のまま眠りについたらしい。
その隙を付かれて、男に闇魔法による洗脳と暗示を掛けられ今に至る。
……ちなみに闇魔法の支配は丸一日掛かったそうだ。
「間抜けか?」
俺のその言葉や、南雲やユエ、シアにクラスメイトたちの馬鹿を見る目に明後日の方向に視線を向けながら話を続けた。
自身を洗脳した黒ローブの男は人間族の、それも闇魔法に天賦の才を持つ男で自身を洗脳した時は「これで自分は勇者より上だ」等と言っていたらしい。
「ふざけるな……操られていたから、彼等を殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」
話の途中だったが、ウィルは殺された冒険者たちのことを思い出して激昂していた。
「大体、今話したことが本当かどうかなんてわからないだろうっ! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってるっ!」
「……」
ティオ・クラルスは、反論はしなかった。
図星だったから、という理由ではない。例え操られていたとしても彼等を殺したのは事実だったから。
だから反論の一切をしない。そう言われて当然だ、と受け止めている。
……竜人族について、奈落で軽くユエに教えてもらったことがある。
彼等は、高潔で清廉な種族であると。
「……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」
「それを信じろとでもっ……!」
「……きっと、嘘じゃない」
静かに答えたティオ・クラルスに言い募ろうとしたウィルを止めたのは、ユエだった。
「っ、何を根拠に……」
「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
「ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?」
「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」
「何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……」
「……色々話してるところ悪いが、そろそろ次に移って貰うぞ」
「む、すまぬ」
「あんたも、その怒りはわかったから話を進ませろ。……誰の遺品かは知らないが、これもある。大事に持ってろ」
「こっ、これはっ!」
─────話を戻すが。
男は洗脳した魔物を使って町に攻め込もうとしているらしい。当然、町とはウルのことだろう。
黒ローブの男のことで心当たりでもあったのか動揺していた畑山先生一行だったが、南雲が呟いた言葉でそれどころではなくなっていた。
「三千や四千どころじゃない。桁が一つ追加されるレベルだよ」
どうやら既に出遅れていたらしい。
魔物は万を超える数を進軍させているらしく、進行方向には当然ウルがある。
このまま行けばウルは壊滅……どころでは済まないだろうな。
ウルを侵略しても終わらないなら、被害はとんでもないことになる。
「……紅郎はどうしたい?」
「……どうするかな」
「どうするって……早く町に戻らないと!」
「町に戻った後どうするのか、ってことだよ」
そうなんだよ、そこなんだよ。
とりあえずウルまで戻る。それは確定している。では戻ったらどうするのか。
一、魔物を迎撃する。
二、町に伝えたあと離脱する。
……俺個人の意見としては一を推したいところだ。
敵でもない命を見捨てるっていうのは、どうにも気分が悪い。それも少し手を伸ばすだけで助けられるのであれば、特に。
それに恐らく、敵の質自体は大したことはない。ヒュドラクラスが群れで襲ってでも来ない限り、俺一人が群れに突っ込むだけで片がつく。
……それに仲間を巻き込むっていうのが、どうにもな。
何せこれはあくまで俺個人の意見でしかない。
シアはともかく、南雲は……見捨てることに躊躇いはないだろうな。
「あの、紅郎殿なら何とか出来るのでは……」
「……出来る。俺が一人で群れに突っ込んで殲滅してくればいいだけだからな」
「あの、今の発言がおかしいと思うのは私だけ?」
「安心しろ、皆思ってるから」
まるで頭のおかしいやつを見るような目で見るのはやめろ。
……いや、改めて考えてみれば間違ってないのか。昔の俺じゃ考えられない無茶だな。
それが今では無茶ですらないというのが、なんとも。
けどやるにしても聞かなければならない相手がいる。
それはもちろん、南雲だ。
彼女がよしと言わなければ、ウルを助けることは出来ない。
「南雲」
「……良いけど、条件がある」
「なんだ」
「─────魔物の殲滅は私達がやる。紅郎は下がってて」
「……なんだと?」
南雲から予想外の言葉が返ってきた。
確かに敵の脅威度はそこまで高くはない。数々の兵器を保有する南雲なら、例え俺がいなかったとしても魔物を殲滅するのは難しいことではない。
だが……いいや、違う。
俺は、信じられていないのか?
「そうじゃなきゃ行かないから。私達のことを信じてるのはわかるけど……それでも、もっと頼ってよ」
「……わかった。頼めるか?」
俺は、折れることにした。
俺としては普段から頼っているつもりだった。けど、彼女達から見たら、俺は一人でどうにかしようとしているように見えたのだろうか。
……考えなくてはならないことが出来てしまったようだ。
「ありがとう。ユエとシアも、それでいい?」
「……ん、大丈夫」
「皆さんが問題ないなら私も大丈夫ですよー!」
「あとティオ、貴方にも手伝ってもらうから」
「勿論、妾にも責任がある以上、否はない」
「よし、それじゃあ急ごう。話は乗りながらでも出来るから」
〝宝物庫〟から車を取り出し、南雲は次々と乗せていった。最初は驚いたウィルもアーティファクトの類いだとわかると恐る恐る入り込んでいった。
ティオ・クラルスは魔力が尽きて動けないそうなので誰かが運ぶという話になったが、それが決まる前に南雲が首根っこを掴んで「せ、せめてもう少し優しぐふ」車の荷台に乗せていた。
俺は変わらず定位置で、しかし先程の自分の心に頭を悩ませながらも、車は走り出した。
ティオはヒロインである。◯か☓か
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◯
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☓