八話。
ウィルを連れてウルの町を離れ、依頼主であるイルワのいるフューレンへと走らせていく。
竜人族であるティオとの戦闘や魔物の殲滅戦など、予定外のことが多々ありつつも問題らしい問題はなく依頼を達成できたと言えるだろう。
とはいえ、今回は派手に暴れたので南雲のアーティファクトの存在が人族も魔人族も関係なく周知されることになるが……南雲はこれを逆に丁度良いと判断していた。
「私のアーティファクトが目立つことで、逆に紅郎が目立たなくなる。もし目立ったとしてもアーティファクトによるもの、と解釈されやすくなると思う」
つまり、南雲がインパクトあり過ぎることで俺を過小評価する者が増え、俺の異常性と強さを見誤るだろう、と。
でもそれって、南雲が狙われやすくなるということではないだろうか。それは俺としては嫌なのだが……
最終的にどう判断されるのかはわからないが、敵が南雲を狙う可能性が大きくなるのならより気をつけなくてはならないだろう。
ただ他にもメリットはあるらしい。
それは隠す必要性がなくなる、というもの。
例えばアーティファクトである車を見られないように町に入る前に仕舞っておく必要があったが、今は違う。どうせバレてるのならと遠慮がなくなったのである。
……まぁそのせいでフューレンに到着し町に入ろうとしたら、ちょっとした騒ぎが起こったが、大したことでもない。
精々がナンパしようとした男が股間スマッシュされただけだ。俺はもう慣れた。
そのようなことがありつつも、依頼主であるイルワは門番に話を通していたらしく、特徴の合った俺達は待機列を無視してフューレンに入ることになった。
そしてそのまま冒険者ギルドに直通、イルワをウィルと再会させ目的を果たした。
「今回はありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」
「ウィルが幸運だっただけだ」
「確かにそれもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様、と呼んだほうがいいかな?」
「……知ってるならわかってるだろうが、それをやったのは俺じゃないぞ」
「勿論知っているとも。けど、例え君一人だったとしても同じ結果になっていたんじゃないかな?」
「かもな。話すのは良いけど、その前に報酬を頼む。ついでに連れが一人増えたが……「うむ。二人も貰うのなら妾の分も頼めるかの」……構わないか?」
「ふむ。確かにプレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」
イルワが既にウルの町での殲滅戦を知っていることには驚かなかった。大方、遠距離通話が可能なアーティファクトでもあったのだろう。
ちなみに途中で出てきた女神の剣という呼称についてはスルーした。南雲の顔が引き攣ってたから変に触れずに気にしない方が良いのだろう。
イルワは約束通り、報酬の一つであるステータスプレートを人数分用意した。
そこで見た三人のステータスは……予想通りというか、なんとも凄まじいものだった。
「いやはや……何かあるとは思っていたが、まさかここまでとは……」
イルワは冷や汗を垂らしながら引き攣っていたが、この世界での常識を考えればそうなるのも無理はない。
まずユエだが、魔力以外はそこまででもないがその魔力に特化した構成で軽く数千を超えている。技能も魔法特化であり派生技能も多く、さらには吸血鬼としての技能もある。
そこに神代魔法も追加されているのだから、規格外と言える。天職の神子というのに〝直感〟が反応しているのが気になるが……今は置いておこう。
シアには天職があったらしく占術師が、技能に未来視と魔力操作が記されていた。ユエと比べると技能の数こそ少なく魔力も劣るが、強化された身体能力は圧倒的大差を付けている。
それに、レベルが低いということはまだまだ成長の余地があるということ。将来有望だな。
最後にティオだが、竜人族というだけあって素の能力や魔力、それに竜となった時の能力も相当なものだ。それに技能の数も充実しており、ユエとシアの中間、という感じだった。
総評して、三人はこの異世界において怪物級、即ち南雲に並ぶ規格外であると断言できる。
……ティオと同じ竜人族がどうなのかは、直接見ていないので不明だが。
それに、ユエとシアにも南雲が以前言っていた文字化けした技能があった。詳細は相変わらず不明。ティオにはなかったのは、さてなぜなのやら。
「約束通り、可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」
イルワは大盤振る舞いし、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。
流石にこれを見て俺達を敵に回したくはなかったらしい。それにウィルを救った恩人である、というのも理由になるだろう。
思わぬ出来事もあったが、これで依頼は達成。
早速VIPルームを使わせてもらい、休息を取ることにした。
明日の予定としては今回の旅で消費した諸々の買い出し。それを終えたらグリューエン大火山に向けて……といったところ。
それを終えても多少時間が余るが……と考えていると。
「紅郎、明日はデートに行こうよ。ほら、ライセンでの約束」
「あぁ、確かに約束してたな。なんでもするって」
南雲が約束を持ち出したので予定を変更。
今日は休息し、明日は俺と南雲でデート……デートか。地球でも初めてだな。
残りの三人が買い出しということになった……のだが、ユエが渋りに渋った。なんなら少し暴れた。何か女の勘が発動して危機的なものを感じ取ったらしい。
最終的にシアが抑え込んで「どうぞお二人は気にせずデートを……あっユエさんちょっと待っ……ティオさんも手伝ってください!」「む、妾もか。仕方な……ユエお主何処からこのような力を……!?」ということがあった。
休息だって言ってるのにこんなに疲れるのは、なんでだろうな……
「紅郎、ハジメともデートするなら私ともデートするべき……!」
「機会があれば二人っきりでするから、今は落ち着いてくれ」
「ん、わかった」
「……ユエ、言質を取った瞬間に急に落ち着いたね」
最終的にこの言葉でユエも納得したらしい。わざとらしすぎる冷静さに南雲は訝しんでいた。
何処かでユエと時間を取らないといけないだろう。それがいつになるのかはわからないが、旅をすればいずれ機会は訪れるだろう。
とりあえずユエの望んだ時に二人っきりのデートを約束し、俺は明日に備えて早めの就寝を取ることにした。
まぁ、実際には寝れないんだけどな。
時間は変わり、日も落ちた夜。
「寝ないのかの、紅郎殿」
そう声をかけてきたのはティオだった。
寝ていたところで起きたのか、寝間着でこちらに近寄ってくる。
寝間着姿でもスタイルの良さが出て、というか良すぎて何処かキツそう。
これ以上はいけない、視線を逸らそう。
「ティオか。お前の方こそどうした」
「何、少し水を飲みたくなっての。しばし歩いておった」
「そうか」
「妾は戻るつもりじゃが、紅郎殿はどうするのじゃ?」
「どうする、って何がだ」
何を聞きたいのか、本当はわかっている。しかし、ここは敢えて惚けた。
しばし沈黙が場を支配する。
これ以上話すつもりはないとわかったのか、ティオはふぅとため息をついた。
「頑固じゃの、紅郎殿は。話したくないというのなら仕方がない。話してくれるまで待つとするのじゃ」
「あぁ、是非ともそうしてくれ。その機会が訪れるかは知らないがな」
「全く……では、おやすみなのじゃ、紅郎殿」
「あぁ、おやすみ」
そうして、ティオは離れていった。
再び月の光に照らされた静寂が戻ってきた。
長い夜はまだ終わっていない。
……ずっと、考えてこなかったことだ。
なぜ俺は変わったのだろうか。
なぜ俺は寝れなくなったのか。
自分のことなのに分からないことだらけだ。
そしてこの変化は、まだ終わっていない。
「それでも、危機感はないんだよな」
地球にいた頃とは変化し過ぎている自分。それでも恐れも危機感もない。
ただ、そうなるのだという確信だけがある。
成るべくして成るのだと。
「……まぁ最悪、」
もし、自分が自分でなくなりそうだったら。
それが仲間を傷つけるようなものだったなら。
その時は─────
「自分で首を断てばいい」
死んでしまおう。
誰かを傷つける、その前に。
こいつ、覚悟決まりすぎて死ぬしかない状況にあると躊躇いがなくなるんすよ……いやまぁ、現在のプロットだとそうはならないし不穏なことも別にないんですけど。
でも死んだら曇るだろうなぁ……