ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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九話


デート、海人族の娘

 

 フューレンの観光区。そこが今回デートする場所だった。

 

 辺りは賑やかであり見渡すだけでも様々なものが売られているのがわかる。

 

 そんな中を、俺達は二人で歩いていた。

 

 

「二人っきりになるの、なんだか久しぶりだね」

 

「そうだな。奈落の時以来か?」

 

 

 南雲は装いを変えてワンピースを着ていた。

 

 普段の服でも美少女っぷりが出ていたが、服装が変わるだけでもイメージがガラリと変わっていた。

 

 ぶっちゃけ可愛い。いつもの服も、意識しないようにしてたが普通に可愛かったが、今は特に。

 

 ……イメージ、で疑問を一つ思い出したが。

 

 

「南雲って雰囲気もそうだけど、なんで地球にいた頃よりも顔立ちが変わって見えるんだ?」

 

「ん? メイクだよ。地球だと男で通してたから女としての要素を出来る限り隠せるようにしたくて、知ってる人に教えてもらったの。今のこの顔が素だよ。ちょっと可愛く見せてるけどね」

 

「へぇ」

 

 

 南雲は何も意識することなどないように、地球でのことを教えてくれた。そこには苦しみも辛さもない。ただ純然な事実だけを教えてくれている。

 

 彼女にとって、過去のことなどもう気にする必要のないことなのだろう。過去を乗り越えた、というべきか。

 

 

「私は今が幸せだから、もう過去のことなんて気にしてないよ。地球に帰ったら、お母さんとお父さんに嬉しい報告が出来るくらい?」

 

「さらっと心を読まないでくれ……」

 

「紅郎のことだもん、わかるよ」

 

 

 そう笑って言うものだから、なんと返せばいいのか分からなくなった。そんなにもわかりやすいのだろうか、俺は。それとも南雲が俺のことを理解しているからなのか……

 

 どちらにしても、今は考えなくて良いことだろう。

 

 誤魔化す意図もあって、南雲の手を取る。

 

 

「わ」

 

「デートなんだろう? なら、色々と見て回ろう」

 

「ふふ、上手くエスコートしてね」

 

「正直自信がないが……なんとかやってみるよ」

 

 

 そうして互いに手を繋ぎ、フューレンを歩いて回ることにした。

 

 少し歩いただけでも色々とあり、劇場や大道芸通り、サーカス、音楽ホール、水族館、闘技場などなど……正直、数え切れないほどの娯楽施設があった。

 

 とりあえず見て回ると言ったのだからと見れる場所は見ていったが、異世界特有の文化もあって飽きないしなんなら面白かった。

 

 南雲は「ん、あそこはもうちょっと……あーでもあれはあれで持ち味活かしてるなぁ」と何処かズレた楽しみ方をしていたが、それも悪くはないだろう。

 

 水族館にも立ち寄り、中には〝念話〟する人面魚リーマン……という立て札だけがあるエリアも有った。どうやら捕まえようとしたが失敗したらしい。

 

 午前の時間が終わり昼頃となったので昼食を取る。そこまでは普通のデートだと言えただろう。貴重な経験ができた。

 

 ただまぁ、異世界はデートを普通に終わらせてはくれないらしい。

 

 最初に気付いたのは〝気配感知〟を常時展開している南雲だった。

 

 

「ん……」

 

「どうした?」

 

「いや、下から人の気配がしたから」

 

 

 下……恐らく地下にある下水道を通る気配を南雲が感知した。それを知った俺も〝直感〟で探り、なるほど確かに感じ取れた。

 

 

「下……いるな。しかもこれは、ちょっと不味いか。南雲、すまないが……」

 

「予定変更だね。いいよ、下水道で流されてるのか動きも早いし、先回りしたほうが良い」

 

「頼む」

 

 

 南雲が走り出し、俺もその後を付いていく。

 

 感じ取れたものに間違いがなければ、下にいるのは職員などではなく小さな子供。恐らく流されている。

 

 何かしらの事情がありそうだが……そういうのを考えるのは後回しにする。

 

 流れている気配を追い越し、通るであろう場所に南雲が錬成を行い穴を開ける。そこに飛び込み下水の流れる両サイドにある通路に降り立つと、件の気配がすぐそこまで来ていた。

 

 幸いにも水面近くにいるので縮地でも使って掻っ攫うか、と考えていたが、南雲が錬成を使って下水道に格子を作って気配の主が引っかかったので、それ引っ張る。

 

 下水を流れる小さな子供。その正体は、一目見ただけで察せられた。

 

 耳が特徴的であり、まるで魚のヒレのようになっているからだ。

 

 

「この子、海人族? どうしてここに……」

 

「大方攫われたとかだと思うが……今はここを出よう」

 

 

 海人族。亜人族という差別される種族の中でもかなり特殊な扱いの亜人だ。

 

 詳細は省くが、ハイリヒ王国の中でも唯一公的に保護されている種族。それがなぜこのような場所にいるのか。推測は出来るが今することじゃない。

 

 南雲が〝宝物庫〟から毛布を取り出し子供を包み、錬成して開けた穴を閉じながら下水道から離れ、それなりに広い場所で浴槽の準備を始めた。

 

 すると、鼻をぴくぴくとさせながら子供がゆっくりと目を開けた。

 

 最初に近くにいた南雲を見て、その後にぐぅという音が聞こえると、視線が俺が食べそこねていた露天の包みにはいった串焼きへとロックオンされた。

 

 右にやると視線も釣られ、左にやっても以下同文。

 

 ……なんだか猫に猫じゃらしでもやってるみたいだな。やったことないけど。

 

 

「……」

 

「……」

 

「何見つめ合ってるの。ほら、まずはこっち」

 

「みゅっ!?」

 

 

 串焼きの匂いに夢中な子供を南雲が抱え、ゆっくりと温かい湯の張った簡易浴槽に浸からせた。

 

 最初こそ怯えがあったがお湯の温かさに浸かると目を細め、強張っていた身体の緊張が解れていった。

 

 その後、湯に浸かる子供を俺が見ておき南雲が子供服を買いに行くことになり、しばらくは静かになったが空腹に耐えられなかったのか湯に浸かったまま視線が包みに向かった。

 

 とりあえず浸からせたままなのも、と思い南雲が残していった毛布で子供を包み、包みから串焼きを取り出し差し出す。

 

 

「あ、ありがと、なの」

 

 

 恐る恐る、といった感じで串焼きを受け取り食べ始めた。

 

 よほどお腹が空いていたのか、食べている間は無言で口を動かしていた。

 

 その間に髪を毛布で拭き取り汚れを取っていく。下水で汚れていたこともあってか、みるみるうちに色が変わり綺麗な髪色が姿を現した。

 

 そうしていると南雲が子供服や必要そうなものを買ってきて、子供に与え始める。

 

 ある程度空腹や服、環境など落ち着ける状況が整ったところで、なぜ下水にいたのかを子供から聞き出すことにした。

 

 辿々しく要領を得ない部分もあったが、大体の事情は理解できた。

 

 

「客が値段をつける、ね。それも子供を売ってるとなると、裏オークションってやつかな」

 

 

 南雲の言った通り、それは裏のオークションとでも言うべきものだった。

 

 それも国に保護されているはずの海人族も攫ってくるとなると、相当に闇が深い。いわゆるギャングとかの仕業だろう。

 

 さて、それを知って俺達に出来ることは二つ。

 

 一つは海人族の子供……ミュウと名乗った少女を保安署という公的機関に預ける。それによって海人族が攫われた事実が明るみに出てフューレンも動いてくれるだろう。

 

 もう一つは……完全に藪蛇だし、態々俺達がする必要もないことだ。言わなくても良いだろう。

 

 ただ……

 

 

「……シアだったら自分の手で解決するか、出来なくてもミュウを故郷に連れて帰ってただろうな」

 

「そうかもね。でも、私達の目的は大迷宮だから……この子を連れて行くのは危険すぎる」

 

「わかってる。俺も連れて行こうなんて言うつもりはない」

 

「……お兄ちゃんとお姉ちゃん、何処か行っちゃうの?」

 

 

 内容を理解していたわけではないのだろうが、話を聞いていたミュウが不安そうに見上げてくる。

 

 このようなこと言うのは心苦しいが、それでも言わなくてはならない。

 

 心『も』鬼(元とはいえ剣鬼なので)にしてこの後どうするのかをミュウに伝える。

 

 結果、暴れ出した。

 

 

「やっ!」

 

「いや、やっじゃなくてだな」

 

 

 ユエと比べたら可愛らしいじたばたとした暴れ方だが、それはそれとして暴れられるのは困る。

 

 どうにか説得するべく口を動かしたが、中々聞いてくれない。何がそんなに嫌なのかわからなかったが、兎に角離れてくれないのだ。

 

 仕方ないので一旦説得は諦め、保安署に行くことにした。その間も暴れに暴れて引っかき傷や髪を引っ張ったりなどされた。

 

 保安署に着いてからも離れてくれなかったので保安員の人に渡すべく無理矢理引き剥がし、後ろから聞こえてくる悲しげな声をなるべく聞かないように後ろ髪を引かれつつもその場を去った。

 

 ……去りは、したが。

 

 もう言ってしまうが、これが今生の別れとは俺は微塵も思っていない。

 

 

「正直なところ、これで終わるとは思えないんだよな」

 

「ミュウを攫った組織がもう一度、ってこと? まぁ逃げ出したのなら捕まえようとするよね、それも海人族なんて。でもそれならなんで置いてきたの?」

 

「保安員の人が守ってくれると思いたかったのが一つと、さっきも話し合った通り旅には連れていけないのが一つ。更に海人族の子供なら売りが優先で命を狙われる危険性が薄いのが一つ。で最後は、そもそも俺の勘が外れるかもと、」

 

 

 ドガァァァァァァン!!!

 

 

「……」

 

「勘が当たったね。それじゃあどうする、紅郎?」

 

「わかってて言ってるだろ……まずは戻ろう」

 

 

 もしかしたらミュウがいるかもしれない、とそんなわけがないと確信しているというのに保安署の方へと走り出す。

 

 保安署は爆発されたらしく、火の手が上がっていた。しかし人的被害は少ないらしくそこまで混乱はなかったようだ。

 

 しかし、わかってはいたがミュウがいない。勿論死体だってない。

 

 代わりに、紙だけが置かれていた。短く一文のみが書かれており、その内容はミュウの生存と俺の仲間たちの受け渡しを要求する旨とその場所が記されていた。

 

 何処からか調べたのか、どうやら滅多に見ないような美少女がいたことから欲に目が眩んだらしい。ミュウを人質にできる、という判断からか。

 

 なるほど、なるほど。

 

 まぁわかりきってたことだが……そう来るのなら、良いだろう。

 

 敵となったなら容赦はしない。

 

 

「潰すか」

 

「だね」

 

 

 言葉は少なく。

 

 しかし、互いに考えることは同じ。

 

 即ち、報復である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけだから手伝ってくれ」

 

「許せませんっ! もちろん手伝わせてもらいます!」

 

「……紅郎、初デートにしては随分激しい」

 

「そういうことであれば、是非もないの」

 

 

 とりあえず紙に記されていた場所に行ってはみたがミュウはいなかったので、今は手当たり次第アジトを襲撃して別のアジトの場所を聞き出し、更に襲撃するを繰り返していた。

 

 流石に数が多いので面倒ではあったが、途中で買い出しに行っていた三人を見つけたので事情を説明。

 

 そうしてパーティ全員でフューレンの闇の組織的な奴を潰すことになった。

 

 今は数が欲しいので俺は一人で向かい、四人には二人二組でアジトを潰して回ってもらっている。

 

 しかしまぁ多いこと多いこと。

 

 潰しても潰してもきりがなかった。

 

 

「てめぇ誰だ」 キン

 

「ころ」 キン

 

「たすけっ」 キン

 

「ば、化け物」 キン

 

 

 下っ端の構成員に用はない。

 

 向かって来た端から〝剣閃領域〟で頭を飛ばす。逃げても同じく。

 

 逃げ出したところで、また人を食い物にするというのならいっそ殺してしまったほうがいい。

 

 殺す度に胃の中が気持ち悪くなるが、まだ許容範囲内だ。

 

 恐らくそのアジトのボスっぽい奴を捕まえ情報を吐かせ、さらに次のアジトを潰してボスから聞き出し、といったようにループする。

 

 組織の構成員を斬り殺し続けている中、〝直感〟が反応する。

 

 

「そっちか」

 

 

 〝直感〟の反応したミュウがいるであろう場所へと走り、その真上で止まる。

 

 場所は地下。隠れてこそこそするにはうってつけの場所だと言える。

 

 下手に暴れて逃げ出されても面倒だ。

 

 ─────ここから直通させる。

 

 刀を抜いて構える。

 

 今回は距離と太さを意識して、その突きを放つ。

 

 

「〝奇虚穿〟」

 

 

 刀は地面を穿ち、障害物となるものを全て消し去った。

 

 空いた穴を覗き込めば、ミュウは丁度真下にいた。

 

 ただし、大きなガラスの水槽に入れられた状態で。

 

 穴から飛び降り、水槽の縁に着地する。

 

 見渡せば、いるわいるわ客と思わしき奴らが沢山。

 

 つまり敵だ。てっとり早く殺し……

 

 

「な、なんだ貴様!?」

 

「……お兄ちゃん?」

 

 

 ざわめきの中から、ミュウの呼び声が聞こえた。

 

 ……あぁ、そうだった。ここにはミュウがいるんだった。

 

 皆殺し、というのは子供の精神衛生上よろしくない。今はそれよりも……

 

 水槽からミュウを引き上げ抱える。

 

 

「迎えに来たぞ、ミュウ」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

 感極まった、というようにミュウは抱きついてきた。

 

 誘拐され、閉じ込められ、一人ぼっちになる。

 

 それが一体、この少女にどれだけの恐怖を与えたのだろう。

 

 

「おいクソガ、」

 

「黙ってろ」

 

 

 護衛の屈強な男たちが取り囲もうとしたが、それに〝殺刃気〟をぶつけて黙らせ……いや気絶させる。

 

 泡を吹いて周りの男たちがバタバタと倒れ伏す。それはオークションの客であっても例外ではない。その場にいた者全てが〝殺刃気〟の餌食となった。

 

 一斉に倒れる音が響いた後は無音だけが辺りを支配していた。

 

 

「それじゃあ……えー、なんて言えばいいんだ……?」

 

「みゅ?」

 

「んー、あー……まぁいいか。行こうか、ミュウ」

 

「うん!」

 

 

 ちらちらと倒れる男たちを不思議そうに見ているミュウを抱え、俺は出入り口からオークション会場の外へと歩いていく。

 

 そしてこの日、フューレンに巣食う闇の組織的なもの……名前は知らないし興味がなく忘れた。

 

 まあとにかく、一大組織が壊滅してフューレンを大混乱に叩き落とすことになった。

 

 ちなみに後で知ったが、イルワ支部長は頭を抱えたそうである。

 

 そんなことは今の俺には知る由もなく、予め決めていた集合場所である冒険者ギルドへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

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