ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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訓練、夜の試合

 あの日から2週間。

 

 この2週間、クラス全員がみっちりと訓練した。俺の場合は、特に模擬戦が多かったように思う。

 

 最初は他のクラスメイトたちとだったが、次々倒していくと最終的にメルド団長や八重樫、あとは天之河ぐらいしか相手にならず、メルド団長からは「お前とは実戦で戦いたくない」とまで言われた。

 

 そんな俺の今のステータスはこうなっている。

 

 

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桜田紅郎 17歳 男 レベル:15

 

天職:剣鬼

 

筋力:160

 

体力:160

 

耐性:90

 

敏捷:410

 

魔力:60

 

魔耐:60

 

技能:剣術[+無拍子][+抜刀速度上昇][+斬撃速度上昇][+斬撃範囲拡張][+斬撃力上昇][+飛刃][+痺剣]・先読[+思考加速]・縮地・気配遮断・威圧・直感・求道・言語理解

 

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 こんな感じである。だいぶイカれてる、とメルド団長からは言われた。「こんなぽんぽん派生技能を増やされてたまるかっ」と。

 

 なぜこんなにも派生技能が増えているのかと言うと、先程言った通り模擬戦を繰り返したからだ。

 とにかく剣を振るい、それ以外を後回しにした。その結果がこのステータスである。

 

 まぁ座学までサボってしまったので「訓練もいいが座学もちゃんとやれよ」と叱られてしまった。

 

 しかしながら鍛えに鍛えたおかげか、メルド団長からは「俺からお前に教えられることは何もない」というお墨付きまでもらい、訓練が免除となった。代わりに「今のお前に必要なのは座学だ」とも言われ、なくなった分を座学に変えられたのだが。

 

 そんなわけで俺の訓練は座学に切り替わり、今では図書館に入り浸ることが多くなった。

 

 そのせいか、一人のクラスメイトと親しくなれたように思う。

 

 

「南雲」

 

「あ、桜田くん」

 

 

 図書館に行けば、本を読んでいる南雲を見つけたので声を掛ける。南雲とは何かと一緒にいるようになり、南雲から何か知識を教わることが多くなった。

 

 最初こそ互いに離れて本を探していたが、たまたま同じ本を探していた時に初めて会話をし、気軽に喋れたのが続いているのだ。

 

 

「今日の進捗はどうだ?」

 

「うーん、まぁぼちぼちって言ったところ。今はまだ魔力量と技量が知識に追いついてない感じだよ。でも細かい操作は出来るようになったと思う」

 

「そうか。それならこいつの形も変えれたりするか?」

 

 

 聞いた感じでは進捗は悪くはないらしい。細かい操作ができるようになったと言われたので、手持ちの短剣を南雲の前に出して変えられないか聞いてみた。

 

 南雲は「うーん」と悩んだあと、すぐに「できると思う」と言った。

 

 

「どんな形にするのかにもよるけど」

 

「いや、短剣じゃなくて短刀にしてもらおうかな、と」

 

「あー」

 

 

 南雲は納得したようにうんうんと頷いた。

 

 

「この世界って刀がないからね。西洋剣よりも刀の方が得意なの?」

 

「そういうわけでもないんだが……どうにも抜刀がしにくくてな。一応、アーティファクトは片刃の剣を貰ったんだが……」

 

「やっぱり使いにくい?」

 

「ああ。多分、八重樫もそうだろう。アイツの実家は道場だと聞いた覚えがある」

 

 

 他愛もない雑談をしながらも、南雲は俺の出した短剣に触れて「錬成」と呟き、形を変え加工していく。

 しかし途中のところで止まってしまい、南雲は眉を顰めながら「やっぱり魔力が足りない」と言った。

 

 

「しばらく借りることになるけど、いいかな?」

 

「構わない。それが主に使う武器でもないからな」

 

「ありがとう。出来たらちゃんと返すね」

 

 

 話が途切れたところで、互いに自分たちの見つけてきた本を読み、静かな時間が流れる。

 技能として言語理解を持っているせいか、なぜか異世界の文字でも意味がわかってしまう。そのため、本を読むのに苦労しない。

 もし地球に戻れたのなら英語の科目は無敵なのではなかろうか。

 

 そうして、南雲の訓練の時間が始まるまでの間、同じ場所で本を読み続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠征、か」

 

 

 ベッドの上で寝転がりながら、明日行われることを呟く。

 

 いつもであれば、訓練の時間が終われば夕食の時間まで自由時間になるはずなのだったのだが、メルド団長の部下の人に呼ばれ、クラスメイトの集まる場所へと向かうこととなった。

 メルド団長がクラスメイトたちに告げたことは、オルクス大迷宮という場所で遠征に行く、というものだった。

 

 今までの……王都外で行われた実戦訓練とは一線を画すらしく、クラスメイト全員が参加することになっている。

 

 それにはもちろん、南雲も含まれる。

 

 

「……訓練するか」

 

 

 ベッドから起き上がり、近くに置いてある木剣を手に取ってそう独り呟くと、訓練施設に向かうために歩き出した。

 

 南雲は生産職であり、当然ながら戦いには向かない。交流を深めてみてわかったことだが、戦いに向かないのは天職だけでなく性格もだ。

 南雲は、誰かに敵意や悪意を持つことが苦手なように思う。誰かに殴られたとしても、反撃をしようとしない。

 

 止めることはできないのはわかっているが、遠征には行かないでほしいというのが、俺の本音だった。

 

 

「さて」

 

 

 訓練施設に着き、持ってきた木剣を正眼に構える。

 

 そして、脳内のイメージ通りに身体を動かす。

 

 上、右、右、左、上、下、下、左──────そうやって、剣を振るう。

 

 身体の動かし方には2つの方法がある。一つは脳を通して肉体に命令する方法。もう一つは、脳を通さない無意識の反射によって動く方法。

 剣士は本能で動くものではない。理性で動くものだ。そのため、反射というものとは無縁でなくてはならない。

 

 無意識で剣を振るうなど、日常生活に支障が出てしまう。敵どころか味方も切ってしまっては駄目なのだ。

 

 だから脳内でイメージする。イメージと現実をすり合わせ、実行する。

 

 

「───ふぅ」

 

 

 木剣を下ろし、下段の構えを維持する。

 

 これで終わりではない。まだ時間は十分に残っている。明日のことも考えても、あとニ時間ほどは───そう思っていた時だった。

 

 目の端に、よく知った顔が見えた。

 

 

「……八重樫か」

 

「ごめんなさい、邪魔したかしら?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

 何処かの帰りなのか、八重樫が訓練施設の入り口から出てきた。

 

 どのあたりから見ていたのかは知らないが、特に用事があったわけではないのだろう。あるのであれば、俺に気づかれる前に声を掛けたはずだ。

 

 

「八重樫は、なんでここに?」

 

「……その、ちょっと眠れなくて」

 

「なるほど」

 

 

 あり得る話だ、と思った。

 

 初めての大迷宮。あくまで訓練であるのは明白だが、しかし実戦だ。何かの間違いで死んでしまうこともあるだろう。

 そういった死への恐怖は、人間である以上消せるものでもない。

 

 だからこそ、俺は明日に備えて訓練を行っているのだ。

 

 

「いつからいたんだ?」

 

 

 少し気になったので聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

 

 

「桜田くんが部屋を出たあたりから、かしら」

 

「……それかなり最初じゃないか」

 

 

 だいぶ前から付けられていたらしい。気配を察知する技能を持っていないとはいえ、気付けなかったのはそれなりにショックだった。

 

 

「声を掛けようとは思ったのよ? ただ、何処に行くのか気になって……木剣なんて持ってたし」

 

「俺はそんなに危ないことをしそうな雰囲気出してるか?」

 

「え!? いえっ、そんなことないわ、よ?」

 

「なぜ疑問形なんだ」

 

 

 はぁ、と一息つく。

 

 本当なら一人で訓練するつもりだったのだが……ちょうどいいし、八重樫には少し付き合ってもらおう。

 

 

「八重樫、今は暇だな?」

 

「え?」

 

「少し付き合え」

 

 

 タイミングよく置いてあった模擬戦用の剣を八重樫に投げ渡す。八重樫はそれを危なげなく受け取り、両手で柄を持って構えた。

 

 

「いいけど……勝敗は?」

 

「剣を離すか、参ったと言わせること。それじゃあ、やるか」

 

 

 俺も剣を構え、八重樫に向き合う。

 

 八重樫も雰囲気を変えて構え、間合いを見計らう。さすが八重樫、スイッチを切り替えるのが早いな。

 

 そう思っていたところで、八重樫の足が動いた。

 

 

「ふっ」

 

 

 突き。ただ真っ直ぐに貫かんとするそれは単純、故に早い。しかし見切れないほどではない。

 

 真っ直ぐ進む突きを払い、弾く。八重樫はその勢いを利用して横一閃に繋げた。

 その一閃に合わせてタイミングよく、そして力強く剣をかち合わせる。

 

 反応は、劇的だった。

 

 

「っ!」

 

 

 剣と剣がぶつかり合う音が、静かな暗闇の中で響く。それと同時に、まるで時が止まったかのように八重樫の剣も止まる。

 

 俺の持つ派生技能に、痺剣というものがある。

 硬いもの同士をぶつかり合わせ、ぶつかった部分が数秒間動かせなくなる、というものだ。

 

 今回、八重樫にはそれを使った。

 

 八重樫の動きが止まった瞬間を見逃さず、剣を跳ね上げる。

 

 カランカランと、剣が地面に落ちる。

 

 

「あ……」

 

「───今回は俺の勝ちだな」

 

 

 俺の宣言と共に、八重樫は降参の意を示すように両手をあげる。しかし顔はジト目でこちらを見ていた。

 

 

「……ずるくないかしら、それ」

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍、だ」

 

 

 八重樫の不満にも、俺は何のこともなく言い返す。

 

 負けたほうが悪いのだから文句は言わせない。いやまぁ、何も言わずに技能を使ったのは……少しムキになってたか? ごめん普通に罪悪感あるわ。

 

 八重樫は、それ以上言ってくることはなかった。

 

 ただ座り込んで、見上げてくる。

 

 

「……強いわね」

 

「俺はまだまだだ。メルド団長にも勝ち越せてない」

 

「でも、勝ち越すんでしょう?」

 

「当然だ。下地が違うんだから、負けるわけにはいかない」

 

 

 異世界から呼び出されたものは、この世界の人間よりも強い力を持っている。

 南雲はともかく、ステータスで勝っているのに負け続けるのは努力不足に他ならない。

 だから、メルド団長もいずれ勝ち越す。強くなるとはそういうことだ。

 

 

「……責任感なのかしら

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ、何も。桜田くんはこれからどうするの?」

 

「……もう少し続けるよ。突然付き合わせてすまなかった、八重樫。あとは一人で大丈夫だ」

 

 

 無理矢理手伝わせてしまった感じなので、少し負い目があった。少なくとも一度でも戦えたのだから、これ以上はいいだろう。そう考えていた。

 

 

「それ、本気で言ってる? ここまでやったんだから、最後まで付き合うわよ」

 

「……いいのか?」

 

「いいの。負けたままじゃ終われないし」

 

 

 八重樫の言葉に、素直に「ありがとう」と伝えておいた。一人でやるよりも、二人でやる方がずっと自分のためになる。

 

 互いに剣を構え、相手を見合う。

 

 

「今度は技能なしね?」

 

「わかった」

 

 

 彼女との訓練が終わったのは、それから一時間後のことであった。

 

 

 




雫との訓練を少し修正。なんか違和感がありまして。
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