ありふれた異世界で剣を振るう   作:オルフェイス

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十話

一応念の為言っておきますが、紅郎に魔力操作はないです。取得させるつもりもないです。


変化、懐かしきホルアド

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員六十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者八十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

「ない」

 

「言い訳の一つでも欲しかったよ……はぁ~~~~~~~~~」

 

 

 イルワが長いため息をつく。

 

 俺はイルワに応接室で今回のことを話していた。

 

 というより、説明している。主になぜこのようなことをしたのかとその結果を。

 

 ちなみにミュウも一緒にいるが難しい話はわからないので応接室にあった茶菓子をモリモリ食べてる。たまに俺に差し出してくれるので俺も口に含みながらだが、イルワはそれを見て脱力していた。

 

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたから……はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

 

「頑張ってくれ」

 

「他人事のように……出来ることなら、君達のネームバリューも使いたいぐらいだよ」

 

「使えばいいんじゃないか? もう派手に暴れた後だし、今更だ」

 

「おや、いいのかい?」

 

 

 使えばいい、と言った時点でイルワの目の色が変わった。どうやらそれほどまでに便利らしい。

 

 実際、今更名を使われたところで、という思いがある。派手に暴れて名前も顔も知れ渡っていてもおかしくはない。

 

 ならいっそのこと、イルワにネームバリューを利用してもらってイルワが後ろ盾であり、同時に懐刀的存在としてトラブルを遠ざけてもらうのも一つの手だと思ったまでだ。

 

 

「それならお言葉に甘えさせてもらうよ。……ところで、そのミュウくんのことなんだが」

 

「こっちで故郷まで送るつもりだ。依頼として出してくれ」

 

「なるほど、それなら後のことはこちらで済ませておこう」

 

 

 ミュウを故郷まで送り届ける。イルワが依頼として処理してくれるらしいのでそれに乗っかることにした。

 

 公的機関がミュウを送還しそうなものだが、俺達の暴れっぷりがミュウを預ける理由となったらしい。

 

 そんなわけで、俺達の旅に一時的だがミュウが同伴することになった。

 

 

「お兄ちゃん、一緒にいてくれるの?」

 

「故郷に送り届けるまでな」

 

「……可愛すぐる」

 

 

 ちなみにユエは大層ミュウを気に入ったのか抱きしめて頬擦りしていた。なおシアも同様である。ただシアの場合は自身と似た境遇であることも相まっている感じだった。

 

 ただ、ミュウから爆弾発言があったことはいただけない。

 

 

「ミュウね、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!」

 

 

 それを聞いた俺は吹いた。丁度水を飲んでいた時だったので噎せた。

 

 ユエは「……増えた」と呟き、シアは「ミュウちゃんまで虜に……!」と目を輝かせ、ティオは「英雄、色を好むというしの。ただ幼すぎるが……まぁ大きくなったら、じゃからそこまで気にしなくとも良いと思うぞ?」と冷静に。

 

 南雲は、苦笑いしながらも真剣な目つきだった。

 

 

「そんなに時間は掛けないつもりだけど……じゃあ、ライバルだね」

 

「ミュウ、お姉ちゃんにも負けないの!」

 

「なんでこうなった……?」

 

「……自分を助けてくれた王子様に惚れるのは当然。それも幼少期の脳焼きなら将来まで忘れない」

 

「その言い方やめて?」

 

 

 脳焼き言うなユエ。

 

 俺、やり方間違えたか……?

 

 思わぬ展開に頭を抱えることとなった。

 

 なお、一日を終えて寝ようとした時はミュウはシアに預けた。ごねにごねたらしいが、今日だけは譲ることは出来なかった。

 

 ……今日は中途半端に終わってしまったからな。

 

 

「珍しいね、紅郎が一緒にいてくれるなんて」

 

 

 今回、俺は南雲と同じ寝室にいた。

 

 中途半端に終わってしまったデート。それの埋め合わせをするにはどうすれば良いかと考え、こうなった。

 

 

「……今日くらいはな。デートも中途半端に終わったから、その埋め合わせがしたかった」

 

「今日のは仕方ないよ。思わぬトラブルがあったんだから」

 

「いつも仕方ないで済ませたくないんだよ。こういう時くらい、想いには応えたい」

 

「……そっか。ありがとね」

 

 

 ……実は俺は南雲と布団の中にいる。

 

 先程まで、南雲が寝間着を見せてくれてたのだが……ネグリジェというやつだった。

 

 正直、エロかった。煩悩が頭に満たされつつあったが斬ることで何とか解決、理性は保たれた。

 

 肌とか胸とか足とか、もう困る。本当に。

 

 しかも薄い布越しでの接触で柔らかな肌と体温が伝わってくるのだから……一度斬っておかなければやられていたかもしれない。恐ろしや。

 

 というか足とか腕を絡みつかせないでくださいお願いします。

 

 

「んふふ」

 

「なんだよ」

 

「ちゃんと意識してくれてるんだなぁって」

 

「そりゃ……そうだろ」

 

 

 もしこれで意識しないなら、そいつには性欲どころか男女の概念すらないだろ。よほどの例外を除いてだが。

 

 

「ね、紅郎」

 

「……なんだ?」

 

「私のこと、ちゃんと見ててね。女の子も増えたけど、ちゃんとだよ?」

 

「見てるよ。逸らしたつもりも離したつもりもない」

 

「うん、良かった」

 

「……それより、早く寝ろよ。明日も遅いわけじゃないんだから」

 

「わかってまーす。それじゃあ、おやすみ、紅郎」

 

「あぁ。おやすみ、()()()

 

 

 最後は、本当に小さく呟いた。

 

 名前で呼ぶ、なんて、今までは気恥ずかしくて言えなかった。

 

 けど、ユエやシア、ティオやミュウは名前で呼んでいるのに南雲だけ名前で呼ばない、というのはどうなのかとデートを終えてから思ったのだ。

 

 だから、ハジメ。

 

 今から俺はそう呼ぶと決めていた。それでも最後に言ったのは……気恥ずかしさが取れないから、だろうな。

 

 ……それでも、ちゃんと聞こえていたらしく。

 

 ぎゅぅと、抱きしめる力が強くなった。

 

 ……長く、それでいて温かい夜が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー! ですぅ!」

 

「ハジメお姉ちゃん! ミュウもあれやってみたいの!」

 

「駄目です」

 

「むぅー」

 

 

 頬を膨らませ、私不満です! と言わんばかりにハジメを見つめるミュウ。

 

 現在俺達はグリューエン大火山……に行くために、グリューエン大砂漠へと車を走らせていた。

 

 シアはバイクに乗り、南雲が車を走らせる。成長したバイクテクによって派手な走行を見せつけるシアにミュウは羨ましそうに車窓の外を見ていた。

 

 そんなハジメ、と俺をユエがじぃっと見ている。途中、ハジメを名前で呼んだことを聞かれてからずっとである。ちょっと怖い。シアはニヨニヨしてたのでアイアンした。

 

 

「あとで一緒に乗ってあげるから」

 

「ふぇ、いいの?」

 

「一人で乗るのとシアと乗るのが駄目、って話だから。あとでチャイルドシートでも付けて……材料は……」

 

「お兄ちゃん、ハジメお姉ちゃんがブツブツ言ってるの」

 

「集中すると少し周りが見えなくなるんだよ。すぐに戻るから、気にしなくて良い」

 

「わかったの!」

 

 

 笑顔である。幼いながら処世術を感覚的に理解しているらしい。いや処世術だろうかこれ。俺も詳しくないんだ。

 

 そうして車を走らせているうちに、とある場所が見えてきた。

 

 懐かしい場所だ。

 

 そして、俺達の始まりの場所でもある。

 

 

「ホルアドか……懐かしいな」

 

 

 オルクス大迷宮の存在する宿場町であり……俺とハジメ、二人が最後に夜を過ごした場所だった。

 

 車がホルアドへと向かい、停止する。

 

 そこから降りて、ホルアドを見る。迷宮に初めて潜ってから、まだ半年も経っていない。あまりに濃い月日を経て俺達は今ここにいる。

 

 長いようで、それでいて短い旅だ。今もまだ旅の目的は終えていない。

 

 ホルアドでの用事を済ませれば、すぐにでも経つことになるだろう。

 

 

「確か、ホルアドの冒険者ギルドは……」

 

「あっちだよ」

 

「あぁ、そうだったな。ありがとう」

 

 

 メインストリートを通り、ギルドへと向かう。

 

 懐かしんでいるのはどうやら俺だけではないらしく、ハジメも何処か遠い目でホルアドを見ていた。

 

 

「……二人とも、大丈夫?」

 

「ん、いや、平気だ。随分遠くまで来たと思ってな」

 

「そうだね。迷宮に落ちて、必死に足掻いて……濃密な時間を過ごしたなぁ」

 

「……ふむ、二人はやり直したいとは思わんのか? 話は聞いているが、ここには二人の仲間もいるのじゃろう? 皆が皆、二人を傷つけたわけでもあるまい。仲の良かった相手もおるのではないか?」

 

「まぁ、否定はしない」

 

 

 ティオの言う通り、確かにクラスメイトは敵ではなく、むしろ敵対してこないという意味でなら味方側なのだろう。

 

 しかしハジメが侮られていたのは事実で、信用ならないと思っていたのも確かだった。

 

 その上で、戻りたいとは思わないのか。

 

 

「以前に言ったが、俺にとってあそこは戻る必要がない場所でしかない。けど、もし同じ日に戻ったとしても、俺は同じことを繰り返すと思う」

 

「ほう、それはなぜじゃ?」

 

「─────ユエがいて、ハジメがいる。それにシア、ティオ、ミュウとも出会えた。理由なんてそんなもんだよ」

 

「紅郎……」

 

「……紅郎、好き」

 

「おっといきなり好意を伝えられたぞ?」

 

 

 嬉しすぎたのか、ユエに抱きつかれた。と思った時にはハジメにも抱きつかれていた。動けない。

 

 

「ミュウもお兄ちゃんにハグするのー!」

 

 

 そしてミュウも同じく。シアはウサギ耳をピコピコさせて俺達を眺め、ティオも優しい目でこちらを見ていた。

 

 ……流石に歩き辛いから、離れてくれないかなぁ。あと柔らかな身体とか諸々……いやミュウは気にならないんだが。

 

 

「妾から話を始めておいてなんじゃが、そろそろ行かぬか? ここでは目立ち過ぎるぞ?」

 

「そうだな。ほら、三人とも離れてくれ」

 

 

 そう言って抱きついてくる三人を剥がし、今度こそホルアドのギルドへと向かう。

 

 そしてギルドの中に……入る前から、なぜだが雰囲気がピリピリとしているのがわかった。苛立ちだとか、不安だとかで混ぜこぜになっている。

 

 これはミュウには危ないとはてなマークを浮かべているミュウを片腕で抱きかかえ、頭を俺の方に向けさせて視線を遮る。

 

 そしてギルドの中へと歩き出し、中にいた冒険者たちの視線がこちらへと向かう。

 

 その視線から、次に何をしようとするのかも察せられた。美少女たちを連れて、あと子供を抱えているのだからターゲットにされるのは至極当然かもしれない。

 

 しかしそれはそれ。俺には関係ない。

 

 動く前に〝威圧〟で黙らせると、一斉に視線が逸れる。相手にしてはならないとわかってくれたらしい。

 

 無言でギルドの受付嬢の前に行き、フューレンの支部長からの手紙だと伝え渡し、あと身分証明のためにステータスプレートも渡した。

 

 

「き、〝金〟ランク!?」

 

 

 ただ、俺達がイルワから(コネで)金ランクの貰っていたので、受付嬢には大変驚かれ声も出された。逸れていた視線が再び集まる。

 

 

「も、申し訳ございません! 本当に、申し訳ありません!」

 

「いや、謝罪はいいから支部長に取り次いでくれないか」

 

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

 

 受付嬢が慌てながらその場を離れた。

 

 そして受付嬢が離れてすぐに、ドタバタと奥の方からこちらに走ってくる音が聞こえてくる。

 

 何事かと目線を音にする方に向ければ、カウンター横の通路から黒装束の男が勢い良く飛び出してきた。

 

 ……随分と見覚えのある気配の薄さだな。

 

 その黒装束の男はキョロキョロと辺りを見渡し……俺に視線を合わせた。

 

 

「えっ、さ、桜田……? なんでここに……いや生きてたのか!?」

 

「なんだ、気配の薄さ学校一の遠藤じゃないか。どうしてこんなところにいるんだよ」

 

「いやそれ俺のセリ……って待てぇ! 誰が気配の薄さ学校一だ!?」

 

 

 クラスメイトの一人……気配の薄さという特徴で覚えていた遠藤が、なぜだかそこにいた。本来なら迷宮攻略をしているはずなのだが……

 

 ……厄介ごとの予感だ。そう、〝直感〟に頼るまでもなく理解した。

 

 

 

 

 

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